MISSION 15 :大雀蜂の大要塞<フォートレス・オブ・ホーネット>









 ────ズン!!!



 その一歩が、火星の荒野を揺らす。



 ハンナヴァルト領より100km地点の荒野。


 もはや、その巨体にとっては『そんな距離』しかない場所。


 その身がただ『16.5個分』進めばもうすでに目と鼻の先。


 まるで翼の様に広げる、空母の甲板と戦艦の船体の様な構造物。


 摩天楼のビルさながらの太く長大な6つの脚が生える胴体の艦橋を中心に、武装と艦載機をたんまりとその両翼に詰めて進む巨体。



 火星統一政府軍、陸上艦隊主力。


 エンタープライズ級超弩級歩行式移動要塞、


 『フォートレス・オブ・ホーネット』



 火星に存在する最大級の兵器、


 その一つである。





「着弾確認!ハンナヴァルト領外縁部基地へ損傷!

 弾着精度問題なし!」


「砲雷長より艦長へ報告!!発達した積乱雲による降雨が発生!

 雨足が強く、気圧と雨の影響で以後の弾道計算に修正が必要とのことです!」


「通信長より艦載機部隊から報告!

 予想より空中が荒れております!!

 空爆の中止を要請、如何されますか?」





 『フォートレス・オブ・ホーネット』ブリッジ兼CIC内部。


 ポツポツ、とブリッジの外を映すガラスに雫が当たり始める。


 艦長の椅子に座っている彼女は、静かに目深に被った軍帽の鍔の下から鋭い視線を外へ向ける。



「雨か‪……‬‪……‬

 朝のニュースの占いでは傘がラッキーアイテムだったな。星座占いは最下位だったからな」



 そして出てきた言葉は、存外緊張感の薄い言葉だった。


 艦長席に座る彼女は、その視線の鋭さ以外はまだ10代ほどにも見える姿だった。

 ネオツーデザインドの特徴の虹色の角が生える頭髪は黒髪の肩までのロングであり、本人曰く『上官として最小限の格好』と言うコートなどを略したミニスカートの制服に身を包み、ブーツをはめた脚をちゃんと揃えて地面につけている。



「‪ノア・グレイブ艦長?貴官も冗談を言うのだな」


 ふと、背後から艦長席に座る彼女───ノア・グレイブ火星統一政府軍大佐に声をかける、より偉いと見て分かる格好の金髪の女性。



「冗談に聞こえましたか、グレイン提督?」



 制服と勲章が多くつけられたコートを持つカナデ・グレイン中将に対し、フッと笑いながらそう言葉を返すノア。


「冗談ではないのか?

 占い、というのは所詮古いテンプレートと化した気休めのものだと思っているのだが‪……‬

 貴官は本気で信じるのか?」


「‪なるほど、流石は中将まで上り詰めたお人だ。全て実力で戦えた者の言えるセリフですか」


「?

 そもそも、戦いに占いが関係あるのか?」


 明らかに、バカにした皮肉だと、周りの兵は見抜けたが、当の本人は一切気付いていなかった。


 いや、とノア本人も言い方が違うと思い至る。


「‪……‬‪……‬いや失礼。私自身の僻みの言葉です。

 私も貴女ほど優秀な遺伝子で作り出されたのならそう言えるのでしょうが、生憎と私は『下位互換』として生まれた人生でしてね。


 この地位に、この艦を任された大役も、少なからず『運』が関わっている」



「運?

 バカな‪……‬元は凄腕の機動兵器軍のパイロットだった上に、戦術家や戦略家としての適正もSランクと言われる貴官が?」


「たまたま『SSランク』がこの世に存在しなかった。

 それだけですよ」


 ふぅ、とグレイン中将のよく分かっていない顔から一度視線を逸らし、今一度指令を出すノア。



「通信長、艦載機軍へ命令だ。

 艦載機軍は、出撃分の3割は対地爆装。

 残り全機は、対機動兵器装備を済ませ迎撃態勢へ」


「了解」


「!?

