MISSION 8 :新しい朝が来た








“───脳深部生体管理デバイス起動”


“強化人間G5-513、『大鳥ホノカ』覚醒を確認”





 ‪……‬‪……‬仕事のために脳以外は機械の身体の傭兵系美少女な大鳥ホノカちゃんなのですけど、目覚ましのアラームが毎回堅苦しいのが悩みです。



「ごぼがぼ‪……‬」


 よく寝た、って言おうと思ったら、そういえばここは液体の中じゃん。


 私の自慢であり重りな、機械の体になる前からおっきかったおっぱいも丸出しな素っ裸で、意外と寝心地の良いこの謎の液体のあるベッドで寝てたんだったよそういえば。


 私の周りを満たしてたなんかの液体が排水されて、私も昔見た動画のフグみたいに水をピューと吐いて人工の肺から水を出す。



「おえー‪……‬でもまぁ、よく寝たー」


 目の前の重々しいハッチが開く。

 背中の神経接続端子のある機械の背骨から、身体を預けていたベッドの接続部分を外すむず痒い感覚と一緒に立ち上がる。


 だんだん見えてきたお外には、お腹の辺りに手を前に組んだ銀髪美人有能アンドロイドこと、カモメちゃんと、なんだか泣きそうな顔の同じぐらい銀髪美人な私の血が繋がってないけど大切な妹ちゃんことルキちゃんが立ってた。



「おー、おはよ‪……‬」


 と、無言でルキちゃんつよーくハグしてきた。

 おいおい、パイロットスーツインナー着てるそっちと違って裸だぞ?


「‪……‬‪……‬ちゃんと目覚めてよかった‪……‬!」


「‪……‬どういう状況、カモメちゃん?」


「ホノカさん、あなたは100年眠っていました」


「嘘でしょ!?」


「ええ、嘘です。

 本当は3日間。それでも、一時は脳死も覚悟した状態でした」


「‪……‬‪……‬マジか‪……‬アヤナミちゃん社長の製品のせいで?」


「マジよバカおねーちゃん!!

 アンタ、昨日は夢すら見なくなったのよ!?!

 闇を通り越して空っぽの頭の中ずっと見てた気持ちわかる!?!」


「空っぽなのはいつものことじゃん、私頭悪いし」


「〜っ、ええ本当!アンタはバカな人類のサンプルよ!!

 ‪……‬‪……‬うぅぅ‪……‬!!

 バカなおねーちゃんが戻ってきて良かった‪……‬もう二度と、勝手に家族になったバカが消えるのなんて‪……‬‪……‬そんなの嫌だったのぉ‪……‬!!うぇぇ‪……‬!!」


「‪……‬‪……‬ありがとう。そんなバカな私相手でもそばにいてくれて」


 私の胸の中で泣きじゃくるルキちゃんを撫でておく。

 この子は‪……‬‪……‬人工的に生み出されたシンギュラ・デザインドだから身体はもう大人でも‪……‬‪……‬まだ中身は9歳の女の子なんだもんね‪……‬‪……‬


 ‪……‬‪……‬悪いね、こんなサラッと死にかけるような一番酷いことしちゃって。



「‪……‬‪……‬カモメちゃん、寝てた間はどうだった?」


「はい。戦況は、全体で言えば膠着しております。

 大変良い傾向ですね」


 と、カモメちゃんからタオルといつもの戦闘用の下着と、パイロットスーツのインナーが差し出される。


 つまりまだ戦闘態勢ってことなのねー。






「‪ここハンナヴァルト領はここ数日は、極めて小規模な攻撃しか受けておりません。

 どうも、ホノカさんの大立ち周りの影響も大きいようで、あの特殊四脚型機動兵器『ジブリール』や、二脚型の『ハールート』及び『マールート』は出てきておりません」


 身体拭き拭きしながら、カモメちゃんの今の説明を聞く。


「アレ、そんな名前だっけ」


「ふふ、名前をなかなか覚えられないは変わりませんね?

 もしもちゃんと覚えていたらメディカルチェックする所でしたよ」


 そらそうよ、私アホだもん。

 なんて言っている間に、主に胸元がキツいインナーを着終わるのであったー。


「まぁつまりはこの街を守っているのは、新人ちゃんと、ルキちゃんの姉妹ちゃんたちとかな、」



「────傭兵スワン、鼻から私達インペリアルの事は戦力に数えないのですね?」



 おっとと、その声は!

