爪の香り
結騎 了
#365日ショートショート 244
回り込むように。そして、整えるように。直線の連続で曲線を作る、この楽しさ。ぱちん。ぱちん。ぱちん。爪を切り、爪切りの中から微音がする。振ってみると、しゃか、しゃか、しゃか。今度は反対の手。ぱちん。ぱちん。最も広く切りごたえのある親指は、最後のご褒美だ。人差し指、中指、薬指、小指。そしておまたせ、親指。ぱちん。ぱちん。ぱちん。少し角ばったところを微調整。ぱちっ、ぱちっ。さて、今度は足の指だ。膝を立て、ぐっと前屈みに。前よりお腹の肉がついてしまったからか、いくらか窮屈だけど。ばちんっ。足の親指の爪は厚い。とても切りごたえがある。ばちんっ、ばちんっ、ばちんっ。他の指も……。ああ、爪切りが少しずつ重くなってきた。いいぞ。しゃか、しゃか。二十本、全ての指を終えて。ゴミ箱の上で、爪切りを分解する。広げた掌に、ざらぁっ、と。ああ、爪だ。たくさんの爪だ。厚いのも、薄いのも、長いのも、短いのも。塵のようなものもあれば、綺麗な三日月もあって。掌を顔に近づけ、その香りを嗅ぐ。ああ、人の香りだ。生き物の匂いだ。いやあ、臭い。臭い、が……。ううむ、いやいや、これが人間なのだ。生物が発するナマの香りだ。生きている実感がする。ぱん、ぱんっ。手を叩き、ゴミ箱に全てを葬る。また伸びるまで、お楽しみ。
爪の香り 結騎 了 @slinky_dog_s11
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