第8話

 春、爛漫。

 泡沫の夢、そうかもしれない。

 空はどこまでも透き通っていて、桜の薄いピンクが良く映える、澄み切った宙。でもその先にあるのは、そら。どこかには境界線があるのだと思っていたけれど、境界線なんて、曖昧で。

 だってほら、地上に居たら境界なんて見えない。

そらちゃん、こっち」

 夢にまで見た、この世界。そら先生と過ごすキャンパスライフ。でもそれも有限、宙先生、いいえ、宙くんは4年生。私は、1年生。

 1年間でも、たったそれだけでも、同じ大学に通う大学生だ。

「ね、宙くん」

「ふふふっ、まだ慣れないな…その呼び方」

「でも、嬉しそう」

 囚われていた籠から解放された気分。家を出て一人暮らしをすると、引越しの日。両親は私に何も声を掛けなかった、弟たちは、元気でねと、それだけ。

 振り返ることもなかった、清々した。新居で荷解きをしながら、宙くんと、今後のことをウキウキと話す時間が、延々と続けばいいと思った。

 私は目指したい、いつまでも空の下という生活圏に拘らず、先を目指したいと思えた。だから、宙を目指して飛び上がる。まあ、今は…地上で、君と一緒に空を見上げていたいかな。

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君想う穹。 巴 都 @tomoe_miyako

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