MISSION 16 :チェリーブロッサムスペシャルアタック






 ────今回は、速度重視すぎる近接型軽量2脚な私こと傭兵系美少女な大鳥ホノカちゃんのおニューな機体『グレートアーク』、


 そして、同じく速度がそこそこ速いし多分グレートアークより火力が高い軽量逆関節『ハーストイーグル』の二機で行きまーす!



「グレートアーク、乗るの2回目だけど今度は気絶しないかな?」


<イオ>

《確かに心配です。ぶっつけ本番ですしね。

 私ももちろんサポートしますけれど、難物の全身アヤナミマテリアル製フレームです。

 とにかく人が動かす物じゃない機体の、ポテンシャルを引き出した上で動かせる人間のダメージを最小にする用に補正パターンを組まないと‪……‬あうーん》



<コトリ>

《最悪ホノカちゃんが死んでも役目は果たすさ。

 にしたって、説明もないで用意中だけど異常じゃ無いかな今回のコレは?》


「ひどい言い草だけど、確かに異常かも」





 ─────このインペリアル基地の滑走路が動き出す。

 開いた滑走路から出てくるのは、3又に流れる線路付きのもう一個の滑走路‪……‬


 いや、eX-W3機が同時に発進できるようなカタパルト、それが6つ。


 それらに向かうレールの上で、私の乗るグレートアークの背中へ接続されるは、まるで花束とか、あるいはペンを輪ゴムで束ねる用に無数のブースターを束ねた物体。




 お久しぶり。

 スーパーSソニックSストライクSブーストB


 略してSSSBスリーエスビー



 eX-Wを、超音速で飛行させる装置だ。



<ヴィオラ>

『全員、SSSBを装着しながら聴きなさい。

 本作戦の概要‪……‬とは言えないような『酷い概要』を伝えます』



 と、いの一番にSSSBを装着して、カタパルトへと運ばれていくヴィオラさんの青紫な逆関節機体が見えた。


<ヴィオラ>

『本作戦は、対ヨークタウン攻略作戦計画において『プランG』として考えられ、対Eシールド突破効果においてセカンダリーシールドの破壊が不可能であるがゆえに棄却された物、その改良です。


 では内容を伝えるるけれども‪……‬その前に!


 このプランは穴だらけでイカれている!

 それでも今、私達の後ろの人類生存圏への被害と、

 奪われたインペリアルが開拓しそこに住んだ民達の領土を奪還する可能性を掴むために、


 あえて、このイカれたプランを実行に移す!

 そう言う前提で、聞いて欲しい』




 イカれた、って連呼するぐらいとは。

 一体何をする気?



<ヴィオラ>

『まず、先ほどヨークタウンと同じ移動要塞の説明では触れなかった最悪の点があります。

 相手も同じ移動要塞であるならば、主砲や副砲の火力以上に、そのほぼ全体を守るミサイルランチャーや速射型対空砲がハリネズミに用に身を守っているはず。


 この対空能力は、ある意味主砲やEシールド以上に厄介で、我々はプランGの前に考えたプランE、『長距離ミサイルによる飽和攻撃』を、その能力を超える数の長距離ミサイルをそろえた場合は我々インペリアルが2回破産する結果を産むと算出されたわ。


 故に、このプランは無しとなりました。

 恐らく熱核弾頭直撃でも一発は耐える上に、完全破壊する為にさらに打ち込んでは我々は勝利と呼べない勝利になってしまいますからね』



 マジか‪……‬嫌な情報。



<ヴィオラ>

『で、ここからが本題よ。

 プランEの発展というべきか、発想を変えた物がプランGなのです。


 ミサイルの数が揃わないのであれば、ミサイルそのものの迎撃しにくさを上げれば良い。


 しかし、これもわざわざ攻略用に特殊な回避軌道を取れるミサイルを開発する費用は出せない。


 そこで、考え出されたのは─────』




 ‪……‬あ、分かっちゃった。

 多分、全員何するか、なんでSSSBなんかを装着するのかを分かっちゃった。



<ヴィオラ>

『────SSSBに弾頭を内蔵させ、

 機動兵器をくくり付けて射出する!


 ‪……‬最も安価で、最も高性能な誘導CPUとロジックパターンを持つ存在、



 そう、人間の、

 パイロットの技量で弾幕を回避させ、

 あの強力なEシールドへ弾頭を届ける!』





 やっぱりか。ウソでしょ!?

