クールでロックな彼女と声で繋がる"甘々"なひととき

月野 灯花莉

本編およびボイス原稿の原作・台本か

とある街の駅前にあるオシャレなカフェ内、一角にレコードが並ぶ棚と背を向けて座り、暖かいコーヒーを飲む、1人の女性。


彼女の傍らには大きなギターケース。


そして、手元には書きかけのバンドスコアが有る。


「ふぅ…。曲づくりって難しぃー!お兄ちゃんなら、スラスラ〜っと書けちゃうんだろうなぁ〜、待ち合わせてるけど、まだかなぁー」


すると、カフェの扉が開く。


その直後、店員さんに会釈をして現れた男性は顔立ちは整ってはいるが何だか頼りなさげな優しげだった…。


ふと気づいたら、近づいてきた。


「あ!お兄ちゃん!!おっそーい。また迷ってたんじゃないの?曲づくり苦手だから、バンドスコアの作業の相談のってくれるって言ってたのにぃー、遅刻するとか有り得ない。」


膨れ顔する彼女に、彼は謝りながら何度も頭を下げる。


「まー、ゆっくり出来たし今回も許してあげる…。次はないからね!」


彼女が謝り続ける彼を見兼ねて場を収め、座っていた席に戻ると、彼も隣に座る。


「さて!いきなり本題だけど、お兄ちゃん、バンドスコアの作り方おしえて!!」


彼のほうを向いて彼女が手を合わせて涙目で見ながら懇願する。


すると彼は二つ返事で彼女の書きかけのバンドスコアを手に取る。


「あー!待って、待って…。まだ分からないまま書いてたから書きかた、合ってるのか分からないし恥ずかしい」


彼女が両手を顔に当てて隠し、頭を横に振る。


彼は頷き、書きかけのバンドスコアを彼女の前に戻すと開いていた箇所の項目を指さしながらアドバイスを始める。


「わぁー!やっぱり、お兄ちゃん天才っ!!頼んで良かったぁー!ありがとねぇー。」


すると彼女は飲み干したカップを返却口に返して一緒に手にしていた伝票を店員に渡し会計を先に済ませると席に戻ってきて、出来上がったバンドスコアをカバンにしまうと、そのカバンを持って傍らに置いていたギターケースを肩にかけ立ち上がる。


