レレノン
レレノン
朝日に照らされ、鉄塔に陽光が照り付ける。日の光を反射してなお黒い、黒い塔の様を今日も眺める。
遠くに見える白亜の王城よりも明らかに高い、何のために造ったのかもよくわからない塔。
一説には王城の反対に見える「闇刻み」を模したオブジェなのだとも言われているが、定かではない。
塔の周囲は広場のようになっており、屋台だのなんだの――様々な連中が、縄張りを主張していたりたむろっている。
この帽子を被った、いかにもな大柄の男もまた、レレノンの鉄塔回りを縄張りとしていた。
ラバロはレレノン国でゴロツキを生業にする男だ。
とは言っても、ひいきの飲食店ではにこやかに挨拶はするし、酒場にもごく普通の友人が何人もいる。
この国ではゴロツキだのユスリだのタカリだのは、ある種の言い訳のような存在である。
昔は――この国に来る前は、本当にラバロはならず者と言っていい生活をしていた。
霊術を使い、人を襲って身包みをはぎ取って暮らしてたこともある。
狩猟が禁じられている動物を殺し、食ったことも少なくはない。
だが、巣を見失った獣のように迷い出たこの国は奇妙だった。物乞いと芸人の中間のような変なことをして、日銭を稼いで冗談みたいに暮らしている者が多くいた。
その中には、ラバロなどよりよほど屈強な霊術師や戦士も少なくはなかった。
最初はただ、生きるために迎合していたつもりだった。
ところが、いつの間にか「組まないか」と言ってくるようなおかしな楽器使いやら踊りやら――拒絶するのもばかばかしいと思い、聞き流していたら何年も連れのようになってしまった。
バカみたいに懐の広い国だ。おかしな国だ。国王すらいったい何を考えているのかわからん。だが、ラバロはこの国のそんな奇妙なところを愛していた。
存在意義のわからぬ鉄塔や、明らかに近場にある不気味な闇刻みの存在をも。
そして――時折、塔で舞う踊り子カーレンの存在も。
広場、この塔の周囲にある方ではなく塔の天辺にある空中庭園の方だが――そこで最初にラバロがカーレンの踊りを見た印象は「作業」だった。
アレは到底踊りに没頭しているようには見えなかった。何か、どこか静かに剣呑なものが見えた。一度、その感覚をラバロはこう捉えた。
殺気。
しかし、この街や国には事情のある存在もそう珍しくはない。なんだったら自分自身もそうだ。
だから――カーレンのその不気味に謎めいたところも許容しようと、そう考えていた。
そのラバロの思考が、彼自身の命すら幾度となく拾っていたのは言うまでもない。
わふ、と声がした。
「おお、フシャちゃんかい」
陰り狼。ラバロはフシャとよんでるが、ミミちゃんだの真っ黒紫だの、街の連中はそれぞれがまったく好き勝手に呼んでいる。
この毛まみれの隣人もまた、レレノンに存在する「奇妙なところ」であり、また自分のように、レレノンの奇妙さに救われた存在にも見えた。
「ここの連中は大なり小なり事情があるからよぉ……見過ごすことも肝心だよなあ」
ラバロの言葉に陰り狼は「んなこたあ判ってるよ」と言わんばかりに鼻を鳴らした。ラバロはそれを見て笑って、今日も「ごろつき」を始めに仲間たちの元へと歩いて行った。
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