MISSION 1 : 戦場の天使様、勘弁してください







<カモメ>

『ミッションを開始します。

 イレギュラーな事態ですが、降下して戦闘を開始してください』



<サクラ>

『ふざけんなオイ、クソオペレーター!!!

 落ちててどう戦えって言うんだよぉ!?!』



 はい、傭兵系美少女の大鳥ホノカちゃんは、

 一応慣れてる戦場なので、この機体ことオルニメガロニクスの自動安定装置オートバランサーに従って、4つある脚を下に向けて安定させるのであった。



「はいはい、新人ちゃん達落ち着いて?

 自動安定装置オートバランサーが正常に働けば、君たちの乗ってる機体は勝手に脚先を地面に向けるよ。

 それより、一刻も早くシステムをスキャンモードに切り替えて?

 まだ狙われてる。スキャンモードは、みんなの頭の装置越しに念じるか、機体のテンキー押して」



 ええ、なんて声を聞くけど、ひと足先に戦闘モードからスキャンモードに切り替えた私はもっとやばいものが見える。


 地上の、通常兵器MWの多脚型砲台‪……‬勝手にカブトムシキャノンって呼んでるヤツが、こっちに照準用のレーザーを照射しているのがスキャンモードだとくっきり見える。



<フミカ>

『スキャンモード!?銃が打てないヤツですよねそれ!?』


<サクラ>

『反撃できないじゃねーか!』



「撃つ必要ないよー?

 地面に降りるには‪……‬あっやべ、横に動いて!!」



 いつものアサルトブーストじゃない、フワリとした通常ブーストでオルニメガロニクスを右に。


 やっぱりと言うか、まず私の過去位置に砲弾が飛んできた。


<ミコト>

『撃ってきた!?』


「インターバルは大体4秒、照準で5秒‪……‬

 ほら、私の機体よりブースター出力低いんだ、きびきび動いて!」


 地上までは減速ギリギリじゃないと多分当たるな‪……‬


 てなわけで指示を出したけど、まぁまさに今飛び始めた雛鳥ちゃん達って感じにバタバタ動いてる。


 でもまぁ、不細工な動きでも動かなきゃ死ぬ。

 動いてるだけマシ────なんて考えたら、着地出来そうな広い道路が真下に来た!


「ブースト!!用意はいいね!?」


<ノドカ>

『できてませぇぇぇぇぇぇんッ!!!』


「やらなきゃ死ぬのもつまんないさ!

 今!左のペダルを踏み込め!!」



 ブースト、オン。

 地面スレスレで徐々に減速して、空中に一瞬オルニメガロニクスの大型なボディが浮く。


 ズン!ズズン!!ドシン!!


 遅れて、5階建ぐらいのビルの間、4車線のまぁだいぶ穴空いているこの道路へと、私含めて全部の機体が降りる。


<ハルナ>

『‪……‬あはは、で、出来た‪……‬!』


「はい油断しない!

 散開して!」


 早速、真横へアサルトブースト。

 スキャンモードの映像が脳内に直接、こっちを狙ってくる狙撃型の姿とご丁寧に誘導レーザー線まで捉えていたのだ。



<ミコト>

『マジかよ!?』


 ズドン、と私の過去位置を執拗に狙ってきたスナイパーキャノンの一撃が、道路に穴を開ける。


「油断しないで!ここは戦場だ!!

 移動開始!ルート情報はスキャンモードの機体に送るよ!

 目の前に写ってるルートの線を見ながら移動!!」


<サクラ>

『オイ、それじゃ反撃できねぇぞ!?』


「ここから火器管制FCSのサポート抜きで当てられるなら反撃しても良いよー?」


 とりあえず、先に進みますか!

 動いてなきゃ死ぬ。



「カモメちゃーん!

 この状況どうなってるのー!?」


 とりあえず、相手の攻撃を避けながら私に頼れるオペレーターちゃんを呼ぶ。




<カモメ>

『ホノカさん、ちょうど依頼主より通信です。

 お繋ぎしますね』


「おっけー!」




<ハンナヴァルト領主>

『───聞こえますか、傭兵スワン

 私は、このハンナヴァルト領の領主を務めさせていただいている者です』



 無線越しに聞こえてきた声は、案外可愛い女の子の声だった。深刻な雰囲気のトーンだけど。



「で?状況は、領主様?」



<ハンナヴァルト領主>

『こちらの用意が完了するのを待たず、敵が侵攻を始めました。

 すでに立て直しかけた我が方の戦力は‪……‬全滅判定である30%の損失をしております』



 うん、深刻な声のトーンになるね。

 30%損失。普通は7割あんじゃんって思うけど、戦力で残り7割なんて言うのは、残り7%と大差ないってここにはいない相棒のAIの言葉だ。



<ハンナヴァルト領主>

『お願いします。緊急の事態ですが、どうかその腕をお貸しください。

 幸い相手も、まだ数日前戦った数より少なく、兵器の質も落ちています。

 向こうも無理をしているはずです。

 すぐにでも戦況をこちら側の有利に持ち込まなければ‪……‬私たちはここで滅びます‪……‬!