帰ろうとする彼女を慌てて無意識のうちに、呼び止める。


「ん?相談とアドバイス、おわったでしょ?まだ何か有るの?あー、なんだっけ、今度のワンマンライブの現地の招待チケットだっけ?」


彼女の言葉に彼は頷く。


「うん。いいよ、はい!これ、今度のワンマンライブの現地の招待チケットね。2枚あるから、お母さん達と来なよ」


少しムスッとした表情をして2枚の特別チケットを手渡す。


「これ前と同じで、1枚で2人まで参加できるシステムだから当日お兄ちゃん含めて4人まで大丈夫だから!他にも誘いたい人いたら誘って良いよ、よろしくぅ~」


彼女は背を向けると片方の手をヒラヒラとさせ、カフェを出た。


1人のこされた彼は出されていた水を飲み干し、店員に手を振り、彼女を追いかける。


「あれ?お兄ちゃん?どしたの?帰り道、逆でしょ〜、あーもしかしなくても私と帰りたくなっちゃった?かーわいぃー。あ、そんな態度とるんなら帰ってあげな〜い」


べぇ〜っと舌を出して怒る顔をして彼女は1人どこかへ消えて行ってしまう。


「お兄ちゃんのバカ…。追っかけてきて、何様のつもりなのよ、前のライブのこと、忘れたとは言わせないんだから…まったく」


彼女が誰もいない空き地に着いてスグ、そー呟いた。


彼女が所属するインディーズバンド《セルツェのムーズィカ》のライブで彼が何をしたのか…忘れてはいなかったのだ。


近年まれに見る、天才たちが集まって結成された人気絶頂中のビジュアル系の女性ロックバンド《セルツェのムーズィカ》


彼女は、そのバンドのリーダーであり、メインボーカル兼ギター担当の通称:Rain(レイン)と呼ばれていた。


その頃、彼女に逃げられてしまった彼は、ため息をつき、仕方ないか。と呟き、その場を後にした。


-日が登り、朝が来た-


場所は代わり、ライブの数日前になった。


とあるライブ会場に下見および当日の段取りの最終チェックをしにバンドメンバーを引き連れて彼女はやってきた。


「はい、はい…。あ、了解です。ここは、こんな感じで、はい、宜しくお願い致します。」


リーダーである、彼女がライブ会場の責任者のと綿密なポジション決めなど、やり取りをしている最中であった。


「ふぅ…。こんなんで良いでしょう!みんな、今日は下見に付き合ってくれて本当ありがと!各自でのポジション決まったと思うから当日は忘れないように。」


そーいうと、振り返ってメンバーに言うと彼女らは頷き、レインと共に会場のスタッフ一同に一礼し、会場を後にする。


しばらく街を歩くと後ろを付いて歩くメンバーに話しかける。


「みんな、ライブは明後日なんだからポジションと当日のパフォーマンスを忘れないように予習すること!いいね、解散!!」


するとメンバーは頷き、それぞれの帰路へと向かって歩き出す。


「ある意味、みんな疲れきってて正直すごく心配ではあるけど、まー明日は休みだから一日ゆっくりしてね!みんな、またねぇー」


と言うと彼女らは、それぞれの家に一番ちかい道のりへと手を振り合って別れた。


「みんな大丈夫かな…。リーダーの自分が心配しすぎても良くないもんね、よし!リフレッシュしよー」


そう言って彼女は自分の家ではなく、道から近い通りを曲がり、今朝どーしても謝りたくて彼の元へと向かった。


カランカランと、とある店のドアを開ける。


すると、そこには見慣れた彼が居た。


いらっしゃい!何にする?と口に出したのは女性の声だった。


彼はカウンターから見える位置に居たが、彼女の事は気づかず作業をしていたのだ。


数秒間、彼を眺めたあと女性に向かって注文した時に声で振り向いた。


「あれ?今日、手伝いだっけ?なに?もしかして私が来るの分かってたみたいじゃん??聞いてる?!」


と少しバカにした様な言い方をすると、彼も見せつけるかのようにドヤ顔をしてみる。


「きぃ〜!やっぱり知ってたみたいじゃん、なにそれ!?サイコパスじゃん。」


と腹を叩いて今度は笑うと、彼はため息をついて彼女が注文したメニューを女性に渡すと疲れきった様な顔をして奥へと行ってしまう。


すると女性が彼から手渡されたロシア伝統の料理を彼女に手渡す。


「あ!ありがとうございます、いつものやつだ~、美味しそう!いただきまーす!!」


勢い良く、手を合わせて目の前にある料理を手元にあったスプーンで静かにすくう。


「んんん!美味しい…やっぱりボルシチは最高ね!!あれ?でも、どーして自分が頼むって分かったのか不思議なんだけど。」


そう思いながらも、横にあるパンを手に取りスープに浸し食しながら考えたが検討もつかない…頭はぐちゃぐちゃだ。


「はぁ…、まだ引きずってるんだね、仕方ないか。明後日、ちゃんと来てくれるのかな、まーいっか…。」


と言いながら目の前のメニューを平らげ、「ご馳走様でした!」と言い厨房に居た女性が先回りしてレジ前に居たので笑顔で代金を支払い、店を出る。


そして彼女はビルの隣にある階段に座っている彼を見つけた。


「あれ?手伝いおわったの??」

と訊ねると彼は頷き再び、ため息をいていた。


「そう!なら、家に帰りましょ?店の上よね、たしか…上がりなさい!ほら、はやく!!」


そう言うと彼は静かに立ち上がり、彼女の手が背中を押した。


再びカランカラン!とドアが開き、ようやく彼の自宅へと足を運ぶ。


「ふぅ〜。やっぱり一番ここが落ち着くね…実家じゃないにしろ、住み込みで店を手伝うって聞いた時は驚いたけど、今は別の場所に住んで通いながら、親戚のロシア人のひとにメニューの作り方を教わりたいって凄いな〜って正直、思ったのよ」


すこし照れながら綺麗な髪をクルクルと巻きながら言うと彼が近づいてきて抱きしめる。


「わぁー、なに?ビックリした!?急にどしたの?え?あー、うん。心配してたって気づいちゃったかぁ〜、そかそか~、ありがと!顔に出ちゃったかぁー、あはは~」


と彼の頭を撫でると涙ぐんだ顔を胸に押し当てた。


「待って、待って!!胸に顔が、当ってるってば!!やめいっ!!」


涙ぐんで抱きついている彼を引き剥がそうと手を彼のひたいに置いたが力が入らず、引き剥がせず瞬時に諦める。


「しゃーないなー、きょうだけだからね…。ほら!奥いくよ、玄関でイチャイチャしてても、らちあかないでしょ?!ね、いこ??」


抱きついている彼に声かけると頷き、カラダから離れてくれた。


そして彼の部屋へと向かいドアを開け、2人はベッドへと向かって歩き出した。


「このベッドも座るの久しぶりだね!ほら、おいでぇー。可愛がってあげる。」


にちゃーっとした顔をすると彼が一瞬ビクビクしながら部屋の隅っこに行くが数秒して諦めたかのように静かに近き真横に座る。


「じゃー頭は膝の上に乗せて。そうそう、よく出来ました~、ヨシヨシ、今日はありがとね…、本当は今朝にキミと会った時に言おうとしてたんだけど思ったことが言えなくて申し訳なかったなーって。」


彼の頭を優しく撫でながら、目を瞑り、ゆっくりと思いを告げる。


その心地よい声に彼は次第に目を閉じてしまい、彼はいつの間にか寝てしまっていた。


「うふふ…、寝ちゃったか…。疲れ溜まってたみたいだね、ゆっくりおやすみ。マイダーリン…。いい夢みてね。」


と彼の耳元に顔を近づけて言ったあと、ロシア語でも"ティ ムニェー ヌラーヴィシシャ(あなたのことが大好きよ)"と告げると軽く頬にキスした。


そして彼女も、いつの間にか寝てしまったようで彼が起きるまでの間、ずっと彼女が傍に居てくれたようだ。


「おはよう、良い夜だね。随分と幸せそうな顔で寝てたじゃない…、そんなに膝が気持ちよかった??うん。そか、かわいいね。このまま寝てくれて良かったんだよ?」


と薄らとニヤリ顔をしつつ頭を再び撫でる。


「ぶっちゃけると、わたしね、君のことが好きなんだ…。だから、ライブ絶対みにきて!じゃないと許さないから!!」


そう急に告白してきた彼女の言葉を聞いて、飛び起きた。


「あれ?そんなに意外だったかな…?わたしさ、君に何度か告白しかけたことあったでしょ??え、覚えてない?!嘘でしょ…信じらんない!!」と近くにあった枕を投げつけ、泣き叫ぶ。


そして彼女は部屋を急に飛び出していく。


「ばか…。また記憶ないなんて、ありえない!最悪…でも、そんな君が好きなの。気づけよな…。」とため息をすると、心配で追いかけて駆けつけた時には彼女の顔には涙が出ていた事が分かる。


「なんで追いかけでき来たの?あんた、想われてたことすら認識してなかったじゃん?今更なんなの??笑いに来たの?ハッキリ答えて!!」


そう彼女が怒りと共に叫ぶと、彼は近づき、抱きしめる。


「え?ちょ、待ってよ、なに?え…、俺も好きだよ。って意味わかんない!!説明して!恥ずかしいから抱きつかないで…。」


そう言うと彼は苦笑いしながら軽く離れ、向き合うと、彼女の顔には笑顔と涙がキラリ光っていた。


-翌日-

結局そのまま彼女の家に泊まってしまい、気まずい雰囲気が漂う中で2人は顔を見合わせ、挨拶をし、いったん自宅に帰ることに。


「昨日は一緒に居られて嬉しかったよ、ありがとう…!!これからは、わたしもハッキリ答え言おうと思う。だから、明日のライブは絶対に見に来てよね!かっこいい姿みせたいから…。約束だよ?」とニコッと笑い指切りポーズをする。


