【鬼を討つ者 炎は絶えず、受け継がれる】

川端 誄歌

『鬼を討つ者シリーズ 炎は絶えず、受け継がれる』

0:キャラクター紹介

朔夜:朔の夜と書いて「サクヤ」と読む。人間。

朔夜:16歳。琴吹の村一番の色男。母方がイギリス人のため髪が金髪である。

朔夜:実は英語も話せる。が、たった一回のあることがきっかけで普段は使わないようにしてる。

朔夜:157cm。痩せ型。琴吹村出身。

焔薇:焔の薇と書いて「エンビ」と読む。属性は炎。

焔薇:『悪鬼退散。我が対の剣がある限り、我が燃え盛る焔(ほのお)が絶えぬ限り、貴様を焼き尽す』

焔薇:18歳。鬼人歴1年。不知火(しらぬい)の里新星の双剣使い(自称、絶世の双剣使い)。天真爛漫でポニーテールの美形。武器は双剣。

焔薇:朔夜とは一切の関係ない生活をしていた。

焔薇:僕っ子女子。元気で勇敢な女性。しかし、家事などは不器用で熟せない。

焔薇:鬼化(オニナリ)は迦楼羅焔(カルラエン)

焔薇:169cm。痩せ型。不知火の里所属。

0:ここから始まる

朔夜:「本声劇は番外編【鬼を討つ者。炎は絶えず、受け継がれる】だ」

焔薇:「私もここで出番が御終いかー? もっと出たいぞ!」

朔夜:「わがまま言うなよ。お前らしいけどよ」

焔薇:「…………」

朔夜:「なんだ見つめてきて。まさか俺の美形に――」

焔薇:「いやもう惚れてるけどさ」

朔夜:「《照れる》……お、おう。そういやお前はそう返してくる奴だったな」

朔夜:「じゃあ、なんだよ。なんで俺のこと見つめてたんだ?」

焔薇:「朔夜、なんか変わった?」

朔夜:「え? いや、なにも、変わってねぇと思うが」

焔薇:「んー?」

朔夜:「なんだよ。またお前の勘が反応してんのか」

焔薇:「かなー? まぁいいっか! さぁ朔夜、締めなさい!!」

朔夜:「【鬼を討つ者。炎は絶えず、受け継がれる】開演致します。どうぞ御一興!!」

焔薇:「最後まで! よろしく頼むね!!!」

0:朔夜、焔薇の出会い。

0:11年前。朔夜の生まれ故郷、すぐ近くの街にて。

0:朔夜(16)、焔薇(18)IN。他兼ね役登場

朔夜:「《内心》朔(ついたち)の夜(よ)と書いて、朔夜。俺はただの農民だ。秀(ひい)でる才能もなければ、誇れる特徴もない」

朔夜:「《内心》唯一自慢できるとすれば、母譲りの顔と、この髪の色くらいだ」

朔夜:「さて、これで配達も終わりっと。八百屋! 一応確認してくれ!」

八百屋の女:「はいよ。いつもありがとうねぇ。あ、そうだ朔夜ちゃん。数えてる間、暇だろうからお茶でもしていきなさいよ」

朔夜:「良いのか? そいつはぁ、ありがたくもらおうかねぇ」

0:と、そこで悲鳴。

女A:「きゃぁぁあああ!!」

朔夜:「…………なんだ?」

八百屋の女:「さぁなんだろうねぇ。泥棒かしら?」

朔夜:「いや、そんな呑気なこと言ってねぇでよ。ちょ、見に行ってくるわ」

0:朔夜、離れていく。

朔夜:「さて、声の方は――」

男A:「俺に近づくんじゃねぇ!!」

朔夜:「!! こっちか」

女A:「た、助けて!!」

朔夜:「なんだ? まじで泥棒だったのか?」

0:目の前の人込みに、朔夜阻まれる。

朔夜:「っつか、もう人だかりが出来てやがる。これじゃあ、様子までは、見れねぇな。この隙間から!!」

朔夜:「おっと、すみません。通してもらいますよ……!!」

女B:「包丁なんか持ってないで、その子を離しなさいな!!」

男A:「うるせぇ!! こいつは、こいつは――!!」

0:朔夜、人込みをどうにか掻き分けながら前まで進んでいく。

朔夜:「なんだ? 男女のいざこざか? つか、そうならこんな所でやんなよなぁ」

0:焔薇、人込みを飛び越える。

焔薇:「ちょっーーーーと失礼!!!」

朔夜:「どわ!? なんだ、今上を走り抜けていったの!」

0:焔薇:男Aの前に着地。

男A:「うわ!? な、なんだお前は!!」

0:そのまま男Aの足を踏む。

焔薇:「そりゃ!」

男A:「いって!! あ、くっそ!!」

0:女Aを引き剥がして逃がす。

焔薇:「よし。君はここから離れて? あとは僕がやるから」

女A:「は、はい! ありがとうございます!!」

0:朔夜、ようやく人込みから顔を出す。

朔夜:「はぁ、はぁ、はぁ。し、死にそうなんだが……なっ、なんだあいつ。あの女……、男を軽くあしらってやがる」

0:焔薇、男の攻撃をすべて避けきる。

男A:「な、なんなんだお前は!! いてぇ!!」

0:焔薇の手刀が、男が持ってた包丁を叩き落とす。

焔薇:「ほいほい。ほら、包丁は人に向けないの」

男A:「っ!!」

焔薇:「全く。男が情けないぞ? どんな理由であれ、やって良いことと悪いことがあるでしょ」

男A:「くそがぁぁあああ!!」

朔夜:「あの女、見たことねぇ身なりをしてやがる」

焔薇:「せりゃ!!」

朔夜:「《内心》それに、強い」

男A:「ぐはっ!!」

朔夜:「《内心》単身。野次馬を飛び越えて現れた女は、暴れている男を蹴散らし、場を制している。そんな女に俺は、いつの間にか魅入ってしまい」

男A:「いってぇ!! やりやがったなこのアマ!!」

焔薇:「君こそ、こんな里のど真ん中で暴れてないで、落ち着きなって。ね? 相談には乗るからさぁ」

男A:「うるせぇ!! お前に何が分かるってんだ!!」

焔薇:「分からないよ? だって僕は君じゃないんだからさ」

男A:「そ、それ以上近づくな!! 近づいてきたら……、じ、自殺するぞ!!」

