第12話 スケープゴート
右も左も生い茂る木々に囲まれ、森の景色が広がる。
その景色の中、地面を強くけり、足を次から次へと前へ出し続ける。
「ほっ! うわ! うおおおおお!」
目の前に大きい石を飛び越えた瞬間、私の身体が浮き上がり後ろの木に叩きつけられた。
「よく動くわね~。」
「・・・痛った~。 そりゃどうも。 斬撃の鎌鼬だけじゃないんだね。」
(動き続ければ鎌鼬は大丈夫だけど、広範囲の風圧も気を付けないとだな・・・)
「魔法使わないの?」
「使いたくないの。 それに、今は”もっちゃん”いないし。」
「”もっちゃん”? ああ、あの”猫”のことね。」
人型の使い魔は目をつぶってブツブツと何か言っていると、隣に”もち”が現れた。
「あれ? もっちゃん!?」
アオイちゃんが突然きえたことといい、この森にいる魔女は瞬間移動、
もしくは入れ替えの魔術持っていることが予想できる。
さっきの雰囲気が変わったことは、テリトリーに入ったからだろう。
どうぞと言うように手を差し出され、ついムッとしてしまう。
「・・・いくよ、モチ!」
私の声に合わせて、モチは大鎌に姿を変えた。
(・・・重い。)
「また、吹っ飛ばしてあげる♡」
「・・・おりゃあああああ!」
風圧に合わせて、大鎌を振り下ろし相殺させる。
ぶつかり合った風が周囲の木を揺らし、葉を飛ばしていく。
飛び上がって距離を詰めようと地面をけり上げる。
「あら、もう終わりみたいね♡」
「??? !! ぶべぇぇぇ」
目の前の風景が一瞬で切り替わり、バランスを崩してしまい
地面にべちゃっと倒れてしまった。
「?? あれ・・・?」
むくっと顔を起こすと、金髪のロングの妖艶な雰囲気を持った女性とその横に
なぜかアオイちゃんが一緒に立っていた。
「?? アオイちゃん? 」
「はじめまして~♡」
「!!! あなた、魔女?ですね。」
私より少し高い位置に、大きな樹の真ん中に人が一人入れるほどの
窪みに座ってこちらに手を振っている。
「よいしょっと。 随分友好的ですね。私あなたの使い魔にぶっとばされたんですけど。」
「ごめんなさい♡ だってその子最近暴れてないから~。 試すような真似してごめんなさい。」
「アオイちゃん! これ、どういうこと!?」
私は何も言わずに突っ立ている彼女に問うと、視線を隣に座っている女性に移した。
「あなたに会いたかったの、ユイちゃん♡ ワタシ”エリス”。
ワタシがあの指令書送ったの、ごめんなさいね~。」
「え? どういうことですか?? どうして私に?」
「ワタシね、あなたのお母さんとお友達だったの。 あなたの話も聞いてた
のよ。」
彼女は思い出すように目を閉じていると、思い出したようにぱんっと両手を合わせた。
「二人とも、疲れたでしょ。 お茶にしましょ。 紅茶? コーヒー?」
緊張しながらも、外に用意された木でできたテーブルに着くように案内された。
空を覆うように伸びている枝葉の隙間からは澄んだ空が垣間見え、眩しいほどの木漏れ日が降り注いでいる。
(わぁ、おしゃれな感じだ。)
「はい、どうぞ♡」
「「あ、ありがとうございます。」」
私たちは出されたコーヒーを一口飲んで、一息ついた。
「ごめんなさいね。 まだ警戒してるよね? でも、本当にもうなにもしないから。 ちょっと警戒してただけ。」
「いえ、それは。 あの、 どうして私たちに指令書を送ったんですか??」
「そうそう。 はい、これ。ユイちゃんに渡すわね。」
そう差し出されたのは、木彫りの人形だった。 裏には術が彫られていた。
「これは?」
「これはね、ユイちゃんのお母さんから預かってたの。
いつとは言われなかったけど、約束してたから。 彼女は覚えていなかったかもしれないけれど。」
「これって、スケープゴートドールですね。 あの、自身の命を他者に与えるっていう。」
「そう、アオイちゃんよく知ってるわね♡ めったにお目にかかれない代物よ。」
どうしよう、これと思っているとエリスさんが察してくれたように教えてくれた。
「使わないに越したことはないし、お守り程度にもってるくらいがちょうどいいわ。」
「はい、ありがとうございます。」
とりあえずもらった木彫り人形は、内ポケットに入れた。
(お母さんのものか・・・大切にしないと。)
「さて! 2人とも遊びましょ。 罰ゲームありの♡」
そう言ってエリスさんはカード、おもちゃの箱をゴロゴロと出してきた。
「あ! 魔女危機一髪だ!! いいですね!」
「負けた人は罰ゲームね。 ”キライナー”一気飲み♡
3人だと寂しいからワタシの使い魔も・・・」
「あの! もう用事がお済みでしたのなら、私は行きます。」
アオイちゃんが席を立ちあがって、エリスさんに向かって提案した。
「あらあら、ごめんなさい。 本当の用事は、夜にお願いしたいのよね。」
「アオイちゃんも一緒に遊ぼうよ。 せっかくだし・・・」
「いや、 遠慮しとく。 夜まで休むわ。 魔女が集まってること自体、
単独任務でなく掟に反しているもの。 元老院に目を付けられるとめんどくさいわ。」
「あ・・・・」
スタスタと背を向けて彼女は離れていった。
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