報い3

 棒のように動かない足を必死に動かす。笑う膝に力を込める。悲鳴を上げそうな喉を押さえた時、血が止まっていることに気が付く。エドウィンが魔法で止血してくれたのだろう。彼が私にくれた言葉を反芻して噛み締めた。


 怯えるな。逃げるな。落ち着け。


 唇を噛んだら血の味がする。迫りくる男性の、衣服がはためく音を捉えられる。彼の腹部に穴が開いているのを認められる。恐らく倒れた木が刺さり、抜くのに時間がかかったのだと見受けられる。


 肌を這う殺気。砂と草の混ざり合った匂い。正常に働く五感を一つも閉ざすことなく受け止める。自由に動かせる両腕で真っ直ぐに照準を定めた。


 エドウィンは、いつ私のことを知ったのだろうか。私は、傷だらけでマスターに抱えられていた少年かれを知っている。マスターがよく彼の話をしていたから、ずっと寝たきりだったのも知っている。傷が治ったのか、凛と歩いていた彼を初めて見た時。眩しく思ったのを鮮烈に覚えている。


 一度立ち上がれなくなっても歩いていけるのだと、私に希望を見せてくれたのは――彼だ。


 変わりたいと、私に思わせてくれた人。それでも怯える私を、抱きしめてくれたメイさん。彼らに、報いたかった。


見縊みくびらないでください」


 発砲。片腕を犠牲にして直進してくる彼。突き出された刃を屈んで躱す。足目掛けて打ち込む弾丸。軽やかに弧を描いた爪先は銃撃を避ける。振り下ろされる刃に冷汗が滲んだ。


 防ぐために振り上げたのは片腕。ナイフが突き刺さった痛みに眉を顰めるも怯むことなく彼の懐へ飛び込んだ。銃口を腹部に押し当てる。私と距離を取ろうとした彼がナイフを引き抜く。


 退避される前に一発。胴を焼いた弾痕。引鉄を引きっぱなしにして銃撃を繰り返す。魔力を放つたび衝撃が腕を跳ねさせる。筋肉が震えて硬直していく指先。耳鳴りが鼓膜を占拠していく。歯を食いしばり地を蹴った。


 撃ちながら距離を縮める。私の背後へ廻り込もうと馳せる彼。僅かな血痕が舞う。彼は頬を掠めた弾丸に一切の意識を向けない。鼻先で彼の上着が揺れた。


 頭部をかち割るように下ろされる刃。横に躱そうとした足は蹴り飛ばされ、為す術もなく地面に転がった。起き上がろうと地面に腕を突いたら、太腿に深々と剣尖を突き立てられて呻いた。


「いっ……!」


 引き抜かれた刃は空気を赤く色付ける。風の悲鳴が聞こえた。首を切断しにくる凶刃。地面に爪痕を刻むと、掌がざらついた音を立てる。彼の双眸めがけて砂を投げつけた。軌道は逸れる。けれど無傷ではいられない。


 せめて首は守らなければと手首を返した。彼の刃を握りしめて押し留めた。柔らかな表皮を裂いて生命線に刻まれる創痕。彼が私の手からナイフを引き剥がそうとする度、掌中は抉れていく。込み上げた涙が零れる前に、片手で彼の胸を狙った。震えた銃口は逸れて彼の肩を撃ち抜く。痺れる腕を動かして照準を合わせ直す。


 銃声。耳鳴り。銃声。悲鳴。銃声。呻き声。寂寞の中で綯い交ぜになるそれが遠のいていく。水の中で聴いているような戦塵。指先から力が抜けそうだった。グリップを、強く握り締めた。逃れようとする彼のナイフを、骨に至るまで握り込んだ。指が折れても構わないくらい、魔力も力も余すことなく注ぎ込む。


 痛い。嫌だ。逃げたい。怖い。胸裏に溢れかえっていく弱さを振り払いたかった。霞む視界で、彼らのことを思い描く。お願い、と、切願を込めて拳を固める。彼らの信頼を踏み躙りたくない。彼らを、悲しませたくない。


