MISSION 5 :地獄のアヤナミマテリアル標準機
さて、人類生存圏のバリアの外、さらに辺境で敵火星統一政府軍との戦いの前線、ハンナヴァルト領にいる私こと大鳥ホノカちゃんは今、
「アヤナミマテリアル社の工場?」
ちょっと上に現れた強敵と戦うために、機体パーツを手に入れようとしてやってきたのは、何故か存在したアヤナミマテリアルの工場と、同社マスコットキャラ兼CEOのアヤナミちゃんの立体映像だった!
《ああ、気になるのですか?
まぁ、ここは秘密工場なのですよ。
我々、企業連合『トラスト』所属の企業は、案外人類生存圏の外に大規模な工場を作っていることが多いのです》
「なんでまた?」
「ほらホノカさん、私を作ったAI社傘下のルキさんを生み出したレイダー研の研究所も外にありましたでしょう?
バリアのある地域の中にあると、お互い利害の3段の結果の妨害工作し合う都合上すごく不便な所があるんですよ」
《インペリアルが開拓する前の、70年前から50年前までの我々企業の経済戦争は、3大勢力の小競り合いに隠れてもなおド派手にやっていたのです。
ああ、それもあくまで経済戦争の範囲内なので完全な敵対というわけではないのでご安心するのです。
でなければトラストなんて枠組みすら消えるぐらい、戦争級の派手さでやりあってるに決まっているのです。
それに、何も敵が競合他社とは限らず、あなたもいつかやったように同社内部の『粛清』するにも、あそこは狭すぎたのですよ》
「……えぇ……?」
企業の闇が見えたぞー、今。
利益に為の経済戦争かぁ……ちょっと複雑だけど参加してる身だしなぁ……
《我々トラストは、3大勢力の中でも外部開拓を推し進めるインペリアルの最大の出資者……
まぁ正確には『軍事費などを貸した側』なのです。
無論インペリアルもその借金の多額さを持って色々とこちらの政治的な楔を打ってきているのですが、その都合上インペリアル領の辺境地域には、こうして企業の秘密工場などを立てているのですよ。
ここハンナヴァルト領などをはじめにした周辺の領域は、そう言ったトラスト所属企業の秘密工場や、最悪本社が移転している場所でもあったのです。
特にここ、ハンナヴァルト領は4つの社の工場が秘密裏に存在するのです。
カチューシャクラート、エンフィールドラボラトリー、デプス、そして我が社アヤナミマテリアル。
そのおかげで敵に最優先で狙われたと言うべきか、
あるいはそのおかげで装備が充実していて助かったと言うべきか……》
あ、その名前は私でも知ってる。
カチューシャクラートは、インペリアルの主力の軽量機が全部ここだし、他も確か武装でちらほらそこ社製品あった!
《特に、我がアヤナミマテリアルはここの地域の気候が弊社フレームの特製を最大限活かし、改修型の次世代対応機を模索するにはうってつけだったのです。
故に、この地下工場はただの生産だけでなく、試作型開発用の設備も備え付けているのですよ》
「はえー…………どうりで領主様が案内するわけだ……
強いパーツ、あの人もちで揃えてさっさと出撃しろってことか」
《さて……
とは言え今すぐ出撃となると、フレームと内装はどうしても我が社統一になるのです。
覚悟はいいですか、大鳥ホノカ?》
「な!
お待ちください、アヤナミちゃんCEO!!
それはいくらなんでも……!」
「え、なんかそれまずいの?」
「ホノカさん、思い出してください!
マッコイ商店のユナさんがかつて言っていたじゃないですか!」
うーん……?
ほわんほわん、よみがえれわたしのきおく〜……
「────なんだっけ????」
私に頼れるオペレーターである美人アンドロイドのカモメちゃん、盛大にずっこけた。
「もう!ホノカさんの記憶媒体はフロッピーか何かですか!?」
「フロッピーってなに?」
「……ともあれではもう一度言いますが、
アヤナミマテリアル社は、フレームも内装も優秀な会社ですが一つだけ欠点があります。
その優秀なフレームと内装、と言うよりブースターがフレームの性能と噛み合っていないのです!」
噛み合っていない?
