ACIDMAN LIVE TOUR『This is ACIDMAN 2022』@Zepp Haneda 現地あまりに良かったので突発でレポ書いてみた

三ケ日 桐生

①2階席から観る演者と観客の新たなルールとその遵守意識が織りなす美しい光景。

 コロナ禍中のライブ参戦は渋谷のLINE QUBEに続き2回目。

 更にそのライブは『全曲アコースティック&インストゥルメンタル』という特殊なモノだった、なので所謂皆が『ライブ』と聞いて想像するようなスタンダードなライブへの参戦は、マスクが生活の一部として溶け込んでから初めてとなる。

 zeppライブの醍醐味スタンディングか、あるいは座席指定で荷物の心配もない2階席か……ギリギリまで迷った。チケットFC先行が始まった時点─どころか未だに収束の見えない感染状況に加え、ごく個人的な事情(主に身長的だったり跳ねるには厳しい腰痛だったりだ、年なので)もあり、誠に恐れ多い事ながら今回は上から彼らを見守ることにした。

 結果として良い席に恵まれたこともあり、スタンディングで必死に背伸びして目を凝らすよりも良い環境でライブを楽しむことが出来たのだが、そうして文字通り会場を俯瞰して眺める中で、ある意味それ以上に大きな気付きがあった。

 ──とはいえ、この3年間(しっかり感染対策を講じた上で)恐れずライブ参戦を重ねている諸兄においては『何を今更』と思うかもしれない事だらけかもしれない。  

 だが改めて語らせて欲しい。

 近年の傾向としてはやや減少気味ではあるものの、ACIDMANのライブといえば激しいラウドナンバーが巻き起こすグルーヴが売りだ。そこにベース、佐藤雅俊ことサトマ氏のアジテイトのまま応える激しいジャンプとコール&レスポンスと相場が決まっている(筆者調べ)。

 だが入場前の検温にマスク、手指消毒を徹底している会場でそれが許されるはずがない。ボーカル大木伸夫氏も『まだ声は出せないけれども』と残念そうに話した。

 ならばと我々聞き手は考える。

 どうすれば目の前で奏でてくれる感謝を

 あるいは浴びるメロディに沸き起こされるプリミティブな衝動を彼らに伝えられるだろうかと。


 そして必然、両の手を叩き合わせる。

 声を出せない、激しく動けない以上、思いを伝えるにはコレと。拍手を増やす……それは言ってしまえばあくまで『代わり』であり、本来のように思う様跳ね、腕を突き上げ、大声を上げる一体感や充足には及ばないだろう、勝手にそう思っていた。

 曲が始まれば歓声の代わりに拍手。

 肝心どころで鳴らす手拍子。

 そして曲が終わるとまた割れんばかりの拍手……正直、中盤からはコレ終わったら手がパンパンに腫れ上がってるじゃないかと心配になるほど掌を叩き合わせた。

 そうしている内にだんだんと実感が湧き上がる。

 この拍手は決して『コール&レスポンスの代替』ではなく、ある意味でこの災禍があったからこそ生まれたなのではないかと。

 曲の切れ目、メロディとサビの合間……一時だけ壇上の彼らから視線を外して周りと、そして下のフロアを見渡してみる。

 誰ひとり、自分の快感を優先して声を張り上げたり、周りにぶつかる勢いで身を躍らせたりなどしていない。聞こえてくるのは拍手と、時折涙に鼻をすすり上げる音だけ。

 しかしそこに、抑圧されたフラストレーションや不満の影は見えない。

 勿論、今の規制にら個々人、心の内でわだかまりを抱いている人もいるだろう。

 しかしここで今、その不満を表に出すような無粋な輩は──少なくとも筆者の視界の中には──存在しなかった。

 それは舞台上も同様だ。ACIDMANの3人は声を出せない現状をただ嘆くのではなく、むしろこの希有なシチュエーションを楽しんでやろうとする図太さすらも見せてくれた。

 ライブのド頭、イントロを『最後の国』にしたのも確実にその気概故だろう。

 そうして観客と演者の垣根を超えてひとつのルールを尊び、自分たちの居場所がこれからもありつづける為、そしていつかあるべき姿に戻るためひたむきに守ろうとする。

 コール&レスポンス、モッシュ&ダイブがもたらすもの。それを互いに激しい炎へと薪をくべあって覚える一体感と喩えるなら、ここには静まり返った湖面をただ皆で眺めあうような穏やかな纏まりの心地良さがあった。


 ……我ながら、しっくりきた比喩とは言い難い。

 どうにも現場で覚えたこの感覚の言語化は難しい。

 だがそこを汲み取って応じてくれるのがACIDMANだ。

 大木氏が言う。


 『代わりに俺が叫ぶから』

 『こうなった今、前よりもずっと拍手が身に染みる』

 

 コロナ禍の走り、真っ先に槍玉へと挙げられたエンターテインメントの舞台。

 必死に耐え、ライブシーンを絶やすなと工夫を凝らしてきたアーティストとオーディエンスが『勝ち取った』光景。だからこそ見下ろすフロアはとても眩しく見え、心の底から「ああ、このバンドが好きで良かった」と思えた。

 

 ……ライブ後の熱量のまま書き殴っていたら演奏に触れる前にこんなに長くなってしまった。

 もう遅いので今日はここまでで勘弁していただきたい。


 次回は明日、レコ発ではなく『20&25周年という節目のライブ』ならではの楽しみ、円熟した彼らが奏でた初期ナンバーの味わいをメインに書こうと思います。

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