焔薇:「良いから良いから。出来もしない、そう言うこと言わずにさー? 僕が聞いてあげるから、ね?」

朔夜:「《内心》自分のことを、『僕』と呼ぶ。総髪(そうがみ)の女に」

焔薇:「でもまぁ、もし。それが嫌だって言うなら――」

朔夜:「《内心》彼女は。一体、誰なのだろうか」

焔薇:「不知火の里。絶世の双剣使いである僕が、焔薇が! 君のお相手仕るよ」

男A:「うるせぇええおらぁぁああ!!」

朔夜:「《内心》心の底から、興味が湧いた」

0:朔夜の仕事先にて。

女B:「あんた、強いねぇ!」

焔薇:「そう? これくらい普通だと思うけど」

女B:「いやいや男をその細い腕で投げ飛ばすなんて、そうそうできやしないよ!」

焔薇:「《照れる》えぇ。そうかなー? 僕ってすごいのかなぁー?」

女B:「すごいさぁ! あ、そうだ。この後時間あるかい? あるなら、うちで茶でも――」

0:焔薇、用事を思い出して去っていく。

焔薇:「あぁ! そうだった! ごめんなさい! 僕、ちょっと急いでて……。また、顔を出しに来るから! じゃあね!!」

女B:「あー……行っちゃった……」

0:その様子を見ていた朔夜が後を追いかける。

朔夜:「…………」

0:場面転換。街の外。(夜)

0:足の速い焔薇にようやく追いついた朔夜が声をかける。

朔夜:「《荒い息》おい、あんた!」

焔薇:「……ん? 誰、君? てか、ずっと後着けてきてたよねー? よく僕の走りに追いついてきたものだ。褒めてあげよう」

朔夜:「《呼吸を整える》え、あ。俺は、……朔夜。朔の夜と書いて朔夜だ」

焔薇:「そう。じゃあ朔夜くん」

朔夜:「な、なんだ」

焔薇:「なんで着いてきちゃったの?」

朔夜:「え?」

0:焔薇が隠していた双剣を取り出す。

焔薇:「駄目じゃないかー。知らない人に着いてきちゃ。御両親が心配しちゃうし、なんなら危険だよ?」

朔夜:「え? え? あ……」

0:朔夜の背後から、餓鬼が飛び出す。

餓鬼:「ガァアアアア!!!」

0:焔薇、餓鬼を斬る。

焔薇:「ふん!!」

餓鬼:「フガッ!?」

焔薇:「鬼だって、居るしね?」

0:血が朔夜にかかる。

朔夜:「なっ!」

0:餓鬼の死体を見て、朔夜取り乱す。

朔夜:「う、うわぁぁああああ!? な、なんだこれ、俺についてるこれ、血か? あんた、今、何を斬――」

焔薇:「あれ? 餓鬼を見るの初めて? おかしいな、この辺りって意外と出るはずなんだけど……」

朔夜:「な、なんなんだよこれ!! 鬼? 聞いたことねぇよ!! 頭おかしいんじゃねぇか!?」

焔薇:「あー、もう。そんな大きな声で騒がないでよ。そんな叫んだら――」

朔夜:「あぁ!? 取り乱すっつうの!! こんな状況、普通の人間だったら気が気じゃねぇわ!!」

0:鬼、登場。

餓鬼:「ガァァァアアア!!」

餓鬼:「ガァ!! ガガァ!!」

朔夜:「ひぃっ!?」

焔薇:「――だから言ったのに。大きな声出すなって」

朔夜:「言ってねぇよ!!」

焔薇:「あーもう。ちょーっと静かにしてねぇ」

0:焔薇双剣を構える。

焔薇:「んー餓鬼ばっか。討伐対象の鬼は…………確認できずと」

朔夜:「お、おいあんた! なんなんだよこの状況! こいつら、なんなんだ!!」

焔薇:「……鬼は鬼だよ、朔夜くん。この世に憧れ、魔界から出てきちゃったのが鬼。だから、送り返すんだ」

焔薇:「『悪鬼退散』」

焔薇:「『我が対の剣がある限り』」

焔薇:「『我が燃え盛る焔が絶えぬ限り』」

焔薇:「『貴様ら鬼を焼き尽す』」

焔薇:「鬼化(オニナリ)――迦楼羅焔(カルラエン)!!!」

0:焔薇の背中に、焔の右翼が生える。

朔夜:「うぉあっつ!? なんだその右翼(うよく)は!?」

焔薇:「危ないから離れてて朔夜くん!! 一気に、片付けるから!」

0:餓鬼ども、焔薇らにとびかかる。

餓鬼:「ガァァ!!」

焔薇:「はぁ!!!」

朔夜:焔薇の動きは洗練された戦士そのものだった。

朔夜:斬り上げた右腕を、振り下げるまでの流れ。

朔夜:攻撃と攻撃の合間を開けさせない動作。

朔夜:「……これが……鬼人(オニビト)」

朔夜:この世にひっそりと蔓延る鬼。人知れず人間を守るために命を賭けてきた存在。

朔夜:「……すげぇ」

焔薇:「最後!!」

0:最後の一匹の餓鬼が、朔夜に飛び掛かる。

餓鬼:「ガァ!? ガ、ガガガ!!」

朔夜:「う!?」

0:焔薇、双剣を投げる。

焔薇:「させない!!」

餓鬼:「ガァッッ!」

朔夜:「っ!? うげぇ、また血がかかった…………」

焔薇:「あぁ! それ口に含んじゃ駄目だよ!?」

朔夜:「え? あ、言われないでも含まねぇけど」

朔夜:「《内心》こんな不味そうな匂いしてるやつ」

朔夜:「これ口にしたらなんかあんのか?」

焔薇:「え? 死ぬよ?」

朔夜:「ふぁ!? めっちゃ被ってんだけど俺!?」

焔薇:「いやぁ、身体にかかるくらいは大丈夫!」

焔薇:「《小さく》……たぶん」

朔夜:「多分!? え、俺。死ぬ?」

焔薇:「いやぁ。大丈夫でしょ。今ぴんぴんしてるもん!」

朔夜:「色々とアバウト過ぎて不安なんだが!?」

焔薇:「まぁまぁ、そんな大声出さずにさ。また鬼が来たら困るし」

焔薇:「《内心》それに、この餓鬼ども。数で攻めては来るけど、いつもの餓鬼とは違ってなんか攻撃が軽い。あまり必死さを感じなかった。まるで、死ぬことが前提みたいな――」