 ちょっと待て艦長!?攻めるのではないのか?」


「攻めるのは向こうですよ提督。

 彼の敵は、あの積乱雲の中おそらく決死の突撃をする」


「‪……‬‪……‬セオリー通りではないと思うが、根拠は?」


「私なら、格上相手にセオリー通りなどやりませんよ提督閣下」


 カナデの不安そうな顔の問いに、ノアはただ鋭い視線を窓の外へ外さず、口の端を曲げて言う。


「相手は旧人類。今はこの星の支配者に一番近い存在だ。

 古い血だが、これまで生き残ってきた。

 優秀じゃないなら優秀じゃない戦い方を心得ているであろうし、決して油断はできない。


 それとも、もっと良い案がおありですかな、提督閣下?」



 不適な視線だった。鋭さは、油断がない証拠だった。

 無論、カナデの考えはこの艦長のプランとは真逆だ。

 こちらが有利な以上、ただ圧殺して潰せば早い。


 早いが‪……‬‪……‬‪……‬



「‪……‬‪……‬どのみち、勝つのは我々、火星の正当な統治者側だ」



 カナデは、この一隻だけの、そして一隻以上必要ない艦隊の提督として決断する。



「ノア艦長、そのプランで進めてくれ。

 間違っていても、後で修正は可能だろう。戦場は生き物だ」



 とりあえず、今はこの艦の長に従う。



「‪……‬‪……‬貴女やはり、私より優秀だ」


「?

 そう言うふうに作られたじゃないか、お互いに」



「だが、一つだけ。

 これをやるにあたって修正ができるかは怪しい、何せ敵には逃したあの兵器がある」


「‪……‬‪……‬だがアレは欠陥だ。

 使えても一発だろう?」


「一発で戦況が左右される例は、地球にも多かった歴史がありますよ?

 油断しないことだ。追い詰められたイタチはトラより危険だ」



 やはり、ノアは外の雨空を見る。



(‪……‬油断していない、ということか。

 オールドタイプといえど、彼女は決して)





 ノアを見るカエデは、やはりどうしても自分たちと違い能力的には劣るはずの相手が、今もなぜ粘れるのか不思議な部分はあった。


 ‪……‬‪……‬差別なのは分かってはいるが、どうしてもそう教えられたし事実そういう部分はある。


 だが、数日前に行政の代表であるカヨコに言われた事実も理解はしている。


(そもそも、油断するべきではないのか。

 内心見下している、か。見下しすぎて憐れむ様では、足元を掬われるというのも事実か‪……‬)



 カエデも外の景色を見る。

 あの雨の向こう、早く陥落するはずだった領地で粘る民たちは、今、


 何を仕掛けるつもりなのか‪……‬?




          ***



 どうもー、一旦帰ってきた傭兵系美少女の大鳥ホノカちゃんでーす。誰に言ってるのこれ?



 ま、私の愛機のペラゴルニスは、案外安定した着陸を終えて基地に戻れたのであった。

 にしてもすっごい雨!土砂降りじゃん。


 フロート脚なんで脚で動けないんでね、用意してもらった牽引車で無事な格納庫へ運んでもらって、はいようやく雨晒しじゃない場所!この機体のコアパーツ、コックピットハッチが上にパカって開くから雨の日出たくないんだよね!


「ふいー、ってあれ?」


 と、私と、先に戻った妹の傭兵ルキちゃんの機体とは別に、見慣れた機体が急いで運ばれてきた。


 軽量逆関節、ペラゴルニスと同じグレーと黒とちょっと黄色の私カラー!


「ハーストイーグルじゃん!」


《申し訳ないけど、5万cnカネーで速達便させてもらったよ》


「ヴァッ!?」


 と、ここで古参相棒AIなチンチクリンロボちゃんのコトリちゃんと、それを胸の前で抱えてやってきた頼れる私のオペレーターのカモメちゃんが登場だ。


「えー、もうほぼ500万cn目前じゃーん!!

