第23話

 苦難はチャンスでもあり、成長する機会でもある。

「では確かめさせてもらおうか」

 貴族はプライドが高いのだろう、自分の目で見たものしか信用しないようだ。

 俺も、半分の量で同じ効果だって信じられないだろう。

 気がついたら、それだけ減っていたのだ。

「ええ、どうぞ。

質問なり何なりして下さい」

「試し打ちをしようか。

的を用意してくれ」

 的を用意すると、兵士がそれをはるか遠くに持っていった。

 小さすぎて殆ど見えない。

「あんなに遠く……、試してないのに」

 テストした距離の数倍は遠いだろう。

 ケチを付けるためにハードルを高くしているのだろうか。

 本来の確認方法なのか判断はつかない。

 シーオの顔を見ると、不満そうだ。


 おっさんは相変わらず髭を触り、大げさにポーズを決めて魔法を発動した。

「ファイアボルト!」

 小さな火の玉が飛んでいく。

 それを見た兵士達は笑い出した。

「なんて小さな火の玉だ。

やはり欠陥品だな」

 その直後だ。

 爆音と共に、的が燃え上がる。

「なっ、あの威力は一体……!」

 兵士達はざわめき、驚きを隠せなかった。

 おっさんの表情は微動だりせず、反応が無かった。

 だが直ぐに怖い顔となり睨むように言う。

「どうしてあれ程の威力を維持できる」

「そのまま放つのではなく、

魔法の衣で包むようにしました」

「成る程、魔法の衣は衝撃に弱いからな。

爆発を閉じ込めていたというのか?」

「そんな事をすれば破裂してしまいます。

衣の崩壊を条件に次の魔法が発動するようにしたのです」

 おっさんは質問を続けた。

 どれもすぐに答えられるもので、無難に回答した。

 だがおっさんの表情は険しい。

「この程度で、特級とはな。

なにかの手違いだろう」

 何が何でも認めたくないらしい。

 流石にカチッンと来た。

「遠くを見たいと念じて下さい」

「遠見の魔法か……、なんだこれは!」

 ゆっくり拡大するように見せたり、一気に視界を飛ばすことが出来る。

 狙いやすいように印が見えるようにしたのだ。

「2つのバツが重なるようにすれば、その位置に飛ばせます」

 遠くで爆発が起きる。

「これは狙いやすい」

「動く相手を補足して、当てることも出来ます」

「距離が離れれば、移動予測しなければ当たらないだろう」

「えっと追尾です。

逃げても追いかけます」

 真正面に放った火の玉が弧を描くように軌道を変えた。

 空で爆発が起き、おっさんは驚いた余り口を開けてポカンとしていた。

 かわいそうに飛んでいる鳥を狙ったのだろう。

「信じられん。

意思を持って動くというのか?」

「まさか、意識はないです。

完全な制御をしています」

「どういう事だ?

まっすぐにしか飛ばないはずだ」

「そう、それが不自然だったんですよ。

魔法には自然の法則が働くのに何故、落下しないのか」

 当然、魔法も物体として存在する時は空気抵抗を受けて速度が落ちる。

 それが起きないのは常に加速が掛けられて移動速度が保たれているからだ。

「何を言っている。

よく分かるように説明しろ」

「位置を補正しつつ移動させています」

 ゲームだと自分の座標と敵の座標の差から角度を算出する。

 動きが自然に見えるように角度に制限を掛けてゆっくり方向転換するが……。

 魔法にはそんな制限を掛けずとも移動距離が長く速度が早いので弧を描く軌道になってしまった。

 そんな事ができたのは、魔法が自分から離れても制御をある程度出来るからだ。

 呪文を工夫すれば自分の意のままに動かすことも可能になるだろう。

「そんな話は聞いたことがない。

そもそも狙って当てるのがステータスだというのに」

 貴族は狩りを楽しむと言う話を聞いたことがある。

 誰でも当てれるなら、腕を自慢することも出来なり楽しめないのだろう。

「連射も意識すれば出来ます」

 シューティングゲーを楽しむように改造したために、様々な特殊な効果を付与していた。

 説明をするたびに驚く様子を見せる。

 どれも目新しく思えたらしく、その場に居た誰もが驚く。

 

 元の魔法が霞むほどの変貌を遂げていたのだった。

「狐に化かされているのか。

こんな魔法が存在するとは……」

 流石に相手をするのに疲れてきた。

「商品に問題がなければ、お持ち帰り下さい」

「いや、これは受け取れない。

購入する予定の品より遥かに品質が良すぎる」

「良いなら良いではないですか」

「不当な価格で取引をすれば、

賄賂となり罪人として処罰される」

 価値が正当に評価されるのは良いのだが、融通がきかないと言うのも面倒だ。

 どうすれば良いんだ。

 シーオが割り込む。

「価格が同じなら、問題はないはずです」

「何を言う、明らかに高額な代物だ。

同じはずはない」

「著作者が魔女の館であれば、そうでしょう」

 魔法書の作者はユウになっている。

「なっ、どうして無名の者を……。

値段を不正に下げるためか」

「彼は独立を考えています」

 いや、何言っているんだ。

 独立なんて一言も言ってないし。

「そうか……」

 

 貴族達は品を持って、とっと帰っていった。

「さっきの話、一体とういうことなんです」

「生産物は誰が作ったかが重要視される。

名が売れれば、それだけ価値が高くなる」

「いや、独立ってどういう事?」

「魔女の館は廃業となる」

「なんだって、それを止めるために頑張って来たのに」

「済まない。

私のミスだ」

「えっ?」

「あの魔法書につけた魔石は半分でも十分だった」

 消費が減っているのだから、減らしても問題ないのだろう。

「それの何が問題なんですか?」

「魔石の取引が取り消されて、在庫が殆どない。

こんな嫌がらせを受けるとは思っていなかった」

「何だって、そんな……」


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