《噛み合っていないとは心外なのですが、まぁ世間の評価はそうなのです。
我が社のブースターは、競合他社……特にそこのソレイユモデルアンドロイドの製造元のAI社の低燃費型かつ出力はマシな部類な中では低めな物を好む相手には、
出力過剰
と評されているのです》
「出力過剰……あっ!!」
思い出した!
私がまだ、あのクソみたいな最初の任務を終えた後、初めて機体を強化した時!
そうだよ、背中のブースターはアヤナミ製だった!
すごく軽快に動けるし、重めの1001Bも楽に浮かせられたけどたしか……
今も、ガッチガチの重装型タンク脚アセンブル機体、ことガチタンアセン機の『ティタニス』って機体もブースターはアヤナミマテリアル製だ……
アレって、ガチガチの超重量級タンク脚でガチタンなわけだけど、
ガチタンの重量を平気で動かせるような推力を……
…………
「それ、ヤバくね?」
「ヤバいですよ!
マッコイ商店で整備中のユナさんが言っていたじゃないですか?
『標準機そのままで使える人間はこの世にいない』と!」
言ってた気がする!
なんか嫌な汗が出てきた〜!!
《フッ……お生憎様な話ですが、70年前の地球には確かにいましたよ?
我が社純正商品のみの機体構成で戦った
「70年前と今じゃ性能違くない?
今の方が絶対性能上げてるよね?」
《おぉ!流石に理解が早いのです。
では、お見せするのです》
ガコンと工場のアームやらなにやらが動いて、アヤナミちゃんのホログラムの動きに合わせて運んでくるは……!
《これが、我が社主力標準機体、その『
その、姿なのです!!》
───それは、人の形をした『戦闘機』だった。
細い手脚は翼、いや脚にはまんまジェットエンジンみたいなのが付いている。
鋭角なコアは、空気を切り裂くような迫力があって、その顔もまた今まで見た中でも一番空を飛べそうというか、見て『速そう』って分かる面構え。
「これが、秋月7型フレーム……!
あのコアとかは、確かキリィちゃんも使って、』
「ヒッ!?」
と、秋月7型フレームを見たカモメちゃんが、人間みたいな恐怖の色の悲鳴をあげた。
「どうしたの?」
「知らないブースターです!
細くて見える背部にあるのも、肩のアサルトブースト用の物も!!」
え?
《その通り。
この秋月7型改は、ブースターを我が社最新型の物に変更した物なのです。
我がアヤナミマテリアルのブースターは最大出力特化型ですが、欠点は後発のO.W.S.社やAI社、ライバルのレイシュトローム社や身内のシンセイスペーステクノロジーに比べて、機敏な出力調整が不得手。
つまり噴射時間の長いブースター故に、小回りという意味ではどうしても遅れをとっていたのです。
もっとも、我が社のフレームはレーザーブレードありきの、思想で言えば今のランク3のヤスツナの使う剣術と同じ物ゆえでした。
撃たれる前に最初に近づいて、レーザーブレードを一閃すれば決着がつく。
その思想は変えませんが、ならば火星と地球の両方の技術が揃った今、より洗練したブースターを作ることにしたのです》
「洗練ですってCEO?
先鋭化の間違いでは??」
《ふふ、物は言いよう。商品説明なんてそういう物なのです。
このメインブースターは『嵐1型』。不知火1型の出力のままに、アサルトブースト噴射時間を1/2にカットした物です。
両肩アサルトブースターの『浜風1型』も、同じように雪風1型の噴射時間短縮版なのです》
ブッ、と吹き出す私達。
不知火、雪風はパーツの名前分かんない私が覚えてる数少ないパーツで、
どっちも重量級の機体を軽快に動かしちゃってくれる様な凄い出力のブースターだ。
ただし、アサルトやった時の噴射時間が長い=他のアサルトブーストパーツと違って瞬発力というのが無いのがネックだ。
逆に、軽い機体を長い距離流してはくれるとも言えるけど、なら短くすばやく瞬発力あればいいやとは思う。
でもガチタンを動かせるパワーで瞬発力あるはアタオカなんだけど!??
