It’s not I but you who are wrong.

ぐらにゅー島

間違っているのは僕ではなく、君の方だ。

「ねえ、これ見てよ!」

僕の友人の女性は、その本を僕に見せてきた。


「…間違い探し?」

彼女は、ピンク色の表紙のクマの男の子と女の子の載った間違い探しの本を持っていた。題名は『くまおと、ことみの間違い探し!』らしい。多分、小学校低学年向けの本だろう。


「えっと。なに、これやりたいわけ?」

確かに彼女は子供っぽいところがあるが。それでも、ちょっと幼過ぎはしないか?


「違う違う!ね、この表紙を見ておかしいと思わない?」

彼女は神妙な面持ちで僕を見た。


はて、この表紙におかしいところがあるのだろうか?

一般的な、普通の本に見えるが…。間違っているのは、これの持ち主の精神年齢だけである。


「わからない。何がおかしいって言うんだ?」

「えー、これおかしくない?この題名!」


『くまおと、ことみの間違い探し!』別に、なんの捻りもないだけの普通の題名だと思うが。


「だってさ二人ともクマなのに、片方だけ『くまお』なんてそのまんまの名前なのにさー。女の子のクマだけ『ことみ』なんて人間みたいな名前でおかしくない?」

「…まあ、確かにな。」


彼女に言われてみれば、そうかもしれない。

女の子の方も、『くまこ』とかで良かった気がする。


「で、私思ったんだよ。このことみって、実は人間だったんじゃない?」

「子供向けの本に、そんな裏設定があってたまるか。」

僕が言い返すと、彼女はムッとした表情をした。


「子供ってさ…。子供と大人って、誰が決めるの?本当に、これは子供向けの本なの?」

彼女は、ずいっと僕に本を押し付けた。


「身体は成長してもさ。心は子供のままな人だって沢山いる。最近は十八歳成人になった。大人だってさ、子供と大人の境目がわからなくなってきているのかもしれないよ?」

「そんなこと言ったって…。小学生でも、精神的に大人びていたら大人だって言うのか?そんなの間違っているよ。大体さ、そんなただのおもちゃみたいな本にいちいち突っかかる君こそ子供だろう?」


彼女は、うーんと考え込む仕草を見せる。


「確かに、君の言う通りかもしれない。この二匹の名前だって、多様性を意味しているのかもしれないからね。言語が違えば、名前も自ずと変わってくる。そこに突っかかる私が間違っていた。ごめん。」

彼女は、ぺこっと頭を下げた。そんなに深い意味を持って言ったわけではないのだが…。まあ、いいか。


「それにしてもさ。いつも、少数派が間違いになってしまうのはいかがなものなのかな?これがきっと迫害を生むんだよ。」

彼女は、さっきとはまた違った雰囲気で話し始める。


「君、さっき私が本を見せた時『また子供っぽいもの持ってきたなー』とか思ったでしょ?」

「思ってないよ。」

ごめん、思った。


「私みたいな、成人した女性が間違い探しの本を熟読していたら確かにおかしいかもしれない。でもさ、それが間違ってるって言われる筋合いはないと思うの。」

「ま、まあそうだな。」

その本、熟読してたんだな…。


「大多数の人と同じ意見の自分が正しいと思っている。そんな君だって、ある意味子供なんだよ。それは、間違っている。」

「間違ってるって…。だが、多数決という決め方もあるよな?それが間違ってるなら国会だって間違っていると言うことになるぞ。君は国が間違っていると言いたいのか?」

なんだか、間違っていると言われるとムカッとする。なんとなく、言い返したくなってしまうものだ。


「んー、それが間違い探しなんだと思うの。」

彼女は、キョトンとした顔をしてそういった。

「は?」

意味がわからない。


「逆に考えてみてよ。絶対的に正しいことなんてある?私達は自分の考える正しさの中に間違いを探して、それを正していくことしかできないんだよ。」

「じゃあ、君はすべてが間違ってると。そう言うわけだ。」

「うーん。ちょっと違うかもなぁ。」

むむむ、と彼女は唸ると、口を開く。


「全てが間違っているんじゃない。それらを見る、私達の方こそ間違ってるんだよ。」

「と、いうと?」

彼女が話すことは、だんだんと難解になっていくため、聞き逃すとわからなくなってしまう。

僕は、彼女の声に耳を傾ける。


「例えばさ、君は私を普通の女性だと認識してる。ちがう?」

「まぁ、そうだが。」

「でも、私って宇宙人でしょ?」

「…はい?」

当たり前でしょう、と言わんばかりの顔をして彼女は続ける。


「私が地球以外の星からやってきたという事実は正しい。だけど、君の認識が間違ってるから私が地球人だということは間違っているといえる。違う?」

「え、ちょっとまって、宇宙人?」

いくらなんでも話が入ってこない。 


「うん。宇宙人。ほらね?認識が間違っていたでしょう?そう言うことを言いたかったの。」

「…つまり、君は僕は地球人で、だから君のことも地球人だと認識していた。そう言いたいんだな?」

「そうだよ。」

彼女は、僕の言葉を肯定する。


「確かに、君を地球人だと認識していたよ。でも、君も間違った認識をしていると言わざるを得ない。」

「と、言うと?」

彼女は、僕の言葉に怪訝な顔をする。


「だってさ、僕だって地球人じゃない。君の言葉を借りるなら宇宙人というわけだ。」


「…なるほど。道理で気が合うと思ったよ。」

なんだか納得したような表情をして彼女は頷く。


「つまり、君もこの惑星にを探しにきたということだね。」

「そうだ。」



この宇宙の中には、地球よりも発達した文化を持つ星が多くある。だからこそ、僕達のように地球に研究をしにくる奴も出てくるのだ。

さて、何を研究に来るのか?それは、人そのものである。

我々の星と、地球の歴史の長さはそう変わらない。しかし、技術進歩は大きくかわっているのだ。決して人が我々よりも劣っているというわけではない。むしろ、人は我々よりも知的能力は極めて高い。

何が、この違いを生んでいるのか。人は何を間違えたのか。その間違い探しをしにきたのだ。


「ねえ、私は人が個々に別の意思を持っていることが間違いだと思うの。」

「そうか。それはなぜだ?」


他の星の者の考え方を聞いておくのもいいだろう。僕は彼女の言葉に耳を傾けた。


「多くの生物は、自分の子孫を残して、自分達みんなの未来を望む。そんな平和な世界。でも、人は違う。自分の利益を探して、嘘をつき、騙す。周りより、自分のことばかり。知能が高いせいで、余計に悪循環している。」

「ああ、確かに我々よりも技術が劣っているのは協調性に欠けるからかもしれないな。」

彼女の意見は鋭いのかもしれない。


「実際、何が間違っていたのかなんて、私にはわからないな。私たちの方が間違っていたのかもしれないし。」

「…そうか?僕達は地球人よりは正しいと思うが。」

「その考えこそ、間違っているのよ。」


彼女は、ニヤッと笑うと僕の目を見た。

真っ直ぐな目だった。


「それにしても。私たち、人間の生態を調べるためにお互いに近づいたのに…。二人とも地球人じゃないなら、時間の無駄だったかも。」

ため息をつきながら、彼女はやれやれと言わんばかりの顔をした。

「そうか?僕は無駄だとは思わないけど。」

僕は彼女の方に向き直す。


「結局、どんなことだって自分の為になるんだよ。だから、間違ったことをしたって、それが正解だとも言えるんじゃないかな?」

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