0:焔薇、鬼化を解く。

朔夜:「お、おう。それは、たしかに」

焔薇:「《内心》ま、今考えてもどうしようもない。か。それより今はこの子の処理だ」

焔薇:「で、色々見られちゃったから」

朔夜:「ま、まさか俺を殺す? とか?」

焔薇:「そんなことしないよ? むしろ説明しておこうかなって」

朔夜:「………………説明?」

焔薇:「いやぁ、すっごい簡単に説明すると。その餓鬼の血でも舐めちゃうと僕と同じく鬼人(オニビト)になっちゃうの」

朔夜:「この血を舐めると…………?」

0:朔夜、舐めてみようとする。

焔薇:「要するに、鬼の遺伝子を身体に入れちゃうと。って話。あ、でもだからって何でもかんでも口にしたら駄目だよ? 死ぬのはほんとだから」

朔夜:「ん゛、んん!!」

焔薇:「相性があって、適合しなかったら醜い肉塊になるからね?」

朔夜:「先に言えよ!? あっぶねぇ」

焔薇:「えぇ。やだよぉ」

朔夜:「はぁ…………で、そんな説明受けた俺はこれからどうすればいい? お前に連れ去られるのか?」

焔薇:「いつも通り、普通の生活をしてくれて構わない~」

朔夜:「へ?」

焔薇:「連れ去る気も、殺す気も微塵もありません。それより朔夜くん、早く水でも浴びようよ。正直ちょっと臭い」

朔夜:「お前がかけたんだけどな!? この餓鬼の血。全部お前が俺にかけたもんだぞ!!」

焔薇:「よーし! たしかすぐそこに川があったはずだ! 行くぞ!」

朔夜:「まじかよ!? え、置いてくな! あんたと違って、俺人間だからこんなくらい新月の夜は、早く走れねぇよ!!」

焔薇:「へっへーん! あ、そうだ。ねぇ朔夜くん」

朔夜:「あ? なんだよ」

焔薇:「あばうと? ってなに?」

朔夜:「はぁ!? 大雑把ってことだよ、こんちくしょう!!!」

0:不知火の里。

0:焔薇、IN。

焔薇:「と、報告はいじょーう!!」

不知火の里長:「そうか。しかし、中々に討伐が難しい鬼じゃのぉ」

焔薇:「呪鬼(じゅき)ってあんまり出現しないからねぇ。正直、めんどいんだよねぇ」

不知火の里長:「しかし、その鬼を討伐出来るのが炎の力を使う鬼人(オニビト)だけだからのぉ。お主に頼るしかないんじゃて焔薇」

焔薇:「そーだねぇ。しばらく張り込もうかなぁ」

不知火の里長:「そうするしかないかのぉ。出現報告が来てからでは、遅いかもしれんしな」

不知火の里長:「……ならば焔薇」

焔薇:「ほい!」

不知火の里長:「…………お主に街と。一応すぐ傍にある琴吹(ことぶき)村の警戒に当たる任を与える。人に合わず、闇夜に紛れて順次――」

焔薇:「はいはーい! 行ってきます!!!」

不知火の里長:「…………最後まで話を聞かんか全く」

焔薇:「なにさおじいちゃん。話が長いと嫌われるぞ~?」

不知火の里長:「誰がお小言爺じゃ」

焔薇:「いやそこまでは言ってないけど」

不知火の里長:「《咳払い》……忠告じゃが、人には会わぬようにな。仮にあったとしても、名乗らぬこととじゃ。良いな?」

焔薇:「はーい! では、行ってきまーす!!!」

不知火の里長:「……あやつ。本当に分かっておるのか?」

不知火の鬼人(女):「……すみません。里長。まだ焔薇の方は…………?」

不知火の里長:「今さっき出ていったが、なんじゃ?」

不知火の鬼人(女):「……いえ。報告書に書いてある内容が本当かどうか確認したく」

不知火の里長:「どれじゃ?」

不知火の鬼人(女):「こちらです。一般の人間が、居たようです」

0:朔夜視点。

0:琴吹村の朔夜宅にて。

0:焔薇、朔夜IN。

朔夜:「《内心》俺はあの日。初めて鬼と、その鬼と戦う人間の存在を知った。街の人間に言おうとも思ったが、誰一人として実際に鬼を見たことが無かった平和な街では、笑われるだけだと思い踏みとどまった」

朔夜:「《内心》それに、別段日常は変わりはしなかった。いつも通り、親父たちが狩って来た作物を束ね、八百屋に持っていく。そんな、いつも通りの日常が過ぎていき――」

焔薇:「やっほ朔夜。元気?」

0:※分かっていなかった。

朔夜:「今日も来たのかよ。これで二十九日連続だぞ」

0:※その上一か月もずっと会っている。

朔夜:「《内心》ほんの少し変わったのは、この焔薇(エンビ)と言う名の鬼人(オニビト)が、俺を訪ねてくるようになったことだ」

焔薇:「《最後小声》いやいや。そりゃあまり普通の人間と関わることなんてないし。…………ちょっと色々と気になるし」

朔夜:「あのなぁ。俺はあんたと違って仕事で忙しいの。分かる?」

焔薇:「僕だって仕事で来てるんだよ!! 人を暇人みたいに言うんじゃない!!」

朔夜:「嘘つけ!? ほぼ毎日ここに来て俺に着いてきてる癖に、いつ仕事してんだよ!」

焔薇:「そりゃ今もだよ!? それに鬼を狩るのは基本夜! 明るい時間は、鬼も基本は静かなんだから!!」

朔夜:「そーかいそーかい! 知るか! そっちの常識なんざ。俺は普通の人間だっての!!」

焔薇:「《徐々に力抜けていく》そーですかぁ!!! それは……それは…………? あれ? 朔夜……」

朔夜:「んだよ今度は。これから納品に行くとこなんだが――」

0:焔薇、倒れる。

焔薇:「お腹。空いちゃって…………、倒れ、そう…………」

朔夜:「えぇぇえええ!? 倒れながら言うんじゃねぇよ!? つか、飯くらい自分で作れ!! 台所は貸してやるから――」

焔薇:「…………れない」

朔夜:「は?」

焔薇:「僕…………れない」

朔夜:「なんて?」

焔薇:「僕、料理作れない」

朔夜:「お前それでも女子(おなご)か!!」

焔薇:「だって、鬼を斬ること以外してこなかったから…………」

朔夜:「あぁ、くそ。分かった。分かったよ!!! 作ってやるから、少し待ってろ!! 急いで配達終わらせてくるからよ」

焔薇:「ん、ん……」

焔薇:「はむ。はむはむ…………美味い!! え、これ美味しい!!」

朔夜:「そ、そうか」

朔夜:「《内心》どんだけ腹が減ってたんだよ。竈(かまど)で炊いた米、もう空っぽになるぞ。でもまぁ、こんだけ美味そうに食ってもらえると、作った甲斐があるってもん――」

