第14話 魔女であること


「!!! いきなりぶっ放すなんて・・・!」

アオイちゃんは、じっとトロールに視線を向けたまま銃を構えている。


「!! うわわわっ!!」

トロールが放った巨大な岩を躱し、木の陰に2人で隠れた。


「そんないきなり撃つなんて・・・! 他に方法がないか・・・」

「・・・まさかあなた。 生かしたままとか考えてないでしょうね。」

「いや・・まあ。 その~」


彼女ははーっと小さいため息を一つついて、こちらをまっすぐ見つめた。

「これはエリスさんの命令なのよ。  なぜ命令なのかを考えなさい。

 もしここで私たちが失敗してもエリスさんがなんとかしてくれるかもしれない。

 でも、私たちがやらないとこの森だけじゃない。 村に被害が及ぶのよ。」

「うん。。。そうだよね。」



身体の空気を入れ替えるように、ふうっと大きく深呼吸する。

(力を貸して・・・ ハルチ ウルチ ツヅチ)


「・・・いくよ、モチ。」

私の声に合わせて、モチは私の身長ほどある大剣に姿を変え、

そのまま柔らかい地面に突き刺さった。

(また大きいやつだ・・・)


少し先にトロールと戦闘している彼女を囮にするような形で、

剣を肩に担ぎ、一気に近づいて背中に向かってとびかかる。


「・・・ごめん!!」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



(・・・・・・・・・・!!! ?? あれ? どこ?

 地面がひっくり返ってくる??)


「・・・はっ!  アオイちゃん!?」

どうやら鯖折りの状態で彼女の肩に担がれて、森の中をトロールから逃げ回ってるようだった。


「やっと目が覚めたのね。  意外とあのトロール素早いのよ。

 おそらくあの呪印の力ね。 いつかガタが来るとは思うけど。」


「あだ!」

彼女は急に立ち止まり、私を大きな樹の後ろに放り投げるようにおろした。

2人で木の陰にかがんで身を隠す。


「ていうか私どうしちゃったの? なんでアオイちゃんに担がれてたの?」

「ああ。 私の弾が当たって眠ったのよ。 急に射線に出てくるもの。」

どうりで急に意識が遠くなったはずだ。  驚くぐらい即効性が高い。


「私の射線に入らないで。いい?」

「いい? じゃないよ!!   ちゃんと撃つなら教えてよ!」

木の陰から飛び出そうとした彼女の腕をつかみ、思わず大きい声が出た。


「私はだれかと一緒に戦うのは慣れてないの。」

「いや、そこは私もだよ! 単独任務が基本だから。

でも、だからってばらばらだとまた私に当たる!!」


「・・・じゃあ、どうすればいいのよ?」

「・・・・・うぐぐ」

地面に突き刺さってる大剣に目をやってから、彼女はつづけた。


「私があいつを眠らせる。 あの殺気立ちまくってるトロールの攻撃をかいくぐってきっちり球をぶち込むのはちょっと大変。 

でも、眠らせたらあなたがそのでかい物で仕留めなさい。

ちなみに、眠らせるといってもいつもの睡眠とは違うの。 睡眠という状態を付与するもの。 

弾を撃ち込んでから3~5秒を1セットで、睡眠状態を継続するかどうかは”運”。」


「うん??」


「そう。 ”運”。 継続率があらかじめ決まってて、それに従う。

 運が良ければ続くし、悪ければ数秒で終わる。

着弾点の色で示唆するんだけど。行けるかどうかは私が伝える。 行くわよ。」

「あ。  うん・・・!!」


動き出した彼女の動きを見逃さないように場所を変えて戦況を見守る。

(大丈夫かな?  いや、信じよう!!)


トロールとは思えないスピードで大柄な体を素早く動かしている。

無理にでも動かされているのだろう、身体が持つのか心配になる。


「・・・・!!」


命中したのだろうか、彼女がトロールの首を指さすのが見えた。

「あ! 今なんだね!!」


一気にダッシュで近づき、頭がだらんと垂れてがら空きになった首を後ろから

大きく飛び上がって大剣を振り下ろす。


「・・・・ぐう。」

(硬い! けど、行けるか・・   やば!!)


垂れていた頭が上がり、離れようとした瞬間強烈な衝撃に剣ごと数メートル後ろに吹き飛ばされた。


地面に叩きつけられる瞬間、アオイちゃんに抱えられ、一緒に地面にゴロゴロと転がった。


「ありがと! 大丈夫? さっきの、アニメだったら皮膚だけはがれて骨になってるやつだよ。」

「ええ。 そうね。 叫ぶだけでも凶器ね。」


起き上がり、乱れた服を少しだけ整える。

「もう一度行くわよ。」

「うん。  あ、アオイちゃん! 腕が!!」


彼女の左手の先が血がぽたりと落ちている。

「少しこすっただけよ。 問題ない。」


まっすぐにこちらを見つめる視線は、優先順位を間違えるなと言っている。


「わかったよ。  でも、私の名前を呼んで。」

「は? なんで、合図したでしょ!」

「指で刺されているのに気づくのが遅れた。 だから私の名前を呼んで。」


「・・・・」


「もー。 記憶戻す前は私の名前を呼んでたよ。 あの時は可愛げあったなー。」

「・・・わかったわよ!  その代わり仕留めなさい。」

「"Got it!”」


再びトロールに近づき、戦闘になる。 呪印の影響だろうか。

こちらの姿を捉えると、すぐに攻撃してくる。


「・・・危ない!!」

アオイちゃんが飛び上がり、無防備になったところにトロールの一撃が入る

思った刹那、トロールの後頭部に突如彼女は現れ、銃を構える。



「・・・・ユイ!!」

「おっけえ!」



銃声の後、彼女と入れ替わるように飛び上がり、トロールの頭上から

剣を振り下ろす。


「・・・いけえええ!!」


ぐっと押し込むと、手に感じていた重みがなくなり、

バランスを崩し、重力に引かれるまま地面に向かってトロールの身体と同時に落ちる。



「・・・おお。 再びナイスキャッチです。」

アオイちゃんにお姫様抱っこのように抱えられ、衝撃はまぬかれた。


「えへへ。 上手くいったね。」

「・・・・・・・」

「いた!」

声をかけたが、無視されポイっと地面に放り投げられた。


「できたね。 共同で任務。  私たちやればできるじゃん!

 アオイちゃんがいなかったら絶対ダメだったよー。 」

 

「・・・そうね。」

「えへへへ。」

「やっぱり、あなたも”魔女”なのね。」

「????」


差し出された手を掴んで、身体を起こす。



「お疲れさま~♡」

木々の奥からエリスさんがねぎらいに来てくれていた。


「さて、傷を手当てするわ。こっちに来て。」

アオイちゃんは、上着を脱ぎ、左腕を差し出すと傷口には血がべっとりと引っ付いていた。

(うわ。 痛そう・・・)


手際よく、傷口を消毒して包帯を巻いていく。

「はい、OK。 骨とかには異常ないから。 定期的に傷口を消毒すること。」

ありがとうございます。とアオイちゃんは答え、上着を羽織る。


「あれ?アオイちゃん。  どこ行くの?」

「次の任務を待つのよ。」

「ええ! ちょいちょい!」


「ねえ。 2人とも。」

アオイちゃんの肩を持って、止めようとしているところにエリスさんに

止められる。



「もう、任務は来ないわよ。」

「「・・・? え??」」



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リセマラ1001回目 私、ようやく魔法使いになれました。 ちゅろす☺♡ @Churro69

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