 また稼がないといけない系ー!?」


「それだけ自体は切迫しています。

 今より、合同ブリーフィングを行いますので、さぁ」


 カモメちゃんのマジボイスだ。

 とりあえず、強化済みの私もカモメちゃんも、7m近くあるロボからジャンプして華麗に飛び降りて、さっそく人だかりの方へ。




「はいはい、注目!

 やぁ、ボクはシルヴィア・アルギュロス。ランク8でエクレール・メカニクスの天ぇーん、才ッ!美少女技術者さ!


 さっそくで悪いけど前提を説明させてもらうよ、全員聞いてくれ!」



 とりあえず、ルキちゃんと友達のエーネちゃんの間に来て、まだおチビちゃんなのに隣のルキちゃんと今の私並みに生き恥晒してる様な露出度のパイスーなおチビちゃんことシルヴィアちゃんが話し始めた。



「ボクたちエクレールの本社は、爆破される事なくコイツに破壊された」


 と、後ろにあるホワイトボードに、何かの機械で映像を映すシルヴィアちゃん。


 そこにはヨークタウンと同じ、巨大な移動要塞の姿があった。


「これは‪……‬ヨークタウン!?」


「さっきも言ったけどその『姉妹艦』さ。


 名前は、『フォートレス・オブ・ホーネット』。


 地球の日本地域に今も稼働中の『ファイト・オブ・エンタープライズ』、


 そして火星の『エデン・オブ・ヨークタウン』の同型のヤバい要塞だ。


 ヨークタウンと同じく、主砲は3連装50mm口径レールキャノン。

 ご存知の驚異の射程は半径100kmもある。


 その上で、エンタープライズが『バランス型』、

 ヨークタウンが『空母機能特化』なのに対して、


 このホーネットはゴリゴリの『火力特化』。


 主砲以外にもヤバい副砲が満載の、文字通りの『要塞』なんだ」



「何ということかッ!!!!!!

 アイツら‪……‬こんな隠し玉を持っていたというのかァッ!!!!」


「落ち着きなさいロート!」


 あの男の熱血貴族さんも、こここ領主のヴィオラさんに嗜められるぐらいに、多分恐怖を覚えてるんだろうね。そういう顔だ。


「もっと最悪なことを教えてあげようか、インペリアルの貴族の方々。



 ご存知、この移動要塞の恐ろしさは、艦載機満載な事でも、長射程の火力だらけな事でもない。




 通常型Eシールドの高出力版の『プライマリーシールド』と、

 エネルギーの渦を起こす事で通常のレーザー兵器や拡散弾などに耐性を持つ特殊な『セカンダリーシールド』。


 ヨークタウンにもあるこの2種複合型の強力な非実体シールドが、おおよそどんな攻撃も防いでしまう。


 一歩どっちかを突破する手段はいくらでもあるけど、大半がもう片方のシールドに防がれてしまって、もう片方の突破にリソースをかけているうちにもう片方の機能が回復するという、ある種の無限ループみたいな構造になっている。


 この機能は、1週間前かそこらのヨークタウンへの無差別無人兵器爆撃によって証明されただろう?


 突破するのは容易じゃないと、ね」




 確かに。


 私は、あの時ヨークタウンでの戦いを覚えている。


 とてもじゃないけど、ヨークタウンに戻れない無人兵器達の大爆撃。


 それでも、街の名前の由来になったヨークタウンは、

 周りの街と違って、唯一原型を留めていた。






 私達は頼もしい帰る場所と同じ、

 ガッチガチに硬い、攻略不可能な要塞を攻略しないといけなくなったらしい。





「ヨークタウンと同型の移動要塞と戦うとして、こちらの戦力でどうにかなる物かしらね?

