#24 巨大と特大の激闘

「はあ、はあ……これ以上はムリだ……」

「もうダメー、つかれたー」


 防衛隊とともに小型ゴーレムをほとんど掃討しきった新米コンビ。すでに体力を使い切っていて、弱音を吐くのも無理はない。


「やっぱすごいや、ユーマきょーかんは。あんなでかいのを振りまわしてるってのに、まだ戦う力が残ってるなんて」


 ひとり巨大ゴーレムと交戦を続けるユーマの姿を遠巻きに見ながら、シンジが言った。


 シンジの目にはそのように映ったのかもしれないが、実際にはユーマの体力にも限界がきていた。ここで自分があきらめてしまっては、巨大ゴーレムが町の中心部にまで到達してしまい、被害は加速度的に増大することだろう。そうさせないために、気力だけで剣を振り続けていた。


「でもー、このままじゃ勝てないよー」

「そうだな。いつかはユーマきょーかんにも限界がくる。どうすりゃいいんだ……」


 防衛隊員たちにも打つ手がなく、ユーマは息を切らしながらやっとの思いで戦っている。もはやこれまでか、とみんながあきらめかけていたそのとき、巨大ゴーレムの進む先からなにか大きな影が近づいてきた。


「ん? マイコ、なにか来るぞ」

「あれって―……スライム?」


「あんなにでかいスライムなんているわけ――って、いたー!」

 シンジが大声で叫んだ。驚きのあまり疲れを忘れてしまったようだ。


「すごくおっきいねー。抱きついてみたーい」

 マイコはのんきに目を輝かせる。あの特大プルプルボディに抱きつけば、さぞかし気持ちがいいことだろう。


「まさか、ユーミィのスライム……なのか?」


 戦闘中にもかかわらず、ユーマも動きを止めてスライムに見入っていた。長いあいだユーミィのそばでスライム作りを見てきた彼であったが、これだけのサイズを見るのははじめてのことだった。


 大鍋のなかで煮込まれて凝縮した特大スライムは、外に出たことで膨張し、大鍋以上のサイズになっていた。人間よりはよっぽど大きいのだが、それでも巨大ゴーレムにはとてもおよばなかった。


「助けにきたよ、ユーマ!」

 スライムのうしろからユーミィがあらわれた。精も根も尽きかけてふらふらのフローシアを引き連れて。


「ユーミィ!」ユーマは攻撃を中断してユーミィに駆け寄る。「おまえたちは避難しろって、言っておいただろ?」

「わたしも戦うって決めたの。わたしのスライムでユーマを助けるんだって、そう決めたから……」


「そうか……ありがとな、ユーミィ。でも、危ないから離れておくんだぞ」

「うん、わかったよ」とうなずいてから、ユーミィは特大スライムに向かって声をかける。「おねがい、スライムちゃん。町を守って!」


 巨大ゴーレムに向かっていく特大スライム。たしかに大きくはあるのだが、いまひとつ大きいという実感が持てなかった。なぜだか頼りないとすら思わせる。


「なんか……つぶれてないっすか?」

「張りが足りてないのかなー」

 ユーマたちに合流した新米コンビが言った。


「……そうか、わかった」と言って、ユーマは手を叩いた。「大きすぎて自分の体重を支えられないんだ。スライムにはかたい骨も外骨格もない。かといって筋肉質でもない。だから重力に負けてしまう」


「そんなあ……スライムちゃん、がんばってー!」


 ユーミィの応援もむなしく、特大スライムは巨大ゴーレムに踏みつぶされ、もともとひしゃげていたボディがさらにぺしゃんこにされてしまった。


「あっ。つぶれた」

「ああ……わたしのスライムがあ……」


 せっかく助けにきたはずが、なにもできずにあっというまの敗北。ユーミィはショックで涙目になった。


「いいえ、まだよ」

 と、ふらふらのよろよろだったフローシアが言った。


「元気になったんだね、フローシア。まだってどういうこと?」

「あれを見てみなさい」

「あれって──あっ!」


 フローシアの指さす先、特大スライムはまだ負けてはいなかった。踏みつぶされて終わったかと思われたスライムは、巨大ゴーレムの足にまとわりつき、さらにうえへとのぼりはじめていた。


 ユーマにはこのスライムに見覚えがあった。

「そうか、あれは──人食いスライムだな!」


「ルンルンスライムだよ!」

 ユーミィ怒りのツッコミ。


 ただ大きいだけのスライムだと思いきや、じつは全自動お掃除スライム、ルンルンスライムだったのだ。ユーミィも無意識のうちにルンルンスライムにしていたようだ。作った本人も驚いている。


 特大ルンルンスライムはどんどん侵食していき、ついには巨大ゴーレムの巨体をすっぽりと覆い尽くすまでになった。


「すごいすごい、全部食べちゃった!」

 ユーミィが拍手をしてよろこびを表現する。


「あいつはユーマきょーかんが何度斬っても平気だったんすよ? あれくらいで倒せるとは思えないっす」

「でもー、なんかへんだよー」


 これまでユーマの攻撃や防衛隊の足止めに平然と対抗して進み続けていた巨大ゴーレムが、とうとうその足を止めた。自分のからだにへばりつくスライムを引きはがそうと必死になっているようにも見えるが、なかなかうまくいかないようだ。


「なんだか、苦しんでるみたいね」

 と、フローシアが言った。


「そうか……よし、これならいける!」

 これを最大の好機と判断したユーマは、残りの体力と気力のすべてを使って最後の攻撃に打って出る。

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