尊い姿を見た彼は、やれやれ。と言ったあと、もちろんだよ。と言い、手を振り去る。


この先にあるのは彼女との"今後の未来"と"過ごした時間の思い出"。


それを証明する為に彼女はメジャーデビューを果たす…それが次のライブだ。


俺は、そんな、記念すべき日に立ち会おうとしていた。


-昼間-

場面が代わり、とあるロシア人の営むロシア料理店の店内。


そこには現役の女子高生であり、バンドメンバーが揃って前日から打ち合わせを行っていた。


ただ店には一般の客も居る為に来店している常連客にも抜かりなく宣伝を…。


「明日のメジャーデビュー記念ライブ、絶対きてくださいね!わたしたち《セルツェのムーズィカ》の記念すべき晴れ舞台ですよ、見逃したらダメですから!!覚悟なさい!」


彼女が常連客たちへ決めゼリフを言うと店内はガヤガヤからパチパチへと変わり、沢山の歓声と拍手が鳴り止まない。


そして店員さんが彼女たちが座る席のテーブルに『セルツェのムーズィカ、メジャーデビューおめでとう!!』と書かれたプレートが目の前に出された、そこには巨大な青い色をしたホールケーキが…。


「ありがとうございます!さ、たべましょ、明日に備えて糖分補給しておきましょう!」


そう言って彼女は手渡されたケーキ用ナイフで真ん中をキレイに切ったあと、それぞれの必要分のサイズに切り分けメンバーの前に置き、配る。


そうして店では常連客による彼女らを祝う歓声と歌声と、賑わいを数時間したあとに常連客たちは帰って行った。


「疲れましたね…。あ!そうだ、この余ったケーキは彼にあげましょうか。うん、そーしよう!んじゃ、そろそろ解散しましょ。また明日、ライブ会場で。」


そう言い、彼女たちのうち、リーダー以外が先に店を出て行った。


「さてと!店主さん、このケーキは持ち帰るので持ち帰り用の紙バッグ無いかしら。」


そう店主に言うと店主は頷き、店の備品であるケーキ用の紙製の持ち運びバッグを手渡して、彼女へニコッと笑った。


「ありがとうございます、これで彼にも今日の話が出来る、店主またね。おやすみなさい。」と笑顔で手を振り、ケーキを持って店を後にした。


「雨が降ってなくて良かった、ケーキが濡れないようにしながら、傘さすのは大変だもの。さ、急がないと…。彼が寝ちゃう。」と足取りは少し早めに歩いて、店から駅に向かう方向へと歩き出した。


-ボロアパートの前-

数分すこし歩いた場所に、今にも壊れかけているボロっちいアパートが目の前に。


「ついた…よし!」と小声で言って足を敷地に1歩だけ踏み入れる。


すると硬いコンクリの感触が足に伝わり緊張感も更に増す。


そして緊張するカラダを支える足を1歩づつ、確実に彼の家へと向かわせる。


途中で砂利道を通り抜けるも再び建物の地面であるコンクリの感触を感じた。


彼の自宅のアパート前に到着し、ひと呼吸、息を吸って吐くと、手を伸ばしてインターフォンを押す。


若い男性の声がして返事と共にガチャっと扉が開く…。


「あ!やぁー、こんばんは〜。来ちゃった!!ケーキ持って来たから入れて??」


そーいうとドアを閉めようとした彼の目の前にケーキが入った白い箱を掲げて、にちゃ〜とした顔をして足で閉まりかけているドアを足で阻止。


「アポ取りしてなくて、きみ、いま焦ったんでしょ?わかるよ〜、でもケーキ持ってるし何なら、そと暗いし、か弱い女子ひとり、追い返すなんて、酷いと思わなーい?!そー思うなら、なか入れなさいよねw」と詰め寄る。


すると、呆れた声で泣く泣くドアを開く音が響いた。


「ありがとう!最初から素直をドアあけて入れてくれたら良かったのにねぇー。」と再び、にちゃり顔して開かれたドアの先へと踏み込む。


-彼の部屋-

「ここに来るのも久しぶりだね…!いつ以来?あ、そか…まだ引越し作業の手伝いして以来かー、思い出したw」


と、てへぺろ顔をしてから手に持っていた白い箱からケーキを取り出して、手馴れた手つきで冷蔵庫へと入れる。


「あれから片付け終わってるよね、さすがに終わってなかったら意味わかんない!!って絶対いってたw、片付け出来てて、えらいね」と手を伸ばして彼の前に立って見下ろしながら笑顔で頭を撫でる。


「あ、いま照れたでしょw、かわいい。いつものツンケン顔よりマシだね…」とニコニコと笑うと、彼は顔を真っ赤にして手で隠していた。


「なんで顔かくすの?みせてぇー!え?恥ずかしい…?なに言ってんの?そんなん反応されるだけで、こっちも恥ずかしくなっちゃうじゃん、やめてよね、バカw」と照れると彼のほうは笑顔に変わった。


「さて!お互いに恥かいたところで、ケーキたべよ?うん、まだ数分しか経ってない?あ、そだね…うんうん。わかった!ライブ前の祝いパーティの話しよか!!」と手を叩いて思い出したかのように言う。


「どこからはなそー、えーっとね…。あの人か来てくれて、それから、それから!そー、めっちゃ祝いに来てくれたの!すごくうれしくて泣いちゃってw」と、いつものテンションと笑顔でではない、見た事もない、可愛らしい笑顔と声で彼を魅了し、楽しい時間が過ぎてゆく。


-数時間後-

「食べたねぇー、めちゃくちゃ量あった?そうかな…、ん?食べて来たんじゃないのかって?そーだね、夜だし来るまでに運動してるから、お腹は空いてたよ?食べれないわけないじゃん。」とニカッっと笑うと動揺した彼の顔を見て更に笑う。


「あっはは〜!そんな顔する?普通じゃないって?そーだね、わたし"アーティスト"だよー、当たり前に大食いだってばw」と再び肩を揺らして笑うと、また照れて顔を真っ赤にしてしまう彼。


「照れんなよ、こっちまで照れちゃうじゃん。そんな反応するって事は、わたしのこと、やっぱり好きなんじゃない?認めなよ、認めないなら…キス、しちゃうよ…。え?なに?なんて?」と彼の近くに寄って、両頬に手を這わせ、耳もとで囁く。