 じゃあ、私達コレから、人間ミサイルになるってわけか!!



<コトリ>

《バッカじゃないの!?

 この時代に『特攻』かよ!!

 1000年前の発想だよ、そんなもの!!!》



 特攻。

 まだ、ご先祖様が地球で住んでいた頃、私と同じ日系の名前の先祖の国が、負けそうになってやった起死回生の手段。


 ミサイルなんてなかった。戦闘機はプロペラで飛んでいるような時代で、誘導する爆弾を誘導する装置は人間だった。


 テレビで見たそれは、悲惨な作戦で‪……‬困ったことに効果があった。

 効果があっても、やるべきじゃあなかった。

 そう、1000年前よりちょっと未来の人々は言う。



 ‪……‬‪……‬今も戦場では、似たような事態は起こる辺り悲しいけどね。



<ヴィオラ>

《あなた達ウェザーリポーターがもっと安ければ良かったのですが。


 ただし!間違わないでちょうだい。

 あなた達を、わざわざミサイルとして殺すような真似はしません。


 なぜ人間ごと弾頭を射出するか?

 それはこの作戦の『第2フェーズ』という名前のこの世のが待っているからよ!》


 わーお、何々?なんかヤバいことする気??


<ヴィオラ>

『第2フェーズは、プラズマ弾頭によるヨークタウンの攻撃でEシールドが削りきれなかった場合、


 もちろん、あなた達の愛機の火力で、Eシールドを削る必要が出てくる。


 つまりは、直接戦闘でプライマリーシールドを突破する必要があるわ』




 シンプルに一番ヤバい物が出てきちゃった‪……‬!



<ヴィオラ>

『この作戦は穴だらけだったわ。


 たとえ直接戦闘に移行しても、セカンダリーシールドを突破する総火力を得られることはないとされた。


 故に、このプランGは別名『チェリーブロッサムスペシャルアタック桜花特攻』と揶揄されたわ。


 太古の地球の、最悪な兵器と自爆攻撃作戦から名付けられた。


 そして今、一つだけ穴が塞がったのを良いことに、

 再び最悪の作戦を行う羽目になった。


 かつてのこの最悪な自爆攻撃の最悪な点そのままにね。

 呆れるほど有効なところと言う最悪な点で』




 ‪……‬‪……‬そりゃ、すごい回避できるミサイル開発するよりは、人間が回避不可能なところまで運んだ方が安上がりで簡単だしね。



<ハルナ>

『そんなのヤダァァァァァァァァ!!!!

 降ろして、降ろしてよぉッ!!頭がおかしいんじゃないの全員さぁッ!?!?』


 そして、あの新人ちゃんの悲痛な叫びが響く。


<ヴィオラ>

『降ろさないわ。

 悪いとは思うけれど、この魔改造『桜花特攻』作戦には頭数がいりますので。


 そう、ミサイルの命中数がそのまプライマリーシールドの減衰率になる。


 全弾命中なら、セカンダリーシールドにも多少のダメージが入るはず』



<ハルナ>

『あーし初心者なの!!!

 まだ操縦だって慣れてないの、戦ったの数回だけなの!!!

 それなのに難しいことさせないでよねぇェェェ!??』



<ヴィオラ>

『ダメよ』


<ハルナ>

『ダメェ!?!?!』


<ヴィオラ>

『私含めて全員の命をかけて初めて倒せるかもしれない相手よ。

 それに今降ろしてあなた、

 ブリーフィングでも言ったのだけど、どこへ逃げられると言うの?』


<ハルナ>

『知らない知らない!!!とにかく嫌なの!!!』


<ヴィオラ>

『教えてあげます、もう一度ね?


 ここを突破されれば、インペリアルの人類生存圏外縁の土地はおろか、あなたの家もある人類生存圏のバリア内部まであの移動要塞の射程圏内となるわ。


 かつて、酸素が薄かったりそうでなくとも物騒な時代から今まで私たちを守ってきた壁とドーム型のEシールドは、

 実際同型のヨークタウンの火力でも突破可能と言われています。


 そうなれば私達の土地だけではなく、もはやすべての土地が敵に


 種を植える勝った側に、果たして負けた側の人間が肥料以上の価値があるか?

