第九回『チンチラ転生~前世でチンピラだったはずの俺がチンチラに転生!こうなったらモフモフな可愛らしさでのし上がってやる!~』感想文

要約/チンピラの主人公がチンチラに転生し、可愛い動物たちのSNSで人気をとり、のし上がって(?)いくコメディ作品。だじゃれはともかく「俺」がチンチラとして生きるセルフボケとツッコミ、そつのないストーリー運びが楽しい。


◆タイトル

チンチラ転生~前世でチンピラだったはずの俺がチンチラに転生!こうなったらモフモフな可愛らしさでのし上がってやる!~

https://kakuyomu.jp/works/16817139557605378262


◆作者様

都鳥@Miyakodori 様


◆文字数

18,396字


【フルスロットルでネタバレしています。ご注意ください。】


◆前置き

 今回は「コメディ」を読んで感想を書こうという企画のもと、募集いたしました。

 ご紹介くださいました都鳥様、ありがとうございます。


 そもそもコメディがどうして面白く感じるのか? どういう文章を書けば笑いが生まれるのか?

 私はこれまで、コメディを読んだり観たりした経験のなかで「何故笑うのか」を考えたことがありませんでした。

 そこで今回の募集ではコメディ作品を指定し、お応え下さいましたお二方の作品を読んで、その秘密に迫ろうと思いました。

 ご応募下さいましたのは本作の都鳥様、そして

「私、シェヘラザード。明日はもっと面白い-私と三題噺と彼女を蝕む死の呪い-」

https://kakuyomu.jp/works/16817139554470389162

の、新渡戸レオノフ@LeoNitobeLeonov 様です。


◆感想、笑える要素

 チンピラというアウトローな生き方の主人公が人畜無害なチンチラというペットになる、という落差。

 そしてだじゃれになっているチンピラとチンチラ。

 この二つの要素がすでにコメディの下地を作っていて、それがまず「ふふ」とちょっと笑うところですよね。

 本作のコメディ要素はこの舞台、設定そのものといえます。


 でも、ココまでは誰しも思いつくところなんじゃないかと思います。

 パッと思いついた言葉なりタイトルで笑いがふっと生まれる瞬間って、わりと多くあると思うのです。

 ところがそれをきちんとストーリーに仕立て上げるのはわりと難しいはずです。

 なぜならこのだじゃれでストーリーが成り立った作品は、本作だけだからです。


 チンチラ、つまり動物としての本能と、チンピラだった頃の少々やんちゃな態度や記憶の落差を常に意識して、乱暴な態度が全部かわいい、微笑ましいに変換されてしまうのが、この物語に通底しているギャグ要素です。

 面白いことにこの主人公は一度チンピラに還るんですね。そしてまた違うチンチラに転生し直す。しかもその転生先には最初のチンチラだった頃の自分がいる。

 転生とタイムリープを兼ねていて、ここは転生ものの中でもわりと独創的な部分ではないか? と思いました。


 結局自分自身(?)と子供チンチラを作ることになるのですが、このあたりは筆をぼかしていて「そゆこともあったのだ」的な感じにはなっていますが、結局影響力を及ぼしてSNSの世界で親分ぽくなっていくのは面白いラストでした。

 あ、そうすると女親分になるわけですね(笑)これもなんだか笑えてきます。実にほのぼのしていていいですよね。


 私が本作を読んで感心したのはストーリーの運びが上手なことです。そつなく流れて無駄を感じないのです。

 世界がかなり閉じているのは短編だけに仕方のないところですし、アニキの設定に少々無理なものを感じなくもありません。

 が、「チンチラ」と「チンピラの自分」を巡る一個の物語としてきちんと物事が運ばれ、事件が起こり、一応の解決を見るという構成には手慣れた感があって、素直に読めましたし、意味の通らない箇所、イメージできない箇所はほぼありませんでした。

 終始面白可愛い様子を見ながら、次はどうなるのかな? と一話ごとのイベントをゆっくり追っていける構造は、作者様の力量なのだなと感じました。


 さて、実のところ私は動物を飼ったことがほぼなく、チンチラについてほとんど知らなかったのですが、Wikipediaで見てみると妊娠期間は111日(約四ヶ月)、飼育下での生存は15年から20年だそうです。

 妊娠期間はともかく、主人公は15年後には死んでしまうわけですが、一方でチンピラという生き方もそうそう長生きできるような感じもしません。なので、本人からしたら「太く短く生きる」という人間の時の生き方が転生先で約束されているのは、偶然の一致だとは思いますが、面白いですね。


◆終わりに

 単なるだじゃれを短編に起こし、コメディとして読ませるのは、あんまり簡単な作業ではありません。しかしうまくイベントを練って物語に盛り込み、可愛い作品になったのは、前述したとおり作者様の力量だと感じました。

 物語の骨格がしっかりしていると思うんですね。どことなく書き慣れている感じがして、その点は読んでいて安心感を覚えました。

 面白かったです。


 最後になりましたが、今回は作品をご紹介下さり、ありがとうございます。

 今後の創作活動のますますのご発展とご健勝をお祈り申し上げます。

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