MISSION 6 : 主役は遅れてやってくる










「────ハァ、ハァ、ハァ‪……‬!!


 当たれ‪……‬当たれ‪……‬当たれ、当たれ、当たれ‪……‬!!」



<プロフェシー3>

『キャハハハハハ!

 ハズレ、ハズレ、ハーズレっ、ハズレーっ!!』




 ────地上の戦いは、さながら『弄ばれている』と言わざるを得ない戦況だった。



<ミコト>

『当たらないじゃ無いか!!!』


<ティア>

『えぇい、耳障りなクソガキのケツにかすりもしないとは、いよいよ老眼鏡の出番かね!!』



 それは、壮絶な弾幕戦だった。

 とにかく、狙って撃つ。それ以外は誰もしない。



<ヴィオラ>

『くっ‪……‬!当たらない!!』




 しかし、その攻撃は当たらない。



 傭兵スワン+インペリアルのハンナヴァルト領戦力の攻撃は、


 しかし、当たらない。




<プロフェシー1>

『あらー?私サボって2機だけ相手なのにぃ?

 クスクス‪……‬‪……‬古い人間も、変な遺伝子改造されたイキモノちゃん達も弱弱ね〜?』


<プロフェシー2>

『ちょっとプロフェシー1さぁ?

 一人だけサボるの辞めてよねー?

 弱い物イジメしてるやつって思われちゃうじゃーん!?』


<プロフェシー3>

『キャハハハハハ!!イジメの自覚持ってない辺りプロフェシー2が一番やばくなーい!?』



「くっ‪……‬!!

 コイツら広域無線でも煽ってくる!!」


 焦るルキの照準は、しかし決して粗いはずはない。

 義姉のホノカ、恐らく狙撃を得意とする傭兵スワンの中でも最高位に位置するような天賦てんぷの才を持った人間イレギュラーを目指し、

 そのホノカ自身が嫌がる過酷なVRシュミレーターと、実際にお互い実戦で戦う訓練もしてまで高めた射撃制度だ。


 天性の才能はシンギュラ・デザインドであるなら、落ちこぼれでも人間以上のはず。


 ルキは、ストイックに努力してきた。



「でも当たらない‪……‬!!」



 それでも、あの四脚のガイコツのように細い機体には当たらない。



<プロフェシー3>

『キャハハハハハ!

 当たるわけないじゃん。この機体は当たらないように作られたんだもん!


 わかるぅ?この大型の頭のリング型センサー!

 アンタらのeX-Wとかいう『70年前から焼き直し』しかしてないような旧式旧型旧世代のヨワヨワ機体には絶対乗せられない物なんだよぉ!?


 その上で、あらゆる観測データから周囲の敵の動きを予測して!


 回避も、攻撃も、全部が完璧なタイミングでできるの!!


 それが私達の『ジブリール』!!

 旧世代の人間が作った平気相手にさぁ!?

 この機体が負けるわけないじゃん!!』



 反撃に放たれたジブリール右腕の超高収束ハイレーザーライフルが、ルキのバード・オブ・プレイの左前脚の装甲を一部抉る。


 一発回避では気が抜けない。何せ完璧な偏差攻撃が続いてくる。



 改めて、今は亡きシンギュラ・デザインド開発者である浅見クルスが自分を遺伝子レベルで優秀に作ってくれた事、

 そしてアホだが強い義姉に鍛えてもらったことを感謝したルキだった。



<プロフェシー3>

『あらら、よく避けるねぇ?』


「当たり前だ量産型どもッ!!

 私はシンギュラ・デザインド!!!

 野中の落ちこぼれでもお前らよりは出来が良いのよッ!!!」


 一瞬、ルキの啖呵たんかに相手の機体が止まる。


<プロフェシー3>

『────キャハハハハハッ!!

 ‪……‬‪……‬不安定な失敗作のくせにムカつくッ!!』



 骨ばったようなジブリールの機械の翼から、小型ミサイルがばら撒かれる。


 ルキは────バード・オブ・プレイの機体のブラストアーマーを放つ。


 どうせこれも予想済み!

 自機のEシールド全てを攻撃に変換した衝撃波でミサイルをかき消した直後に、機体を守るEシールドが無い自分の機体を撃ち抜いてくるぐらいは、分かる!