 それを確かめるような真似が出来るほど、我々は相手をすでに殺しすぎているの。


 逃げるには遅すぎる。

 いえ、もうその選択肢はない。


 ここで止まって、勇敢に戦って死ぬか、

 奇跡を起こして勝って帰るしかない。


 それ以外の価値は今のあなたには無いのよ、傭兵スワン!』



 言い切っちゃったよこの人‪……‬!?

 まぁそうなんだけど、まさかこのタイミングで新人ちゃん相手に言い切るなんて‪……‬!!



<ハルナ>

『うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ‪……‬!!

 どうしてこんなめにぃぃぃぃぃぃ‪……‬!!!』



<ヴィオラ>

『辛い現実に耐えかねて、蹲って殻に籠るのもいいわ。

 最悪あなたごとSSSBミサイルを叩き込めばいい』


<ミコト>

『あんたさぁ!?勝手ばっかり言って‪……‬!!

 雇い主だから何やっても良いって言うわけ!?』


「おーい、新人ちゃんたちー。

 残念だけど、言われたこと全部『依頼料』の内でしか無いさ」


 ヒートアップしたのか、意外と熱血な新人ちゃん4人のうち一人のミコトちゃんが叫んでしまう。



「殺し合いに値段付けるなら、価値がないぐらい大切なら当然高額さ。


 それでだって安い。命は大切なのにね?


 だからこっちもそのかけがいのない命をかけてやっと相手のを奪える。そして高いけど安い金を稼げる。


 傭兵の仕事なんて、そんなものさ。

 むしろ、こんな大役をやらせてくれてしかも相場よりだいぶ高い金を生きて帰って勝てばもらえる。


 キツイけど、良い仕事さ。まだね?」



 だから、諌めるついでにかっこいいこと言うのだー♪

 いや、真面目な考えではあるけどね。




<ミコト>

『ヘラヘラ言える内容でもないでしょ、歳下先輩!!

 なんでそんな遠足に行くみたいな態度で命のやり取りが出来るんだよ異常者ども!!』


 あー、それは痛い質問きたな‪……‬


<フミカ>

『‪……‬‪……‬ハルナさん本人は、苦手な性格の人だけど‪……‬

 言っていることは私達の総意のはず‪……‬』


<ノドカ>

『‪……‬‪……‬負けちゃ、ダメなんですか?

 投降?って言うのをしたら‪……‬少なくとも生きてはいられるんじゃ無いんですか‪……‬?』



 え、それは‪……‬






<ありす>

『たとえ命が助かっても、尊厳が無いと人は死ぬよ』





 その時、てっきりブリーフィングの内容は難しくて知恵熱でも出してたから静かだったんじゃ無いかなって思ってた、

 私のマブダチで、傭兵系アイドルなアリスちゃんがガチトーンの声を上げた。




<ありす>

『ライブ会場が物理的に破壊されたせいで、デビュー初ライブが潰されたアイドルのみんなは、アイドルを辞めるだけのそれほど本気じゃなかった子の方が少ないの、知ってる?


 瓦礫に潰されて死ぬのと同じ割合で、その後自殺してる。


 アイドルにとっては、デビューのライブはある意味で尊厳なんだ。


 成功か失敗か、ならまだいくらでもやり直せる。

 でも最初から無かったことにされたら、心が折れる。尊厳そのものがなくなる。


 今この瞬間も、アイドルやってる仲間もデビュー前のタマゴの子も、あの突然偉い人なのってきた敵の襲撃のせいで、ライブが消えているのが辛い。


 私はいつだって、最悪このハピ⭐︎タンの上で立ってやってやれるけど、全員が全員そうじゃない。君たちみたいにね。


 でさ、問題なのは私たちが負けてあげて相手はアイドルのライブ開いてくれるの?


 私たちの生活は本当に変わらない?


 負けた方の文化を守ってくれる?生活を保証してくれる?


 あの100km先から狙える方で、私達のライブステージを吹き飛ばさないって保証はある?


 君たちの帰る場所、逃げた先に残ってるって保証ある?