その直後、彼は反射的にカラダを彼女から避けるとベッドの壁に背中が直撃した。


「からだ痛そー!大丈夫…!?やっぱり動揺してんじゃんw」とケラケラと笑うと、彼は再び顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「からかって、ごめんね?わたしの気持ち伝わったでしょ。ね、明日のライブは遅刻しないで絶対きてよね!遅れたら承知しないから!!」とフンっ!と今度は拗ねた感じで顔をプイっと向けて、手は腕組みをして言った。


そうして2人の絆と恋心が交差する最高のシチュエーションを目の当たりにするのは数時間後である…。


しばらくして恥ずかしさMAXのなか、彼が背中を擦りながら、泣き腫らした顔で膝枕をしてほしい。と言ってきた。


「相当いたかったのね、背中。撫でてあげようか?あ、頭がいい?わかった!ほら、こっちおいで。」と優しくも儚げな顔で彼に両手を広げて言った。


「そうそう…。やけに素直じゃんw」とクスっと笑うと、大人しく膝枕されている彼の顔が"恥ずかしさ"よりも"安らかな"雰囲気を出している事に気づいた。


「そっかー、疲れてたんだね…。ゆっくり安らかに、おやすみ。マイ・ダーリン。」と眠る彼の顔の頬に軽くキスをする。


内心は心臓がバクバクしているであろう。


彼の心は夢の中に思考がある…。


だから、感じている"安らぎ"が肌の感触によるものなのか何なのかは神のみぞ知る…。


-数分後-

「あ、起きた?よく寝てたね…。寝顔すごい可愛かったよー、照れるなよ〜、可愛すぎて抱きしめたくなるだろ?ん?キャラ代わりすぎって言われても、素こんなだよ?知らなかったの?そーだよね…見せたこと、あんまりないもん。普段こんなに長い時間いっしょに居ないもんね…。」とクスっと笑う。


すると気がついたのか、勢いよくカラダを起こして正座で真隣に座る…。


「あ!気づいた?やっぱり動揺してる〜。無意識だったんだね、かわいいw」っと、からかいながらも彼女も耳は真っ赤である。


「え?恥ずかしくないのかって?そりゃー、恥ずかしいに決まってんでしょ、バカたれw」と再び、笑いながら話しかけると彼の顔からは大粒の涙が…。


「え?あ、なに?!どーしたの…?!いじりすぎちゃったか、ごめん。無意識に地雷ふんだかな…、許して?」っと今度は泣きそーな顔で言うと彼はクスっと笑った。


「良かった!笑ってくれた…。てっきり地雷ふんで泣かせたのかと思っちゃったw」と顔の前に両手を拝み、舌を出して軽く謝るポーズをしながら言うと彼は爆笑した。


「なんで爆笑してんの!?意味わかんないんですけど?!まーいっかw」と、つられて自分も爆笑する。


こうして2人の笑顔が眩しい一時は過ぎ去り、ようやく真剣なシーンが来る…。


彼と彼女の集大成とも言える、大事なライブが始まる時間まで、のこり数時間…。


「楽しい時間は終わり!明日は大事な日だから、帰らないと…。え?遅いし泊まってけって?いいの!?大丈夫なの?あ、来るの分かってたから許可は既に取ってるって!?さすがなのか、バカなのか、本当にやる時はやるね、きみw」


と腹に手を当てて大爆笑していると、彼はドヤ顔をしていたが、目は引きつっていた。


「顔おかしいぃー、強がんないで良いよ?もう互いに素をさらけ出しちゃったんだし、緊張は解れたでしょ?ね、じゃー、今後は猫かぶんないようにしようか。その方が良いでしょ?」と近づいて耳もとで言うと、再び顔を赤らめてしまった。


かくして彼の家に泊めてもらう事になり、彼女は平然として居られるのだろうか…。


互いの気持ちを確かめ合いつつも、笑い合い、涙あり、そして、からかい合いながらも、時間が過ぎ、寝る時間になった。


お互いに寝巻きに着替えるため、彼女は洗面所へ。


-数分後-

洗面所から帰ってきた彼女が「そーいえば、お風呂たまってたけど、それも先に入れてたの?あ、そーなんだ。それは違うんだ…だよね、期待したのが悪かった。」と拗ねると彼はアタフタし始めるもハッキリと違う。と答えたのだ。


だから、それぞれで風呂に入る事になった為に数分づつ上がるまでの間に考えようと思っていたが何も思い付かず、結局はカラダがホカホカになっただけで終わってしまった。


風呂から上がり、可愛らしい寝巻き姿で尚且つ、普段は見ることが出来ない髪を下ろしている姿にドキッとしてしまった。


「湯船つかったら、眠たくなってきたね…。ふわぁ…。うん…、もう寝る、おやすみぃー、良い夢を」と欠伸をして何故か彼のベッドへと無意識に入ると彼は慌てている様子を見せる。


「ん?なに?一緒に寝よ?その方が暖かいし心地いいでしょ?」と眠気まなこな彼女は恥ずかしげもなく、とぼけながら言う。


「あ、もしかして恥ずかしいんでしょ?大丈夫、もう恥ずかしさなんて要らないでしょ!ほら、こっちおいで。気持ちいいよ?」


と上目遣いで布団を開けて誘導するが、動揺した彼はベッドの前の床に正座で頭を抱え右往左往していた。


「大丈夫だってば〜、ほーら、寝巻きなんだから、恥ずかしくないでしょ?え?逆に恥ずかしいって?気にしすぎじゃないのw」とクスっと笑われてしまった。


ただ彼にとっては彼女の寝巻き姿は貴重であり、なんなら初めてみたと言っていいほどなのだ。


「あれ?この格好みせたこと無かったっけ?あ、ないか!?ごめん…なんか急に恥ずかしさ上がってきた、見ないで!?」と赤面しつつ布団を被り顔だけ出す。


「軽率だったの、わたし自身だった…。反省してます。だから、一緒に寝てほしい。」と、もにょる感じで言うも、彼には伝わったようで静かに近寄ってきて彼女のカラダをギュッと抱きしめると2人は安心しきった顔をして眠りにつく。


