これからはキミと、未来の話
ライブが終わった直後、ミーとユウと、待ち合わせたユウのUFOの中での出来事。
『こちら――マザー――』
ところどころ聞き取れない音が混じった音声が響いた。
『――、――両名の、プロジェクトに対するルール違反を感知しました。よって、今回の実験は一端中止とします。速やかな帰還を命じます』
どういうことか解らないでいたら、ユウが教えてくれた。
今回の実験において、ミーとユウがルール違反をしたことが解ったから、実験を中止して、サンカク星に帰ってこいという命令だった。
「そんな! やだよ! ユウとバイバイなんて!」
思わず叫んでから、わたしは後悔した。
ユウが困ってるのが解ったから。
「でも、ミーがルール違反したのは、まあわざとじゃなかったにしろ違反になったってのは解るが、ユウは何を違反したんだ?」
「理人の言うとおりだ。ちょっと納得いかないよね」
理人君とセナが訴えると、ユウは口をつぐんでしまった。
見かねたように、ミーがそっとわたしの肩に手を置いて答えた。
「ユウの場合は、厳密にはルール違反じゃない。
ユイ。お前の、ユウへの友愛の数値がけた外れに高いがために、私とイオのような状況にあるのではないかと疑われているのだ。
正確には、ユウはルール違反の疑いがかかっているという状況だ」
「わたしの、せい?」
「ちがうよ、ユイのせいじゃない!」
ユウがすかさずそう言って、わたしを抱き寄せて、ミーに威嚇した。
せっかく仲直りしたのに!
「アタシとユイは運命のトモダチだってだけ! マザーに解ってもらったら、アタシ、すぐに帰ってくるから!」
「ほんと?」
「だってまだ、友達百人できないもん!」
ほんとかな? マザーってどんなものか解らないけど、きっと偉い人なんだよね? 大統領みたいなものかな? 解ってくれるかな?
言葉にしちゃいけないと思っても、ユウを、ミーを、困らせちゃいけないって解ってても、顔には出てしまって、気付けば、涙まで出てきちゃって。
わたしって、ダメだな。
「ユイ。アタシを信じて!」
ユウの笑顔は、初めて会った時とおんなじ。
ずっと、ずっと眩しいままだ。
「わかった。待ってる」
そう言って、ユウとミーのUFOを見送ったあと、わたしたちの夏休みはあっという間に終わってしまった。
セナが星空の絵を描き上げた頃、わたしは、ユウの絵を描き上げた。
当然、エコがテーマの賞に出せるわけもなく、わたしは顧問の先生をがっかりさせてしまった。
でも、先生は、笑って「成瀬さんが描きたいものが見つかったことは嬉しかったわ」って言ってくれた。
わたしの絵が、市役所に飾られることを期待していたパパとママもちょっとしょんぼりしたけど、お姉ちゃんは、とってもいい絵だとほめてくれた。
そしてわたしは、できるかどうかは別として、知りたいことができた。
それは、宇宙のこと。
毎日図書室へ行って調べてみたり、宇宙に関する仕事にはどんなことがあるのか、そのためにはどんな大学に行かなきゃいけないのか、いろいろ調べてみた。
宇宙飛行士なんかはさすがに無理だと思うけど、宇宙船の部品を作る人もいれば、宇宙食を作る会社なんかもある。
わたしの未来には、いろんな可能性があるんだって気がして、ワクワクした。
ユウがいつ戻ってくるのか解らないけど、戻ってこれなかったら、わたしからどうにかして、サンカク星にメッセージを送るくらいのことは、できるようになりたい。
できるかどうかは、解らないけど、諦められない。
どうしても、やりたいこと。
わたしの、特別、ようやく見つかったんだ。
「ユイ!」
セナが家から飛び出してきて、わたしに抱き着いた。
今日から新学期だから、セナは上だけ制服姿だ。下は体操着のハーフパンツ。こういう格好で投稿しても怒られないのは、ウチの学校の良いところだと思う。
「おはよう、セナ! 宿題終わった?」
「まあ、ギリ?」
ちょっと目の下に、くまができてるような。結構ためてたんだな。
話しながらの登校はあっという間で、校門が見えてきた。
「おはよう、セナ、ユイ」
「あ、伊緒君! おはよう」
「オハヨー伊緒!」
夏休みが終わっても、まだまだ朝から暑い。そんな中、伊緒君は相変わらず爽やかな笑顔だった。
「理人君は?」
「一緒に来たんだけど、さっき先生に呼びとめられてさ」
伊緒君の視線を追うと、担任の先生と理人君が、校門を入ってすぐのところで、人の流れから少し離れて何かを話していた。
「あ、終わったみたい! こっちにくるよ」
セナの言う通り、理人君がこっちに走ってきた。
「ユイ、セナも。おはよう」
「おはよう理人君」
「先生、なんだって?」
「ああ。ウチのクラス、転校生が来るらしい」
「転校生?」
理人君の言葉に、わたしとセナ、伊緒君までが同時に言った。
三人同時になっちゃうなんて。ちょっと笑っちゃった。
「留学生なんだってさ。日本語は話せるみたいだけど、文化の違いはあるだろうから、みんなで手伝ってやれって」
「留学生……」
「なんだか、ユウを思い出すね」
わたしが呟くと、心の中を見透かしたみたいに、伊緒君がささやいた。
「あはは、伊緒君には、異星人だって内緒にするために、留学生って嘘ついちゃったもんね」
「サーカス団の子だっけ? アクロバットで済ませられるようなレベルじゃないから、怪しいと思ったけどね」
「伊緒は騙されないかもなあとは、思ったよ」
「発案、セナだったもんな」
ユウのピンク色の髪を、金色の瞳を思い出す。
胸に寂しさが溢れて、きゅうっとして、ちょっとだけ、声がつまっちゃった。
「ユウ、会いたいなあ」
見上げた空は青くって、綺麗で。
「あ」
「え?」
伊緒君とセナの声がした気がしたけど。
真っ青で、白い雲が浮かんでて、ピンク色のふわふわが、舞い上がって。
あれ? 幻かな? わたしったら、ユウに会いたすぎて、ついに幻が……。
「ええええ!」
理人君、何叫んでるんだろう。
褐色の肌に、制服の白いシャツ、良く似合うな。
大きな口がにいって笑って、金色の瞳がきれい。
やっぱり、ユウはカワイイなあ。
「ユイ!」
ぐわっと何かに抱き着かれて、わたしは一気に現実に引き戻された。
ふわっと風が舞って、すとんと、長身の女の子がわたしの前に着地した。
校庭のあっちこっちから、悲鳴のような声が聞こえてくる。
「え?」
「ユイ! 会いたかった!」
「ユウ?」
え?
「ひさしぶり! ユウだよ!」
「ユウ……ほんとに?」
「ただいま! ユイ!」
ああ。会いたかった、会いたかったよ。
お日様みたいな笑顔。
――夢みたい!
「おかえり! ユウ!」
わたしたちの夏は、終わったけど、まだまだ、賑やかな時間は続きそう!
未来は、希望でいっぱいだ!
夏休み。キミと、地球を救った話。 祥之るう子 @sho-no-roo
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