第3話 犠牲に次ぐ犠牲
真っ青な海にゆっくりと落ちていく。
・・・いや、浮いてるのこれ?しかも素っ裸で。
どこかで見たような、雲を切り分けて落ちていく感覚。
青ベースだった不安定な床に、細かく波立った白い表面が見える程
海に近づいてきた頃、体がふわっと止まった。
上を見上げても、さっきまでいたはずの暗闇はない。
どれだけ高い所から来たのか・・・高所恐怖症なのにさ。
灼熱の中にある、つかぬ間のオアシスようなかげった空。
私の真下には、大きな白い船があった。
人影が数人見えて、甲板をせわしなく動いている。20人は乗っていようか。
船の先にひときわ大きい釣り竿が見えて、白い服の恰幅がいい男性が
必死に持ち上げようとしている。
船の傍まで近づいてみると、網を引き揚げようとする男性陣もいた。
どうやら漁船らしい。
ていうか、傍まで近づいても全く反応がない・・・私の姿は見えていないのか?
船先まで来ると、太く長い釣り竿がぐんと引っ張られ
重く深く、揺れる海の中に沈んでいく。
あの大きさ、どう考えても一人じゃ無理だろうな・・・。
そう思っても、誰も男性を助けようとはしなかった。
格闘する男性をよそに、周りの人たちが慌ただしく駆け回る。
それと同じくして、波が急に高くなりだした。
波の高さに合わせて、船が大きく縦に揺れる。風も出てきた。
それと同時に重く深く、海中で地響きがするような耳鳴りがする。
船酔い?いや、私は浮いてるんだってば。
見てるだけで酔うというより、これは・・・。
波の音に集中しだすと、釣り竿の犠牲になった魚の影が見えてくる。
そういえば、マグロ釣りの大会の時って、
誰かひとりが釣り竿に触れた瞬間から、手を出しちゃいけないルールなかったっけ?
だとしたら脇にある網は?この漁船は何を釣ろうとしてるの・・・?
嵐のように荒れだす海。
なかなか釣り上げられない魚の全長を見ようと高度を上げた時、
船の下に支えるように泳ぐ、大きな黒い影を見た。
小さな針に苦しむように、巨大魚は暴れまわる。
それに引き寄せられるように波が押し寄せ、船が大きく煽られる。
あの巨大マグロ、もう死んでる・・・。
死んでるけど、動いてる。釣り竿に引っかかったまま。
あの釣り竿を外せば逃げられる。
そこまで分かった瞬間、ひときわ大きな波が船を持ち上げて、
そのまま海へ引きずり込んだ。
船員たちの悲鳴が聞こえる。初めて人の声を聞いた。
海に手を伸ばしても、空を切るばかりで掴めない。
ひっくり返った船底が白く天を向き、人間もろとも沈んでいく。
うねる波の音の中に、船員たちの悲鳴が混ざる。耳鳴りが止まらない。
この世界で生きるには さやこ @okayas
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