第15話 マリスプループ攻防戦

「いえ、私が来たのでそうはならないです」


 マリスプルーフの至る所から火の手が上がるのを目撃した、私ことソーンとカレンちゃん。

 その後すぐに御者のアーリィさんに引き返す様に言い、返事を聞かずにマリスプルーフへと五体豊饒で走り抜けた。


 ここに来る途中で脚が焼け気を失っている女の子を発見したけど、手にかけられそうになっている冒険者がいたため、救援は諦め介入を優先。


 一応倒れていた子には水魔術を使用しておいたので、多分大丈夫なはずです。


「おや?あらあらあら。へぇ、随分と小柄な乱入者ですねぇ」


 振り下ろされたフィランギを刃区はまちで受け流し軌道を逸らす。

 すかさず、牛硬ぎゅうこうで身体を固定して魔人を蹴り飛ばした。


「魔人ですか。随分と面倒な敵が来たですね」


 気を失った冒険者をその場に寝かせ、吹き飛ばした方へ進む。


「あはっ!良いですねぇ、お前。退屈だったんですよ?浜の方は半数以上が生き絶えたっ!この冒険者もお前が割って入らなかったらっ!」


 瓦礫から起き上がり魔人は話を続ける。


 あの程度では傷は負ってないですか。まぁ、魔人ならそうでしょう。


「私からのが届く前に全滅したらつまんないじゃない!もっと絶望した顔が見たいのにっ!!」

「満足ですか?ではさようなら」


 魔人相手に話す必要はない。昔、師匠が言っていた。


五体豊饒ごたいほうじょう四番よんばん兎進としんっ!」


 慣れ親しんだ初撃。力を抜いた手に握られたファルシオンに勢いを乗せ横薙ぎ。


「っ!」

三番さんばん瞬虎しゅんこ!」


 魔人は咄嗟に真上に跳んだが避けきれず脚を薄く裂いた。

 幾らか勢いの落ちた魔人の跳躍に、速さでは兎進としんには劣るが、破壊力が上がる瞬虎しゅんこで魔人を追って跳躍。


 身体を捻らせ勢いを更に乗せて魔人の首を狙う。


「はやいっ!っ!ルプトゥーラ!!」

「っ!八番はちばん護火羊ごかよう!!!


 だが薄皮程度の傷で逃げられる。

 通りすぎ、そのまま店の壁に着地した私に一帯を吹き飛ばす火魔術を魔人は繰り出す。


 護火羊ごかよう。身体全体に薄く魔力を張り、羊毛の耐熱性を再現する。

 あくまで護れるのは自信のみで足場にしていた建物は倒壊を免れない。


 師匠から前に聞いた話だと、魔人には把握しやすい様に通り名があり、ある程度使える魔術や戦法が割れているという。

 それでも倒せないのは純粋に魔人と人では魔力量や身体能力に差があるから。らしい。 


 実際、むかし私が戦った魔人も当時の私を優に超えていた。


「まったく!すばしっこいですねぇ!。でも、あはっははっ!それにしても良いですねぇ!、お前ならを出すに丁度いいでしょう!!」


 さっきから贈り物、贈り物ってなんなんです。


 着地した私はすぐに動ける様に体勢を整える。様子見の一撃と追撃は、当然致命打になり得ない。


 もっと速さのある技はいくらでもあるですけど、それはお互い様と見て良いですね。

 それより気にするべきは奴の手札。火魔術は確定として、魔獣や魔物を率いてる事から闇もありそうです。

 後は剣術と体術。冒険者に放った振り下ろしを見た限り得意では無さそうです。


 お互いまだ怪我すらしてないし呼吸も安定している。


 そして両者共に駆け出す。


「まだ魔人の名前を聞いてなかったですね。私はソーンですよ。教えても意味ないですけど」


「私の名前はインクャ・キスィ!!!お前程度でっ!どこまで抗えますかねぇっ!!」





ー カレン 視点 ー




 マリスプルーフに入る直前でソーンと別れた俺は急ぎ領主の屋敷へと向かった。


 出来れば早く救援に行きたいが今回は厄介事を処理してくれるレガートが後詰めにいない以上、俺が一言通しておく必要がある。


 この身体で行って信じてもらえるだろうか。


「あれ、守衛いないのか?」


 本来屋敷の門には1、2人居るはずなんだけどな。とは言え今は緊急時だ。そんな事もあるか。

 ここの屋敷にはカリアの時に入った事がある。討伐軍の時だな。


 会議で使用している部屋の意味はわかっているため、急足いそぎあしで廊下や階段を駆け上がり目的の部屋まで着く。


「何故子供がいる」

「避難に遅れたか?」

「冒険者が連れてきたという子供では?」


 部屋の扉が開いており、躊躇いなく入ったら机を囲んでいたおっさん達が一斉に俺を見た。


 そりゃそうだ。

 だけど、ここで言い争う時間は惜しい。


「カレンです!私はマリスプルーフに様がある身。冒険者ソーンと共に脅威に立ち向かう力になりましょう」

「......っはは!随分と尊大だなぁ?」


呆気に取られる者が多い中、領主であるウェリングと冒険者だと思われる女性だけは理性的に俺を見ていた。


「ウェリング様、この方は?」

「先程言った鬼札の一枚よ」

「......ぇ」


 何の話し合いがされてたかは知らんが、そんな俺を見ても面白味は無いぞ。

 今、冒険者の格好だしな。


 それより、


「カレン。ソーンは魔人へ向かったな?貴様はどうする」

「冒険者や騎士部は商業地区?上がってる火煙が段違いだったよ。まずそこの救援。終わったら沿岸部に行くよ」

「魔人はソーン1人でやれるか?」

「それは大丈夫。あの程度ならソーンの相手じゃない」

「はっ!言ってくれるわ。コレを首から下げておけ。騎士部、魔道部には意図が伝わる」

「わかった。それじゃ行ってくる」


 了承を得れた。

 呆気に取られ動けない面々と静観していた冒険者を尻目に部屋を出て商業地区へ駆ける。




 さ、張り切りますかっ!






⭐︎⭐︎⭐︎

刃区は日本刀の言葉だけど、良い言い換えがわからなかった......。詳しい人いたらごめんなさい。

後、五大豊饒の順番がおかしかったので過去の分含め修正しました。


応援やコメント、誤字脱字、わかりずらい等の指摘があれば私が泣いて喜びます。

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