 何故かエプロン姿の、私並におっきなおっぱいのゆるふわウェーブ髪な美人さんは、


「あ、領主さん」


「ああ、そう言えば名前覚えられないんでしたねあなた。

 ヴィオラ・ハンナヴァルト7世、ヴィオラよ。

 まぁ、領主様でも良いですけど」


 あ、そうだそうだヴィオラさんだ、そうだった。


「いやー、すみませーん、名前覚えるの本当苦手で‪……‬」


「‪……‬‪……‬の割には、状況認識は完璧ね。

 もはや、私を含め数人のeX-Wパイロットと、数十機の通常兵器のみが我が領土の戦力。

 悔しいけれど、私達には打って出る力はありません」


「‪……‬いやその。そこまで深くは考えてなくて‪……‬」


「そんなことより。

 あなた、確か日系の火星人種らしく料理が得意そうね?

 ちょっと、病み上がりで申し訳ないのだけど、我が軍の台所を手伝ってくれない?」


 はえ?手伝い?






           ***


 というわけで、明るさの割に時刻はまだ5時だった今なのです。


 ここら辺はいま陽が高い地域だっけ?


「うわー、くさーい。これサバ?」


「腐ってなければいいのですけど‪……‬これでも今朝海側から届いたばかりの魚のはず」


 というヴィオラさんと一緒に来た厨房には、大量の光り物な多分サバがあった。


「サバは新鮮でも腐るの早いしねー。でも、一応まだマジの腐った匂いじゃないはず」


「そうなの。けど問題があるのよ‪……‬戦争の嫌な影響ね、横を見て」


 横を見ると、見たことのある調味料と、その他諸々が‪……‬



「‪……‬‪……‬味噌が業務用サイズだー」


「誰が用意したのか分からないのよ。一応腐ってはいないけど、3袋もあります」


「‪……‬いっぱいのお酒!」


「全部ワインね。白ワイン」


「‪……‬‪……‬後、ガムシロップいっぱい」


「コーヒーは吹き飛んだの、昨日の戦いで」


「‪……‬このお米名前が『カイザーライス』っていうけど本当にお米の皇帝って言えるぐらい美味しいやつじゃん」


「我れらが皇帝陛下が作り出した、日本式の旨味の強い米の品種『カイザーライス』ね。これはありがたいわ」


「‪……‬‪……‬後は生姜に‪……‬醤油に‪……‬うま味調味料‪……‬」


「無茶を言うようで申し訳ないけど、これで今から最低でも100人前の朝の用意をしないといけないの」


「ほー‪……‬なかなかハードな」


 最低でもって言うなら、何人分上乗せしないといけないんだ?





「おーうい、ヴィオラ伯殿〜!

 貝が来ましたよ〜!」



 と、ここで登場お婆ちゃんがた。

 凄腕のeX-W乗りのお婆ちゃん方だ!


「お?なんだい、起きたかい傭兵スワン?」


「や!名前忘れちゃったけど、お婆ちゃん方が誰かは何となく分かるよ?」


「‪……‬それでティア、貝だけ?」


「何とか、これだけは無事でしたよ辺境伯殿。

 ‪……‬しっかし、困ったもんだ。もうすぐあのヒヨッコどもが拾ってきた生き残りが来るってのに‪……‬100人分なに作りゃ良いんだかって話だ」



「‪……‬それで私か」


 呼ばれた理由が何となく分かっちゃった。


「そうよ、傭兵スワン。変な依頼だけど、この食材で100人分用の献立は考えられるかしら?

 あいにく、日本食作れる人間はいないのよ」


「‪……‬じゃ、報酬は私達の朝ごはんってことで」


「アンタ、そういやこういう調味料使ってる所出身だったねぇ?」


「婆さんの手はこれで飯作りは得意だからなぁ‪……‬なんか手伝うかい若いの?」


「‪……‬流石に3枚下ろしは分かるよね?

 むしろこれだけ有れば、良いのが作れる」


 では、女の子らしい戦場を始めようか!






 デカい貝と切り落とした鯖の頭を一緒に煮込んでおいて、

 それとは別の鍋で3枚下ろしにした鯖の身を水、ワイン、うま味調味料、味噌、醤油、ガムシロ、生姜を入れて煮込んでおく。


 何のことはなくって、味噌汁とサバ味噌だ。料理酒とか砂糖代わりにちょっとおしゃれだったり適当なヤツ代用しても、後は味噌を信じておこう!



