第7話
それは小さな店舗だった。
ビルの間に建っているというより、挟まっているといったほうがいいような佇まい。
窓は閉じているし、看板は汚れている。駐車場はゴミだらけ。とても営業中には見えない。
しかし、中に入ると別世界だった。
清潔な店内。ピザが焼かれる時のあの臭い。情報パネルは元気に輝き、価格やサービス品を紹介している。
店主がAIだからか、店の中の管理は完璧。そんなピザ屋だった。
店に入るなり、カウンターの受け取り口から音が鳴り響き、焼きたてのピザが出力される。四種類トッピングのミックスピザ。写真よりも美味そうな出来映えだ。サービスなのか、具が増えていた。
一緒に出てきたコーラを手に、小さな飲食スペースで、俺はそれらを全力で腹の中に納めに掛かる。
チーズ、チキン、コーン、ツナ、サラミ、シュリンプ……そしてパイナップル。
口の中に熱くて美味いピザの味が広がっていく。これをコーラで流し込めば完璧だ。
「……ふぅ」
『満足してくれたようだね』
一息つくと、店主のAIが話しかけてきた。
「ああ、美味かった。また来るよ」
『それなんだが、提案がある。……君、ここで働かないかね? 前の従業員がグリーンゾーンに移動して、配達ができなくなっていてね』
それからAIは色々と話してくれた。家へ放り込まれたチラシは、前の従業員が引っ越しついでにばらまいたものであること。このピザ屋はシェルターも兼ねていて見た目よりも頑丈で、住み込みで働けること。
なにより、働いている間はピザをまかないとして提供できること。
「わかった。やるぜ。ただ、条件がある」
今のアパート住まいよりも好条件なので二つ返事だ。
『それは嬉しい、それで、条件とは?』
「ピザを届けたい相手がいる。最初の配達先、二つほど俺に決めさせてくれ」
せっかくなので最初の仕事は選ばせてもらうことにした。
『いいだろう。届け先はどこかな?』
「一つはここに近いマンション。女の子にピザを食わせてやりたい。もう一つは……」
俺は住所を思い出しながら、ゆっくりと言う。
「届ける先は少し先の新しいシェルター。さっきまで俺をナビしてくれた娘に届けたい」
こうして、俺の新しい仕事が始まった。
治安の悪い世界でピザを届ける、尊い仕事が。
不穏な世界でピザ屋へGO みなかみしょう @shou_minakami
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