第5話

 アキシーは「犯罪予測システム」に紐付けられたAIだ。

システム内に蓄積されたビッグデータを基に、特定の地域などでどのくらいの確率で事件が起きるかの予測値を返してくれる。

公表されている的中率は「85%以上」とされているが、俺の肌感では90%を優に超えている。

……まぁ、もっとも、俺とダンが予測値を基に見廻りに出た先で毎度のように事件に巻き込まれているからだろうけど……

「アキシー、頼みがある」俺は彼女に呼び掛けた。

「シシ・リューズ氏に対する犯罪発生率を演算してほしい」

[承知いたしました]とアキシーの声が返ってくると同時に、三度壁面のモニターが点灯した。

「アル兄。今、何やってんの?」

「あぁ。犯罪予測システムのアシスタントAIにお前が事件に巻き込まれるかもしれない確率を聞いてる。仮に数字が大きかったら兄ちゃんが全力で守ってやるし、例え小さくても『家計の危機に繋がる』のであれば、やっぱり全力で対応してやるよ」

「アル兄が助けてくれるってんなら、何か安心した」とシスルが言ったその瞬間。

 [演算が完了しました]と壁面のモニターに何やら画面が表示された。

俺は急いで「犯罪発生確率」の文字を探した。

表示されていた値は「D-」。発生確率25%以下を示す級数だ。

 ……あれ? 思ったよりも低いな?……

「おい、アキシー!」俺はアシスタントAIに呼び掛けた。

「数値が低すぎないか?」

[いえ、演算結果は正常です]とAIは返す。

[シシ・リューズさんの現在のお仕事内容を踏まえた上での結果です。おそらく、少なからぬ違約金を請求されて困窮されることは想像に固くありませんが、それ以降の予測は、私の対応範囲外です]

 ……「少なからぬ違約金を請求されて困窮する」だって⁉︎ 嫌な予言だけして、「重要なところははぐらかす」なんて、AIだとしても人が悪過ぎる。

「分かった、アキシー。下がってくれ」と俺は肝心な時に役立たずなAIアシスタントを追い返した。

 「さて、それよりシシ。お前、怪メールのアドレスって、押さえてるか?」

「うん。『探偵事務所勤めの長兄に見せるから』って言って、転送してもらったから」

「よっしゃそれなら上出来だ。そのメール、兄ちゃんのところに転送してくれ」と俺はPDA(いわゆる携帯型端末)を取り出した。

「あー、アル兄、俺宛のメールを転送してもらってどうする気?」

「もちろん、『家計の危機に繋がりかねないこと』が分かったんだから、対応に乗り出すまでさ」

俺は弟に言った。

「兄ちゃんに任せとけ!」

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事件捜索係の事件簿 赤音崎爽 @WyWsH3972

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