存在しないスイカ割りの思い出
かぎろ
🍉🍉🍉
今年の夏は海へ行きました。いまになって振り返ると、なんともいえない感じだったなあと思います。防風林が両サイドに生い茂る道を歩き、砂浜を目指しました。メンツは以下の三人。筆者(かぎろ)、終焉の女神おわりちゃん、バイデン。海はまだ少し先だけど、みんなすっかり浮かれていて、既に水着姿で浮き輪を腰につけシュノーケルを装着していました。でもさすがにシュノつけてると喋れないので外して、筆者はわっくわくの気持ちで言いました。
「ついに海だよ。楽しみすぎ」
「そうだなー・・・」
「Me too」
「バイデンさんスイカ……は持ってますよね。スイカ割りも楽しみ~」
「HAHAHA」
「おわりちゃんはスク水なんだね」
「これはすくみずというのかー?」
「バイデンさんはハイレグなんだね」
「Yes!」
「おれもなんかおもしろ水着きてくるんだったかなあ。スワンの形のやつとか」
他愛もない話をしながら、徐々に砂浜が近づいてきました。あの砂山の上に立てば、太平洋が見えそうです。
「よっし……! 走るか! うおおおお!」
「あ、まて・・・! びーちさんだるだから、はしりにくい・・・!」
「Yeahhhhh!!!!」
三人でビーサンをぺたぺたいわせながら、走って、走って、走って……
ついに、砂浜の上に辿り着いた筆者たちの目の、前に、広がる――――海!
快晴の空の下、
遠い水平線、
青くきらめくさざ波、
カラフルなパラソルたち……!
筆者はもう、たまらなくなって叫びます!
「海すぎて……膿になったわね!」
寒い風が吹きました。
「だじゃれゆうな・・・」
「Bad」
「え、ごめん……寒すぎてジェイソンステイサムになった」
雨も降ってきました。
「嘘でしょ……」
雪も降ってきました。
「え、ちょ……」
雹も降ってきました。
「あの、もう言わないので許してください……」
ハリケーンが襲いかかり、パラソルがすべて吹き飛んでいきました。
「あの……」
大量のホオジロザメと大量のカツオノエボシと大量のリヴァイアサンが海辺に集まってきました。
豪雨のなか、落雷が轟き、民は慟哭し逃げ惑いました。
砂浜にはダイミョウザザミとラギアクルスが現れてハンターと死闘を繰り広げ始めました。
流砂となった浜が海の家を地中へと引きずり込んでいきます。
水平線の向こうから聯隊規模の巨神兵がこちらへ進軍してくるのが見えます。
氷河期が訪れ、生きとし生けるものをすべて凍らせていきます。
ホオジロザメとカツオノエボシはだいたいリヴァイアサンに喰われました。
地球の危機を察知して超古代文明の巨大ロボットが一億年ぶりに起動し惑星を護ろうとしますが、顕現した邪神により粉砕され、沈黙しました。
冥界の門が開き、悪霊が跋扈する砂浜は、もはや無間地獄と区別がつきません。
そして……
これらすべてを終わらせるかのように、宇宙の彼方から超巨大スイカがこの場所へ向かって衝突し地球を破壊せんと突き進んできました。
筆者は釈明しました。
「こうなるとは思わないじゃん」
「おまえのせいで、ほろぶぞ・・・せきにんをもって、せかいを、すくえ・・・」
「そんなこと言われても」
「It's SUIKAWARI chance!!」
「スイカ割りチャンス? あの小惑星みたいな巨大スイカを割れってこと?」
「Show time!!」
おわりちゃんとバイデンさんは筆者の体をぐるんぐるん回し始めます。
「うわわわわわ! 目が回る! 目がまわ……いやこの回転速すぎ……待って速すぎる!! うわあああああああ!!」
筆者の体は超高速回転します。ベイブレードのように。あまりのスピードに、宙に浮かびすらし始めました。
「そのままいってこい・・・!」
「SUIKAWARYYYYYY!!!!」
「ミ゜」
この時すでに筆者の脳はシェイクされてバターになっていましたが、それでも回転は止まりません。ふと気づけば、さっきまで立っていた砂浜は遠く下にあり、もうおわりちゃんとバイデンさんが砂粒くらいにしか見えなくなっています。
「よし……割るぞ、スイカを!」
ついに世界を救う時がきたのだな。感慨深くなって、筆者は目を閉じ、思い出を瞼の裏に映します。
ここまでの冒険のなか、たくさんのできごとがありました。シャンクスが筆者をかばい、左腕を失ったこと。落ちこぼれの忍として除け者にされたこと。ルキアを救うため、短期間で卍解を練り上げ、朽木白哉を倒したこともありました。それらの思い出は、いまとなっては筆者の力となって、自らのなかで輝きを放っています。
「全霊を、込めて……」
曇天を裂き、姿を現す超巨大スイカ。
「おまえを――――」
筆者は超回転エネルギーを振り絞り、一直線に、あの緑と黒の縞々へ飛び込んで。
「――――割り、砕くッッ!!」
衝撃波と同時に――――
空が割れ、一瞬にして快晴が戻りました。
そして降り注ぐのは……太陽の光にきらめく、スイカの果汁。
スイカ割り、
完遂。
「やった……」
筆者はバターになった脳で歓喜に打ち震えます。
「やったぞ! これで地球は守られた!」
「よくやった・・・!」
「おわりちゃん!」
「Very nice!!」
「バイデンさん!」
「「「わあ~~~い!!」」」
筆者たちは三人で喜びを分かち合い、笑い合って、それから、果汁まみれになった全身を見て、はにかみ合ったのでした。でもスイカを止めただけじゃ世界の崩壊は止まらずに滅亡したのでした。
かけがえのない、夏の思い出。
存在しないスイカ割りの思い出 かぎろ @kagiro_
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