 帰る場所がなくなって、いつもの生活じゃない全く新しいし不本意な生活を送らなきゃいけなくなって、


 コレまで戦ったことも全部間違いって言うことにされて、

 君らはそれでも生きていける?』



 ありすちゃんの普段とは違う声音が、みんなの心に響いてくる。



<ありす>

『‪……‬私は、アホの子だし未来なんて分からない。

 けどさ、きっと、今逃げてもお金も手に入らないし、何よりきっともう二度と私はアイドル活動なんかできない。

 君らだって、今死ぬかもしれないけど、多分ここで逃げても‪……‬死んじゃうんだよ。


 ‪……‬‪……‬逃げた先に、楽園なんて無いんだ。


 そして、今私達を雇っている人にとって、

 ここが最後なんだよ。

 ここがなくなれば命があっても大切なものが消えてしまう。

 だから私達みたいな汚れ仕事人を雇うんだ』



 ‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬



<ありす>

『‪……‬‪……‬考えて欲しい。君らが傭兵をやる理由を。

 何も考えずなってしまったけど、シンプルに君らが欲しいのは『自由』なんだよね?


 自由ってね、尊厳ってね、

 はっきり言って贅沢品なんだよ。


 そこにいる私のお友達のホノカちゃんは、自由を買い戻すために戦っている。


 私が知る限り、いつ死ぬか分からないような戦場で前に出ててさ、すごいよ。


 傭兵としての実力とかじゃ無い‪……‬普通は逃げたくなるような場所で、新人だった頃から突っ込んでいったすごい子だよ』



「うぇ!?

 もぉ、ありすちゃん!恥ずかしいよそれは!


 私はただ‪……‬顔も知らなかったし、気がつけば妹みたいな子まで拾って育てて無言で死んだお母さんの借金を‪……‬いや、まぁ経緯は違うけど、ただ身内の借金を返すために、そしてそのせいで違約金貯めなきゃいけないから戦ってただけ!


 立派って言うんなら、そこのエーネちゃんみたいに身体の弱いお兄さんのために金稼いでいる子みたいなの言うのさ!」


 いきなり言われちゃったもんだし、とりあえずエーネちゃんに会話パス!


<エーネ>

『じゃ、立派な私は死にそうになったらみんなを置いて逃げるからね』


「えー、酷ーい」


<エーネ>

『大丈夫。報酬分は働くよ。

 私のお金で、レンくんも‪……‬私のお兄ちゃんも、お母さんもお父さんも、みんなで幸せに暮らすんだ。

 違約金もさっさと貯めちゃうには、少なくとも雇ってくれるインペリアルの人たちが倒れられたら困るから戦うよ』


 ふふ、さすがエーネちゃん。しっかりしてる!



<ルキ>

『‪……‬良いわよねみんな。戦う以外のこと持ってて。

 ねぇ、ケルヴィ、ドミニオ、羨ましいと思わない?

 これが普通の人間様ってやつよ』


<ケルヴィ>

『どのみち、我々は遺伝子レベルで戦闘用として生まれた『シンギュラ・デザインドビーイング』だ。

 普通の人間が戦いを辞めても、寿命までは戦うしかない。

 ‪……‬‪……‬のかもな』


<ドミニオ>

『えー、ニオちゃんそれはやだなぁ。

 出来るならお昼寝ずっと出来るような生活したいなぁ。

 と言うか、ケルヴィもルキもニオちゃん含めてまだ9年しか生きてないんだよ〜?

 もっと良い未来想像しようよ〜』


 ちなみに、通信で初めてこの3人の年齢を知った新人傭兵の4人が驚いた声をあげていたのであった。



<ノドカ>

『きゅ、9歳!?』


<フミカ>

『前に聞いたような‪……!?

 いや待って本当なの!?』


<ドミニオ>

『ふふふ〜♪

 シンギュラ・デザインドはネオ・デザインドより成長速いからね〜。

 ま、言ってもネオでも13か14で身体は成人だっけ?

 染色体の数とか違うから人間と交配はできないとかだったけど』


<ケルヴィ>

『ドミニオ。我々は身体はともかく9歳児だ。

 交配などと言う不埒なことは言うな』


<ドミニオ>

『不埒ってことは知ってるんだ〜、耳年増〜!』


<ケルヴィ>

『なんだと‪……‬!?』


<ルキ>

『辞めなさいよ、アンタら。小学生の喧嘩ぁ?

