三人目……(二)【脆き平穏の忌譚】
◆◆◆
――ついさっきの、思い出した。
曰く『人ならざる存在達が
のこのこと奥に入ってくんじゃなかった。
バーガーショップから出たら繋がった非現実の時点で異常性やら危険性とか気づけよウチのバカ!
戸惑いと、恐怖やら、不安とか、そんなん。
噂のこと認識したから、押し寄せる感情の波。
強気を
「ぅっ……っ……!」
ウチはまるで『
対して、腕を伸ばせば届く程度の距離で固まってるウチの姿に、
https://kakuyomu.jp/users/1184126/news/16818023213023497228
見るな。見るなよ。見んなって……!
ウチへの視線をやめろよっ! やめ――ッ!
「…………んぐっ!?」
――急に
あ、そうか。緊張で息すんのも忘れてたわ……。
視線。視線。視線。やめてくれ。やめてよ。
走馬灯みたいに浮かぶ、最悪な昼間の記憶。
ウチが悪い、そうだよ。
でも一緒になってやったのに責めるのかよ。
友達て言ってたのに、ウチだけ
聞こえよがし、皆で
こうなるなんて、思わなかった。許してよ。
匿ってよ。庇ってよ。助けてよ。一人でも。
視線。視線。視線。感情の荒波は重なって。
最悪な昼間の出来事、戸惑い恐怖と不安で。
逃げられない。逃げたくない。逃げさせて。
……逃げ込めるとこが、欲しかったんだよ。
昔優しくしてくれた遠い親戚の兄みたいな。
ウチをわかって、引っ張ってくれる逃げ場。
そんなとこ、どこにも無いってのにさ……。
「……はぁ……はぁ……」
息すんのを思い出して、視界が晴れてきた。
「スゥ……はぁっ! すぅっ、はぁ――!」
嫌な追想に頭を押さえて、深呼吸をしとく。
現実でウチが見詰め合ってる相手に向かう。
心に残ったのは
命の恐怖、それはウチの心を少し軽くした。
「っ……なーに見てんだよ……!」
うわべの
頭を
どうすりゃいい? 目をそらして平気か?
でも視界から外してみたら、その瞬間に頭から飲み込まれるなんてウチは嫌だぞ、ホントにっ!
なぜか動画共有サイトの『オススメ』で出てきたアレ。油断した獲物に食らい付いて、ゆっくりと飲み込んでく
「……お客様。居るそれは気にしなくていい。
いんてりあ? おぶじぇ? みたいなもん」
そんな感じで、ウチが無駄に数分はダラダラしてたから給仕の幼い少女にそう言われたわ。
「こんなオブジェがあるかっての……!」
「今のとこ、そこに居るだけの置物。
何なのか
「置物てよ」
そこに居るだけ? 何もしない?
ならウチは、びくびくして損したのか?
ホントだな? 食べられたりしないんだな?
「さっさと座るといい。それかひやかし?
頼むものべつに無いなら、お帰りはあちら」
……そうか、普通に帰っていいのか。
へ。帰っていい? 後ろから襲われないか?
「――まぁ、ナズナ。約束でしょう?」
「ん。……はぁい。母様とのやくそく――。
お客様のお出迎えから、お見送りまで。しんせつていねいに、まごころをもって接客します」
その
で、帰っていい……て? 人を食べる店がか?
ウチの解釈が間違ってんのか? ……そうかも。
頭が冷めたわ。もう一度、記憶を整理だなこれ。
あー? あー! たぶん考え違いしてたわ。
噂の内容をよく思い起こしてさ。前提でここが噂の店だと決め込んでだけども、噂じゃあ別に『やって来た人間を直接補食する店』ってわけじゃなかったけな。ウチは『人を食べる店』って聞いた部分のとこの印象が強く先立って、そのまんま
マジにダサいな、勘違い長々と引っ張って。
ウチはバカ丸出しだ。反省、肩の力を抜く。
そのおかげで完全に緊張がとけたから、
「この……コイツは……?」
ウチはそう
とても個人的なウチの
流石に倒してそのまま放置する程まではウチも性格が終わってるわけじゃないから、鱗とか生えた生理的に苦手な腕とかを直接触らないように工夫して座布団を引っ張って起き上がらせてやる。ウチに起こしてもらったお礼なのか、先に倒されたことへの文句なのか「むぅー!」と変な唸り声で返された。
彼女の顔は仮面によって隠され、唯一そこだけが見える
「ん。それ? 気に入った? 欲しい?
物買ってくお客、そういうお客もたまに居る。
お客様はお目が高い。母様……売っていい?」
「ナズナ。うふふっ、悪い子ねぇ……?