-翌日-

ライブ当日の朝、彼女と彼は互いにベッドの中で目が覚める。


ただ2人が昨夜は、いかに何もなかったか分かるほど疲れていたのか、衣服は乱れる事なく安らかに寝れたようだ…。


"人肌が恋しい"とはこの事を言うのだろうか、あるいは、そーではないのか。


2人には分からないまま"癒し"という空間に満ち溢れていた事は事実だ。


「ふわぁ…あ、おはよ~、よく寝れたね…。うん。いい夢みれた?え?あ、怖い夢みてた…そか、うん。でも最後うなされずにすんだのなら良かったよ、"わたしのおかげ"だね!一緒に寝て良かったでしょ?ね、朝ごはん作ろっか?」


とベッドの中で寝巻き姿の寝起き顔をした女の子に言われるとドキッとする。


「うん!じゃー、朝ごはん作るから先に起きるよー、きみは眠たかったら、まだ寝てていいよ?温いでしょ、ベッドのかなw」


とニカッと笑うと彼女は照れを隠しながらベッドを抜けると洗面所へと向かった。


その間に彼は眠気が凄いため、デカイ欠伸をしたあと、二度寝を始めた…。


静まり返った部屋で1人ベッドのなかで優しい温もりを堪能しつつ耳をすませると、洗面所から着替える音が聞こえ、数分後には彼女がドアを閉める音が聞こえた。


「ふぅ…、さてと!ご飯つくるぞー、まだ寝てるアイツに美味いもん食べさせてやるんだから覚悟しなさいよね!!」と1人意気込んでいたところで彼は目を覚ます。


「ふぁっ!?あ、おきた?おはよー、うん。うるさかったかな…。だとしたら、ごめんね?あ、匂いで起きたのか、良かった。うん、朝ごはん作る言っといたでしょ?え、エプロン姿はじめてみた?かわいいって?あ、ありがとう…じゃ、包丁いまから使うし危ないから部屋もどってていいよー」


と包丁を片手に満面の笑みを浮かべている彼女を見てゾッとして部屋へと戻る。


しばらくして待っていると部屋まで料理する音が聞こえる。


心地の良い音色と共に彼女の微かな独り言が聞こえてくるが、気にせずに待って居よう。


と思いつつ過ごしていると料理が終わったのか、お盆にはThe朝飯と思える優しさの塊のようなメニューを乗せて運んできた。


「ただいま!みて、美味しそうでしょ?こう見えて料理できるんだよー、意外だと思ったでしょw」と2回目のニカッと笑い。


今日はテンションやたら元気だな…あ!そか、今日ってライブなんだっけ?楽しみなんだな。と思いながら目の前に出された美味しそうな飯を見て考えごとしていた。


「あれ?もしかして食べれないものでもあった?!聞けばよかったね、え?あ、テンション高いね。って、そりゃー、ライブ当日ですからテンション上げてかなきゃ!気合い十分だよ!だから朝ごはんチャージして元気モリモリ!」


そー言って彼女は全て机に置き終わった食事を見ながら握りこぶしを掲げてニカッっと再び笑ってみせる。


本当は緊張してるんだと思うが、彼女なりの強がりなんだと感じた瞬間だった。


「さっ!準備できたし食べよ?いただきま〜す。」と箸を持って両手を合わせて、元気よく言う彼女の顔は自信に満ち溢れていて、これから夕方から始まるライブの為に、朝から元気の活力を上げる時間。


こんなにも活き活きしている彼女を今まで見た事がない。


彼女とは小さな頃から一緒で才能に溢れた素晴らしい女性だ。


特に作詞センスと曲作り、そして歌い紡ぎ、表現するパフォーマンス能力…。


なにを取っても自分とは比べれないぐらいの鬼才なのだと思う。


ただ彼女からすると自分のが才能あると感じているようで、理由は多分あの事件だ。


回想を話している余裕はない…。

なので申し訳ないが、割愛させてもらう。


とりあえず今日は夕方から彼女がメジャーデビューを記念して開く"晴れ舞台"に足を運ぶために準備をしなくてはならない。


幸いにも土曜日であるがゆえに、夜は打ち上げを目論んでいるであろうメンバーからのテンションの高い連絡は彼女のスマホの連絡手段アプリの通知からも分かるほど。


とにかく自分は彼女が出ていった後に準備するとして、今この時に目の前で幸せそうに作った飯を食らう顔を見て、安心しきったかのような安らかな気持ちになったのを彼女に気づかれてはならない。


だが何も言わず彼女は軽くニコっと笑うと再び食すのに夢中になる。


そーか…食べることが昔から好きな、お前が、こんなにも可愛かったなんて気づけなかったんだろう。


ずっと一緒にいたのにバカだな…、俺はwと苦笑しながら内心そんなはずないと思いながら、自分も同じように朝ごはんを食らう。


メニューは和食だ。

とても優しい気遣いのある、それでいて、軽く腹に溜まる、素敵なラインナップ。


これを寝起きすぐに作れるのは1つの才能だと思うが、彼女も無意識なんだろうと思う。


「あー美味しかった!どうだった?ね、朝ごはん、久しぶりに和食つくったんだけど美味しく出来てたかな?」


と上目遣いで聞かれ、すこしドキッとしてしまったが、美味かった。と答えると嬉しそうにニコニコしながら「ありがとう!」と言って、片付けしにキッチンへ向かって行ってしまった。


多分、照れ隠しでもしたのだろう…。


彼女なりの愛情と緊張ほぐしのつもりで朝ごはん作ってくれたのだと立ち姿から見て取れる。


後ろ姿を見ながら、ふと思い立って無意識に彼女の後ろに立ってしまった…。


そして抱きしめてしまい、驚かせてしまう。


「ふぇっ!あ、危ないよ?あ、うん。急に抱きしめたくなったって?恥ずかしいよ…、家事おわってからにして?」と赤面しながら言うが無意識ゆえ気持ちが高ぶっている為、声は届かない…。


「あっ、ちょっ…ま、まって?まだ終わってないよ、片付け。え、後でやれいいって?わ、わかった、で、なに?変なとこ触らないで…。」


とギュッと後ろから抱きしめた際に彼女の小さくもなく大きくもない、やわらかな膨らみを無意識に触っていて更に耳も甘噛みしていたようだ。


「まってって言ってるでしょ?朝から盛んないで!わかったから、ベッドいこ?」と耳を真っ赤にしている彼女を見て、ようやく我に戻るが高ぶりは収まらず頷く。


「ふぅ…、ベッドまで来たけど何故、きみは土下座したのかな?怒ってないよ。急にあんな事して来た理由きいてるんだけど?」と今度はベッドに座り足組みと腕組みをして土下座している自分に問う。