「私は――弱くなんかない‼」


 引鉄の壊れる音がした。毀壊したのは拳銃。噴き出した血液。私に乗り掛かっていた男性が、喉を撃ち抜かれて崩れていく。呼吸が震えていた。強張った手から拳銃が離れない。痙攣した拳固をどうにかほどいていく。ナイフと拳銃がげきせきに落ちた。


 メイさんを助けに行きたい。エドウィンに加勢したい。そう思えど、立ち上がれない。込み上げた血を吐き出して咳き込む。冷たい夜風に体温が下がっていく。無力感にどれほどの間、凝然としただろう。


 呼吸が落ち着き始めた頃、傷の痛みに落涙しながら必死に立ち上がった。エドウィンなら、きっと立つと思ったから。彼のように、なりたかったから。


 揺らいだ視界。倒れ込みそうになった体が、宙に浮く。抱きかかえられた感覚に瞠目した。蒼褪めた顔のマスターが、深憂を湛えて私を見下ろしていた。


     (三)


 ユニスの発砲音を背中で受け止め、躍りかかった屋敷内は悄然としていた。だがこのどこかにメイがいることは確かだ。さきほどの悲鳴を喚想してナイフを握りしめる。廊下を進み、横目でいくつもの扉を見ながら聴覚を上げた。


 研究者とメイが会話をしていればその声を聞き取れるように。メイが声を出せない状況なら、彼女の脈動を受け止められるように。自身の歩む音に眉根を寄せ、一度立ち止まる。秒針の音が耳元で響いた直後、小隙しょうげきの中で高められるだけ聴力を高めた。


「先生、貴方は――」


 苦し気なメイの声が、廊下の先から聞こえた。針が轟然と秒を刻む。魔力をほどいて耳を押さえた。深呼吸を一つ落とし、メイの声がした方へ突き進んだ。


 先生、と、彼女はそう言っていた。息が乱れる。四肢に走る古傷が痛みを滲ませ、鳥肌が立つ。

あの女アテナ』が、いる。


 早くメイを助けなければと思った。それと同時に、あの女への怨みが苦々しく舌端に沁みていた。


 転瞬またたきに伴われる追憶。村を襲われたあの日、舞い散っていた灰を想起する。殺されていく村人の姿。親の亡骸。妹の叫び声。俺を見下ろして何度も秋水やいばを突き立てた、あの女の眼差し。


 何一つ忘れたことなどない。溢れ返る憎しみを嚥下して疾駆する。辿り着いた道の先、重い扉を蹴り開けた。


「メイ!」


 床が水音を跳ねさせる。血溜まりの先でメイは首を締め上げられ、壁に押し付けられていた。片足は失われ、胸元は赤黒く色付き、滂沱たる流血が壁を濡らしている。


 彼女の前で漆黒の柳髪が靡いた。カランコエの花が、黒いワンピースの裾で揺れる。


 振り向いた少女の明眸は紅く、満ちた月のように見張られていた。


 ナイフを構えたまま、動けなくなる。全身から力が抜けそうになる。乾いていく唇は緩やかに動いて、乱れた息を吐き出していた。


「コー、デリア……?」


 見間違えるはずがない。アテナに攫われ、探し続けた妹。


 彼女はメイから手を離し、諸目を細めていく。メイの容貌が歪められていく。首を左右に振ったメイが何を訴えたいのか分からない。妹がどうしてここにいるのかも、何故メイを傷付けていたのかも分からない。


