第八回『私、シェヘラザード。明日はもっと面白い-私と三題噺と彼女を蝕む死の呪い-、第六十六夜、第百三十九夜』感想文
要約/コメディ作品はどうして笑える文章なのか? がお手本のように詰まった二作品。毎日ショートショートを投稿するという驚異的な更新頻度はタイトル通りシェヘラザードに等しい。
◆タイトル
私、シェヘラザード。明日はもっと面白い-私と三題噺と彼女を蝕む死の呪い-
https://kakuyomu.jp/works/16817139554470389162
第六十六夜『君の一番怖いもの-her-』
https://kakuyomu.jp/works/16817139554470389162/episodes/16817139556738789771
第百三十九夜『走れ! ピザニンジャ-Call Me,Beep Me!-』
https://kakuyomu.jp/works/16817139554470389162/episodes/16817330648045297152
◆作者様
新渡戸レオノフ@LeoNitobeLeonov 様
◆文字数
第六十六夜:4,500字
第百三十九夜:3,200字
【フルスロットルでネタバレしています。ご注意ください。】
◆前置き
今回は「コメディ」を読んで感想を書こう、という企画のもと、募集いたしました。
ご紹介くださいました新渡戸レオノフ様、ありがとうございます。
連作ショートショートということで、おすすめいただいた第六十六夜、第百三十九夜を読みました。その感想をしたためたいと思います。
◆連作ショートショート、毎日更新という偉業
千夜一夜物語のように「毎日更新中のショートショート」というすさまじい執筆力。
それだけで圧倒されます。まさしくシェヘラザードのようです。
毎日一話のショートショートの更新と言えば眉村卓さんが有名ですね。
全て読んでみたい衝動に駆られますね。少しずつ読んでいこうかと思っております。
◆第六十六夜
第六十六夜『君の一番怖いもの-her-』
単純に、笑いました。とても面白いです。
ところでコメディ作品を読むとなぜ「笑える」「可笑しい」と感じられるのでしょうか?
これがそもそも私がコメディを読みたいと思った動機です。
私はどうしても感覚で笑いを受け止めていて、例えば映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は何度見ても可笑しくて毎回同じ場所で笑うわけですが、なんで笑ってしまうのか、制作者の仕掛けを真には理解していません。
なんだか笑える、面白い、のですね。
では本作においてどうして笑えるのか。じっくり考えてみたところ、なんとなく見えたものがありました。
まずは「シチュエーション」です。
事故物件は世の中に実在していてそれ一つでは笑いになりませんが、出てくるものが「あらゆる怪異」というのがまず面白みのあるシチュエーションになっています。
そして、このちょっと面白いシチュエーションを「怪異を『なんなく』返り討ちにする」という解決法で落差をつけます。
この『なんなく』ですが、二太刀を連撃で浴びせてぶった切っています。これが面白みを加速していると思いました。
致命傷(?)となる二太刀め、文末がわかりやすいのでそこからいきますと、どれも文末の結果は一言で片付けています。
「寝る。」
「そうした。」
「あっそう(これは文頭)」
などです。
「は?」とか「で?」とかいう一言で相手をう、っと詰まらせる感覚です。この切り返しが非常に気持ちよくて「ハハハ」と笑ってしまうんですね。
でも、「で?」だけでは実は笑えないのです。
うっ、っと詰まって終わるだけで、むしろしらけてしまいかねない。
じゃあ何故笑ってしまうかというと、「一太刀め」の文章です。二太刀めの直前となります。
「うるせえ馬鹿、こっちは眠いんだ、」
「一匹残らず駆除しなければならない、」
などです。
一太刀めも問答無用にずばっと切り捨て御免です。この勢いある文章によって「元々おかしなシチュエーション」→「(一太刀め)おかしな切り返し、解決法」→「(二太刀め)おかしな結果」という三段構えで笑わせにきている、と。
で、この文章で笑いを成立させているのが、主人公の怒濤のような力技での解決法です。
本来怪異は怖がるべきところ、「意に介さない」、「力技で解決する」という二つのギャップで「怖い話」との落差を生み、笑いにつなげているんですね。
「いいぞ、もっとやれ」から「ちょっと手加減してあげた方が…」という同情すら生んでしまうこの激しさ。若干スラップスティックな感じです。
所々さしはさまる下品な部分も笑いに拍車をかけています。
とてもよく推敲された作文法とシチュエーションであり、これが毎日更新されているとはとんでもないことだと思いました。
◆第百三十九夜
第百三十九夜『走れ! ピザニンジャ-Call Me,Beep Me!-』
第六十六夜に比べ、シチュエーションの強引さはこの第百三十九夜が上回っており、このシチュエーションでまず笑いを保証しています。
んなわけあるか!w というツッコミ待ちのボケたシチュエーションです。ツッコもうとしたところに「ニンジャである」という一言で強引に「お、おう…」と読者を座らせてしまう。なのにこのニンジャがまたぶっ飛んだ設定で、「んなわけあるかい!w」とツッコミどころがすぐに顔を出すのです。
本作の笑いの原動力はこの「シチュエーション」と「ボケとツッコミ」にあって、つねにこれらがエンジンを吹かしています。
デリバリーピザとニンジャの組み合わせ自体でかなり笑いの要素を担保しているのは本当に作者様のアイデアゆえと言うしかなく、びっくりすると同時にもう面白いだろう、という予感で笑えてしまいました。
もう一つ重要なのは、このボケとツッコミをずっと貫いて息をつかせないところにあります。
畳みかける、繰り返す。これはギャグの基本です。本作は笑いの基本に忠実に、そしてとことんぶっ飛んだ設定、シチュエーションを「ピザのデリバリー」というありふれた仕事に結びつけて落差を生み、笑いにつなげています。
私はこれを読んだとき、火浦功さんの『たたかう天気予報』所収の『釜無温泉の決闘』を思い出しました。ラストの文章もちょっと火浦功さんみがあります。
そうそう、これだよ、久しぶりに笑える小説読んだなぁ、という感じ。
こういう馬鹿馬鹿しさが愉快に感じるので、私は「あ、あほらし…www」と笑いながら読み、大変すっきりしました。
それにしてもこれも毎日の連載のうちの一つとは。恐れ入りました。
◆終わりに
毎日更新中の連作ショートショートで、「三題噺」でできています。その中の二編だけを読んだのですが、「アイデアと文章力をジャンルに適合させる」といったらいいでしょうか。私は三題噺を作るのが苦手で、どうにも言葉に想像力を固定化されてしまってうまくいかないのですが、本作はかなり自由に題を駆使しており、それもまたすごいなぁと思いました。
テイストはコメディやらホラーやら色々ですが、ショートショートのキモはオチですよね。第百三十九夜は出落ちですが、最後のオチがどうなるかを練るのは創作の楽しみであり苦しみだと思います。それを毎夜更新しているのですから、繰り返しになりますが作者様の力量恐るべし、です。素直に脱帽、素直に尊敬いたします。
作品、大いに楽しみました。
最後になりましたが、今回は作品をご紹介下さり、ありがとうございます。
今後も面白いショートショートをものせるよう、またますますのご発展とご健勝をお祈り申し上げます。
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