#25 決着。そして、
「でも、どうしてスライムの攻撃は効いてるんすかね?」
「あんなに強かったのにねー。スライムってほんとは最強モンスター?」
「うーん、どうしてだろうね?」
みんなで首をかしげた。生みの親であるユーミィにもわからないようだった。
巨大ゴーレムのからだが変色していく。もとは岩石の灰色や土の茶色だったのが、どんどん黒っぽくなっていった。
「水ですよ」
と、部隊長が言った。
「うわっ! って、またあんたっすか」
「おどかさないでよー」
養成所のときと同じように音もなく新米コンビのうしろにあらわれた。
「水って……どういうこと?」
「っていうかだれよ、あんた」
ユーミィとフローシアは部隊長とは初対面だった。
「ただの防衛隊員ですよ」と言ってから、部隊長は説明をはじめる。「ゴーレムは水がきらいなんです。だから、ほとんど水分で構成されているスライムとは相性がよくないのでしょうね」
なるほど、と一同はうなずいた。
「じゃあ、ユーマは勝てるかもしれないね!」
ユーミィは表情を明るくしてユーマの背中を見つめた。
ユーマはもがき苦しむ巨大ゴーレムに接近した。付近の小型ゴーレムは一掃され、巨人はルンルンスライムに集中しているため、なんの障害もなく距離を詰めることができた。
「頼むぞ――これがラストチャンスだ」
狙うは巨大ゴーレムの膝。ユーマは全力で大剣を振るう。巨人の膝にぶっ刺さった大剣はそのままの勢いで裏側まで突き抜けた。
「やったー!」「さすがっす!」と、離れて見守る仲間たちから歓喜の声があがった。
スライムに浸食された巨大ゴーレムのからだはもろくなっていたのだ。片足を切断された巨人はバランスをくずしてあおむけに倒れる。ずずんっと地響きのような大きな音が響き、大量の土煙が巻き起こった。
「ユーマは?」
ユーミィは目を凝らしてユーマの姿を探す。
もうもうと立ちこめる煙のなか、倒れたゴーレムのからだのうえに人影があった。身の丈を越える大剣を肩に担いだ人影が。
「これで終わりだな。あばよっ!」
ユーマは刃を下に向けた大剣を持ちあげ、巨人の胸の中心、人間なら心臓のある部分を目がけて突き立てる。大剣は深々と突き刺さった。
巨大ゴーレムのからだが小刻みに震えはじめ、ぱんっと弾け飛んだ。もとの岩石と土の集まりにもどり、ぐしゃりとつぶれてしまう。
「ああっ、ユーマ!」
巨人の崩壊に巻き込まれたユーマの身を案じて、ユーミィたちは山のようになったゴーレムのなれの果てに駆け寄る。
「ユーマ! どこにいるの!」
「おーい……おれはここだ……」
からだの大半が土に埋もれたユーマのか細い声が聞こえてきた。みんなで土を掘って救出作業をする。
「ユーマ!」と、ユーミィが掘り出されたユーマに抱きついた。「無事でよかったよ。本当に心配したんだからね」
「ユーミィ……すまなかったな。おれは大丈夫だ」
ほかの仲間たちも口々に声をかけた。
「なんにせよ、これで一件落着だな。みんな無事だし、ちょっと壊されちまったけど町もなんとかなりそうだ。それに工房も守れた」
ユーマが清々しい顔で言った。
「ああっ!」
突然、ユーミィが叫んだ。
「どうした! まだゴーレムが残ってたか!」
ユーマが大剣に手をかける。
「ううん、ちがうの。あのね、工房がね、壊れちゃったんだ……」
大変な出来事であったのだが、それ以上の非常事態だったために忘れていたようだ。特大スライムが飛び出していったとき、工房の正面側の壁がくずれ落ちてしまったことを。
「そんなことがあったのか」
「うん。でも、どっちみち取り壊される予定だったし──」
「だったら」と、フローシアがユーミィの言葉をさえぎった。「勝手に建て直しちゃいましょうか」
「えっ……えーっ!」思いもよらぬフローシアの発言に驚き叫ぶユーミィ。「いいのかなあ、そんなことをしても……」
「こういうのはやったもん勝ちなの。もう新しく建てたから取り壊しの必要はありません、って言ってやればいいのよ」
フローシアの豪快すぎるアイデアに戸惑うユーミィ。そんな彼女の肩にぽんっと手が置かれる。
「もっと胸を張れよ、ユーミィ。この町はおまえが、おまえのスライムが守ったんだ。だれにも文句は言わせねえよ」
「ユーマ……」
ふたりは自分たちの守った大切なふるさとを眺める。はじまりの町は、新たなはじまりのときを迎えたのだ。
「でも、あんたには関係ないお話でしょ? だって、この町を出て都に行くんだからね」
「えっ、いや……工房が再建できればおれも……」
「行くならひとりで行きなさいよ。ユーミィを連れてって結婚しようだなんて、このあたしが許さないからね」
「なっ……」
「ユーマきょーかん、結婚するんすか!」
「はつみみですー」
「ちがーう! だれもそんなこと言ってねー!」
「ユーミィのことは安心してあたしにまかせなさい。ユーミィ大好きおじさんは、ひとりさびしくさよならしなさいな」
「ふざけんな!」
彼らのやりとりを眺めながら、ユーミィはほほ笑んだ。
「ふふっ……よかった」
この騒がしくも平和な日々は、これからも続いていくのだろう。
はじまりの町のスライム錬成師 椎菜田くと @takuto417
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