もぅ
「……ぅはぁい。ごめんなさい……。……怒られてしまった。ナズナから母様や姉様達を奪いかねないあのキケンな『妖怪トカゲ女』を成り行きで始末する計画だったのに……んむ、だめか」
店員二人の声は聞き及ばないでさ。
ウチはまた個人的な意趣返しで、今度は彼女の龍な仮面を取ってやろうと手を掛けた。いやまぁ、彼女の素顔に興味があっただけだけど。なんか確かめないといけない気がしたのもある。彼女からは「むー!」とか「ふにゅー!」とか鳴き声と指で些細な抵抗をされて、仮面がズレた瞬間に、ウチは指先に熱を感じて、腕ごと反射的に引く。指先を見ると小さな歯形がついてて、徐々に
指先の血をポケットティッシュで
そしたら噛んだ本人だってのにさ、仮面越しに綺麗な蒼い瞳を揺らして『じぃー』ってウチのことを心配そうに見てやんの。うざ、うざすぎ。
なんだよ小さな傷だよこんなんって、指を見せて手の平をヒラヒラ振ってやると。その手の平をいきなり掴まれて、結構力強く引っ張られて、ウチは身体ごと『ぐいっ』と持ってかれててさ、なんか自然に隣の座布団に座らせられてんじゃん。
「…………ここ、座って良かったのか?」
ウチの言葉に彼女は、ウチの指をハンカチの上から壊れ物みたく抱きしめてきてよ。きっとたぶん『肯定』的な感じで応えてくれて。手の鱗の肌触りは気持ち悪かったけど。少し、嬉しかった。
「じゃ、座ってやるよ……」
ウチはあんま普段は使わない顔の筋肉で笑う。
彼女も仮面の内で微笑んでくれてる気がした。
もしも。ウチがこんなんじゃなけりゃ、アイツともこうやって付き合う事もできたのか? 友達と思ってた奴らに、見放されたり裏切られることも無かったのか? 両親に愛されることもできた? 死んだ親戚の兄に好きだっつって伝えられて、ずっと近くに居てもらうこともできた? あり得ねぇ。絶対にウチじゃ無理だ、無理だっての、現実はこんな失敗作だから。
ウチが座ると、店員二人が近付いて来た。
「聞いていい? ウチは物理的に食われるとかそんなん無くて。帰りたいなら、今帰ってもいいの?」
ちょうどいいから聞いておく。
「
……当然ですわ。御客様であることを他ならぬ御客様自身が放棄なさるのでしたら、店に引き留める理由は無く。
はんなりと丁寧で優しげに言ってくれるけど、彼女は喋るたびに一々言葉が難解で長くてクドい。『帰っていい?』に『はい』で良いだろ。ていうかさ、
「幸せ、なんてよ……ウチには……ッ!!」
質問に返された言葉。『幸多からん』ての、
その物言いがすごいウチの
……この感情が、八つ当たりなのわかってる。
けども幸せを得られる、帰る場所なんて無いの。
「帰っていい……なら、帰りたくないわ」
「まぁこれは、美しい
うふふ、念の為に申し上げましょう。
「ん。座ったなら、頼むといい。
めにゅーは、お客様だけのとくべつなもの」
「…………」
「貴女は
「めにゅーで、どうなるかはお客様による……。
けどたいていは、ろくなことにならない。そうやって注意しておいても
「……意味わかんないっての」
って口にしたけど。でも、そうなんだ――。
たとえば『別人になりたい』とか。叶うのか?
いや、そんなん興味ない。ウチは望まない。
なら、叶うというならウチは何を願うんだろ?
――バカバカしいよな。へ? 何がって?
こんなの、あからさまだろ。よくある悪魔の誘い的なやつに決まってんじゃんか。話に乗るやつがバカバカしいって話だよ。でもウチは、バカだから。客の『全てを引き換えに』して【“今”とは別の生き方を提供してくれる。人の弱さを食らう店】てさ。
どうせ明日には破滅するかもなら……てさ。
「ナズナからの忠告。あんなことになるかも……?
あの妖怪トカゲ女も、色々あった成れの果て」
置物って、商品
ともかく。
もし同じような末路を辿ったらさ。ウチも置物みたいに扱われて、
……それはそれで、良いかもしれないな。
……なんて思ったウチは、もう壊れてるんだ。
……ウチは。
……なにか……何かが欲しかったんだ。
……きっと………だから頼もう。かな、てさ。
◆◆◆
「強く
えぇ確りと。
指示されるままに目を
ウチは闇の先にある自分の
「どうぞ。握り、折り、
是非とも触れ合い、味わって下さいませ――」
それは、
「――
こちら。
https://kakuyomu.jp/users/1184126/news/16818023213306387350
◆◆◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます