②『ベテランバンドの周年ライブ』が持つ意味と『新たなライブの楽しみ方』の更なる模索の結実

 前回は『マナーの良さに感動した』というだけで2000文字も書いてネットの海にブン投げつける暴挙に及んでしまったので、今回からしっかりとライブの中身について感想を書き綴っていく事にする。

 本文に向かう前置きとして、当レポートでは公式から既に発表されている情報以外を記載しない(例:『ファン投票楽曲』及び『アンコール楽曲』については触れない)など、所謂「ネタバレ」には筆者の出来る最大限の配慮をしていく所存である。

 だがその日その日の公演によって内容が変わると予想できるもの(主にMCでの発言内容)については取り上げるので、一応再来週の名古屋並びに来月の大阪への参戦を控えている諸兄においては、ここから先の閲覧は『自己責任』という事を何卒念頭に置いてから読み進めて頂きたい。

 




 以上、責任回避タイム終了。

 さて改めて。今回開催されたワンマンライブはACIDMANというバンドにとって、そしてもちろん我々ファンにとっても普段の『レコ発』(=新しいアルバムの発売を記念して、その中に収録される楽曲を中心にセットリストを組んで行われるもの)やフェスへの参加などとは性質を異をする、非常に大きな意味合いを持つものだった。

 その副題に『25th&20th anniversary』と銘打たれた通り、彼らの活動の節目を祝い、またこの先を歩んでいく為のマイルストーンとしての集い。

 そこにはどんな『ならでは』の特色が宿っていたのだろうか。


 筆者はこう考える。

 先述したレコ発やフェスで演奏される楽曲は、基本的には『直近でリリースされたアルバムやシングル+α』だ。

 前者であれば収録されている楽曲のほぼ全てを演奏するし、後者であれば持ち時間や会場の持つ空気に応じて数曲を選りすぐる。

 その上で残りの+αに入る楽曲は、新参古参問わずファンの盛り上がりを保障してくれる人気や知名度の高いナンバー……無論例外もあるが、所謂『鉄板』が選ばれる傾向が強い。

 無論、変に古参ファンを拗らせてそこに異を唱えるつもりは毛頭ない。

 アルバム発売直後であれば集ったファンはそこに収録されているナンバーを生で聴きたいと思うのは当然の欲求であるし、数多のバンドが集うフェスにおいてはそこでACIDMANと初遭遇する『未来のファン候補』が大勢いる。彼らの為に限られた時間の中でわかりやすく、グッと心を掴む為に鉄板の1曲をお出しするのは当然の判断だ。

 大盛り上がりのフェス会場でACIDMANの構築する世界観の入り口にすら立っていない状態の彼らに向かっていきなり『HAM』だったり『静かなる嘘と調和』だったり『toward』だったり……それこそ今回中盤で披露された『Λ-CDM』を聞かせて見せたところで口をポカンと開けてしまうだろう。

 逆にそれで心を掴まれたなら、その人は一生ACIDMANの虜になる素質が充分になるのだが。


 閑話休題それはそれとして


 つまるところセットリストという物はレコ発にはレコ発で、フェスにおいてはフェスで求められる『役割』を念頭に置いて組まれる。

 ならば直近のレコ発を既に終わらせた上、無類のACIDMAN好きだけが集ったという、もはや一切の制限なく好き放題に組めたこの日、彼らはどんなフルコースを我々にお見舞いしてくれたのか。

 ここで改めて、事前公開されたセットリストを見ていこう。


SE.最後の国

M01.to live

M02.造花が笑う

M03.FREE STAR

M04.リピート

M05.赤橙

M06.Rebirth

M07.アルケミスト

M08.季節の灯

M09.彩 -SAI- (前編)

M10.Λ-CDM

M11.ALMA

M12.(ファン投票楽曲)

M13.式日

M14.夜のために

M15.innocence

M16.世界が終わる夜

M17.ある証明

M18.world symphony

M19.廻る、巡る、その核へ

(ツアー特設サイト http://acidman.jp/tour/thisisacidmantour2022/#setlist より引用)


 正直に言おう。帰りの電車の中で振り返りの意味を込め改めてこのセットリストを目にしたとき、初めに抱いた感想は──

 「いや、成分が濃いんじゃ!」の一言であった。何ならちょっと小声で出ていた気もする。

 まるで某芸人のようなリアクションだが、この気持ちを理解してくれる諸兄はきっといると確信している……のはまあいいとして。

 まず目につくのは約2時間40分という大ボリュームのおかげもあって新機軸のライブながら『造花が笑う』『FREE STAR』『赤橙』『ある証明』『world sumphony』と鉄板、肝心所はしっかりと押さえている点。