焔薇:「《被せて》ほんとに美味しい!! 朔夜、見た目に反して料理上手なんだね!!」

朔夜:「失礼だなあんた!?」

焔薇:「褒めてるだけだよ~、あ、ご飯おかわり!!」

朔夜:「……たっく、あいよ。今盛るから待っててくれ」

焔薇:「分かった! 待つ待つ!! 美味い飯が食えるなら、いくらでも待つ!!」

朔夜:「はいよ。ほら」

焔薇:「ありがとう~、いやぁ。ほんと朔夜のご飯は美味しい!」

朔夜:「母譲りの腕前だからな」

焔薇:「お母さんお料理得意なんだ。教えてもらおうかなぁ」

朔夜:「……母さんは、外国の人だから。日本語も話せるけど、たまにイギリスの言葉が混じるから、会話が難しいと思うけどな。髪がこんな色してるのも、そのせいらしい」

焔薇:「へぇ~お母さん譲りの金髪かぁ。通りで日本語が流暢なのに、髪だけ外国の人みたいなはずだぁ。お母さん、お仕事はなにをしてる方なの?」

朔夜:「元々は商館で働いていたらしいぞ。今は実家だけどな。少し前に目を悪くしてからは、目が見えてないんだ」

焔薇:「そっかぁ。はむ。ん~! おいひい」

朔夜:「あぁ、それで俺が代わりに料理作るようになってんだけどよ――」

母:「朔夜ー? なに一人で話してるのー?」

朔夜:「あ、噂をすれば」

焔薇:「《もごもご》んぶ!? ど、どうしよう!?」

朔夜:「ん? なにが? え? なに動いてんだ? あー? 口に、沢山もの詰め過ぎてみっともない。ってか」

焔薇:「《もごもご》ほう!!」

朔夜:「今更気にすんなよ。見えてねぇし」

朔夜:「母さん! 前に話してた焔薇がまた来てたんだ! 手、引いてやるから、こっち来いよ!」

焔薇:「《ごくん》……ちょ、朔夜!? 僕、まだ心の準備が!!」

焔薇:「《内心》へ!? ど、どうしよう! 急にお母様と会うとか、え、結婚するのかな!? 僕、結納申し込まれるのかな!?」

母:「朔夜、ちょっと早いわ。もう少しゆっくり……」

朔夜:「なに言ってんだ。ただ会うのが恥ずかしいだけだろ? あ、そこ段差あるからな。気ぃつけてくれ」

母:「もぉ、なに急いでるのよ~」

0:焔薇、慌てて立ち上がると、お辞儀をする。

焔薇:「あ、は、初めまして! 不知火の里の焔薇と申します! あ、綺麗……」

母:「あらあら、嬉しいお世辞と可愛らしいお声が聞こえたわ? この声が焔薇ちゃん?」

朔夜:「そうだよ。焔薇だ」

母:「あらあら、ごめんなさいね? なんのお構いも出来ず」

焔薇:「いえ! ぼ、わたしの方こそ、いつも勝手にご馳走になってばかりで……」

朔夜:「なんで、今わたしって言ったんだ、なんかきめぇぞ?」

焔薇:「《怒りを堪える》……っ!!」

朔夜:「あいてぇ!?」

焔薇:「!?」

母:「こら朔夜、女の子にそんな口聞かないの! ちゃんと謝りなさい」

0:焔薇の代わりに母が朔夜を小突く。

朔夜:「いててて。……ご、ごめん。焔薇」

焔薇:「い、良いけど。僕も、ごめん。なんか、変に気合いはいちゃって」

朔夜:「だよな。わたしって言い方似合って無かった――」

母:「朔夜!!」

0:焔薇、母パート。

焔薇:「《内心》うぅ。お母様と二人っきりにするとか。何考えてんの朔夜は!?」

母:「ごめんなさいねぇ。急に私と二人にされても困るでしょう?」

焔薇:「は、いえ!! そ、そんなことは……!!」

母:「いえいえ。良いのよ。私もここに初めて嫁ぐことになった時は、そうだったし」

焔薇:「あ。そう、だったんですね。そうですよね、緊張しますよね」

母:「うんうん。あ、焔薇ちゃん。顔、触ってもいいかしら?」

焔薇:「はっ! はい! よ、よろしくお願いします!!」

母:「ふふふ。そんなかしこまらないで? 朔夜から聞いているか分からないけど。私目が悪くてね。見えないのよ」

焔薇:「……聞いてます。お仕事の影響ですか?」

母:「いいえ。もともと、目は悪かったの。でも、少し前にさらに視力が落ちちゃってね。それからはもうほとんど見えてないの」

焔薇:「そう、だった――ひゃい!? お、お母様!?」

母:「…………あら? これは、腕……かしら」

焔薇:「腕です、腕です! 顔は、こちらです…………」

母:「焔薇ちゃん。可愛らしい声なのに、腕の筋肉がすごいのね」

焔薇:「そ、そうでしょうか。こんな腕だと。嫌われますかね?」

母:「そんなことないわ。あの子を制するには、女はこれくらい強くないとね」

母:「……うん。焔薇の顔。想像通り可愛い顔をしているのね。それに、貴女の近くは温かいわ。まるで晴れた日の太陽みたい」

焔薇:「う、うぅ。そ、そんなこと。ないです……たぶん…………」

母:「うふふ。そうだ。顔を触らせてくれたお礼に朔夜が赤ん坊だった時のお話しよっか。気になるでしょう?」

焔薇:「!! はい、ぜひ! それはもう気になります!!」

母:「ふふ、朔夜はねぇ――」

0:一時間後。

母:「うふふ。ごめんなさいねぇ。私も混ざって話しちゃって。歳よりは先に、退散しようかな」

焔薇:「なに言っているんですか。十分お若いですよ」