「大丈夫かいこれと思ったけど、味は何とかなるもんだね‪……‬」


「味噌とカレーは旨すぎるから、大概何とかなるって私のお婆ちゃん言ってたんだー」


「そうなんですよねぇ‪……‬この味噌、近隣の大豆を栽培している侯爵家の方が作ってくれた物だけど、私達もあまり馴染みがないもので持て余していましてねぇ‪……‬」


「マリー、あまりあの侯爵様を邪険にしてはいけないわよ。

 ‪……‬‪……‬うむ、美味しいわね‪……‬!

 ただ、よくここまで味を変えられたというべきかもしれない‪……‬味噌ってどうしても味が美味し過ぎて、何でも味噌の味にしてしまうというのに」


「サバ味噌にワイン使ったの良かったかも。

 良い感じに、味噌主体の味じゃなくなったなー‪……‬」


 とは言え‪……‬とりあえず、デカい底が丸い鉄のお鍋でお米を炊きつつ思う。


「ちょっと彩り足りないな‪……‬茶色だ」


『確かに‪……‬』


 誰に出すかはともかく、こんな男の子でもちょっと彩り足りない朝ごはんは、寂しい‪……‬



「おねーちゃーん!見て欲しいんだけどー?」


「どうしたーい!ルキちゃーん!!」


「見てみて!壊れた食糧庫にお塩とデッカい白菜が埋もれてたの!!」


 と、まさかの救世主がやってきたのだった。


シューシノワ白菜なんてあったの!?

 ‪……‬あ、そう言えばこの前、中華系の血筋の子爵が挨拶に来たわね‪……‬!」


「‪……‬‪……‬運がいいなぁ!和食と言えばな付け合わせ作れるじゃん!」






 ────浅漬け二時間でも結構美味いよ、っていうおばあちゃんの知恵のおかげで、何とか間に合いましたー。




「にしても、領主のヴィオラさん?

 この150人分はあるご飯、誰のためにかは聞いてなかったなって」



 このハンナヴァルト領のeX-WやらMW用のテントに、おっきな寸胴鍋達とカセットコンロに、デカいし熱い鉄の鍋の大量のご飯なんかを用意しながら隣で同じく皿を積んでいるヴィオラさんに聞いてみる。



「誰、って決まっていますよ?

 戦い疲れた、戦士のために。

 自らの領土を犠牲にしてでも生き残る勇気を振り絞った、殿方達のために」



 殿方達?



 なんて言っている間に、慌ただしい音がやってきた。


 ガシャンガシャンと歩く、片腕のない戦闘用人型MWマシンウォーカーに、トラックの上に乗る歩けなさそうな逆脚型、武器腕型と多種多様な戦闘用のMW達。


 どこにも何て言うか、風呂入ってない屈強な男の方々が、疲れた顔を向けて、まさに気が抜けた感じの視線を向けてきていた。




「‪……‬‪……‬インペリアルの戦闘用の服だね。

 でも、肩のエンブレムがヴィオラさん達のと違う」


「私達、ハンナヴァルト領と隣接する辺境伯領の、

 エッケハルト領の生き残りなの。

 数日前に陥落した、ね」



 ────敗残兵の護衛任務は一回だけやった事がある。

 小規模な戦闘。それもいつもの3大勢力の小競り合いの。


 あの時は安堵の顔が多かった。


 この人達は、何だろう‪……‬‪……‬‪……‬魂だけ抜けちゃったみたいな顔だった。


 いや、魂だけ置き去りにしちゃったような、

 そんな深い疲れた顔。



「────久しぶりだなぁ!!!ヴィオラ!!!!」



 と、1機のズタボロなMWのコックピットハッチが開いて、威勢のいい男の人の声が響いた。



 見ると、赤い髪のちょっとイケメンというよりハンサムな顔の男の人が出てきた。

 戦闘用のアーマー付きの服越しで分かるガタイが良い身体通り、降りるための紐とか使わずにあの高さから飛び降りて着地してきた。



「ロート、あなたって木登り小僧って歳なの?

 もう酒も飲めるくせに」


「はははは、すまんなッ!!!!

 いまだに領内の子供相手に木登りを教えているぞ!!!


 なにせ、俺はロート・エッケハルト3世!!!

 親父の後を継いで領主になった男だ!!!!!」



 と、すんごい威勢のいい言葉と共に、自分を指差す中々強烈な人なのだった‪……‬



「‪……‬え?

 領主になった‪……‬?お父上のロッソ伯は‪……‬?」


「はははは!!ヴィオラ!!!」


 ヴィオラさんの質問の直後、笑っていた男の人の目がすぐに潤んで、大粒の涙とと悔しそうな顔に変わっていく。


 私も、ヴィオラさんもすぐに気づいた。


「まさか‪……‬想像通りなの、ロート!?」


「‪……‬そういう、事だ‪……‬ッ!!!」


 見る見るくしゃくしゃになった顔と、滝みたいな涙。


 意味することは、断片的な会話でも一つだ。


「うぅぅぅぅ〜〜‪……‬グッ、グゥ‪……‬!!

