ドッペルゲンガーは嫌いですか?

秋雨千尋

下校中、ドッペルゲンガーを拾った。

 算数のテストが六点だったので、ランドセルがいつもより重く感じる。

 お母さん怒るだろうな。

 ゲームやる時間、減らされちゃうかな。


 影が長く伸びている下校道に、なんか変な物体が落ちている。

 黒くて丸くて、アザラシみたいな感じ。

 近づいて話しかけると、生き物は右に左に体を揺らしながら立ち上がった。

 顔らしき部分には何も無いのっぺらぼうだ。


 僕の顔をじっと見て変身した。



 +++



「元の場所に返してきなさい!」


 謎の生き物を持ち帰ったら、お母さんが激怒した。

 顔が青ざめて、肩が震えている。

 嫌がっているというより、怖がっているみたい。


「なんで?」


「そ、その子、あなたと同じ顔じゃない。ド、ドッペルゲンガーって、やつじゃないの」


「ドッペなんとかだとダメなの?」


「し、死んでしまうと言われているのよ。は、はやく元の場所に返して──」


 謎の生き物はお母さんの前に歩いて行く。

 お母さんが悲鳴をあげて倒れ込んだ。口から泡も噴いている。ドッペはお母さんの姿になっていた。


「ただいまー」


 タイミング悪く帰ってきたお父さんの前に歩いて行き、同じように変身した。

 僕はお父さんが怪我をしないように、頑張って体を支えて玄関に寝かせた。白目を剥いている。


「回覧板ですけどー」

「宅配便です」

「自治会費の回収に」

「あなたは女神を信じますかー?」


 やって来るお客さんが、みんなバタバタと倒れて行く。玄関先がドミノ倒しみたいになった。

 僕はドッペを連れて、トボトボと元の場所に向かった。

 月が丸くて明るい夜だ。

 ドッペは僕の顔でニコニコ笑っている。


「一緒に暮らしたかったけど、ダメだって。みんな倒れちゃうから。お前が──」


 ふと、ある事に気がついて引き返した。

 家の中からお客さんたちがゾロゾロと出てくる。

 良かった。みんな平気そう。

 僕は恐る恐る中に入ると、お母さんが涙目で指を差してきた。


「まだ居るわ! 早くどこかにやって!」


「ドッペは悪くない。みんなが勝手に怖がって倒れちゃうだけだもん!」


「何を言っているのよ!」


「僕はドッペの噂を知らない。だから平気。姿を変えられるから悪い子なんて偏見だよ。お母さん偏見はダメっていつも言うじゃないか!」


 僕は必死に説得した。

 お母さんは頭を抱えてうつむいてから。


「……そうね。分かったわ」


 飼うのを許可してくれた。僕はドッペと抱き合って喜んだ。

 浮かれてランドセルを蹴り飛ばしたら、六点のテストがヒラヒラと宙を舞った。

 お母さんは顔をトマトみたいにして怒った。

 僕はドッペと二人並んで正座して、ごめんなさいをした。


 +++


 天気がいいので、今日はドッペとお散歩。

 僕の顔にしか変身しちゃダメと言い聞かせてから、平和に暮らしている。

 通りすがりのおばちゃんが話しかけてきた。


「あら可愛い。双子ちゃん?」


 僕はドッペと顔を合わせて、一緒に笑った。



 終わり。

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