母:「あら、嬉しい。よいしょっと」

朔夜:「あ、一人で行くなよ。付いてくって」

母:「いいのいいの。家の中くらい、ゆっくり歩けば行けるんだから」

朔夜:「ほんとかよ」

母:「ほんとよ~。じゃあ、焔薇ちゃん」

焔薇:「は、はい!!」

母:「またいらっしゃい。今度はお父さんにも会わせてあげるわぁ~」

朔夜:「《むせる》んぶ!?」

焔薇:「へ!? お、お母様!? そ、それは流石に!!!」

0:母、退散。

朔夜:「……急に会わせちゃってすまねぇな」

焔薇:「…………ん-ん。僕は楽しかったよ。お母様の話面白かったし」

焔薇:「それに、朔夜の? 赤ちゃんの頃の話も聞けたしぃ~?」

朔夜:「んな!? いつの間に!!」

焔薇:「朔夜が厠(かわや)に行った間にぃ」

朔夜:「あんときかよ、くっそ。てっきり、緊張してなんも話せないかと思ってたのによ」

焔薇:「あっはっはっは! 僕を甘く見たな? この愚か者めぇ!」

朔夜:「だっ! なんだよ、腕を掴むな!?」

焔薇:「ほれほれ~? あれー? もしかして女の子の腕も振りほどけないくらいに、朔夜は貧弱なのかなぁ?」

朔夜:「あぁ? 言ったな? この野郎、鬼人(オニビト)だかなんだか知らねぇが、これくらい……っ!!」

焔薇:「あれぇ? 全然振りほどけないねぇ?」

朔夜:「いや、絶対解く! ぐ、ぬぬぬぬ!!!」

焔薇:「無理無理。諦めなぁ~? ほれ!」

0:焔薇、腕を引っ張る。

朔夜:「うぉ!?」

焔薇:「おっと!?」

0:焔薇の上に、朔夜が覆いかぶさってしまう。

焔薇:「…………っ」

朔夜:「す、すまねぇ。急に引っ張られて。その。あの……べ、別に襲ったわけじゃ!!」

焔薇:「……わ、分かってるよ」

朔夜:「…………」

焔薇:「………………」

朔夜:「……………………」

焔薇:「お、降りてよ」

朔夜:「お、おう」

焔薇:「恥ずかしいし。この体勢」

朔夜:「だ、だよな!? わりぃ!」

0:朔夜、避ける。

0:焔薇も、ゆっくり起き上がる。

焔薇:「…………」

朔夜:「…………」

焔薇:「《内心》き、気まずい。あ、あれだったかな? 今のは、その。あのまま……?」

朔夜:「《内心》う、うぅ。今のは不可抗力だ。押し倒したわけじゃねぇ! で、でも。焔薇、良い匂いだったな」

焔薇:「…………」

焔薇:「………………」

焔薇:「さ、朔夜!!」

朔夜:「お、おう? なんだ?」

焔薇:「僕料理とかなんも作れないから」

朔夜:「……おん?」

焔薇:「こ、今度! 教えてよ」

朔夜:「良いぜ。焔薇でも作れるようなもん、母さん居聞いておくわ」

焔薇:「ほんとに!? やったぁ!」

朔夜:「つか、今までなに食って生きてきたんだよ」

焔薇:「そりゃ、イノシシの丸焼きとか。魚の丸焼きとか……」

朔夜:「生野菜の丸かじりか?」

焔薇:「正解! よくわかったね」

朔夜:「まじか。すげぇなあんた」

焔薇:「あ、その目は人を馬鹿にしているな! 目上に対して失礼だぞ!」

朔夜:「はぁ!? あんたなん歳だよ」

焔薇:「十八」

朔夜:「…………まじで年上かよ」

焔薇:「朔夜は?」

朔夜:「十六だよ」

焔薇:「うわ、本当に年下だったのかー」

朔夜:「当てずっぽうかよ、そう言うところ適当だなあんた」

焔薇:「嘘も方便! 時には虚勢も大事ってことさ! それに僕の勘はとても良く当たるからね!」

焔薇:「――!!」

焔薇:「《内心》あれは、里長のカラス。………………招集、か」

朔夜:「さいですか。まぁ、それ食ったら今日は帰れ――」

焔薇:「ご馳走様!!!」

朔夜:「早いな!?」

焔薇:「じゃあ、元気になった所で僕は退散するとしましょう!」

朔夜:「あ、焔薇!!」

焔薇:「んー? なーに?」

朔夜:「…………少しくらいなら送るぞ。夜道は危険だしな」

焔薇:「!! んふふ。ありがと、朔夜。でも今日は満月で外も明るいから大丈夫!」

朔夜:「そ、そうか」

焔薇:「あ、そうだ朔夜」

0:焔薇、朔夜に首飾りを投げる。

朔夜:「なんだ――うぉ!? あっぶねぇ……なんだこれ、水晶の首飾り?」

焔薇:「それあげる!! 今までのご飯のお礼!」

0:焔薇出ていく

朔夜:「え、いや、おい!! 行っちまいやがった……」

朔夜:「別に、要らねぇってのに。こんなの」

朔夜:「なんだよ。今日が最後みてえな、言い方しやがって」

0:その日の夜。

0:不知火の里にて。

0:焔薇視点。

0:焔薇がシラヌイの里に戻って来たところで話は始まる。

0:焔薇IN。

焔薇:「だから、あの時出現した鬼は全部――」

不知火の鬼人(女):「そうではなく、貴女の報告書には『一般人一名の前での討伐――』との記載がありました。我々鬼人(オニビト)の所業は隠匿せねばならないもの。だと言うのに、貴女はあろうことか鬼を斬るだけではなく、鬼化(オニナリ)までみせたと。その上本人は住んでいる村へ返す…………何を考えているんですか?」