「片付けしてる後ろ姿みて興奮しちゃったんだ…へぇー、ふぅーん、変態じゃん。あ、ごめん…違った?違わないよね、だって無意識にアソコさわってたもんねw」


と悪役令嬢のような顔つきで意地悪に言うも、目の前に有る足の指を見て思わず舐め始めてしまい、動揺しだす彼女。


「ひゃっ!やめて…!!正気じゃないでしょ、いま何しようとしたか、分かってる?足の指なめたよね?!、どーしたの?そんなにしたいの?わたしと…だめ!ライブ前にしたらダメなんだから我慢して!終わったら良いけど…」と照れながらも、どこか期待したような言い方をする彼女。


「分かれば良し!さ、片付け続き出来そうにないから夜まで放置だよ。お預けだね」と今度はニコッと笑う。


本当は期待していたのかもしれない…けれど大事なライブ当日に致してしまう訳にはいかない!理性を保て俺!!


そー思いながら、彼女が帰り支度をしている時に両頬を両手で、ばしーん!と叩く。


気合いを入れ正気に戻した自分を見てホッとする彼女の顔は普段よりも穏やかな気がした。


「さてと、準備も終わったし、わたし一旦かえってライブまでのケアしなきゃだから、帰るけど、くれぐれも開場じかん間違えないように来てよね?遅れんじゃないよ。」と、べ〜っと舌を出して、あっかんべーをした彼女は部屋を後にした。


「あー、もう!なんで期待しちゃったの…。ライブ当日はしない約束でしょ。ようやくデビューできなんだから失敗したくない…わかれよ、バカタレ。」と嘆きながらも真っ赤な顔をしつつ頭を抱えて悶える。


-数時間後-

ライブ当日の開場時間の数分まえ…。


いったん帰宅した彼女は正気を取り戻し、最終てきな確認と当日の最終リハーサルの最中である。


「ここが今こうで、こうだから、そう。うん、あー、立ち位置は、この辺りに変更して、そうそう!うん。みんな復習できてるみたいで安心したよ。なんとかライブいけそ?うん。じゃー、リハーサル終わるよ!」とスタッフたちに声をかける。


すると周りにいたスタッフたちが無意識に動き数名、外へと出ていく。


「ふぅ…、ようやく始まるね!わたしたち《セルツェのムーズィカ》記念すべき晴れ舞台!メジャーデビューライブが…。」


と言うとメンバーが彼女の周りに集まり、円陣をして「いくぞ!《セルツェのムーズィカ》おぉー!!」とリーダーである彼女が声を上げる。


その声は、外にいるファンたちや自分を含めたライブを楽しみに待っている人らにもハッキリと聞こえていた。


かなり気合い入ってるな…、失敗しなきゃ良いけど…。成功しますように。と願う。


-数分後-

しばらくして物販を終えて準備が万端な自分と、その他ファンの人たちを会場の中へと誘う時間。


待機していたファンたちを誘導スタッフが声を掛けるとファンたちは手馴れた様子で一斉に入場するために会場の入場列待機場所へと並び始める。


そういう自分は出演者からチケットを頂いたから"関係者入口"と書いてある窓口へ向かう。


中に入るとスタッフが受付にいた。


言われるまま、"関係者席チケット"を見せると駅で見る穴を開ける機械をつかい、チケットにチェックをしてくれた。


そして入場した証である"関係者用のバンド"と"ドリンク交換コイン"をチケットと合わせて手渡された。


会釈をしてバンドを手に付けてステージがある会場スペースへと入場する。


まだ人が少ない会場を見回して同じく関係者席に座るバイト先の女将を見つけるも、声は掛けず、静かに近くの席に座る。


そして数分後には会場の中には沢山の人が溢れかえり、小さい箱にしては"座席が有る"というメジャーデビューライブにしても規模は小さめだ。


その分、近くでステージが見渡せる凄くファンも出演者も記憶に残るライブになると思う。


そして開催しているライブ会場がメジャーデビューするまえから彼女らが世話になっている箱だというのもあるだろう…。


それもあり、彼女らが登場した時の反応が楽しみだ。


しばらくしてドリンクを交換し忘れた事に気づき、座席を立って提供バーに向かう。


ラインナップは今回のメジャーデビューに合わせて彼女らをイメージしたコラボドリンクと通常のドリンクが用意されていた。


手に握りしめていたドリンク交換コインを使ってリーダーである彼女をイメージしたソフトドリンクを注文すると担当スタッフは手際よく作り提供してくれた。


そのドリンクを持って座席に座ると会場が一瞬にして暗くなる…。


すると「あっ、あっ!マイクテスト、マイクテスト…。えー、みなさん!本日は《セルツェのムーズィカ》のメジャーデビューライブに、お越し頂き、誠にありがとうございます。つきましては注意事項をお知らせいたします。公演中の私語、携帯電話などの電子機器類などでの撮影および動画はお控えください!なお、出演者が許可を出したものに限りOKとします。それでは引き続き開場まで暫く、お待ち下さいませ。アナウンスは、わたし《セルツェのムーズィカ》のリーダー、ギター兼ボーカルのRain(レイン)が務めました!是非たのしんでくださいね!」