 ‪……‬小学生の喧嘩って言っても、男子みたいで聞いてる方が恥ずかしいわよ!』


「ぷふっ」


 ‪……‬‪……‬普段は、割と年齢を忘れる3人の、なんだか年齢通りのやり取りが聞けた気がした。


<ミコト>

『‪……‬‪……‬怖く無いの、アンタら?』


 と、そんな3人に向けてって感じの言葉を、ミコトちゃんが問いかけた。


<ケルヴィ>

『怖い?

 ‪……‬恐怖はある。生物として当然だ。

 だが、恐怖に呑まれるぐらいなら、恐怖を正しく理解しろと私達のお父さんには教えられた。

 何が怖いのか、どうすれば取り除けるのか、なぜ恐怖を覚えるのか。案外噛み砕いて考えれば、』


<ミコト>

『それができたらさぁ!!

 ‪……‬‪……‬できたらさ、そこのハルナちゃんも苦労しないでしょ‪……‬!!』


<ケルヴィ>

『‪……‬‪……‬なら、守ってやろうか?』


<ミコト>

『は?』


<ケルヴィ>

『我々の方が、技量も経験も上だ。

 そちらを守ろうか?』


<ミコト>

『いや、それは‪……‬!』


<ケルヴィ>

『歳上だから気が引けるのか?

 気持ちは分かる。だが別に気にせず頼ってもらいたい。

 我々は、そっちを守って戦うぐらいは出来るはずだ』


<ハルナ>

『待って待って!タンマタンマ!!

 いやその、守ってくれるって言うのは良いけど、なんでそこまで?』



<ケルヴィ>

『聞いてなかったのか?

 この作戦は、当てる弾頭が多ければ多いほどいい。

 そちらが、少なくとも真っ直ぐその背中の弾頭付きSSSBを敵要塞まで運んでくれるなら、作戦成功率は上がる。

 第一段階の弾頭を当てる作戦がうまくいけば、あとは動けない要塞の相手をするだけだ。

 それまでは守るぐらいは造作ない』


<ハルナ>

『あ、う‪……‬』


<ミコト>

『言うのは簡単だけどさ、』


<ケルヴィ>

『私は、シンギュラ・デザインドビーイングにおいて、

 おそらくは2番目の実力を持つ。


 そこのドミニオは、ふざけているが実力もある。


 ルキも、もう昔の面影がないぐらい強くなったな‪……‬


 私達の姉妹を一方的に殺したような相手の姉妹になって鍛えられただけはある』


<ミコト>

『へ?』


 突然私の結構後ろめたい過去を掘り起こされた。

 仕事だったんだもん‪……‬!!


<ルキ>

『褒めるのは嬉しいけど、それ面倒臭いから言わない方がいいわよ?』


<ケルヴィ>

『事実だ。思うところはあるが、味方のうちは大鳥ホノカには大変期待している。

 話を戻すが、死ぬのが怖いなら私がカバーする。

 実力不足を気にするなら、後ろでただ撃っているだけでもいい。

 とにかく、真っ直ぐ弾頭を運んで、ギリギリで背中のそれをパージして当てるんだ。


 それさえやってくれれば、それでいい。

 戦う理由も不要だ。

 我々は、戦いの場で戦い以外のことを考えていてはいけない。

 その方が気が楽だ。

 難しいことは、余裕のある間に考えるべきだ』



 ‪……‬‪……‬しっかりしてるなぁ、この子。

 新人4人に納得できるように話せるなんて‪……‬シンギュラの子やっぱすごい。


「‪……‬‪……‬

 じゃ、そろそろ行こうよ。

 敵は待ってくれ無いだろうし、時給制じゃ無いとはいえ、依頼主待たせるのはダメじゃね?」



<ヴィオラ>

『‪……‬‪……‬助かるわ。

 皆、本当にありがとう』


 とりあえずヴィオラさんに話を戻すと‪……‬あらま急にお礼?


<ヴィオラ>

『‪……‬‪……‬ここ、ハンナヴァルト領の名産品わね、

 意外だけど海産物なの』


 ふと、そんなことを話し始めるヴィオラさん。

 え、ここ平野じゃん。



<ヴィオラ>

『地下に企業の生産施設があるでしょう?