焔薇:「え、いや。ほら、別にその子の命を奪ったわけでもないし――」

不知火の鬼人(女):「だから、そう言うことではなく――」

不知火の里長:「よい。お主は下がりなさい」

不知火の鬼人(女):「ですが、里長(さとおさ)――」

不知火の里長:「よい。あとはわしが話し合おう」

不知火の鬼人(女):「……畏まりました。では、私はこれにて失礼します」

焔薇:「べーっだ」

不知火の鬼人(女):「《怒り》……ふん!!」

焔薇:「あいて!?」

0:女は焔薇に拳骨だけ喰らわせて出ていく。

焔薇:「いててて。卑怯だぞ! やり逃げか!!」

不知火の里長:「……焔薇」

焔薇:「……なーに、おじいちゃん」

不知火の里長:「お前と言うやつはどうしてそう規則を守れんやつなのだ。言葉遣いもそうだが、我々鬼人(オニビト)は基本。人と触れ合うことが禁止じゃと言うのに、お前はよく人前に出る」

焔薇:「だって困ってる人が居たら救うのは当然のことでしょー? 僕はただ(人を助けてるだけ)――」

不知火の里長:「今回与えていた任もそうだ。一月前。わしは会うなと言ったはずだ。が、探してみればお主は人の家で飯を食ってるではないか」

焔薇:「そ、それは…………」

不知火の里長:「はぁ。お主はまだ新人じゃ。だからいろいろと外へ出す任を与えているが――」

焔薇:「僕は新人でも! 強い!! 守りたいから守るんだ! 触れ合うんだ! 僕は――!!」

不知火の里長:「《被せて》その『僕』と言うのもやめんか。女子(おなご)らしくだなぁ」

焔薇:「いーやーだ! 僕は僕なんだ! 他人にどうこう言われるのはごめんだね!」

不知火の里長:「…………ふむ。困ったものだな」

焔薇:「ふーんだ。わからずやのじいちゃんとはもう話したくないね!」

不知火の里長:「子供のようなわがままを言う出ない」

不知火の里長:「…………よい。であれば勝手に話させてもらおう。焔薇、先の戦闘の際、違和感を感じなかったか?」

焔薇:「………………?」

不知火の里長:「変に餓鬼の攻撃が軽かった。などそう言う程度のものでも構わん。もし、感じていたのであれば。もしかすると危険かもしれんのだ」

焔薇:「……どういうこと?」

不知火の里長:「餓鬼の血を。浴びはしなかったか?」

焔薇:「……僕が? 僕は浴びてないけど」

不知火の里長:「一緒に居た人間にはかかったと言うのか」

焔薇:「…………それが、なに?」

不知火の里長:「まだ。あくまでも調査中ではあるのだが。街近くに出ている鬼は、餓鬼の血。その匂いが付いている人間のみを、満月の日に襲うらしいのだ」

焔薇:「…………!!!」

不知火の里長:「何故、印を付け、満月の日にのみ襲うのかはわからないが――」

焔薇:「急いで朔夜のところに行かないと!!」

不知火の里長:「!! 待て、焔薇!!! くっ!!」

不知火の里長:「夏鈴(かりん)!! 」

不知火の鬼人(女):「はい。ここに」

不知火の里長:「子を集めよ。集まり次第、出るぞ!!」

焔薇:「《走り乱れた息》はぁ、はぁ、はぁっ!!」

焔薇:「くっ、朔、夜!!」

焔薇:「《内心》やばい。もう、息が切れる。もう少し鍛錬積んでればよかったかな? それとも、最近美味しいご飯食べ過ぎて、太った?」

焔薇:「《内心》鬼が出ないから腑抜けていた自分が憎い! そのせいで、まったく気が付かなかった。朔夜からしていた嫌な感じ。あれは餓鬼の血の匂いだ」

焔薇:「《内心》放っておけない気がしていたのは、それが原因。だから警戒していたのに!!」

焔薇:「でも!! 最近はその目的が変わってた! これはもう恋だ。僕は、朔夜に恋をしていたんだろう!!」

0:焔薇、鬼化発動。

焔薇:「鬼化(オニナリ)――迦楼羅焔(カルラエン)!!!」

焔薇:「絶対に誰も死なせない。朔夜も、お母様も! みんな、僕が、守る!!」

0:右翼を羽ばたかせ、焔薇は加速していった。

0:朔夜の故郷。

0:朔夜、焔薇IN。

朔夜:「さてと。今日やることはもうねぇなぁー?」

朔夜:「焔薇が居たから、少し夜遅くにはなっちまったが。ま、いいだろ――んん? なんだこの音、壁を、引っ搔いている?」

0:家の目の前から、おかしな音が聞こえる。

朔夜:「なんだぁ、盗人(ぬすっと)か? まだ明かりが点いてるってのに」

0:朔夜、戸を開けて威嚇する。

朔夜:「《大声》おらっ!! 壁をがりがりすんじゃねぇ!! うるせぇ――」

餓鬼:「ガァアァァァァァアア!!!」

朔夜:「――うわぁぁあああ!?」

0:朔夜。寸でのところで餓鬼を回避する。

0:すぐに戸を閉め、少し離れて、提灯を構える。

朔夜:「あれ、餓鬼だよな? なんで、こんなところに!! つか、なんだあの数!?」

餓鬼:「ガアアアア……!!」

餓鬼:「グゥゥゥゥウウ!!」

朔夜:「くそ!! なんで家の前にあんなにいるんだよ!!」

朔夜:「つか、え? どうすりゃいいんだ!? 焔薇が鬼は餓鬼であっても人には殺せねぇって言ってたのに!!」

朔夜:「!! 母さん! 母さんは!!」

0:朔夜。母のもとへ急ぐ。

朔夜:「母さん!!!」

母:「……? 朔夜? どうしたの? こんな夜遅くに………………」

朔夜:「母さん!! よかった。まだ、ここには……」

母:「……? なんの話? 朔夜? ねぇ、朔夜?」

朔夜:「そんな時間はねぇんだ! 立ち上がってくれ!!」

0:朔夜、母をどうにか立ち上がらせる。

母:「ねぇ、なんなの? なんで急に」

朔夜:「シッ!!」

0:朔夜、手で母の口を塞ぐ。

母:「んん?」

朔夜:「……母さん。盗人が来たんだ。なにが狙いかは、分からねぇが。だから、ゆっくり。音を立てずに逃げるぞ!」

母:「…………(こくこく)」

朔夜:「よし。行くぞ」

朔夜:「《内心》母さんに正直に鬼の話をしても良かったとは思う。だが、信じてもらえるかなんて分からない。むしろ動揺させてしまうんじゃねぇかと思うと、俺の口は開かず。気が付けば嘘を吐いていた」

