第6話  乱入者

風が少し緊張を帯びてきた。線香のにおいが立ち込める中、楓はゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ、また来年、来るからね。」

 お地蔵さんに向かってつぶやいた。お地蔵さんは深い笑みをたたえたままだった。花束を包んであった紙などを設置してあるごみ箱に捨て、赤坂別院を後にした。そして、その足でANAコンチネンタルホテルに向かった。

 ホテル二階の正面玄関を入り、刺激が強すぎるシャンデリアを一瞥し、地下フロアにゆっくりと向かった。今日はこのホテルで行われる結婚式が多いのだろう。何組もの新婚カップルとすれ違った。

“英家・酒井家・結婚披露宴会場”

と書かれていたのは、地下フロアの一番奥、バンケットルームギャラクシーだった。

楓は会場に近づいた。中から愉快な声が漏れてくる。会はまだ始まったばかりといった様子だ。

「失礼ですが、ご招待された方でしょうか。」

ホテルの従業員だろうか。楓ににっこりとほほ笑んで、声をかけてきた。

「遅れてこられた方でしょうか。こちらの方で、受付をお願いいたします。」

従業員は楓を受付の方へ促した。受付のテーブルの上では、“かすみそう”が上品に微笑んでいた。

「いえ、私は招待なんかされていないんですよ。」

楓は従業員に向かって、そう言うと、軽く微笑み返した。

中からは相変わらず、口笛や奇声など騒がしい音が漏れてくる。さぞかし盛り上がっているのだろう。このホテルで、この会場の規模だ。百人くらいは招待されているに違いない。

楓はゆっくりと会場の扉に近づいた。

「お客様、少々お待ちくださいませ!」

従業員の声に反応したのか、他の従業員も近づいてくる音がする。

「優也、おめでとう。」 

楓は優也の結婚式が行われている、バンケットルームギャラクシーの重い扉を静かに開けた。



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かすみそう ラビットリップ @yamahakirai

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