 私達インペリアルの兵は、たとえ勝ち目がないと分かっていようと挑むだけの気概があります。


 でもこの場の傭兵スワンは違う。

 あなたも傭兵スワンなら、彼女らが命を賭けても良いと言えるだけの金額に収まるだけの攻略作戦‪……‬それがある上で喋っているのでしょうね?」




「無論だよ。

 今回の作戦は、企業としてエクレール・メカニクスの資産と研究結果をぶつける。

 それで勝てるっていう可能性は、まぁ3割ぐらいだけどあるよ。


 その一つが、外にあるあのボクたちエクレール・メカニクスの脅威の大発明、」




 ブォォン、と近くのハッチが開く。



「アレが、名付けて『UFOキャノン』。

 正式名称『無限飛行軌道UFO弾頭安定射出装置』だ」



 そこには、あの大型の輸送機で運ばれてきた、それでもはみ出る様な巨大な‪……‬


 いやもう、巨大すぎる砲があった。



「デカいわね」


「アレはね、ご存知eX-Wの関節やブースターに仕込まれている慣性・重力可変機構の真の用途である、恒星間航行用の『亜光速推進器』である機能を、ボクたちエクレール・メカニクスの力で『弾丸』にした物を射出する超兵器だ!


 ‪……‬‪……‬ただアレちょっとだけ妥協の産物でさー、


 機体を超加速させてすごい運動性能を生み出すけど制御が難しい機構であるUFOをただの質量弾を発射するのに使うっていう脳筋利用兵器なんだよね〜。


 もっとスマートにやりたかったんだけどさー、悔しいな〜」


「あのUFOの速度で突っ込むだけでも破壊力はやばいよ。私使ってるから分かるもん。最近それが理由で使ってないし」


「ホノカちゃんに同じく」


 うんうん、とやったことのあるエーネちゃん共々うなづく。

 周りからちょっと化け物を見る目で見られた。悲しい。


「たいそうな兵器ね。

 でも砲である以上知りたいのは、当たるの?」


 と、ヴィオラさんがある意味当然の質問を投げかけた。



「うーん、ものすごく弾が真っ直ぐ飛ぶから当てやすいっちゃ当てやすいけど‪……‬

 問題は、この砲自体にはFCSとか複雑な照準は無くて、eX-WかMWを外部取り付けしてそれのFCSで狙い撃つ必要があるんだ。

 正直、そのパイロットの腕次第で命中するかどうかは決まるね?」



「じゃあ何?

 この巨大な兵装は、事実上「NGウェポン」ってこと!?」


「‪……‬‪……‬ついでに言うとね、めっちゃエネルギー食うからさ‪……‬出来れば、うちの社の出力特化ジェネレーター3つ繋げた上でリミッター解除して一発撃てる感じで」


「呆れた‪……‬本当にNGウェポンじゃない」


 ヴィオラさんに同じく、希望って言うにはロマン仕様すぎない??





「もう一個不安材料この際言うと、

 これで撃ち抜けるのは計算の上ではホーネットの『セカンダリーシールド』からなんだ」



 ん?

 セカンダリー、って‪……‬じゃあ一枚目のシールドは??


「どういうことなの、天才おチビさん?」



「前提として、エンタープライズ級超弩級歩行型要塞の、唯一にして死ぬほどつきにくい弱点についてまず教えないといけない」



 再び、壁の要塞の映像の前にくるシルヴィアちゃんが説明を始める。



「ヨークタウン、ホーネット、その両方の火力と防御力は脅威だけど、同時にその二つを支える構造的な欠点がある。


 強固な2層のEシールド、特にレーザーすら弾く2層目のセカンダリーシールド発生器は、


 移動要塞の動力源とほぼ『直結』されている」



 移動要塞を模したCGの、羽みたいに広がった戦艦みたいな構造の部分にあるEシールド発生器的なところと、その中央の動力源っぽいやつと赤い線で繋がっているイメージ映像が流れる。