と出演者による注意事項とアナウンスを受けたファンの人たちが無意識にガヤガヤしだすが、やはり今までにない演出だったようだ。


自分も何度かライブには見に来た事があるか、こんな演出は見た事なかった。


なぜなら、今回が初めての演出なのだろう。

彼女らは、あくまでアーティストであり、バンドであり、ビジュアル系なのだ。


普通はスタッフがするアナウンスをメジャーデビューライブという記念すべき晴れ舞台で貴重な思い出を作ろうとメンバーと話し合い、企画したのだろう。


しばらくしてステージに煙が炊かれ、足音が微かに聞こえ、用意されたマイクスタンドのマイクを調整する音ともに、数名の人影が現れたあと、一気に会場の照明が明るくなる。


するとドラムが鳴り響き、ギターが鳴り、更にはベース、キーボードも鳴ると、リーダーがマイクに向かって口が動くのが見える。


「みんな〜!お待たせ!待ったよね!んじゃ、早速いってみよう。『白夜-びゃくや-』」


と優しくも儚げな印象の声で告げると、軽快なドラムのカウントダウンから始まり、ベースの音と、ギターの音が響き合い、ゆっくりと優しい音色と歌声がした。


それは物凄く優しくも儚げで、どこか、安寧の地へと誘われるような、不思議な感覚になる…そんな歌。


頭が真っ白になりながら、ボーッと立ち尽くしたまま、なぜだか曲を歌いながらギターを弾く彼女たちに魅入ったていると、今度は静かに音が弱まり、次の曲の紹介が始まった。


「ありがとうございます!次の歌は『桃源郷-とうげんきょう-』です。お聴き下さい。」


そー言うとリーダーがギターを支え持っていた片手をマイクスタンドに這わせ、彼女が静かに言った。


すると今度は、より繊細で尚且つ、ビジュアル系のバンドとは思えぬ程に美しく、綺麗な音色がベース、ギター、そしてドラム、キーボードの4つの究極の音を調和していくかのような、バランスの取れた曲調が会場に響き渡る。


歌い始めた彼女の姿は、とても美しいくも、何故か、誰かを思う、憂いを帯びた優しい顔をしていた。


誰を思って歌っているのか…。

歌い紡いでいる言の葉、リリックが細部まで頭に残る。


こんなにも美しくて綺麗な音色は中々でないし普通に生きていても人間が出せるような歌い方ではない…。


彼女と、それを支えるメンバーや周りの人たち、生きてきた環境が歌として紡がれる、それがビジュアル系であるのに、特定のファンたちを魅了した彼女たちの真骨頂。


昔から綺麗で儚げで、それでいて繊細な彼女にピッタリの歌い方だ…。


自分は初めて、そう感じた。


そして再びパフォーマンスに魅入っていると次の歌のアナウンスがあった。


「2曲目、聴いて頂きました!ありがとうございます。続いて披露します、楽曲は小さい頃より一緒に居てくれた、とある"大事な人"へ送る、新曲になります。では、聴いて下さい。『キミのために何が出来るか?』」


そー言った彼女の目には涙が光っていた気がした。


歌い出し、最初のイントロは少し今までのとは違っているようでいて、リスペクトされた、静かで、なおも繊細で綺麗な音色の中に、どこか無邪気に遊ぶ、幼い時に良く感じていたものを感じた。


そう…。この曲は多分、自分と彼女が幼い時に出会い、意気投合し、今までの関係を築くまでの物語を、気持ちを、想いを、歌に込めた感じなのだろう。


『何度も繰り返し、呼んだ、あの名前と、追いかけていた日々が、ボクたちの生きる糧となり、血肉となり、紡がれて来た物語。』という歌詞が頭に流れ込んできた時に昔の記憶が蘇ってきた。


あのころの僕らは何も変わってなかったよ、きっと今も中にあると思うから。


そー思ったとき、歌が自分たち2人の気持ちを歌っていた事が分かると景色は違ってみえた。


彼女との、これからを、"紡いで行きたい"


そう願い始めた日から何も変わってなかったなんだ…、俺も。


だから、ライブが終わったら伝えるんだ。


絶対に言わないと後悔する…そー思った。


色々と気持ちを巡らせていると曲が終わり、次の曲を紹介するアナウンスかと思いきや、3曲うたったからか息が荒くて、今に休憩しなければ倒れてしまいそうなメンバーたちが居た。


ここでMCタイムか。うん、メンバー紹介だろうな。そー思って身構えた。


「はーい!3曲つづけて聴いて頂きました。いやー、もう、連続で楽器ひきながら歌うって曲調どんなのでもキツいね。」


とステージの真ん中に笑いながら話すのは紫色を基調とした美しくも際立つ派手さの少ないゴシック系ファッションに身を包んだギターを下げたリーダー。


そのあと、水を1口ふくんで飲み込んだ。


それを聞いたメンバーも頷いて水を飲む。


他のメンバーも同じく、派手さはないものの、ゴシック系ファッションに身を包み、それぞれのイメージカラーに合わせた色合いで仕上げられた素敵な衣装を着ていた。


「あ!MCタイム入りましたので、自己紹介といきましょう!まずは、ドラム!!」と手を叩きながら左側の後ろにあるドラムセットの真ん中に座る女性にスポットを当てて話しかけた。


ドラマーの子が会釈とドラムスティックを軽く叩き、どーも!《セルツェのムーズィカ》ドラム担当です。よろしくお願いします。と言うとリーダーが次は右後ろに居るキーボードの子に振る。


すると、はい!どうも、こんにちはー、《セルツェのムーズィカ》キーボード担当です。よろしゅう!!と関西弁で挨拶した。


続いて、右横に居る、ベースの子に振ると、どうも!こんにちはー、《セルツェのムーズィカ》ベース担当やってます。以後お見知りおきを。と丁寧な口調で挨拶した。


そして最後に、「みなさん!こんにちはー、改めまして《セルツェのムーズィカ》のリーダー兼ボーカルとギター担当のRain(レイン)です!よろしく。」と元気に挨拶。


「えー、わたしたち、この度はメジャーデビューさせて頂く事になりました!ありがとうございます。これも応援していただいた、皆様のお陰です、またこのような機会を与えてくださった、所属レーベルとレコード会社の方々、本当に感謝してます。」


と話したあと、後ろで泣きそうになっているメンバーたちと、ふざけあいながらも楽しそうに話す姿を見て、思わず泣きそうになる。


「えー、引き続き、この後もライブまだまだ続きますが、ここで先程うたった歌のモデルになった関係者が今日のライブに来てくれてます。紹介したい所ですが身内なので、やめておきますw」と再びガハハっと笑う。


