第14話 マリスプルーフ防衛戦 3

「っち。まだ逃げ遅れた奴がいるのか」

「アスラン、舌打ちしない。ねぇ?君、大丈夫?私達が来たからもう安心だよ」


 襲撃と休憩を何度か繰り返したある時、啜り泣いている声が聞こえ駆けつけたら逃げ遅れた子供がいた。

 10歳かそれ以下くらいか。


「う、うん。あり、がどう。お兄ちゃん達」

「どうしよっか。この子、避難先まで1人で行けないよね」

「だな。騎士部に引き渡してぇ所だが、あっちも手が空いてねぇだろ。......かと言って此処に置いてくのもな」

「......(俯く)」

「クチックが嫌だって。こう言う時、人が多かったら良かったんだけどね」


 流石に3人で1人を救援に回せるほど余力は無い。

 このまま話を続けても次なる敵が現れるだけだ。そうなればこの子供は枷になる。


「ぼ、ぼくなら大丈夫ですから」

「いや。戦えねぇだろ。てかなんでここにいる。親は?避難しろって指示出てたろ」

「......ぼ、ぼく。その時、1人で。別の場所にいて......その」


 声が尻すぼみで後半何言ってるか聞こえない。

 一々身の上なんざ興味無いが置いて行かれたって訳か。ここは商業地区だ。いくら住民が襲撃に慣れてるとはいえ焦る事もあるだろう。

 そしたら小さぇ子供の1人迷子になってもおかしくはないか......。


「はぁ。俺等の退却指示は一応は狼煙が上がったら。それと負傷者が出た時だ」


 いくら冒険者でも戦い続ける事は出来ない。故に、退却の命令と退却した合図に狼煙を上げる。


「クチック、狼煙を上げろ退却だ。消耗が想定より激しい。補給ついでにこの子供を領主の屋敷に置いてくぞ」

「......(頷く)」


 領主の屋敷は沿岸部から1番離れた場所に建っており、商業地区とアグリカ地区のに隣接している。

 大通りに出れば魔獣は増えるだろうが小道で挟まれるやりましか。最悪、屋敷に向かって走らせるか?


「とりあえず大通りに行くか」

「わかったわ」

「......」




「おや、おやおや。様子を見に来たら案外まだ生きてるんですねぇ」




 っ!?


 いつから!?


 いや,それより。




「走れぇぇええええっ!!!」


 声の方に振り向くより先に大声を出す。


「っは!?」

「......っ!」


 俺の声を聞いてケッディが手を握っていた子供を無理やり抱き抱え、弾かれた様に走り出す。

 クチックはケッディより多少硬直はあったものの、俺とクチック。ケッディと子供を分断する様に壁を水魔術で創り出す。


 全て言わなくても行動で返ってくるのは流石だ。


 だが。


「いけませんねぇ。そんな事」


 奴はクチックに向けて土槍どそうを放つ。


「っらぁ!!」

「!」


 当たる寸前で俺のフィランギが土槍に刺さり砕け散る。

 俺はそのままクチックを守る様に前に出てフィランギを構え直す。


......コイツははまずい。今まで波状で来ていた魔獣や魔物とは比較にならない。


 奴の見た目は人、黒いロングコート。武器は持っていない。


 見た目は完全に人だ。だが、その威圧感は冒険者をして来て屈指に入るか。

 あれが勇者ならわかる。あれは化け物だ。勇者が倒した魔王もだ。俺は見てはいないが、同じ地を踏んでいるだけで冷や汗をかくほどだった。


 恐らく。


「......お前。魔人か」

「えぇ。お前等と違い存在です。......逃したのは惜しいですが、まぁ良いでしょう。どうせ消える命です」


 そう言って先程の土槍どそうを20,30と奴の周囲に創り出し、


「運がなかったですねぇ、ははっ!魔獣達やらせても暇ですからねぇ!遊んであげますよっ!!」


 放った。


 全く。嫌な予感は最悪な形で当たったな。

 



 任せたぞケッディっ!!!




ー ウェリング 視点 ー





「っ!伝令!!!商業地区にて首謀者とおぼしき者を発見!」


 扉を勢い良く開け入って来たのは守衛。

 無礼この上無いが状況が状況だ。


「商業地区の対応にあたっていた冒険者が来ております!」

「通せ」


 守衛が通路に待たせていた冒険者を招き入れる。

 物怖じせず入室するのは冒険者故の度胸か。

 目の前に立つ少女の佇まいただすまいにはそれ以外を思わせるものがある。


「お初にお目にかかります。レガート・ラ・ロア 様。私は魔装の楔まそうのくさびケッディ・ナマーズと申します」


 ナマーズだと?

