第2話 鏡の扉


夜は眠れない日が続いた。

最近妙にリアルで、怖い夢を見る。

目を瞑っていても、意識が覚醒した瞬間から

恐怖で動悸が止まらない。

歳か?それとも寝酒が悪かったか。

だらけた毎日を過ごしていれば、そりゃ不健康にもなるよね。


外が明るくなると、ようやっと安心して眠りにつける。

大きく息を吐いて、ベッドの気持ちよさを感じながら

窓の外をぼーっと眺めた。

久しぶりに聞いた虫の声をBGMに、

まどろみがまた深くなっていく。

さっきまで寝てたのに、もう疲れちゃったよ・・・。



























_真っ暗な世界に、大きな鏡があった。

ドアを開けて中に入ったような気がするけど、後ろを見てもそんなものはない。

徐々に目が慣れてくると、鏡の煌びやかな装飾が見えてきた。

血のようなルビーを、金の葉が護るように包んでいる。

そこから上下左右に大きく伸びて、鏡の範囲が広がっていく。

鏡の正面にいるはずなのに、私の姿は写らなかった。

真っ暗な世界に星のような小さな輝きがたくさん現れても、

自分の姿が見えない闇の中で、その鏡はまるで主のように佇んでいた。


私、こういう時に第六感が働くタイプなんだよね。

この鏡の先に行けば、きっと現実から離れられる。

くさいセリフ言うと、異世界に飛ぶ気がする。

ちょっと前までは、こんな非現実的なものは怖くて

手を出そうとしなかった。

でも、今の私なら・・・。


失うものもないし、この先苦しまずに逝けるなら。

それもまた一興。ちゃんと戻れる気もするし。

後ろ向きが前向きで、幸せになろうとする程何故かネガティブなものに触れていく。

捻くれた私に、新しい世界を見せてくれる扉・・・。

なんだ、まだ面白い世界があったじゃないか。

面白いと思えるうちに、今、逃げるしかない。


私は鏡に触れようと手を伸ばした。

ガラスがあるはずの黒い空間には何もなく、触れることはできなかった。

触ろうとすればするほど、どんどん奥に吸い込まれていく。

正面に沈んでいくような深い闇に、私は望んで身を投げた。

鏡の装飾が、星のような小さな輝きが、ゆっくりと後ろに遠のいていく・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る