第24話
たった一枚の紙切れに、ただ魔石の納入打ち切りと書かれていた。
「理由も何も書いてない。
文句言ってくる」
飛び出そうとした所、ローヌに首根っこを掴まれた。
「無断で外出しないで下さい」
「こんなの、納得できるわけ無いだろう」
「落ち着いて下さい。
理由は私にでもわかります」
「嫌がらせだろう?
だった尚更……」
「魔石は必需品の扱いです。
生産数に限りが有り、雇用規模によって分配されています」
「大量生産出来る仕組みがあるんだから……」
「力を持った者が独占すれば、不当に価格を吊り上げ多くの人達が困ることになるのですよ」
「高く売ることが目的じゃない。
人が減った分安くできる」
薄利多売にすることで安さで勝負できるはずだ。
「この決まりがなければ、暴利を貪る一部の者にすべて独占されてしまいます。
逆に得る機会を失ってしまう事になりかねません」
そう言えば前世でも高額転売されて買えなかった事がある。
資金が豊富なら買い占めも容易いのだろう。
「……」
「これは独り言ですが、魔獣の体内には純度の高い魔気の結晶が出来ます。
でもその結晶を生産する方法はまだ見つかっていないのです」
「どういう事?」
「代用として宝石に魔気を封印することで魔石に変えています」
要するに魔気を集めれば魔石になるのだろう。
直ぐに魔気を集める術式を書いてみた。
「これで良いはずだけど……」
だが魔気を集めて圧縮しても魔石になることはなかった。
「それで出来るなら誰でもやっています」
確かに魔法の知識で挑むのは間違っている。
でも前世の記憶でも応用できそうな知識はまるでない。
ああ、思いつく変換できるエネルギーといえば電気だろうか。
「発電なら出来るんだけど……」
ローヌは首を傾げて不思議がった。
電気なんて使われていないから当然だが……。
部屋にこもって考える程、将来の事が過って妄想の沼に落ちた。
何をするにしても何かしらの不測の事態が襲ってくる。
「ユウ君、聞いている?」
目の前にアンズの顔があった。
かなり近く目が会い、甘い香りが漂っている。
「ち、近いよ」
「やっと反応した。
何度も声を掛けたのよ」
「あっはい、ちょっと悩んでいて」
「少し落ち着いたら」
アンズは持ってきたハーブティーを注ぐ。
香草の香りがスッキリとした気持ちにさせてくれる。
「これは?」
「庭に生えていた薬草で作ったの。
父がたまに作ってくれたわ」
アンズの父は既に亡くなっているらしい。
こういう話はどう扱って良いのか困る。
「ふーん」
一口飲むと蜂蜜の甘味が広がり、すこし酸味を感じた。
花で埋め尽くされた田んぼに舞う蝶を追いかけていた幼少を思い出す。
「落ち着いた?」
「ああ、とっても良いね」
「もう会えなくなると思うと寂しい気もする。
けど良かったのかもしれない」
「えっ……、そんな事言わないで欲しい」
「じゃあ、さようなら」
唐突な別れ、幾度も経験してきたがこの時ほど辛いと思ったことはない。
遠くはなれていく、世界が隔離し崩れていく。
何もかもがこれで終わってしまうのだろうか。
いや、諦めたくはない。
手を伸ばし掴む。
「君の事が好きだ」
「……ありがとう、でも私と居ると不幸になるから忘れて」
不幸にしてしまったのは俺せいなのに。
なんで俺は彼女を幸せにできないんだ。
手が離れ、彼女は去っていく。
扉の外で見ていたローヌが入ってくる。
「別れがあれば出会いもありますよ」
「そうは思わない」
前世でも出会いはあったが縁はなかった。
一人暮らしで寂しくSNSやゲームを楽しむ日々だ。
縁をなくしていったら、前世と同じ孤独になるだろう。
「諦めも大切です。
良ければ可愛い子を紹介してあげますよ」
「彼女には色々と助けてもらった。
恩を感じているんだ」
「なんと女々しいのでしょう。
女は力強く頼りになる男に恋心を抱くのです」
「むっ、もう良い出ていってくれ」
鉱山で働いて筋肉はあるし、頼りないとは思わない。
ローヌを追い出すと、なんとなく寂しく思えた。
ふと、アンズが残していった蜂蜜の瓶に目が行く。
結晶が瓶の底に溜まっていた。
「冬に結晶化すると、夏になっても溶けないんだよな」
理科の実験でミョウバンを肥大させいたよな。
それには核となる結晶を入れるんだった。
魔気の結晶化は核となる結晶が必要なのだろうか。
「いや、……それぐらいなら誰でも考えそうだ。
別の要素が居るのだろうか」
それでも試してみるしか無い。
失敗から得る知識がある。
手始めに水を用意し、魔石のかけらを入れてみた。
それに魔気を込めてみるが反応はない。
「うーん、これだと空気中と変わらないよな」
何か、魔気を集める物質はないのか?
「そうだ、蒼銀の素材だ。
あれは魔気を帯びて黒い塊になっていた」
黒い塊をすりつぶし水の中に入れたが、混ざらず沈殿しててしまう。
これだと個体と対して変わらない。
「……培養液でも作るか」
植物は一部を切り取っても全体を再生する能力がある。
顕微鏡で葉っぱの細胞を壊さずに細かく切り分けることで増殖できた。
その時に使われる培地だ。
「研究室に入る時は、上から風が拭いて埃や最菌を落としていたな。
あの時が一番面白かったかもしれない」
部屋を出るとローヌに言う。
「手に入れて欲しいものがある」
「珍しいですね。
それで何が必要なのでしょうか?」
メモを渡すとローヌは不思議そうな顔をする。
「お菓子でも作るのですか。
それならメイドに作らせますが……」
「実験に使うから」
異世界でお仕事 唐傘人形 @mokomoko_wataame
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