《背部の『時津風1型』は、弊社ストライクブーストパーツ代表である天津風2型に比べ出力は8割程度ですが、我が社製品初のブラストアーマー点火装置としての機能を有しているのです》
「8割でもバカみたいな出力じゃなかったっけ天津風?」
「ガチタンでも音速突破可能なヤツですよホノカさん」
《音速の2倍……いや3倍はこの秋月7型フレームなら出すことは可能なのです。
まぁ、ブラストアーマー機能はあくまで社の技術力宣伝用。ブラストアーマー攻撃範囲や威力はあまり高くはないのです》
「音速の3倍はもう突っ込まないけど、
ようは、ミサイルの回避とかいざって時の防御用ってことか……
アヤナミマテリアル製フレーム、音速には耐えても砲弾には耐えられないって聞いてるし」
《おや、よくお分かりで》
「ここにはいない私の『先生』がスパルタで身体に叩き込んでくるモンで覚えちゃって……」
《であるならば、そろそろこの秋月でどう戦いたいかは教えてもらいましょうか。
武器をつけねば徒手空拳で戦うしか無いのです。
もっとも、我がアヤナミマテリアル製は徒手空拳は案外強いのですが》
「フレームは頑丈だしね。音速3倍で縦横無尽だもんね。
…………何より、コレってそっちの社のレーザーブレード主体の戦闘が前提の機体だもんね」
《それは当たり前な話なのです》
「……なら、あえて言おうか。
強力なブレードと、それを当てる為の準備ができる武器が欲しいな」
と、私の注文に対して、アヤナミちゃんはふむと考え込む様子。
《…………良いでしょう。ある意味であなたは弊社製品の強みをよく理解している。
…………どれもこれも他社製、いえ一つだけはある意味で我が社の根幹に関わる物ですが、そういう武器構成の方がお望みでしょう。
時間が惜しいのです。まずは機体に乗るのです、
OK!じゃあ早速……
<機体AI音声>
《メインシステム、アセンブリモード起動するのです》
そう言えば、アヤナミ社製頭部を使うと、コトリちゃんとかセヤナちゃんみたいなAIちゃん搭載しないと強制的にアヤナミちゃんボイスだったな。
<アヤナミ>
《
やはりというか、未来予測可能な相手が複数いては、飽和攻撃による機体制御システム負荷からのスタッガーは狙えないと見るべきなのです》
「マジか……!
じゃあ、すぐにでも行かないとな……で、武器は用意した?」
<アヤナミ>
《我がアヤナミマテリアルは、お客様のニーズに常に応える企業なのですよ?
もっとも、今回はあなたにために他社製品を用意する羽目になったのですが》
壁から伸びるアーム達が、武器をこの機体に運んでくる。
まずやってきたるは、ゴツくて四角い銃型のヤツ!
「コレ何?ショットガン?」
<アヤナミ>
《ハンドガンなのです。
弊社の所属するバーンズアーマメンツ陣営、単純明快でアホな思想なリボルバーリバティー社のやらかし、
その場も『HG3 ”ヒュージマグナム“』。
火力もあるのですが、その真の性能は下手な機体安定性しかない機体を一撃で硬直させる『衝撃特化型ハンドガン』なのです。
射程は短いですが、元より近接機かつFCSもブレード想定の距離を想定したその機体なら充分です》
なるほど……ゴツイだけあるね。
早速左腕でそれを掴む。
そして、次は背中へミサイルポッド。案外小さいヤツが見えた。
<アヤナミ>
《こちらも弊社同陣営、シンセイ・スペーステクノロジー製の、『
こちらは高速型
弾頭は
コレで当たって平気なのはよっぽどのEシールド出力か、弊社陣営盟主のバーンズ製のみなのです》
「削れなくても足止めには確実になるね」
<アヤナミ>
《それこそ狙いなのです。
さて…………すみませんね、本命が遅れたのです》
ふとそんなセリフと共に、壁のアームとは別の方向から、一台の無人のフォークリフトが走ってくる。
そのフォークリフトは、台座に刺さってる……っていうべきか、奇妙なことだけどそんな雰囲気を持ったモノを運んできた。
台座に刺さってたのは…………多分だけどレーザーブレード。
黄色というか金色というか、そんな色の大きなレーザーブレードが、鎮座する台座ごと運ばれてきたんだ。
「コレは……?
