トラック6 結局男は母性を求めがち
そこから1週間なんだかんだ上手く耳かきをしてもらう関係はつづいた。桜子の耳かきはめちゃくちゃ気持ちよかったし、桜子も満足気でとても良い。とても良いのだが。
「ちょっと耳かきずっとは違くないかな、もう多分俺の耳、ピカピカだと思う」
「え、まさかその立場で文句言うんですか?
図々しいことこの上ないですね、先輩は」
桜子は読んでいた文庫本を閉じてこちらを睨む
桜子は耳かき以外の時は普段通りだった。
いきなり態度急変されても困るし、やりにくいから良いし、ギャップが可愛いから良いんだけど。
「全部聞こえてますよ」
「おっと、失敬」
まさかモノローグ全部声に出てたとは。こりゃ良くないな、ははは、ははは、はは
「可愛いとか、いきなり言うの......禁止です、から」
顔が真っ赤になっていたから怒ってるのかと思ったら照れていたらしい。いや可愛いかよ。
「と、とにかく! 先輩は耳かきじゃないなら何が良いんですか! 言ってくれればやるので!」
絶対勢いで押そうとしてるな今。まあでも、要望は聞いてくれるようだ。
「あ、赤ちゃん言葉で寝かしつけて欲しいなぁ、み、みたいな?」
「あ、あーーー......はぁー............変態」
睨む目付きがいっそう鋭くなる。ついでに言うと怖くはない。まあ元が可愛いからね、可愛いが勝つよね。
「ま......あ、やります、はい、やります、正直そういうこといつかは言われると思って練習してはいたので!」
「え、誰と練習してたの」
ど、どうしよ、これが男とかだったらえ、これって噂のNTR? いや恋人じゃないからBSSか?
まじかよ、そんなぁ
「妹ですけど......」
顔がパァァァっと明るくなる。え、妹さんってことは女の子同士ってこと? すご百合じゃん。
混ぜろなんて野暮なことは言わないけどその光景みたい。それ拝むだけで良い。
「いや、なんですかその気持ち悪い顔、終わってますよ」
「え、ああ、いや、その練習風景はさぞ素晴らしいものだろうなと」
「......まあ、そう思うならそれで良いんじゃないですか? それより、寝かしつけてあげますから、はい」
桜子は自分の太ももを、パンパンと叩く。来なさいということだ。
「お、お願いします」
桜子の太ももに顔を乗っける、こんな可愛い子の太ももにほぼ毎日乗っかってるってめちゃくちゃ贅沢だよなぁ。
「あ、先輩今日はいつもと逆向いて貰えますか」
桜子のお腹の部分の方に顔を向ける。
「あ、あんまりお腹みないでくださいね、触れたら......」
「あ、分かりました、み、見ないので、はい、よろしくお願いします」
「そ、それじゃあ......こほん、い、行きますよ」
先輩の背中を擦りながら耳元に口を近付ける。
「ぼ、僕ちゃーん、ママのお膝でゆっくりおねんねしましょうね......」
あぁ、やばい、これ恥ずかしいけど、ぼ、母性に目覚めそう。
「ママがぁ、頭撫でてあげるまちゅからね」
先輩も恥ずかしいのか耳まで真っ赤にしながら目を瞑っている。先輩の空いている手が寂しそうに見えて気になった。
「僕ちゃーん、ママのおてて、にぎにぎできまちゅか? ママ、僕ちゃんにおてて握って欲しいでちゅ」
驚きのあまり、目を開けて私の顔を見る先輩、
私も顔が真っ赤なのを見たからなのか、ゆっくりと私の右手をつかもうと触ってくる。
「ママのおててと、僕ちゃんのおててがくっついちゃいまちたね。ママの手の温度と僕ちゃんの手の温度が合わさってとってもあったかいでちゅね、僕ちゃんは気持ち良いでちゅか?」
真っ赤な顔を上下に振る先輩。ここまで恥ずかしがってる先輩は初めて見る。可愛い。
「僕ちゃん、恥ずかちいの? ママに甘えるの恥ずかちい、恥ずかちいなの? ママ、僕ちゃんに甘えて欲しいなぁ」
繋いでいた手を恋人つなぎに変える。互いに絡み合った指と指の熱が伝わりとても熱い。熱いけど気持ち良い。先輩は私のささやきに答えるようにぎゅっと手を握ってくれた。
「あぁ、僕ちゃん、ほんとに可愛いでちゅ......可愛い......可愛い......可愛い」
先輩に可愛いと一言言うだけで手の汗が出たり、顔がさらに真っ赤になったりと反応があってそれがとても可愛い。
「僕ちゃん、寝れないの? 」
先輩はこくりと頷く。きっとまだ恥ずかしさが勝ってしまい安心できないのだろう。
「それじゃあ、背中トントンしてあげまちゅね」
トン......トン......トン......トン
「ゆーっくりゆーっくりお背中トントンされて気持ち良いでちゅね、おててギューってママに握られてお背中トントンってしてもらって気持ち良いでちゅね」
あ、先輩少しずつ、寝れていぅてるのかな、
頭がこくこくと揺れてる。ほんとにちっちゃい子どもみたい。
「体、ぜーんぶ、ママに預けましょうね、大丈夫でちゅよ、ママが僕ちゃんのこと守ってあげまちゅからね」
返事の頷きもだいぶ眠気からの揺れなのか頷きか分からなくなっていきだいぶ眠くなってきたみたいだ。先輩はほとんど私に抱きつく形で寝ている。
「僕ちゃん、ママがしっかり見てるから、ただ気持ちよくねまちょうね、ねむねむさんな僕ちゃん、すっごく可愛いでちゅよ〜」
こうやって背中を擦ったりしているうちに先輩は寝息を立てて眠ってしまった。よだれが制服に付いているのが愛おしい。
ぐっすり眠っている先輩の耳元でささやく。
「今日の先輩、いつもより可愛かったでちゅよ僕ちゃん」
おでこにキスをして、その日は二人で眠った。
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