第16話 エンドロール

 エンドロールなんかなくてこのまま終わってしまった方が僕としては嬉しい限りなのだけれど、事実を隠ぺいするのもどうかとは思うので、あまり気は進まないけれど語らせてもらおうと思うんだ。


 学校から帰るとスマホを取り出し、メッセージアプリを開いたんだ。

 自分を学校に登校させた、カリスマ不登校対策委員、奥田菜月にメッセージを送るために。

 送る内容はこうだ。


 昨日は僕の勘違いでご迷惑をおかけしました。

 今回の一件で君も委員としての考え方も良い意味で変わったんじゃないでしょうか。

 これを機に君が登校するんじゃないかと少し思ってしまった僕がバカでした。

 不登校を貫き通すその姿勢はさすがです。

 まさに不登校対策委員会のカリスマ中のカリスマですね。

 不登校の生徒の風上にも置けないけれども……。


 奥田へ送信する。

 相変わらず奥田は不登校だし、制服は冬服のままだし、よくわからないボケをかましてくるし。結局何も変わっていないじゃないか。そんなことを思っていると、ほらまただ。スマホのメッセージアプリの通知が鳴った。奥田から早速、返信が来たようだ。

『そんなことより小池君。中学校に中村東吾っていう先生がいて。よく生徒から東吾先生って呼ばれていたんだけど、英語の授業があって』

 僕は次の文面が入力される前に返信する。

『どうせお持ち帰り先生って呼ばれてたんだろ』

 東吾→To go→お持ち帰りというわけだ。

 奥田から返信が来る。

『そうです。サッカーワールドカップで韓国対トーゴの試合があったんですけど』

 すかさず僕は返信する。

『トーゴが先制して、その時の実況がトーゴ先制って叫んでたんだろ』

 トーゴ先制した話を東吾先生自身がしていたという話。このすべらない話を先生が朝の会で真っ先にしたことから、おそらく先生は前日の夜の時点でこの話をしようと思っていて、人に話したくてうずうずしていたことだろう。そう考えるとほほ笑ましい。というのがこれから奥田が語る話だ。

『なんでさっきから先に言っちゃうんですか!』

『いや、だってオチ知ってるもん。ネタ帳読んだから』

『えーーーー! 読まれてたなんて!』

 せいぜい恥ずかしがるがいい。そんなことをしめしめと思っていると奥田から反撃が来たんだ。

『恥ずかしいというと、小池君。この前、「君のギャグ本当は好きだ」みたいなこと言ってませんでした?』

『げ』

 思い返せば後から恥ずかしいことを色々言っていたような気がする。僕がフリーズしていると奥田は連投し始めたんだ。

『まさかそんなふうに思っていただなんてw』

『そうそう思い出しました』

『君を幸せにするよみたいなことも言ってませんでした?』

『こんなこと言われたら逆に学校に行きにくいよー』

『まあどのみち学校には行く気はないけどw』

 仮に奥田が学校に来たところでこれでは僕の方が不登校になりそうだ。色々思い出せば出すほど恥ずかしくて死にそうだよ。そうそう、そういえば奥田はこんなことを言っていたじゃないか。学校に行くのが死ぬほど嫌なら、学校なんか行かなくたっていい、って。僕も不登校になろうかね。

 僕はスマホを机の端に置くことでメッセージから目をそらしたんだ。

 これでは全く何も変わっていないじゃないかと思ったけど、一つ変わったことはあったんだ。重要なことを奥田に伝え忘れていたよ。もう一度スマホを手に取ってメッセージを打ち込む。

「送信っと」


 P.S 例の駅、ホームドア設置されたって。


 はてさてメッセージを読んだ奥田菜月はどんな顔をするだろうか?

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不登校カルテ 西表山猫 @iriomote-yamaneko

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