 ここは、どうも空洞が多い地下なの。

 海の代わりの、巨大な人工の生簀がある。

 ‪……‬‪……‬いつか、兵器産業拠点以外の価値を作るための、小さな計画が地下にある。


 我々がインペリアル‪……‬帝国と名乗る理由は、その成り立ちが関係しているの。

 誰のものでもない土地にタネを植えて、開墾する行為は、かつてこの星が誰のものでも無かった時代においては、『侵略行為』でしか無かったからとは聞いたことがあるかしら?


 ‪……‬‪……‬侵略と言われようと、火星を最も切り開いてきたのは私達インペリアル、その一員の私たちよ。


 この土地は‪……‬私達の物。私たちが長い歴史をかけて侵略し、開墾して自らの土地にした物。


 渡すわけにはいかない。命に変えても』


「‪……‬‪……‬‪……‬」


 ‪……‬インペリアルの歴史、チラッと誰かに聞いた気もするし、もう遠い昔の中学の授業でも‪……‬まぁ私は別勢力のユニオン圏出身だけど、習った気がするけど‪……‬


 いやともかく‪……‬言葉が重い。



<ヴィオラ>

『‪……‬作物もそれほど育たない、まさにここは辺境。

 でも、この辺境領であるハンナヴァルトの土地が、私達が皇帝陛下に守れと言われた大地。


 ありがとう、傭兵達。

 金で雇われたとはいえ、この大地を守る我々の決死の作戦への同行をすると言ってくれただけでも、もはや頼らざるを得ないほど消耗した私達にとっては感謝以外の言葉はないわ。


 だからこそ‪……‬‪……‬私達の、このヴィオラ・ハンナヴァルト7世の『地獄までの遠足』、付き合ってもらうわ』



 ‪……‬‪……‬‪……‬

 分かっていたけど、とんでもない依頼だわ今回!



<ティア>

『‪……‬ヴィオラ様、老いぼれの発言をお許しください。

 あなたが、その御命をかけるから我ら棺桶で昼寝しているうちに死にそうな枯れた黒薔薇が、再び鋼鉄の棺桶で死ぬ道に戻りました。


 とはいえ‪……‬あなたのような若い命、今散らせるわけにもいかないのですよ!』


 と、今まで静かにしていた多分この場では数少ないインペリアルの正規のeX-Wパイロットのティアおばあさんが、なんだか覚悟籠ってる声をだした。



<マリー>

『先方は、我々『黒薔薇小隊シュバルツ・ローザ』が。

 老人が先に死ぬのが道理でしょう』


<マシュ>

『この場のヒヨッコ傭兵ども全員の命を散らしたところで勝利をもぎ取るも難しいだろうからねぇ‪……‬!

 まぁ必要な犠牲ってんなら、年寄りからが相場さね!』


<ヴィオラ>

『‪……‬‪……‬元気なお婆様方だこと‪……‬!!

 期待しているわよ。

 でも、実際何発、最低はこのSSSBの弾頭をぶつければ?』


<シルヴィア>

『一応、この場には総勢16機近くの機体とSSSBがある。

 最低命中数は、ホーネットのプライマリーシールド出力を仮定した場合‪……‬‪……‬


 嫌な知らせだ。最低11!

 外せるのは5発と考えて欲しい!』



<ヴィオラ>

『今更な嫌な知らせね。

 つまり、プライマリーシールドに着弾するまで誰も死なない必要があるってだけです』



<ハルナ>

『やっぱ無茶じゃ‪……‬!』



「無茶な作戦ってことは、稼ぎ時だ。

 前払い、成功報酬、この時点で良い金額だけど、こりゃ勝ったら特別報酬どこかから出してくれるぐらいってこと。


 よかったね。

 生きて帰れば、違約金まで一気に距離が縮まるわけじゃん、新人ちゃん達?」



<ミコト>

『アンタ、マジでさっきから一番頭おかしいんじゃないの‪……‬?』






<???>

『そんなことはないぞッッ!!!!!

 健全な弱音なんぞより不健全な前向きだッッ!!!!』



「んがぁ!?!」


 音割れぇ!?

 てか、このクッソでかい男の声は!!?



<ヴィオラ>

『ロート!!!うるさいわよ、無線なのよ!?』



<???>→<ロート>

『許せ!!

 だがな、そこの傭兵スワン!!!大鳥ホノカ!!