 親父は、最後まで‪……‬誇り高き辺境伯が一角‪……‬エッケハルト家の男として、戦ったんだ‪……‬!!!

 その誇り高き親父の息子が!!

 俺が‪……‬メソメソ涙を流しているわけにはいかない‪……‬いかないのは、分かるんだぁッ!!」


 ズン、と地面のコックリートを砕くほど、重い後悔と悲しみが乗った拳が打ちつけられる。


「分かっていてもなぁ‪……‬!!

 俺は‪……‬‪……‬畜生‪……‬チクショぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」


 大の男が泣いている。

 でも、その涙‪……‬なんでだろう。

 とっても、男らしい。男の子にしか流せない悔し涙だった。

 悲痛なまでの‪……‬負けて失った物の涙。



「うぅ‪……‬‪……‬うぅぅぅぅ‪……‬‪……‬!!」


「‪……‬‪……‬ホノカ!3人前分の盛りで食事を持ってきて」


「‪……‬‪……‬了解」



 意図はわかった私、分からない赤い髪の男の人の顔。

 サバ味噌は三切れ。ご飯は漫画盛り。味噌汁はまぁ普通でよし。


 すぐに持ってきて、涙でぐしゃぐしゃな顔の前にトレイごと渡す。


「日本食でごめんなさいね。いつもの料理は用意できなかった」


「‪……‬何故?」


「食べるのよ。ロート・エッケハルト3世。

 男が泣いたって良い。でもね‪……‬

 まだ反撃する気があるなら、悲しくても、悔しくても、胃に詰め込みなさい。


 次の戦いに挑めないのなんて、きっと貴方のお父上のロッソ伯は許さない。

 無理矢理にでも口に詰め込み胃に流すはず。


 ‪……‬そうやって戦ってきた男なんでしょ?どうなの?」



 ハッとなった顔と共に、一瞬俯いて涙を拭う男の人。


「‪……‬‪……‬和食か‪……‬ありがたくいただくッ!!」


 意外と綺麗な箸の持ち方で、それでも性格通り豪快にサバ味噌一切れを箸で掴んで口に運ぶ。

 ご飯をかっこんで、熱いだろうに味噌汁で流し込む。


「〜〜っ、くあー!!

 美味いぞ!!!甘めの味付けがいい!!!

 今の俺には‪……‬俺達には、どうしても飯が塩辛くなるからな‪……‬!!」


 涙が勝手に溢れるって様子でも、男の人は笑う。



「生き残りはさっさと飯を喰え!!!!

 食って泣け!!!!エッケハルトの戦士達よ、生きている物は飯を食って泣け!!!

 腹を満たしてまだ戦える者は立ち上がれぇッ!!」



 男の人の言葉に、疲れた顔の皆がようやく立ち上がる。




 ‪……‬‪……‬正直意外な光景だった。


 この1年、色々な戦場を渡り歩いていたけど、

 大抵の場合インペリアルの人達は、タフだ。


 戦いに負けても、エネルギッシュに次に備えていた。


 それが、皆が一番士気が低いユニオン勢力圏の兵より疲れた顔だ。


 そして、この生きているのは50人ぐらいのインペリアルの人達が同じところは、3人前ぐらいは平らげそうなところかな‪……‬



 ‪……‬‪……‬今回の戦争は、何か、


 常に戦うインペリアルの人達ですら疲れるだけ、


 何かが決定的に、違うみたいだ。



 あったかい食事を食べて初めて泣き始めたり震え始める人がいるぐらい、あの精強なインペリアルのみんなが疲れ切る戦い。




 ただ、寝起きでサバ味噌を作って配ってるだけなのに肌で伝わってくる、そんな空気を感じていた私なのであった‪……‬



「‪……‬‪……‬こりゃ、今回はちゃんと用意しないとダメそうだなぁ‪……‬」



『────ホノカさん、今いいですか?』


「お?」


 と、ここでカモメちゃんの通信だ。


『今外ならそろそろ見えるはずです。

 荷物が届きました』


「見えたよ。ちょうど今!」


 炊き出しのテントから出た遠くの空に、

 1つの大きなジェット輸送機がやってきた。


 周りの何人かも見上げ始めた、着陸態勢を整えるそれは、

 私がお金出して呼んだ援軍‪……‬というより『お届け物』なのだ!



          ***

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