もしかして新型の試作パーツ?」
<アヤナミ>
《…………『逆』、と言ったら驚くのですか?》
「逆?」
<アヤナミ>
『……この星には、300年前のクラウドビーイング達によるテラフォーミング以前に、どうも地球から資源開発の一団が来ていた証拠が各地に存在します。
このレーザーブレードは、彼らかつての地球から来た者達の置き土産。
そして、地球のアヤナミマテリアル本社技術の始まり、失われたかつての
名前を『零式戦術光波近接兵装『綾波』』。
地球の文明がリセットされた140年前以前の武装であり、そして今なおどのレーザーブレードよりも強力な『起源にして、一つの完成形』。
我が社が、利益を度外視し、火星に点在するそう言ったかつての地球の技術を回収して復元したものの一つ。
この太陽系でも、両手で数える程度しかない武器なのです》
「…………」
…………なんか、すごい武器貰っちゃったケド!?
「…………そんなの使っちゃって良いんですかね?」
<アヤナミ>
《…………フッ。
まぁ安定性というべきか、信頼性で言えばもっと使い勝手も威力も申し分ないレーザーブレードは容易できるのですが……
AIが何を、とは言われても仕方ないのですが、
私は……こんな台座で飾られ、安全を配慮した実験でしか振るわれないこの『零式綾波』を見ていると、
不憫に思ってしまうのですよ》
「不憫に……?」
<アヤナミ>
《国宝指定されて、美しさを保たれ飾られる日本刀と、
切るという役目のために日々研がれながら使われる量産品の包丁、
同じ刃なら、切るために生まれた製品なら、どちらが幸せかを考えたことはありますか?》
「…………?」
<アヤナミ>
《私は、戦いのために生まれた存在は、たとえ破壊しか生まない物だとしても、破壊するために使う瞬間こそ輝き、美しいと思っているのです。
機能美と言いましょうか、包丁は野菜や肉を切り裂く瞬間こそ、そして日本刀は戦場で人を斬ってこそ、
生まれた意味を全うしている瞬間こそ美しい。
飾りなら、初めから飾りとして生まれるべきなのです》
「…………変わった、趣味っすね」
<アヤナミ>
《ふふ、まぁそうでしょうとも。
…………あなたは、この我が社と同じ名前のレーザーブレードを、果たして使いこなしてくれるのでしょうか?
このレーザーの刃の美しい輝きを、戦場で魅せていただけるのです?》
「……さぁね。
正直こういうものは、1発で相手を両断できりゃそれで良し!
ってだけだし、当てられるかは運と気合次第さ」
とりあえず、このアヤナミちゃんと同じ名前のレーザーブレードは右腕のマウント部分に装着。
これで……積載ギリギリじゃん!?ブレード重ッ!?
<アヤナミ>
《あなた、傭兵としての心情は何かあります?》
「金になる仕事をする。仕事は金にする。以上」
<アヤナミ>
《良いですね。その欲深い発想。
実に
「褒めてんのそれ?
さて、じゃあ出撃しますか!!
カモメちゃん、オペレートよろしく!」
はい、と言って、カモメちゃんが駆け出すと同時に、機体を運ぶリフトが動いて、天井が開いた場所にこの機体が運ばれる。
機体カラー変更。私のいつものグレーベースのパターンに!
と、何か<NOW LOADING>の表記が画面に。
あ、終わった。
<機体AI>
《
「アヤナミちゃん!?」
<機体AI>→<アヤナミ>
《さて、無線字幕補助の名称も変えたのです。
見せてもらいましょうか、貴女の力を特等席で》
「……まぁいいや。いつもの相棒AIのコトリちゃんとかと似たようなもんだし。
行きますか!」
<アヤナミ>
《では。
ああ、ところで機体名は何で登録しておくのです?》
リフトが上がり、機体が地上の光の下に向かっていく。
「適当でいいけど……鳥縛りだったなそう言えば機体名。
まぁいいや、仮に『ペンギン』にしておく!」
<アヤナミ>
《機体名『グレートアーク』、登録なのです》
「全然違うじゃん!?」
<アヤナミ>
《後で辞書を調べろなのです》
まぁいいや、もうすぐ地上だ!
「じゃあ、無駄にかっこいい『グレートアーク』君出撃だ!」
<アヤナミ>
《ではメインシステム、
戦闘モード起動するのです》
まってて……生き残ってはくれてるはずのみんなのために、この速いらしい高速機で行く!
***
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