朔夜:「母さん、段差に気を付けてくれ」

朔夜:「母さん、ここ右へ曲がるぞ」

朔夜:「母さん、次は――」

朔夜:「《内心》俺はずっと話した。目の見えない代わりに、耳の良い母さんが、餓鬼の音を。声を聴かないように。ただずっと、声をかけ続け。どうにか外まで出た。だが――」

餓鬼:「ガアァァアアア!!?」

朔夜:「っ!! 母さん!!」

0:急に正面に現れた餓鬼から母を守るため、母を突き飛ばしてしまう。

母:「きゃっ!! う、うぅ……」

0:壁に頭をぶつけて、母は気絶する。

朔夜:「母さん!! っ、うおぉぉぉぉおおお!!!」

餓鬼:「ガガ!? ガァアアア!!!」

朔夜:「う、るせぇぇぇええ!! 死ななくても、殺せなくても関係ねぇ!!」

0:餓鬼が朔夜に襲い掛かる。

餓鬼:「ガ!! ガァ!!」

朔夜:「くっ!! いいから、吹っ飛べ!!!」

餓鬼:「ガァァア!?」

0:腕を嚙まれながらも、餓鬼を蹴り飛ばし、母の傍に行く。

朔夜:「ぐ、うぅ!!」

朔夜:「畜生! 俺に、力があれば!! 焔薇のような、鬼を殺せる力が、あれば…………!!!」

餓鬼:「ガアァァァアアアアア!!!」

朔夜:「しまっ――!!」

餓鬼:「ガガガ!!」

餓鬼:「グゥゥゥウ!!」

朔夜:「くっそ……!!」

0:朔夜。餓鬼にわざと突っ込んでいく。

餓鬼:「ガア!?」

朔夜:「おらぁあああ!!」

餓鬼:「ガ? ウゥゥゥ……」

朔夜:「おい!! 神様でもなんでも居るなら!! 母さんだけでも助けてくれよ!!」

朔夜:「頼むぜ!! マジでよ!!」

0:餓鬼、三体同時に朔夜に飛び掛かる。

餓鬼ら:「ガアァァァァアアア!!!」

朔夜:「《内心》怖くて、手が動けねぇ……!!」

朔夜:「《内心》怖くて、足が竦む。気を張ってねぇと、倒れそうだしよ!!」

朔夜:「あぁ、くそ!! 約束、守れそうにねぇや。すまねぇな、焔薇――」

焔薇:「はぁぁぁぁあああ!!!!!」

餓鬼:「ガガ? グァ……」

焔薇:「はぁ。はぁ。はぁ……」

朔夜:「……焔……薇?」

焔薇:「間に……合った…………」

0:焔薇、その場に倒れる。朔夜は駆け寄って抱える。

朔夜:「焔薇!! おい、大丈夫――」

焔薇:「いやぁ。だいじょうぶ、だいじょうぶ~。ちょっと、力使い過ぎた」

朔夜:「そ、そうか。大丈夫なら、良いけど」

焔薇:「《疲れ》本当は、説教の一つでもしようと思ったんだ。きっと君は、自分の命を投げうってお母様を救おうとするだろうから。そんなことはしないで自分も、お母様も両方救われる方法を考えなさいって」

焔薇:「でも。朔夜。よく頑張った。ここからは――」

0:焔薇立ち上がる。

焔薇:「僕が!! 不知火、絶世の双剣使い。焔薇様が、お前ら餓鬼どものお相手仕ろう!!」

餓鬼:「ウゥゥゥゥゥウ!!」

焔薇:「ふん!!」

餓鬼:「ガガ!?」

0:餓鬼を切りながら、鬼化を使う。

焔薇:「悪鬼退散!!」

餓鬼:「ガァ!!」

焔薇:「我が対の剣がある限り!!」

餓鬼:「ガァアアアア!」

焔薇:「我が燃え盛る焔(ほのお)が絶えぬ限り!!」

餓鬼:「ガガ!? ガアァァア!!?」

焔薇:「貴様を焼き尽す!!」

0:焔薇、右手に持っていた剣を地面に刺して、炎を散らす。

焔薇:「朔夜!! 君はこっちに来て!!」

朔夜:「こ、この状況でか!? つか、母さんは!?」

焔薇:「大丈夫!! 僕の炎は、鬼しか燃やさないから結界としても使える!! 人間の君に害はないから、飛び込んでおいで!!!」

朔夜:「ってもなぁ!!」

朔夜:「《内心》炎は熱い。そう、認識して生きてきているんだ。その考えは簡単に捨てきれねぇ!!」

焔薇:「早く!!」

朔夜:「あぁ、くそ!! 信じるぞ、焔薇!!」

0:朔夜、炎を突っ切り。焔薇に抱き着く。

焔薇:「よし!! 行くよ~!!」

朔夜:「どこにだよ!!」

焔薇:「君を呪った鬼のところ!! 印を付けられた朔夜が居れば、何とかなる!! たぶん!!」

朔夜:「あんたそればっかだな!」

焔薇:「僕は、根性、勇気。気合と直感で構成されているからね!」

朔夜:「不安要素しかねぇ!!」

焔薇:「何言ってるんだ! 戦士には必要不可欠! 僕は人を守るために今を生きているんだからしかたないのさ!!」

焔薇:「……!! 朔夜、僕を信じて、今思いついた作戦を聞いてほしい」

朔夜:「作戦……? わかった。教えてくれ」

焔薇:「よしきた! 作戦は――」

0:全力で走りながら。

朔夜:「って、囮作戦かよ~!!」

餓鬼:「ガガガガアアア!!」

朔夜:「ひぃ~!!?」

朔夜:「《内心》森の中を、ひたすら走れって。簡単そうに言いやがって!! 人間の瞬発力、見余ってねぇか!?」

0:朔夜の脳裏で思い返される、焔薇の声(ちょっと可愛く)