「もちろん動力源へのダメージも少なくはないけど防壁はある。

 ただね、さらにいえばこのエネルギー流入路近くには必ず、巨体を支えるその他のエネルギー流入路が併設されていて、ここにエネルギー負荷や断線の影響が出るんだ。


 これは一部の機動兵器でも度々ある歴史的な欠陥の一つで、


 結論を言えば二つのシールドをダウンさせると、一時的な機能麻痺────


 つまりあの巨体がスタッガーする」



 さすがに周りがどよめく。


 その難攻不落な要塞の最大の障壁ってやつが、つまり逆に相手の弱点を生み出す物だというんだ。



「さらにいえば、この移動要塞の各所に作られたカタパルト、兵装、エレベーターに至る全ての施設は、

 その方が使用上都合がいいからか、これらもジェネレーターとのエネルギーバイパスが直結されている。


 つまり、スタッガーした状態で砲台なんかの施設を破壊すれば、要塞は内部から簡単に崩壊するってわけだ」




「待てぇッッ!!!

 言うのは簡単だが、つまりはッ!!!!

 難攻不落の要塞の堅牢な防御を正面から破壊した上でなら勝てると言うことではないのかッッ!??」




 と、意外にも頭のいいことを言う、えっと‪……‬そうそうロートさんだっけか。インペリアルの男の貴族さん。やっと名前思い出した。



「そういうことだよ、インペリアルの貴族さん」


「できなくはないが、死ぬほど犠牲が出るぞッ!?」


「だから、成功率上がっても3割ってことなのさ。

 0じゃないだけマシな作戦だ」



 おどけている様で、目がマジだったシルヴィアちゃん。


 ‪……‬つまりだけど、私たちは、


 結局、移動要塞の一番硬いシールドをなんとかひっぺがして、直接殴り込むしかないわけだ。


 言わなくてもみんな分かっているけど、まずEシールド到達するまでにもボコスカ撃たれるわけだ。

 もちろん要塞の武器だけじゃなくて、相手はいくつか機動兵器持ってるわけで、ボコスカ撃たれる密度も上がるし場所も広がる。



「‪……‬‪……‬質問おチビちゃん!

 一層目のEシールドって、どうやって破るの?」


 なんとなくは分かるけど、一応聞いておこうか。



「さっきもチラリと言ったけど、一層目は出力が高いだけで通常のeX-Wや高級なMWマシンウォーカーなんかのEシールドと同じだね。

 レーザーで貫通するし、プラズマやシールド全体の広範囲な攻撃で大きく減衰するし、同じ波長のEシールドを攻撃転用したブラストアーマーでもまぁ‪……‬具体的に何発ぶち込むかは計算しないといけないけど、一応剥がせるね」



「おー、なるほど!


 で、当然全部至近距離で?」



「少なくとも一番有効なブラストアーマーはブラストアーマー範囲内で当てないとね。


 ちなみに敵の射程はもうご存知だろうけど100kmであり、


 eX-Wをはじめとした機動兵器の最大射程はスナイパーキャノンでも10kmかそこら辺だね」




 知ってた。

 いやマジ。知ってはいたけど一応聞いてみたんだ。


 隣のエーネちゃんも含めて、予想通りの嫌な答えにため息出ちゃ、



「そんなの無理じゃん‪……‬戦えないじゃん‪……‬!」



 と、新人傭兵のギャル子ちゃんこと、ハルナちゃんがすごいガタガタ震えて言葉を搾り出していた。



「‪……‬‪……‬えと、ハルナさ、大丈夫」


「大丈夫なワケないでしょ!??

 正気じゃない!!!!

 そんな‪……そんなバカみたいに強い相手にどう戦えって言うんだよ!!!」



 ‪……‬‪……‬‪……‬






 言っちゃったよ、この子‪……‬!


 今、全員思ってたけど、言わなかった事を、言っちゃったよ‪……‬!!




「無理だよ!!!あーし逃げる!!

 戦ったって意味ないじゃん!!死んじゃうじゃん!!

