第16話 マリスプルーフ攻防戦 2

 ソーン対インクャとの戦闘は苛烈を極めながらもソーンが優勢だった。


「厄介ですねぇ!お前!剣術に!魔術にっ!あぁ妬ましいっ!!!」


 インクャが放つ魔法は悉くを躱わされ、隙を突かれ反撃を受ける。

 高速で動き回り単体、拡散、追従、破裂、その他諸々多彩な魔術を使用し時には剣を振るうがソーンには一歩届かない。


「随分と消耗してるですね。首と心臓、早く差し出すですよ」


 活動拠点である冒険者協会セレニティ支部ではソーンの事は勇者として知られている。それはカリアと共にいたからでは無く、純粋に戦闘面を評価されての事。


 ソーンが扱う剣術はカリアから手ほどきを受けている。

 最たる例が五体豊饒ごたいほうじょうだろう。カリアは父から剣術を教わりっていた。

 そんな彼は幼い頃、過去に存在していた黒髪の侍女まかたちに憧れをを持ち、口伝や書物を漁り再現ししてみせたのが五体豊饒ごたいほうじょうだ。


「おのれっ!!!アルディハスタっ!!トリーギンター!!」

「っ!!」


 ソーンに追われていたインクャが跳躍と共に放った火魔術は、燃え盛る槍を創り投擲するもの。

 その数30。ソーンを囲う様に配置された。


 流石に30本くらうのはよくないです。

 護火羊ごかようで耐えれなくはないけど魔力の消費が見合わないし、魔人を視界に捉えた状態で全方位から飛んでくる槍を捌く事は今の私には難しい。


「二番 牛硬ぎゅうこう!」


 ソーンは一旦脚を止め、一度全体を見渡し射出された槍を寸分の狂い無く迎撃する。

 行っている事は以前、カレンとの手合わせと差して変わらない。八方向から30に増えた程度では、ソーンの演舞にも引けを取らない静謐さを崩せない。


「ふ、......逃げられたですか」




 軽く息を吐き建物の屋根に上がるが魔人は見当たらない。




ー カレン 視点 ー


 商業地区を走り回り、ある程度魔獣を一掃した。今は沿岸部に向けて走っている。


「それにしても派手やってんなソーン。相手は魔人だ。出来れば短期決戦をしたい所だな」


 ソーンはカリアほどでは無いが剣術の腕がある。魔術の手解きは何やっても天才なレガートから受けていた。


 だけど、年齢から来る体力の少なさはどうしようもない。

 俺とラッテがしてた朝の走り込みにソーンも参加してたし、同年代よりは明らかある方なんだかな。


「さてっと。着いたが、沖も酷い有様だな」


 掘られている塹壕には魔獣の死骸で埋め尽くされ、魔道部は後退を余儀なくされていた。

 未だ押し寄せる魔獣、魔物の大群は遠方に張った陣形から魔術が放ち撃退している。


 周囲の魔獣を蹴散らしながら通り様に塹壕内を一瞥すると、埋もれる形で遺体も幾つか視界に入る。


 ......こっちは間に合わなかったか。


 まだ終わってない。切り替えろ。


 領主婦人であるアンヴァさんと合流したいが、まずこの魔獣共を一掃して時間を稼ぐか。


 海岸線と魔道部が陣取っている中間に来た俺は脚を止め、目を閉じ鮫鞘を鞘に納め構え直す。


「......五番ごばん割辰かっしん


 魔力を腕に、手に、得物に通す。


 横凪の一閃。


 瞬間周囲の音が止まり、割れんばかりの衝突音が辺りを震わせる。

 地上、海、空。眼前にいる魔獣、魔物を消し飛ばす竜の一撃。


「ふ、久しぶりに使ったなこの技。にしても腕がいてぇ」


 軽く息を吐き、上身かみを鞘に納める。


 必要だったとは言え、この身体で五番は無理があったか?


「よしっ、アンヴァさんと合流するか」


 身体に軽く魔力を通し痛みを和らげる。




⚪︎⚪︎⚪︎




冒険者カレン。先程の衝撃はやはり貴女でしたか」

「お初にお目にかかります。アンヴァ・ラ・ロア様。私はカレンです。マリスプルーフ防衛の一助に「堅苦しいわ」」


 そうか。いやだけどカレンで会うのは初めてだしな。


「貴女が来てくれたのは嬉しいわ。魔道部と冒険者では後半日も持たなかったもの。先程の一撃で此方に余力ができました。まずは感謝を」

「いやっ、前教王妃が冒険者に頭を下げないでくださいっ!私はただのですからっ!」


 この即席の野営地には他にも人がいる。話し相手のアンヴァさんが丁寧に対応してるから何もしてこないけど、隊長達、俺の事凄く見てるし。怖いわ。


 普通に怪しいよな。怪しんでないアンヴァさんが凄いのか。


「被害は甚大よ。双方間共音機で首魁が発見されたと報告が入っているわ。貴女が此方に来たのなら首魁に向かったのはソーンかしら?そらともレガート?」

「?ソーンです」


 え、なんでソーンの事知ってるの?......あーでもマリスプルーフは冒険者との繋がりが他より強いか。なら言伝でカレンとソーンが同じパーティな事も聞いてるのか?


 後、レガートは来ないだろう。レガートの戦場はここじゃ無い。もし前線に出てきたら、打つ手が無くなった時だけだろうな。


「そう。......本当に助かるは。襲撃を受けてから休みがなかったもの。流石にこの歳では堪えるわね」

「お疲れ様です。それじゃ私は終盤の見回りに行ってきます」

「えぇ、魔道部の隊長達には私から伝えるわ。夫から身元を表明する為のネックレスはしてるわね?」

「はい。ここにあります」


 ネックレスはしていたが、動くと邪魔になる為服の下に入れていた。


 そして。


「なら良かったわ......っ!」

「っ!私行ってきますっ!!!」


 異変を察知し俺は野営地を勢いよく飛び出した。

 アンヴァさんには申し訳ないがもう一踏ん張りするしか無い。


 なんだこの威圧感は。魔人の比じゃ無いぞ。


「海からか?いや、魔獣は倒したぞ。なら海中にいた?いや、アレで生きているほど力のある魔物なら気づかないとおかしい。一体......」


 全速力で沖に向かいながら思考を巡らせる。


 そして俺は場違いなモノを見た。




 到着した浜には、外套に身を包み得物を片手に持った人間が立っていた。







⭐︎⭐︎⭐︎

割辰はソーンも当然できる。


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