焔薇の声:「作戦は以上!! 朔夜、君ならやれる! だから、ガンバ!!」

朔夜:「くっそがぁぁああああ!! 可愛く言えばいいとおもいやがってぇぇぇええええ!!」

朔夜:「やってやんよぉぉぉぉおお!!」

0:木の上で。

焔薇:「………………なに叫んでるんだろ。でも、すごいすごい! なんか、百匹以上の餓鬼と追いかけっこしてる!」

焔薇:「やっぱ脚速いねぇ! 僕に追いつくだけはあるってもんだよ!!」

焔薇:「さて~? お目当ての鬼は……?」

焔薇:「って、そんな簡単に出てきてくれたりしないよねぇ」

焔薇:「どーしたものかなぁ」

不知火の鬼人(女):「………………こんな木の上で、なにしているんですか?」

焔薇:「んー? 朔夜囮作戦だよ! 今あそこで追いかけっこしてる」

不知火の鬼人(女):「………………彼、人間にしては足が速いですね」

焔薇:「だよねだよね! って、うわわわ!? 夏鈴(かりん)!? いつのまに!!」

不知火の鬼人(女):「今更ですか? まぁ、良いです。では、討伐対象の鬼は貴女に任せましょう」

0:夏鈴、下に降りる。

焔薇:「夏鈴はどこに行くのー?」

不知火の鬼人(女):「貴女が起こした不始末の後始末です。恐らく餓鬼の血を川の上流で流したのでしょう? おかげで街の方でも餓鬼が暴れているんですよ」

焔薇:「……あちゃー。でも、それなら!」

不知火の鬼人(女):「あの朔夜と言う彼の方が印は濃いです。おそらく、大将の鬼はそちらにしか出ません。では、わたしはこれで」

焔薇:「行っちゃった。まぁ、僕は朔夜を――」

朔夜:「うぉぉぉお!? なんか出た!!?」

焔薇:「お!! 朔夜やりぃ!!」

0:木の上から飛び降りる。

焔薇:「さぁ、迦楼羅焔(カルラエン)!! もうひと踏ん張りだぁぁぁああああ!!」

0:と、同時に鬼化を使い、一気に朔夜のもとへ下る。

呪鬼:「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼……」

朔夜:「おいおいおい!! さすがに避けきれねぇ――」

焔薇:「はぁぁあああ!!!」

呪鬼:「嗚呼嗚呼嗚呼? っ嗚呼――!!」

焔薇:「成っ敗!!!」

呪鬼:「嗚呼嗚呼…………」

0:呪鬼、消える。

朔夜:「《乱れた息》はぁ、はぁ。はぁ……」

焔薇:「…………さて。大将は討ち取った。そこに隠れている餓鬼ども」

餓鬼:「ガガ!?」

焔薇:「逃げても良いよ? 正し――」

餓鬼:「ガガ――」

焔薇:「僕が逃がすなんてこと、ないけどね!!」

0:それから数日後。

0:不知火の里にて

朔夜:「………………」

朔夜:簡潔に言って元々住んでいた家は住めなくなった。餓鬼の群れが家を壊した。

朔夜:と、言うよりかは、駆け付けた焔薇が勢い余って壊してしまったからだ。

0:※実は朔夜を見つけるよりも前に鬼化の状態で家に突っ込み、大穴を開けた。

朔夜:そのため、俺ら家族は父を除いて引っ越すこととなり、今は――

朔夜:「《内心》不知火の里に居るわけなんだけどもよ」

不知火の里長:「………………」

不知火の鬼人(女):「………………」

焔薇:「あ、はははは」

不知火の鬼人(女):「あははは。じゃ、ない!!」

焔薇:「あいたっ!」

朔夜:「《内心》どう言う、状況なの、これ…………!!」

不知火の里長:「ふむ。朔夜。と言ったかな少年よ」

朔夜:「あ、はい。あってます」

不知火の里長:「うむ。急な事情で困っているとは思うが……」

朔夜:「………………」

不知火の里長:「君を。正式にうちの里の人間として迎え入れることとした」

朔夜:「!!」

焔薇:「やったぁ!! 朔夜、やったね!!」

朔夜:「お、おう……。でも……」

不知火の里長:「うむ。本来であればここから君を一切出さない。と、言うのが掟であるのじゃが。聞くに君は父の農家を手伝っているらしいからの」

不知火の里長:「外へ出る許可を。君には与える。正し、そこにいる焔薇のように里のことは話さぬこと。よいな?」

朔夜:「!! はい。わかりました。ありがとうございます、気を使っていただいて」

不知火の里長:「なに。これくらいは良い。君は今回の件で大きな功績を出しているのだからな」

不知火の里長:「それに――」

焔薇:「うぅぅ!!! 」

焔薇:「朔夜! 飛ぶよ!!」

朔夜:「へ!? ちょっ!! 急に!?」

0:焔薇鬼化を使用し、跳ぶ。

不知火の鬼人(女):「あ、こら焔薇!!!」

朔夜:「たっか!?」

焔薇:「僕の鬼化(オニナリ)の迦楼羅焔は飛翔出来るんだ。見て、朔夜! 綺麗でしょ!!」

朔夜:「……そうだな、この眺めは。綺麗だと、思う」

焔薇:「でしょ~? これからも、一杯、僕といろんな景色を見てよ!」

朔夜:「お、おう」

焔薇:「……朔夜」

朔夜:「なんだよ――!?」

0:焔薇、朔夜にキス。

焔薇:「好きだよ、朔夜」

朔夜:「!? え、い。や……俺も」

0:朔夜、焔薇の手を取る。

朔夜:「俺も、お前が好きだ。多分。いや、絶対。お前に守られてばかりかもしれねぇが。それでも、お前が帰って来れる家は、俺が守るから……!!」

焔薇:「うん!! 美味しいご飯、期待してる!!」

朔夜:「おう! 任せてくれ」

焔薇:「ん~! 朔夜、好き!! 愛してる!!」

朔夜:「《照れる》………………」

焔薇:「あ、でもね?」

朔夜:「おう?」

焔薇:「この迦楼羅焔の右翼。長くは、飛べないんだ。あくまで、跳躍補助みたいなものだから……」

0:急に落下が始まる。

朔夜:「う、うおぉぉぉぉおおお!?」

焔薇:「落下が始まるときには、口を閉じてね!」

朔夜:「《絶叫》だから先に言えっていってんだろぉぉぉぉおお!!!?」

0:END。初稿R4.609。おそらく五十分台本。

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【鬼を討つ者 炎は絶えず、受け継がれる】 川端 誄歌 @KRuika

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