 お前の言葉こそ今必要な物だッ!!!


 貴様ら女は揃いも揃って辛気臭いぞ!!!

 要は勝てばいい!!!

 勝って、生きて帰るッッ!!!!


 それこそが今必要な気概だッッ!!!


 死ぬ時のことを考えて戦場いくさばに挑むバカがいるかッッ!!!』



 ロートさん、音割れがすごいです。

 いい事言ってるけど、音割れが‪……‬声がでかい‪……‬!!



<ロート>

『本当ならば!!!

 俺たち男が、MWマシンウォーカーではなくeX-Wが動かせれば出ているところだッッ!!!!

 正直歯痒いが、仕方がないッッ!!!

 今日は俺たち野郎どもがお前達の家を守り、後ろからお前達を援護するッッ!!


 背中はまかせろ!!!ドーンとなぁッッ!!』



<ヴィオラ>

『まったく、煩いだけの仕事はしてもらうわ!

 ‪……‬‪……‬例の秘密兵器、射手は誰が?』



<ロート>

『無論俺だッッ!!

 覚えているか、傭兵伯ゼルトナーグラーフ殿とお前、ゴルドと4人で狩をやった時があったな!!


 俺の声のせいで飛び立った鳥を落としたのは、俺だったろう!?


 射撃とあらば自信があるッ!!』



 え、意外ー。



<ヴィオラ>

『‪性格に似合わない特技よね。

 でも良いの?猟銃とは勝手が違うわ』


<ロート>

『そこはエクレールの技術屋次第だ!!

 おいそこのお前!!!実際どうなんだ!?


 ‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬なるほどわからん!!』



 おおい!!向こうの会話が不安だぞ!?



<シルヴィア>

『ボク達エクレールの技術は完璧だけど、例のUFOキャノンは威力は足りる計算だけどね‪……‬


 今、ここのカタパルト以外のハンナヴァルト領全域の電力を回して貰って基底エネルギー分はチャージ中だ。

 問題は、恐らくこの街全体で今の発電量だと‪……‬


 一発の発射分用意はできてるけど、二発目は30分チャージが必要だな』




<コトリ>

《バーカ⭐︎》


「コトリちゃん、AIがそんなこと言っちゃいけません」


<コトリ>

《地球時代から、エクレールのことバカの変態技術者集団だと思ってたけど、いよいよバーカ⭐︎って言っちゃうレベルになったな、火星。


 終わりだよこの星》



<シルヴィア>

『うっさいなぁ!!コレだからAIオートマティック・インダストリアル社の人工知能は嫌いなんだ!!


 ちょっと専用ジェネレーターの小型化に失敗しただけだもん!!


 本社が健在なら、連発できたもん!!!』



<ヴィオラ>

『一回しかチャンスが無いのね。

 大したことないわね、変態技術者集団』



<シルヴィア>

『どのみちプランBとかやった時点で、プライマリーシールド削るのがもっと大変な作戦じゃないか今回のは!!


 一発で成功させれば良いんだろぉ??

 できるさ!!でーきーるーとーもー!!


 この数でプラズマ弾頭を叩き込んでー、

 そんでもってそこの声がデカい射手さんが外さなきゃ完璧だ!!!


 さぁもう良いだろ?

 さっさとこの雨が上がる前に行こうじゃないか!!』



 わー。小学生みたいなキレ方〜。

 あ、小学生だったわシルヴィアちゃんは。



<ロート>

『流石に一発勝負は荷が重いぞ!!!

 いや、やるからには男らしくやるが!!!』


<シルヴィア>

『あー、もう分かったよ!!

 プランBは手配しておくよ!!!

 ま、奇跡が起こることを信じてっていうプランBだけど!!


 ほらちゃっちゃと始めよう!!

 この雨だと、すぐ止んじゃうよ!?』



 ゴロゴロ‪……‬!


