第13話 一息ついて
私とエリスさんは2人残ったテーブルで向かい合うように座っていた。
「ごめんなさいね。 あなたたち仲良しさんかと思ってたわ。
気を遣わしちゃったわね。」
「いえ、気にしないでください。 まぁ、出会ったの最近なので。
私はもっと仲良くしたいんですけど・・・」
俯いていると、私の空になったカップにお代わりをいれてもらった。
「ありがとうございます。
あの、どうして魔女って単独行動が掟になっているかって知ってますか?」
エリスさんは自分のコップにもおかわりのコーヒーをカップに注ぎ、
くるくるとスプーンで渦を作っていく。
「うーん、正確な情報かはわからないけど、 何年か前に流行った魔女狩りが原因だと聞いてるわ。
一般の人たちからしたら恐怖の存在なのかしらね。」
「恐怖・・・ですか?」
「私たちのことを悪魔と契約した化物、大量殺人鬼、そういった偏った思想から畏怖の対象になるのよ。
一言でいうには難しいけど、迫害っていうのかしらね。
ワタシたちがまとまっていると、もっとひどい目に合うかもしれないからよ。」
私は実際に魔女狩りのターゲットになったわけではないけど、
昔の追われてた記憶を思い出す。
「普通に生きてる人には何の関係もないのに。」
「そうね。 でも、掟だからって魔女同士仲良くしちゃダメなんてことはないわ。
アオイちゃんと仲良くね。」
「あの、 エリスさんは、ずっとここにいるみたいに見えるのですが、
お仕事は?」
「・・・・・・・・」
「あ!すみません。 変なこと聞いて・・・」
「いや、いいのよ♡
ワタシはね、もう仕事してないのよ。 任務を受けてない。」
「そうなんですか? どうして?」
「もう、ワタシがいなくても人間って何とかしていけるものってわかったから。
意外と強いものよ。人間は。
だからワタシは住むところ変えて、自分の意思で人助けをちょこちょこっとするみたいな感じかな。
悪魔退治だけじゃないわよ。 お薬作ったり、けが人の治療したり。うふふ。」
思い出すように目を閉じて話す様子から、人生を楽しんでいるように見える。
「・・・私も、もう最近お仕事来ないし。。。 この前なんか・・」
「? どうしたの? 聞くわよ。」
「・・・被術胎の捕獲でした。 そいつ、子どもを殺して逃げたって。
なーんか、私が思っていたのと違うんですよね。 ”魔女”って傭兵みたい。」
椅子の背もたれにもたれて、ぐっと背筋をのばして上を向く。
「ふふ。 まあ、昔と今とではすっかり変わったからね。
以前から、そういう対人間の仕事もかなり斡旋されるようになったのよ。
ワタシたちも生きていくためには働くしかないからね。
どうしても、国や地域で宗教とか思想が違うから、魔女狩りが起きる地域や、
逆にワタシたちとうまく付き合う国もある。
居心地のいい方を選ぶのはしょうがないことだったのかもしれないわね。」
「そうなんですね。 まぁ、魔女ったって”仕事”か。」
ぐっとカップのコーヒーを飲みほしてふーっと一息つくと、
エリスさんは立ち上がって
机の横に置いてあったトランクケースから、筆と手のひらサイズの針がない
コンパスのようなものを机に置いた。
「さて。アオイちゃん呼んできて♡ 準備するわよ。」
彼女の名前を呼びながら、木々の間を歩いていると”ここよ”と
声がしたので見ると太い枝の上に座っていた。
「エリスさんが呼んでるよ。お仕事だって。」
「了解。」
さっきまでいたテーブルに3人で立ったまま集まり、中心に置かれたコンパスに視線を向ける。
「2人にお願いしたいのは、トロールさんの討伐。
なんでかっというと、基本この森にいて人に危害を加える子ではなかったんだけど、最近襲うようになったのよ。
放っといたら奥の村に甚大な被害が出るから、ここで止めるわ。
それでね、ワタシが調べたところ、彼らは操られたんだよね。
呪印が彫られていた。」
「呪印が彫られたものは、もう操り人形にしかなるしかないんですか?」
「そうね。 取り除く方法はないわね。
基本呪印はかけた本人しか解除できないもの。」
「それでどうするんですか?」
アオイちゃんの質問に、エリスさんはおいてあったコンパスを手に取った。
「トロールをおびき寄せて、ワタシたちで対処する。
ほかの純粋なトロールに見られないようにこれで幕を張るわ。」
コンパスに向けて呪文を唱えると、その中心に1本の針が浮かび上がり
くるくると回りだし、周囲が暗くなった。
「さてと、後はこれで。」
エリスさんは次に赤い液体が入った小瓶を取り出し、
筆にちょんとつけて、空中に文字を書いた。
「後は待ちましょう♡」
準備を終えて、私たちはトロールが現れるのを各々戦闘準備をしつつ待った。
~~~~~~ 1時間後 ~~~~~~
「来たわ。」
その一言に一気に緊張が走った。 いまだ姿が見えない敵に思わず身構える。
「私はこっち、あなたたちはあっちを頼むわ。」
「?? 別れるんですか?」
「そうよ。二体いるもの。 あなたたち頑張ってね。 やばくなったら逃げてもいいわ。」
アオイちゃんのと顔を見合わせて、エリスさんの指をさした方向に走って森の中を走った。
「私の使い魔を飛ばすわ。」
走っている私たちの後方から鷹がスピードを上げて行き、少しすると、見えなくなった。
「・・・いるわね。止まりなさい。」
走り出してから数分後だった、アオイちゃんの指示通りに立ち止まり、左斜め前の木々の間に視線を向ける。
パキパキっと木々が折れる音が聞こえる。
夜の闇の中、木々の間を縫って歩いてきたのは、予想をはるかに超え、自分たちの
身長をゆうに超える巨大な上半身裸のトロールだった。
(・・・!! デカ!! トロールってこんなのだったっけ?)
(私は見たことないわ。 本で読んだだけ。)
向こうもこちらの存在に気づき、数メートルの距離を取り見つめあう。
「行くわよ!」
隣にいる彼女が掛け声とともに銃を構え、トロールめがけて発砲する。
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