 今必要なのはそこでは無い。


「ケッディ・ナマーズ。仔細を話せ」

「はっ!我々が遭遇した場所は商業地区、北西、2番通り付近です。恐らく魔人かと思われます」


 やはりか。


 魔人とは人間がした姿。元より魔獣、魔物化は動物に起こる。人間にその現象が起こる事は殆ど無い。それは大森林と魔術に力を入れているアルカディア王国が歴史で証明している。


「魔人か、厄介だな。して、ケッディ・ナマーズよ。魔人の個体名はわかっているか」

「いえ、わかっておりません。ですが声は男でした。我々は逃げ遅れた子供を1人抱えていた為、リーダーの判断の元で私と子供だけ撤退いたしました」

「男か。現在、周知されている魔人共は20は超える」


 魔人は人が魔物化する事、それは寿命の概念から解かれ魔力を糧に活動するだ。


「よくやった。ケッディ・ナマーズ。目撃した魔人を首魁と想定し騎士部と冒険者をぶつけよう。マリスプルーフを護る人手は減るが、此処が決戦だ」

「......しかし領主様。相手は魔人。疲弊した我々では滅ぼしきるのは厳しいのでは」


 会議に参加していた男が苦言を呈する。後ろ向きな意見だがそれ程までに魔人は次元が違う。


「いや。そろそろ首都から送り出された者が来よる」

「一体誰が?」


 それは届いたふみに記載があった補填の一つ。




「孫娘の鬼札よ」




 ー アスラン 視点 ー




「っく!クチック!!!」

「......(杖を振る)」


「あはっ!健気ですねぇ!!そろそろ愚かなお前達でも無駄だと気付いたでしょう?」


 俺の身体に水魔術で創られた水が俺にかかり気休め程度に回復する。


 ケッディを逃がしてから俺とクチックは防戦を強いられていた。

 俺は身体の至る所に傷を負い、身体強化を解けば今にも倒れるだろう。

 クチックも当然、万全とは程遠い。魔獣の波状攻撃に続いて魔人だ。連戦を重ね魔力が底を突きかけている。


「っは!魔人だか何だか知らねぇが、俺等に足止め喰らってる様じゃ形無しだなぁ!?あ"ぁ!?!?」

「......(杖を突き立てる)」


 必要なのは時間稼ぎだ。ケッディが行動を起こす。その結果まで耐えなければならない。


「あははっ!これだから驕りしか知らないは!......ふん。そんな浅知恵で切り抜けられるはずがないでしょう!?」

「ちっ!」

「......」


 俺達が行おうとしていたのはクチックの離脱だ。先程から前衛の俺をいたぶる様に、奴は執拗に攻勢の手を止めない。

 そこを利用し俺により意識が向く様に隙を肥大化させ、クチックが水魔術で作った水鏡で自身の姿を隠し逃走を図っていた。


 そして、奴が放ったのは火魔術。かなり距離を離れていたクチックを覆うように火球を降らせる。


「エニーブルームっ!」


 身体強化を施し目指すは魔人の首。

 クチックはあの程度ではやられない。


 限界の身体に鞭を打ち、奴の気が逸れた瞬間を狙う。


 だけど


「遅いですねぇ!」


 躱わされる所か、切先を素手で止められそのまま蹴りを入れられる。


「ぐほぁっ!!!」

「......っ!」


 蹴られた肋骨が軋みをあげ折れるのがわかる。

 蹴飛ばされ壁にぶつかりずり落ちる。


 いってぇな。おい。

 マジでどうしろってんだ。


「それなりに魔獣の討伐数が多い所に来てみましたが、まさかこの程度とは」


 奴が近づく足音が聞こえる。


 まずい。意識が、


「結局っ!人間という動物は裏切るんですよ!あはっ!仲間に見捨てられ、残念でしたねぇ!」


「......クチック、逃げ、ろ」


「あはっ!安心してください?お前の首を持って!逃げた奴も同じ様にしてやりますからっ!あははっ!!」


 そうして奴が落ちていた俺のフィランギを拾い、指先一つ動かせない俺に向かい振り下ろした。




「いえ。私が来たのでそうはならないです」






⭐︎⭐︎⭐︎


https://kakuyomu.jp/works/16818093086358720536

外伝(未更新)

土曜は更新できなかった......

時系列が追いついた!


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