 だがルキはやった。

 差し違えるつもりで、右腕のスナイパーライフルを、左腕のバトルライフルを構える。



<プロフェシー2>

『悪くないけど‪……‬お見通し♪』



 ─────そこまでして注意を向けたのに、


 片方の敵機が放つハイレーザーはこちらを、


 死角から飛び出してくれたドミニオの、言葉を使わなくても読心で理解し実行してくれた不意打ちのジャンプを見切り、武装が撃ち抜かれる。


<ドミニオ>

『えぇ‪……‬!?』





<プロフェシー3>

『プラズマライフルの無駄チャージ、ご苦労さ──』





 





 直後ドミニオの操る⑥の背後から迸る光。

 それが、ジブリールという名の骨じみた細い機体を、綺麗に真ん中から撃ち抜いた。



<プロフェシー1>

『─────は?』


 ズドン!と爆発と共に、残骸が地面へ落ちる。


 一瞬、周りの2機は何が起きたのか分からない顔でその様子を見ていた。




「‪……‬‪……‬タイミングバッチリ、さすがはおねーちゃんの戦友ね!」




<エーネ>

『まぁ、ホノカちゃんよりは下手だよ。狙撃はね』



 広域無線の会話に、2機のジブリールが先程⑥のキャノンを撃ち抜いた方角を見る。



<エーネ>

『ここが、自慢のレーダーやセンサーの範囲外、かな?

 キュアフル・ウィッシュの頭、光学センサーなら充分見えるのにね』




 街の端、丘と言えるような位置、

 白い機体────ずっとこの時まで静かにチャンスを伺っていたエーネのキュアフル・ウィッシュが、背中のレールガンから排熱の蒸気を上げながらこちらを見ていた。




<プロフェシー3>

『まさか、あの機体のチャージはブラフ!?』



 原理は単純だった。

 遠くでレールガンをチャージする間、相手とキュアフル・ウィッシュの間の位置に同じく右腕のプラズマキャノンをチャージする⑥がいただけだ。



 同じ位置にいるよう重なって動いただけ。

 それで、予知を産む為のデータ収集の段階でエーネの機体の存在を消して動いていた。




 意味はあるかはともかく、極限まで無線でもエーネの事を言及しなかったが、効果はあった。


 予想外の攻撃は予知できないようだ。




<ドミニオ>

『酷いよねぇ、一人だけおサボりだなんて。

 ニオちゃん羨ましいぞ〜?』


<エーネ>

『そう言わないの。

 でもこれで一機落ちた。残り2機でもキツイだろうけど』


「キツくたって、3機よりはマシよ!

 次、どう戦うか考えないと!」





<プロフェシー1>

『‪……‬‪……‬‪……‬そう。

 ははは‪……‬‪……‬遊びすぎたのは私達って事なんだ‪……‬』



 ふと、何か恐ろしい感情を感じ、ルキは直後に相手の心の中の信じられない事実を理解した。



「みんなまずい!!

 コイツら‪……‬!!」



<プロフェシー1>

『コード:D-1


 全員、遊びすぎたよ。悪いけど出番だ』




 瞬間、遠くに見える影が無数‪……‬いや、9機。


 エーネのいる位置にも近づくは、やはりジブリール。その細い四脚型の機体達だ。



<エーネ>

『一体倒したら9機増える。

 嫌なゴキブリだね』


「冗談じゃないわよこんなの‪……‬!」



<プロフェシー3>

『そうだよ。今までは冗談半分で戦ってた。

 ────それももう終わりだけどねぇ!?』



 ルキは一瞬で膨れ上がる『殺気』とでもいうものを感じる。

 恐らく、シンギュラ・デザインドでなくとも、それは感じたはずだ。



<プロフェシー3>

『キャハハハハハッッ!!!

 もう遊びは終わり!!!

 あの子を殺した事実が無駄だったって思えるぐらいにッ!!!


 残酷に!!圧倒的に!!絶望的に!!

 殺してやる!!全員遊び抜きで殺してやるぅ!!』




 シンギュラ・デザインドとして感じる感情。

 それは炎のような怒りというより、どこか氷のような殺意と、どういう死に様にしてやるかという愉悦が強いモノだった。


 11機のジブリールが、異形の天使が隊列を組み空を覆い尽くす。




 来る‪……‬!!









<ホノカ>

『良いじゃん、盛り上がってるねぇ〜?

 私も仲間に入れてくれない?』





 来た。




 遠く、小さなビルに偽装されていた秘密のハッチというべきものが開き、


 見たことがない機体、しかしいつも見るグレーと黒、アクセントに黄色というよくあるカラーリングの機体がリフトで上がってくる。







「───やっと来たか、アホおねえちゃん」





 自分でも分かるほど、

 今、ルキはホノカの登場に安堵と安心を覚えていた。






           ***




<アヤナミAI>

《メインシステム、戦闘モード起動するのです》



「みんな遅れてごめんね?

 ま、主役は遅れてやってくるってことで許して?」



 さて、遅れて登場、みんなのスーパーヒロインな傭兵系美少女、大鳥ホノカちゃんですよ!