 「現場に来たならコイツ等を聴かないと!」という生粋のフェス猛者やアップナンバー好きのニーズにもしっかりと応える布陣だ。

 その上で最新のアルバム『INNOSENCE』から選出された3曲。伝わりやすさを重点に置いた珠玉揃いのアルバムとしてはやや少ないように思えるが、その厳選具合こそ本日のセットリストがレコ発としっかり差別化出来ている証明と言えよう。

 あまり個人的な感想を差し挟みたくはないのだが、中でも『夜のために』はその方向性こそ変えないものの、アルバムから恐ろしい程の大化けをして押し寄せてくる。

 このナンバーが好きな諸兄は是非に、是非に期待していてほしい。

 

 そうしてフェスとレコ発、『普段のライブ』の残り香を取り払った残りの楽曲を見てみれば、この『This is ACIDMAN』というタイトルの意味が見えてくる。

 『to live』『リピート』『アルケミスト』そして何より先ほども挙げた『Λ-CDM』……はっきり言って『Λ』のレコ発以外ではもう聴けないだろうと諦めてすらいた。

 言わば登板機会の少ないナンバーたちを並べて眺めて浮かんでくる思い。筆者の貧相な筆致や語彙力ではとても全てを言い表せないし、まず恐らくそれぞれの──きっと、ACIDMANの3人の中でも──具体的に指し示すものは微妙に異なるだろう。


 だが確かにACIDMAN


 そう確信を以って言い放てる楽曲の数々が、オーディエンスを待ち受けていた。

 そんなセットリストを開催の4日前というタイミングで投下するという所業。知ってしまったディープなファンの期待たるや如何程のものだったのか、筆舌に尽くしがたく、あるいは想像すらも追い付かない。

 それだけでも革新的であるというのに、彼らはこの形式のライブを単なる『周年記念だからこそ行える特異なライブ』で終わらせるつもりなど毛頭なかった。

 

 ──何が来るかわかっていても「よっ、〇〇屋!」と叫ばずにはいられない歌舞伎のように。

 ──自分の中での名作映画「インターステラー」をついつい何度も見てしまうように。

 事前にセットリストを公開するという形式のライブを『This is ACIDMAN』として少しずつ定着させ、いずれは全国を巡りたい。

 幕間のMCでそう語る大木氏に、思わず膝を打ってしまう自分がいた。

 自分が面白いと思った本や感動した映画やのめり込んだゲームを、何度も何度も繰り返して楽しむのは何もおかしなことじゃない。

 その方程式が何故と思い込んでいたのだろう。

 どんな曲がどんな順番で出て来るかまでをも……ライブはかくあるべしと、いつの間にかそんな固定観念にすっかり囚われていた己の目を覚まさせてくれた。


 ……とまあここまで礼賛しておいて何なのだが実は筆者、この事前公開されたセットリストの情報を当日を楽しんだ身である。

 だが大木氏は、この『This is ACIDMAN』はそんな従来の楽しみ方も決して否定しないと力強く宣言してくれた。


 曰く、当日までにセットリスト見る・見ないはあくまで個々人の判断に委ねる。

 楽しみ方はどちらでも、自由なのだ。

 その心意気は単にMCの言葉だけでなく、しっかりと公式サイトにも表れている。

 常識を覆すような新機軸を打ち出したにも拘らず、わざわざセットリストのページを分けた上、該当部分を折り畳みにしている配慮こそが、何よりの証明であろう。


 「これでいい」から「これもいい」という気付きへ。

 そしていつか「これが良い」し「これもまた良い」と選べる未来へ。


 『This is ACIDMAN』が用意してくれたそんな導線は、偶然にも前回語らせていただいた『コロナ禍においてのライブの在り方の変容と、そのポジティヴな捉え方』へと通底するものがあるように感じた。

 

 ……本来は今回で終わらせるはずが、書いているうちに上がってくる熱量に任せるあまり、また長くなってしまったので今回はここまで。

 次回は週明け、順番が前後してしまったが『ベテランバンドの周年ライブ』が持つ意味にフォーカスを絞り、単純にひとりの(そこそこ)古参のファンとして思った事を書いていこうと思います。

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