そんなこんなで数時間、色んな曲調の歌を披露し、ライブは最後の歌になった。


「えー、この歌で最後になります!もしアンコールしてくれたら、数曲また歌うと思いますが一旦おわりまーす!では、お聴き下さい。『森の中のムーズィカ』」


そー、息を深く吸い込み、イントロなしで、いきなり迫力のある、いかにもビジュアル系バンドの真骨頂とも言える少しハードめなロック曲が軽快に流れる。


名前からは想像できないぐらい、ギャップのある、どこか都会に居るのに異世界の森に居るかのような繊細で、尚且つ荒々しい夜の森に迷い込んでしまったかのような雰囲気がある曲調が、感情移入しやすく、歌詞と音色が響き渡ると会場を湧かせる。


しばらく放心状態のまま曲と演奏している彼女とメンバーを見ていると歌が終わる。


「はい!聴いて頂きました。こちらのロックな曲調の歌は、わたしたちが最初に作った本当に始まりの歌です!ようやく皆様の前で改めて歌わせて頂きましたが、やはり初心に帰れる、そんな素敵な歌だと思います!」


と曲の感想を言うと会場は盛り上がった状態でもなお、名残惜しそうに出演メンバーに声を上げるファンたちだが、リーダーが制して、再び話し始める。


「最後に、お知らせが有ります!皆様もう知ってると思いますが、メジャーデビューします!なのでメジャーデビュー後はじめて出すCDアルバムにも最後の歌を含めた今まで歌って来た曲が全て入った素敵なCDが発売されますので是非、買ってくださーい!」と叫ぶと再び会場が沸く。


「さて、告知も終わりましたので一旦おわるよー!じゃーね!ありがとう!!」とメンバーが順番に舞台袖に、はけていくと周りが一瞬くらくなり、再び明るくなっていく。


出演者が居ないステージに向かって、すかさず、ファンのアンコールを求める声が途切れることなく響く。


-数分後-

周りが再び暗くなるとメンバーの影が見えた時には、物販で売られていた記念Tシャツをメンバーそれぞれでアレンジした素敵な服を着て現れた。


そして静かに煙が流れ、曲が始まった。


アンコール曲は、歴代の歌でも人気のある歌だった。


「聴いてください!『景色-けしき-』」と真っ暗な煙が流れる中での曲の紹介が始まると、再びファンたちのコールが鳴り響く。


歌い紡がれるように。安らかな安寧の地へ誘われる曲調は変わらない。


ただ思い出す苦労した日々を綴った、色褪せる事のない結成当時に作った素敵な歌だ。


彼女らのイメージそのものと、なりたかった姿を歌う、悲しくも、切ない、そんな歌詞。


歌が終わると「はい、アンコールありがとうございます!」と声がして再び会場が明るくなり、アンコールのMCが始まった。


「いま歌わせて頂きました、楽曲は、わたしたちが結成した当時に苦労したエピソードを元に作詞と作曲をメンバーで右往左往しながら作った、思い出の歌です。これからも歌い続けたいです」と話すリーダーの目には涙が光る。


「あー、もう最後の歌になっちゃた。アンコールは残り1曲でーす!はやい?ライブおわっちゃうね…、でも楽しかった!ありがとうございます。では、聴いて下さい。『私たちの、セルツェ』


と涙ごえでリーダーが曲を紹介すると、メンバーもワンテンポ遅れてパフォーマンスをする。


本当にメジャーデビューライブ、最後の歌にふさわしい、静かで尚且つ、安寧の地へと優しく誘ってくれる、曲調が心地よい、心臓を鷲掴みにされながらマッサージされるイメージの、そんな曲。


ラストに持ってきたのは良い終わり方だね、最高のパフォーマンスだ。


そー思いながら観ていると、彼女らは全てを出し切ったような清々しい程に素敵な笑顔と汗が流れる、ひたい、手足、からだの隅々が、楽しい時間を過ごした事が分かる。


楽しい時間は早くすぎる。とはこの事だ。


アンコール曲を含め、すべて曲を歌い終えると再びMCタイム。


「えー!はい、アンコールも最後まで聴いてくださり、本当にありがとうございます。メジャーデビューライブ、楽しんで下さっていたら本当に幸いです。では!閉幕の挨拶させて頂きます。」


とマイクスタンドにマイクを置き、ギターも専用スタンドに置くとメンバーを引連れて楽器の並ぶ前に並んで手を繋ぎ『今日はライブありがとうございました!《セルツェのムーズィカ》でした、またねぇー!!』と照らし合わせたかのように息を合わせて言うと、お辞儀を一斉にして、そのまま仲良く舞台袖へ順番に、はけた。


とりあえず晴れ舞台は、しかと目に焼き付けた。今日は充実した日々だった。


こんなにも清々しい気持ちになれるなんて、成長したな!


そー、思っているとスタッフの声で退出を促すアナウンスが聴こえてきた。


関係者である自分はアナウンスを聞いてから慌てて彼女らの控え室へ向かおうとしたがら多分いまの時間だと着替え中だと思うから明日ゆっくり会うことにしよう。


と決意し、会場を後にした。


-翌日-

あるボロアパートの前に、ケーキの箱を持って現れた彼女と、かち合わせてしまった。


「あれ?昨日は打ち上げ来なかったじゃん?なんで…?待ってたのに。」とムスッした顔で言う彼女は昨日とは違う清楚な服装を着ていた。


「ケーキ、また食べよ!いっしょに!!うん。メジャーデビューライブ、見に来てくれて本当に、ありがとう。きみが見てくれていたってのが活力になって楽しい時間が過ごせたよ、最高の日になった。」とニカッと笑う彼女を見て、いつもの時間が流れていく。


最高で最強な、強気な彼女は"俺の想い人"。


大好きな彼女の夢を近くで応援することが出来て何よりも嬉しかった。


これからも、たくさん歌い紡いでくれよ。


"キミの一番のファンは、俺なんだから"


そー思い、ケーキを持ったままの彼女を抱き寄せる。


お互いに笑い合いながら、ラストシーンのエピソードは終わる…。


「これからも、わたしの所属するグループを、たくさん!応援してね!大好きだよー。」と照れ笑いしながらも風に、なびいた髪を引き止めようと必死になる彼女の姿は綺麗だ。


紡い紡がれし、"クールでロックな彼女"との物語を…。


〜Happy End〜

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クールでロックな彼女と声で繋がる"甘々"なひととき 月野 灯花莉 @syousetu_love315

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