 雷が聞こえる、激しい雨。

 考えても見たら、周りの天気は最悪だ。




<ヴィオラ>

『この雨のおかげで、空襲も無く、砲撃もまばらね。

 運がいいというべきか、航空戦力がやってこれない積乱雲にコレから我々は突っ込まなければいけないと嘆くべきか』



<カモメ>

『各機、こちらオペレーターのカモメです。

 天候は最悪で最高の状態です。

 上空風速は最大48m、それも入り乱れています。

 雷警報もあり、最悪直撃を喰らえばEシールドは役に立ちません』



「え、雷でEシールド消えるの?」


<シルヴィア>

『前から研究はされてたんだけど、大電流の影響でEシールドが霧散するらしいんだ。

 まだエクレールでも応用兵器は試験段階だけど、雷の直撃でEシールドは大きく減衰するね。

 あ、だから積乱雲の中ではレーザー兵器は使わないでくれたまえよ?

 レーザーは雷を誘導してしまうんだ。


 プラズマ兵器はもっとダメだよ?

 雷発生の原因になるからね』


 へー‪……‬そういえば、今まで晴れてる時しか戦ってなかったな‪……‬



<ヴィオラ>

『雨は、近代の軍事作戦行動ですら止まるような事象だもの。

 だからこそ、今が好機。

 相手の砲撃がまばらなのも、積乱雲の視界不良と弾道計算修正が難しい上に、観測用の機体が飛べないぐらい荒れているからでしょうし。


 さぁ、我々は嵐を突っ切るわよ。

 勝利の為‪……‬いえ、それ以前の敗北しない為の戦いの、


 仕事の時間よ、傭兵スワン達!!』



 よし‪……‬いよいよか!


 雨が激しすぎて、モニター越しに大雨ってわかるレベルだ。

 多分空は風が激しいし、雷もゴロゴロ鳴っててうるさいレベル。


 この雨と砲弾の雨と、どっちが良いかはまぁあとで考えよう。



<ティア>

『先方は我々黒薔薇小隊シュバルツローザの老いぼれ3人とヒヨッコ共だ!!

 気合い入れていこうかね!!SSSBの衝撃で心臓があの世にいっちまったらごめんよ!』


<ミコト>

『待って待って、私らが先!?

 てか運ばれてる!!運ばれてるけど!!』



<カモメ>

『オペレーターより先方7機へ。

 リニアカタパルト、ボルテージマキシマム。

 機体へカタパルト固定、発進どうぞ!』


<ティア>

黒薔薇小隊シュバルツローザ、出る!』


<マリー>

『行きます!』


<マシュ>

『天国、まだいくなよ私!』


<ハルナ>

『タンマタンマ!心の準備が、ひぇー!?』


<ノドカ>

『のわー!?』


<フミカ>

『いきなりすぎ、キャー!?!』


<ミコト>

『強制かよぉぉぉぁあああああぁぁぁぁ!?!?!』



 おばあちゃん達と新人ちゃんの機体が飛ばされて、ややあってSSSBが点火。超音速まで加速して吹き飛んでいく。



<カモメ>

『続いて2、3番カタパルトへ機体誘導。

 ボルテージマキシマム、発進どうぞ!』


<ドミニオ>

『次はニオちゃん達だね〜、お先〜』


<ケルヴィ>

『緊張感を持て。いくぞ!』


<エーネ>

『じゃあお先に。お互いあとで会おうね』


<ありす>

『空飛ぶタンクってのもアレだけど、お先は入りまーす!』



 続いて4機、カタパルトのチャージの都合で数少なめでゴー。



<コトリ>

《この中で唯一の原義通りのミサイルが私だけか。

 AIは辛いね》


<ルキ>

『一応、バルチャー・グリフィスで来たは良いけど、元の愛機の方が良かったかしら?』


<シルヴィア>

『今更だよ。さて、上手くいくかな?』


<ヴィオラ>

『上手くやるの。

 どのみちそれしかないわ』



 さて残り5機、つまり私達のお出ましだ。



<カモメ>

『リニアカタパルトボルテージマキシマム。

 発進、どうぞ!』



「じゃ、地獄の遠足の始まりだ!」



 ブースト軌道と連動で、機体がカタパルトで弾き飛ばされる。


 空中へ浮いた瞬間、ストライクブーストを起動。


 連動したSSSBが目を覚まして、その巨大なパワーを吐き出し始めた。



 ボン!



 空気を置き去りにして、即座に音の速度を超える。

 強化済みじゃなきゃ耐えられないかもな衝撃と一緒に空へ。



 さぁ、始めようか。




<ヴィオラ>

『オペレーション『チェリーブロッサムスペシャルアタック』、


 開始よ!!』





          ***

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