<エーネ>

『全くだよ主役なホノカちゃん?危うくここから私が全員倒す事になりそうだったよ。

 さ、主役ならさっさとこの状況なんとかしてくれないかな?』


「って、増えてるぅ!?」



 はい、主役っていうのは常にピンチなものなのです。

 ってレベルじゃないよねぇ!?!

 3機が11機に増えてるぅぅぅぅ!?!?!



<ルキ>

『アホなおねーちゃんでも状況分かったぁ!?

 真面目にやるわよ、じゃなきゃ死ぬ!』


「確かにねぇ。ごめんごめん、ここからは真面目にやるから!」





<プロフェシー1>

『─────ふざけてるの‪……‬その機体‪……‬ッ!』



 ふと、なんだか敵ちゃんの一人がそんな震えた声を絞り出す。



「あにさ!こちとら、有り合わせで多分そっちに対抗できる機体を組んだだけなのに!」



<プロフェシー1>

『‪……‬‪……‬ハンドガンに‪……‬高衝撃ミサイルに‪……‬レーザーブレード‪……‬!?


 ふざけるなぁ!!そんな見え見えで対処も分かりやすいような機体が!!!


 未来を支配するこのジブリールが!!

 そんなただ足止め攻撃して速度で近づいて斬るだけの機体が!!


 私達がそんな見え見えの戦法で捉えられると、思っているのかぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?!??!!』



 直後、11機の4つ脚ホネホネ機体達が、高速で縦横無尽に移動を始めた。



「何!?」



<ルキ>

『空が‪……‬‪……‬奴らに埋め尽くされて‪……‬!?』



 11機だった機体が、多分超高速で動いて残像でも生み出しているんだろうね。忍者かな?


 いやまじで影分身かなこれは!?


 そして、その空を埋め尽くすよう高速移動する相手からレーザーが降ってきた!?


「うわっ!?」



<プロフェシー3>

『怒らせちゃったねぇ、私達のこと本気でさぁ!?

 さぁどうするぅ?ミサイルで安定してダメージ与えられるとか考えてるぅ?

 ロックオンした時点でこっちが撃墜してるんだよねぇ!?』


<プロフェシー1>

『曲芸みたいな技だけど‪……‬有効でしょう?

 これですりつぶす‪……‬潰してやる‪……‬!!』



「まずいな、これジリ貧じゃん!」


<ルキ>

『ちょっと主役のおねーちゃーん!?

 出番なの見て分かるでしょ、なんとかしなさいよ!!』



「そうだねぇ!主役は辛いなぁ!!

 ‪……‬どのみち、この機体じゃ突っ込むしかできないか!!」


 幸い、アヤナミマテリアル製フレームの運動性能が予想以上だった!

 だってブーストなしのステップでこんな避けられるもん!



 でもこれじゃなダメだ。

 距離を詰めなきゃ、ほとんどの武器も当たらない‪……‬!


 ミサイルを一発!当然すぐ撃ち落とされる。

 じゃあその隙に‪……‬ストライクブーストだ!



















 ‪……‬‪……‬あるぇ?



 なんか、私の顔が崩れてる。スライムみたいな感じ。


 てか、前が見えない。あれ、操縦桿遠くね?



 ‪……‬‪……‬急いで、顔を元のほわほわ美少女顔に戻して、操縦桿掴まないと。


 そうだ。操縦桿を掴まないと。

 じゃないと前が、見えない気が─────








 一瞬、意識が消えたかと思ったら、


 気がついたら、


 あのホネホネな四脚の敵の頭部と、ガチ恋距離。



 目と目が合うー、って曲あったよね。何千年も前の‪……‬







「にょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!??!!?!!」



 思わず右ストレート。

 敵のコアが砕けた。


 そして、見えるのは青い空。



 おそら、きれい‪……‬‪……‬





 ‪……‬‪……‬機動兵器『エクシードウォーリア』こと『eX-W』が、なんで機動兵器と呼ばれるのか。


 一応陸戦兵器扱いだけど、航空機と同じく地形を選ばないですごい速度が出るからなんだって、今はおうちにいる相棒AIのコトリちゃんが言ってた。


 特にストライクブーストはすごいよぉ?

 デブみたいな機体とかガチガチに重装型なタンクを音速近くに加速させるの。


 軽量機なら音速を超えるんだって!


 うん!



「ぐぇ‪……‬!?」




 予想通り、方向転換は一瞬視界が消えた。

 けどすぐに戻った視界には、


 はるか下にある街の様子と、


 巻き上がった竜巻みたいな風に散らされていく敵の4脚たちが、すぐに見えた。



「今私、いやこのペンギンちゃんは‪……‬!」


<アヤナミAI>

《機体名はグレートアークなのです。

 そして、今この機体は、マッハ3.2を記録したのです!!》




 やりすぎだろアヤナミちゃん!!

 この機体は‪……‬‪……‬速すぎる!??




         ***

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