 もうヤダぁ!!!なんでこんなことに‪……‬!!!」



「‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬」



 うぅ、と泣き始めるハルナちゃんだけど、誰が責められるんだろうか。


 正直、無謀な戦いということを説明している状況で、ましてあの子は傭兵がどういう物なのか知らないで傭兵になった様な子だ。


 いや私もそうだし、そりゃ嫌だよね。


 見なよ、隣のエーネちゃんも実際嫌そうな顔してる。


 言葉に出さないだけで、ここの領主のヴィオラさんだって内心嫌だろうし、

 大声を出して否定しそうなロートさんだって、地面を見てなんともいえない顔で震えている。

 本来ここを守るべき人々でも、そりゃこうなる。


 第一、希望の兵器の効果を出すには、どう足掻いても死ぬ必要がある戦いに挑まないといけない。


 嫌だよね、あー嫌だ嫌だ。



 ‪……‬‪……‬ここだけの話、私はみんなにずっと黙ってたことがある。



 実はさ‪……‬貯金が500万cn、溜まってる。


 500万cn

 傭兵スワンの契約を解除して、ただの女の子に戻れる金額。

 しかもちょっと1万ぐらいは余裕がある。


 1cn=1万円。私の住んでたユニオン領通貨で1万円。


 つまり1万円×1万‪……‬とにかくお金いっぱい!


 当面の生活費もあって、もはや戦う理由はない。



 というか、金に余裕なくても、これはハルナちゃんに同意だ。

 無茶苦茶な戦いに挑む理由なんて‪……‬‪……‬‪……‬




 ‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬






《そこの新人ちゃんさ、諦めた方がいいよ》



 ────この重苦しい空気の中、

 最初に口を開いたのは、私の相棒AIにして‪……‬

 その中身がかつて地球で戦っていた傭兵の人格と記憶のデータのコピーなら、事実上の大先輩であるコトリちゃんだった。



「諦める‪……‬?」


《ここで逃げてもさ、逃げた場所からまた逃げるだけさ》


「は‪……‬?」


 コトリちゃんの言葉に、思い出す。

 そうだった‪……‬‪……‬もっと最悪な事実があったんだ。


《ここは最終防衛ライン、とまでいかないけどさ‪……‬

 このハンナヴァルト領を超えたら、もうインペリアルの土地はほぼ落ちたも同然なんだよ。


 ここと隣二つの領土が落ちたら、一気に人類生存圏まで‪……‬君が多分住んでたあのバリアの土地までに移動要塞の射程が被る》


「だ、だからなんだよ‪……‬?」


 カモメちゃんにそっと下ろされたコトリちゃんは、3頭身のボディでテトテトとハルナちゃんの前までやってくる。



《君が帰る場所が戦場に、


 いや、更地になるのさ。ここが落ちれば》



 あ、とようやくハルナちゃんは理解した顔を見せる。

 でも、すぐ理解を拒む顔になる。分かってるくせに。


「どう、いう‪……‬!」


《逃げる場所がもうないんだ、思っている以上にね。

 まして、私達が死に絶えてもおかしくないほど強い相手だ。

 素通りなんかさせる訳にはいかないんだ》


「う‪……‬」


《負けて死ねというのは残酷だけど、

 多分、真の意味でインペリアルの人は分かっているはずだ。


 負けて死んででも足止めしなければいけない敵が来た。

 負けて死のうとも戦わないといけない状況だって、嫌なほど理解しているはずだ》



 つぶらなデフォルメカメラアイを、ヴィオラさんとロートさんに交互に向けるコトリちゃん。


 二人とも苦虫を噛み潰したような顔で、拳を握り締め震えている。


「‪……‬嫌だよ‪……‬なんだよそれ!!

 私知らない!!関係ない!!!」


 ────そしてそれもそう。当然の言葉を吐くハルナちゃん。


《‪……‬‪……‬そりゃそうか。傭兵だものね。

 無理な依頼もあるっちゃある》


「無理だよ!!他のみんなだって、じゃあ死んでこいって言われて死にに行くのねぇ!?!」





「‪……‬‪……‬生きて帰って、金を貰うためなら戦える」




 ふと、そう言葉を返したのは、エーネちゃんだった。



「‪……‬‪……‬私のお兄ちゃんのレンくんは、まだ予断を許さない状態でさ‪……‬

 臓器は移植したけど‪……‬まだ拒絶反応もあるかもしれない‪……‬」


「ウソでしょエーネちゃん‪……‬!?