 脳髄が軋んだ。再会に肺腑を握り潰される。酸素を求めて痙攣する喉が、腥臭で噎せそうになる。ヒールの音が緘黙に割って入った。


「会いたかったよ、お兄ちゃん」


 玲瓏な声が、思い出を蘇らせる。蕾が開くように綻んだ童顔。記憶よりも大人びた顔容は、蒼茫たる陰を孕んで嘲笑を広げていった。


「――なんて、言って欲しかったかい?」


 脊髄を這う慄然。悍ましさに項を掴まれたようで、呆然と立ち尽くした。


 妹の顔で、妹の声で、ソレは咲笑えわらう。無意識の内に踵を引き摺っていた。理解を拒む脳漿が苦悶を告げてくる。


 浅く息衝いている俺に、彼女が手を伸ばした。回顧したのは俺の顔を包み込んだアテナの両手。辛酸を奥歯で磨り潰し接触を跳ね除けた。


 吃驚を浮かべた妹のかんばせ。彼女の困り眉を認めて胸が痛んだ。それでも警鐘を鳴らす理性から免れることは出来なかった。冷汗として伝う恐れに肩を上下させていれば、彼女が嘲謔を噴き出した。


「まさか生きているなんて思わなかったよ。『君の妹このこ』が言ったんだ、付いていくからお兄ちゃんを殺さないでって。トドメを刺さなくても死ぬと思って了承したんだが、よく生き延びたね? あんなに刺してやったのにな」


「お、前は……」


 披歴される真実は、咀嚼するまでもなく真っ直ぐ鼓膜を貫いて脳に至る。吐き捨てた掠れ声は嗚咽じみていた。顔の皮膚が引き攣っていくのを感じていた。瞬きを忘れて乾いていた角膜。両目を炙る深怨で眼路が滲んでいく。


 妹が――仇敵アテナが、無邪気に笑った。追憶の中で、夢を語ったコーデリアと同じ表情。胸臆から流露する悲憤で魔力が熱く迸る。


「家族を奪った相手が妹の姿をしているのは、どんな気分なんだ? 少年」


 虚空を一文字に切った己の刃。一刀は彼我の距離を広げただけだ。アテナは軽い足取りでそれを躱していた。円舞でも踊るようにカランコエの花が視界を鮮やかに粉飾する。


 互いの影が重ならない隔たりを前に、互いの尖鋭は同じ軌道を目指して、不可視の直線で結ばれていた。唾棄を呑み込んで全身に魔力を伝わせる。伏せた睫毛を果敢に持ち上げた。


「殺してやる」


 憎悪で染まるまなじりを決して立ちどころに地を蹴った。瞬息の間を挟んで透徹が鋭く哭いた。血肉を散らさず振り抜かれた一手。素早く刃を返して追撃。アテナは靴音を響かせながら細腕で攻撃を受け流す。


 半円を描くような彼女の爪先は巡りながら距離を埋める。振るわれた寸鉄をナイフの柄で弾き低姿勢で踏み込む。長い黒髪が頬を撫でた。刹那の合間、切り上げる太刀筋を視線で描く。


 瞳孔で辿った標的。かち合った同色の虹彩。一驚を喫している『妹』の姿に時が止まる。


 最悪の想像は、この五年間で何度も繰り返して来た。もしコーデリアが魔女にされていたら、この手で眠らせてやらなければならない。そんな日が来なければいいと願いながらも覚悟はしてきたつもりだ。その覚悟がどれほど脆いものなのか、怖気付く切っ先が物語っていた。


 時計の針が現実を響かせた直後、一秒の余韻を皎白の一蹴が砕いた。


「エドウィン!」


 飛び出して来たのはメイ。鮮血を撒き散らした左足を旋回させ、ブーツに包まれた右足でアテナの肩を蹴り退けた彼女。片足では上手く着地できず倒れていく痩身。咄嗟に抱き止めてひざまずき、彼女を床に座らせる。


「無茶するな。休んでろ」


「っ嫌だ……! エドウィンが妹さんを殺さなきゃいけないなんて、僕は嫌だ! だって大事な妹だろ! 貴方にそんな辛いこと背負って欲しくない! だから、貴方に恨まれてもいいから、僕が終わらせるしかないじゃないか……!」


 繊手が俺のシャツに皺を刻む。白皙を染めている情動に戸惑った。今にも泣き出しそうなオッドアイが、真情を平明に突き刺してくる。彼女の真っ直ぐな優しさを握り込んだ。


 柄が罅割れそうなほどナイフを震わせる。俺達を蒼黒く染めた影を振り仰ぐ。擦れ違った銀の残像。メイを背に匿いアテナの方へ跫音きょうおんを叩き付ける。洋灯の橙を切り弾けば、鈍色の髪状かんざしが散らばった。アテナは切れた横髪を淑やかに払い、艶然と紅唇を吊り上げていた。


「なんだ君達。知り合いだったのか。だからメイは躊躇っていたのかい?」


「メイに近付くな」


 犀利な機鋒を向けて牽制する。こちらの出方を窺うように、或いは余興でも楽しむかのように、アテナは脚を動かさない。炯眼で彼女を射抜いたまま、後背のメイに囁きかける。


「メイ。俺はお前を恨みたくない」


「けど!」


「それに……大切な妹だから、全部俺が背負うんだ」


 自分に言い聞かせる為に声帯を震わせた。急襲するべく革靴を擦り鳴らす。擦過音の余韻は切り裂かれた空気の音に食い潰される。


 跳躍した勢いを剣先に乗せてアテナの現前へ着地。踏み止まれなかった余力と魔力を前腕に注ぎ込む。全霊で振るった刃は振り乱された黒髪を切り裂いた。


 魔力で速度を上げて生じかけた罅隙かげきに蹴りを捻じ込む。防御の姿勢をとったアテナの前腕に革靴が沈む。そのまま蹴り払うや否や軸にしていた足を素早く踏み出した。


 たたらを踏んだ彼女目掛けて繰り出す一突き。細腕を貫いた感覚が腕首まで伝う。切歯すれば嫌な音が響く。前腕の骨を砕いて力を込める。苦痛に歪む彼女の目顔から逃れたくて瞼を塞ごうとした。されど意を決して打ち守る。


 目に見えない烈火が腕を焼いているようだった。烈々たる魔力で上げた筋力。退く隙を与えないよう上げた速度。時の刻みを緩慢に感じているのは俺だけだ。


 斬り離された彼女の腕がくれないの雨を降らせる。妹の声で奏でられるアテナの呻吟に歯噛みし、けれども動きは決して止めない。


 これはきっと報いなのだと、己を叱咤する。脆弱さに甘えて、恐怖に竦んで、妹を守れなかった罰だ。あの時、もっと足掻けたはずだった。どれほど恐ろしくても、妹の手を引いて逃げるべきだった。自分の失態が招いた苦痛を、見つめて受け止めなければならなかった。コーデリアはきっと、俺よりも苦しんだはずだから。


 激情に目を剥いた。刃を薙ぐも空振りに終わる。斬り下ろすも避けられる。斬り込めば切り込むほど響く彼女の靴音。焦慮は生じない。刃口が掠めた布地、髪、表皮。彼女が壁を背にした時、今までよりも前へ踏み込んだ。


 彼女のく間隔は先刻までと変わらない。確実に穿てる距離。叩き付けた刃は壁に穴を空けて塵埃を散らした。砕いた欠片に舌を打ち、屈んでいた彼女を見下ろした。


 壁から抜いた刃を構え直す。その間刻まれた創痕。骨を断とうとするアテナの利剣。仕返しとばかりに片腕を持っていかれる――その直前で身を引いた。


 すぐさま魔力で止血。けれども右腕は痺れたように動かない。回復を待つより先に左手でナイフを抜いた。


 アテナの剣鋩がこちらの腕に影を落としていた。触れ合うことなく交差した互いの前腕。喉頸に沈んだ彼女の一閃。嫌な汗が額を伝う。足元で血痕が鳴る。首筋から滲み出した血の匂いが嗅覚を刺す。首を薙ぎ攫おうとする彼女の腕に、こちらも刃を突き立ててどうにか押し留めていた。


「くっ……」


「なあ少年、生き延びたことを後悔したんじゃないか? 何も知らずに、あそこで死んでいた方が君は幸せだったろうね」


 骨が削れる音。溢流する人血が表皮を濡らしていく感覚。腕に魔力を注いだ。剣先に魔力を注いだ。耳鳴りが酷い。噛み締めた唇の隙間から喀血が零れ落ちる。


 更に深く沈んでいくアテナの刃。それを押し飛ばしたのは弾丸だ。


 銃声に驚駭したアテナが血を散らして俺から離れた。再度鳴り渡る筒音。瞥見した先で、メイが拳銃を構えていた。ユニスから預かったものだろうか。不思議と硝煙の匂いはしない。まるでユニスの弾丸みたいだった。


 魔力で首の傷を塞ぐ。さすれば臓腑が潰れるみたいに痛んだ。吐き出した血。霞む目の前。まだ倒れるわけにはいかない。


 あの日コーデリアが生かしてくれた脈動を、落ち着かせていく。ユニスが進ませてくれた両足で、血汐を踏みしめる。メイの思いを刀鋩に宿す。


 深呼吸をして血液を滾らせた。体中の皮膚が裂けていく痛み。魔力と化して肌を滑る血液。銃創を点々と滲ませるアテナと睨み合う。明徹な殺意が交錯していた。


「あの日のことは何度も悔やんだ。それでも――生きる道を選んで後悔したことは一度もない……!」


 喘鳴を嚥下して風を裂いた。攻撃を待ち受けるアテナの姿。正面に降り立つと共に放ったのは外套。それを穿通した彼女の切っ先。引き寄せるように軽くコートを握った。


 寸陰の最中で外套もろともアテナの片腕を断ち切る。腕を振り抜けば視野が拓く。払い除けたコートと共に彼女の前腕が床に跳ねる。彼女の腹部を間髪入れず打ち抜いた。


「うぐっ……!」


「これ以上コーデリアの身体を好きにはさせない。妹を返してもらうぞ」


 胸倉を掴み上げると、両腕を失くしたアテナの外貌が歪んでいく。手の平でナイフを回転させて構え直した。


 幾つもの命を奪い、人の身体を弄び、罪を重ねても、アテナは悔やまなかったのだろう。散っていく生命を、『あの日』のように毀笑きしょうし続けたのだろう。メイを裏切ることにすら、罪悪感を覚えなかったのかもしれない。


 アテナに殺された人々を思い浮かべる。彼女に傷付けられ、奪われたものが走馬灯みたいに脳室を巡っていく。


 表皮から溢れた紅血を握りしめた。憎しみに突き動かされるまま希求したのは誅戮ちゅうりく


 血と魔力で染色された鋭刃を、真っ直ぐに心臓へ振り下ろした。


 脱力しながらも余喘を保つアテナ。襟首を離し、頽れる背を抱き止める。剣鋒を抜くことなく、更に深く刺そうとした。


 力を込めれば込めるほど手が震える。唇が震える。眼路が滲んでいく。情けないほど自分の顔が歪んでいるのを、感じていた。


 色褪せていく過去で、妹が笑う。明るくて、我儘で、一人が嫌いで、俺の袖ばかり引いていた妹。片腕で抱いた体は思い出の彼女よりも成長していて、五年の月日に息が引き攣った。


 成人したら村の外へ行きたいと強請ねだった彼女。夢を語る幸せそうな顔が、瞼の裏に張り付き離れない。


 再会したら交わしたかった言葉がいくつもある。叶えてやりたかった夢が、たくさん。その全てが、熱く零れ落ちていった。


 吐息が声を殺していく。感情に喉を締め上げられて嘔吐く。何を言っても妹には届かない。それでも、彼女の身体を掻き抱いていた。


「ごめんな、コーデリア」


 息を吹き返せないほど強く、臓物を潰した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る