トラック3 ザイオンス効果? まあ結局人って単純だよね

「んすぅ、すぅ、んふぁぁ、あぁ」

どれくらい寝たか分からないが不思議と体は痛くなく、なんなら頭はふわふわしていて心地よいというかなんというか、頬ずりしたくなるような肌触りの良さがとても良い。

「あ、先輩起きたんですね、おはようございます」

「んあ? 桜子かぁ......あ。おはようございます......」

悩みの種である桜子がいきなり現れたので、つい、よそよそしくなってしまう。

「え、なんでいきなり敬語なんですか、うわ、なんか背筋がゾワゾワする」

「そこまで言わなくていいだろ!」

「そうそう、先輩はいつも通りが1番好きです」

「へ、?」

「もう起きますか? それともまだ寝ます?」

「え、も、もう起きたいけど」

「そですか、じゃあ、ほら、シャキってしてください。部室行きましょ」

立ち上がる桜子。夕日に照らされた笑顔が眩しすぎて、綺麗な黒髪が風になびいてる。

呆気に取られた俺に笑みを浮かべながら手を差し出す。

「あ、あぁ、ありがとう」

あれ、桜子ってこんな可愛かったっけ、いやもちろんめちゃくちゃ美少女だったけどこんなにだったっけ、やばい、めちゃくちゃ心臓やばい、死にそう。

「先輩?」

「え、あぁ、どどどうした?」

「手、離さないんですか?」

「あ、あぁぁぁ、ごごめん」

「ふふっ、変な先輩」

直ぐに手を離す。少しだけ早歩きで桜子の前に行く。なんか、今日の桜子いつもより、余裕があるというか大人な雰囲気というか、なんか調子狂う。後ろ姿だとしてもこれ以上見たら変になりそうだった。

3分ほど歩いて部室に着く。そこまで会話は無し。といっても部室で何かやることがある訳でもなく、普段は各々やりたいことをやるだけなので今、とても気まずい。

チラチラと桜子の方を見る。桜子は普段通りに本を読んでおり、変わったところは何もない。

「ん?」

あれ、あれあれあれ、桜子ちゃん、文庫本逆になってない? あれ、そうだよね、絶対逆だよね、タイトル読めないもんね、これ。

え、そんな初歩的なことする?

「「あ」」

今絶対気づいて戻そうとしたよね、でもそれで本下げた瞬間目合ったよね、あーあーあー

めっちゃ顔赤くなってるじゃん、あ、やばい涙目なってるじゃん。

「あーもーー!! 先輩が悪いんですよ!」

えーいきなりめちゃくちゃキレてきた。絶対逆ギレだよねこれ。まあ聞くけど。

「だって、先輩いっつもここで無防備に寝顔晒してるし、しかも! なんですかあの音声作品! 絶対私の事じゃんって勘違いするに決まってるじゃないですか!」

「いや、かんちが――」

「だから!」

「はい、すいません、はい。黙ります」

すっごい食い気味だった。俺の言葉遮ってきたよね。今絶対やけじゃん。

「だから! 私考えたんです」

「はぁ」

「私が先輩のASMR音声になります!」

あぁ、この子疲れてるのかなって思ったよね。

「というと?」

「先輩ここで寝る時いっつもASMR音声聞いてますよね」

まあと頷く。とりあえず今は話を聞くべきだろう。

「私がそれを実際にやります」

ん、そうか、それってよくよく見れば俺の望んでたことじゃん! あ、最高じゃん。

「え、逆に良いの? なんかえ、まじで」

「良いです、私がやりたいことなので」

「え、じゃあ今から――」

鳴り響くチャイムの音と下校時刻を知らせる放送、なんだかんだかなり時間は経っていたようだ。今過去に戻れるなら屋上で寝ていた俺をぶん殴っていただろう。あの時間があれば今、いまぁ!!

「お預け、ですね」

「そ、そうだな。帰るか」

「帰りましょ」

「コンビニ行こうぜ、コンビニチキン食いたい」

「先輩の奢りなら良いですよ」

「んーー、まあたまにはいいかぁ」

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