 お兄さん治って、あとは自分の傭兵辞める金額だけって!!」


「だったら、身体の強化レベルなんてあげないでしょホノカちゃん?長い間戦うための、死なない為の強化手術なんてね。

 レンくんは体質的に生体臓器じゃないと受け付けないし、それでも必要な拒絶反応を減らす薬、保険ありでも高いから、当分はこの仕事辞められない」


 ウソでしょ‪……‬マジなの?

 なんで‪……‬教えてくれよそういう話はさぁ‪……‬!



「────私は、故郷の家族と幸せに暮らしたい。

 そのために金がいる。そのために戦っている。

 何より、そのためには生きて帰らなきゃいけない。

 私が死んだ程度の保険金じゃね、お父さんもお母さんも‪……‬レンくんも暮らせないかもしれない」



「‪……‬‪……‬‪……‬」



「‪……‬‪……‬ここであのヨークタウンと同じ、巨大な要塞を落とさないと‪……‬

 いつ、前の爆撃の時は平気だったけど‪……‬

 私に戦う理由が、根本から消えかねないんだ。


 逃げられないよ、私は‪……‬!」



 ‪……‬‪……‬‪……‬

 ‪……‬そんな勇ましいこと言っている割に震えてるじゃないか‪……‬!



「‪……‬‪……‬新人ちゃん、あなたが今回は震えて戦えないならそれでいいよ。

 恨めないよ。気持ちはわかるから。


 ただね、この戦い多分だけど‪……‬頭数がいる」


 くるりと、エーネちゃんはヴィオラさんの方へ向く。


「ですよね、ヴィオラさん?」


「‪……‬‪……‬残念だけどそうよ。

 なんならば、この戦いはほぼ傭兵スワン頼みと言っても過言ではないの」


 え、なにその不穏なセリフ??


「‪……‬‪……‬我々、インペリアルと企業連合ことトラストは、

 軍の維持費その他の費用をトラスト側から借金する事で賄い、

 その結果唯一だった移動要塞のヨークタウンを共同運用という形で、お互いの物にならない様にしています。

 これは皆がご存じね?」


 ‪……‬確か聞いた事ある気がする‪……‬



「故に、もしもトラスト側に占拠された場合に備えて、

 対ヨークタウン攻略の作戦は何度か練られていました。


 結果は正面衝突においての奪還は不可能ということに。


 私も、この領主として領内の軍を束ねる立場であると同時に、我らインペリアルの精鋭eX-W部隊の『ロイヤル』にも参加した身です。

 当然シミュレーションの場にはいて、私も意見具申した身でしたから、この結果は当然の物と思います」



 まぁだよn


「ただし、もし先程の情報を事前に我々が察知していたのなら、

 プランGと呼ばれる作戦で行ける可能性があります」




 え!?



「藁を掴む様な勝機ですが‪……‬‪……‬

 そのためには、要塞へ突入するのはeX-Wでないといけない。


 ‪……‬‪……‬いえ、言うべきはこうじゃないわね。

 傭兵スワンの流儀に則って言うべきこと」




 そして、ヴィオラさんは、

 この場の傭兵達を見回し、全員に向かって言い放つ。



「前払いで400000cnよ。

 今から話す作戦目標にて、目標1達成で+50000cn加算。

 さらに依頼達成で250000cn払うことを約束する。

 もう一度言うべきかしらね?」



 わお!?

 総額70万cn!?!?!




「この金額でよければ、地獄への道連れにさせてもらいます。

 返事は?」





『やる!』


「へ!?即答!?」


 と、新人傭兵達4人組以外は、当然即答した。

 70万か‪……‬

 一生それなりに遊んで暮らすには、十分かな。


 最後の仕事の金額としてもね‪……‬!



「で、何をすれば?」


「ええ、まずは‪……‬」



 そうして語られた、驚愕の作戦は‪……‬!!




          ***

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