この世界で生きるには
さやこ
第1話 一身上の都合により
「退職させていただきます。」
辞表を書くのは何度目だろう。
そういえば、今までの転職の中で正社員だったのは、今回が初めてだったな。
繰り返す転職の中で、常に自分の軸になっていたものを棄て
全く0からのスタートだった社会人生活は、わずか9か月で終わりを迎えそう。
あっという間だったけど、濃密な9か月だった。
31歳にして初の正社員。初の一人暮らし。
仕事が決まった時は、業務内容なんて二の次で。
とにかく今を生きていくことに必死だった。
とんとん拍子で採用され、未だかつてない手取り16万という高額を手にした時。
それは社会不適合者の私にもたらされた、人生最高のご褒美だと思った。
ここを逃げなければ殺される。
これが人生最後のチャンスかも。
それが、この仕事を選んだ理由だった。浅はかだったなぁ。
数字に左右される営業職なんて、成績出してナンボじゃない。
こちらが追う程、それ以上に、心も体も追い詰められるだけなのに。
有給だとか、福利厚生だとか、確かに魅力的だけどさ。
そもそも正社員として働いたことがなかったから、
普通の人より魅力的に見えて当たり前だったよね。気づけよ私。
何度味わったか分からない、この心と体の闇落ちを感じるくらいなら
もっと早く辞めるべきだったかも。
結局、定職に就かなければ無能の烙印を押されるこの世界で
私はただ底辺の人生を歩むしかないんだ。
とはいえ、まだしがみつきたい気持ちもある。
辞表を書いたものの、出すまでに辿り着かない。
何しろこの世の中は、生きるだけでお金がかかるのだから。
いい歳して貯金は0,次の仕事もない。というか、この体じゃできなくね?
そしてお人好しな性格上、嫌いになれなかった仲間たちを
切り捨てることができないんだ。
あ~ぁ、宝くじでも当たらないかなぁ。
切実に思うのも何度目か。買ってもいないくせに。
とりあえず欠勤連絡だけ入れて、動画見ながらカップ麺でもすすって、
いつも通りこの人生を憂いながら、やさぐれた一日を過ごそう。
今の私にできることは、これくらいだ。
本当はこの命、もっとうまく使いたかった。
どこかに、人生やり直せる方法ないかなぁ・・・。
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