 どうか、その力をお貸しください』






「────嫌だ、って言ったら?」




 はぁ!?!って声が、無線機越しに相手とついでに新人ちゃん達から上がる。



 いやいや、言っとくけどこれは正しい理屈なんだよ。




「あのね、最初聞いた内容と戦況が違いすぎるんだよこっちは。


 そもそも、あくまでこうなる前に戦力を補充する事でこうならないようにするための、最小限の速達可能な戦力で来たの。こっちは。


 ガチの防衛戦闘想定した装備じゃないし、人員じゃない。


 となると、報酬額の割に合わない任務だ。


 だったら、自分の身を守りながら逃げる方が得策なんだよね領主様?


 多分負けるし、こっちは大損の上死ぬ依頼を受ける義理があると思う?」



 ────実は、今進んでいるルート、この領土脱出の為のものだったりする。

 カモメちゃん辺りが自動でそれが出る様にしてあるんだ、こう言う状況割とあったからね。




<ハンナヴァルト領主>

『そんな!?!

 私たちにこのまま死ねって言うんですか!?』



「おんなじことそっちも言ってんだよ。

 ヘリに残ってる組も、降下しないのはいつでも帰れるためさ」


<ハンナヴァルト領主>

『返すわけにはいきません!!

 たとえあなた方が薄情な薄汚れた傭兵だとしても、

 戦力は戦力!!


 今!!あなた方が必要なんです!』




 まぁ、そうくるよね‪……‬

 新人ちゃん達も、帰れるの?みたいな感じに無線機越しに多分聞き耳立ててる。

 まだ撃つなよ‪……‬弾代をどう使うかはここから決めて貰うんだから。



「と言うわけで、一つ提案があるんだよね?」


<ハンナヴァルト領主>

『提案‪……‬?』



「割に合わないのが問題なわけだ。


 報酬額を『3』に引き上げさせてもらうよ」



 なぁ!?!

 とまぁみなさん大合唱。耳がキーンするねぇ。



<ハンナヴァルト領主>

『なんと暴利な‪……‬!!

 私たちの領土に、死にたくなければ破産せよとと言うつもりですか!?』


「死ななきゃ変えせるさ。

 でもこっちは、3倍程度で命かけて戦ってやるって言ってるんだよ。

 私たちの、傭兵スワンのこのたった一個しかない命が、一番高い商売道具なのさ」




<ハンナヴァルト領主>

『‪……‬‪……‬5割追加なら手を打ちます』



 おやおや、値切ってきましたか。てことは払う用意はあるってことだ。



「冗談。せめて2.5倍だ。じゃなきゃこの状況身を守るのに精一杯だってのに割に合わない」


<ハンナヴァルト領主>

『‪……‬ここを突破されれば、あなた方の元締めのトラストにも少ない打撃を受けます。

 当然あなた方の傭兵スワンとしての信用にも響くでしょう?


 ‪……‬せめて、2倍。そして、弾薬費並びに装備提供をこちらが持つ。


 これ以上は譲れません!

 これで受けないなら、あなた方がその報酬に似合うだけの傭兵スワンだという自覚があるなら!



 とっとと私たちを助けなさい、このロクデナシども!!』




 ふむ‪……‬

 2倍に、弾薬費だけじゃなく‪……‬装備も貰えるのか。



 ‪……‬‪……‬決めた!




「よっしゃ乗った!!

 ロクデナシその1、行きまーす!!」



 システム戦闘モード!!

 両腕のは止まってしか使えないから、肩に装備したHEATロケットで反撃!!



<エーネ>

『その条件なら、私もロクデナシその2で参加します』


<ルキ>

『ロクデナシその3、降下開始』


<ケルヴィ>

『ロクデナシその4、同じく』


<ドミニオ>

『ロクデナシその5もやっちゃいまーす♪』



 こちらの位置から左側、だいぶ離れた場所で降下するエーネちゃん達の機体が見えた。



「これで戦闘開始か。

 新人ちゃん達、もう撃っていいよ!

 何せ弾代は補償してくれるって話だからね?」


<ミコト>

『アンタおかしいよ!

 わざわざ戦闘するのも相手に値切るのも!!』


<サクラ>

『常識ってもんがねーのかよ!?』


「これが傭兵スワンの常識さ!

 これがスワンだTIS!!」


<ノドカ>

『そんなのな、キャアッ!?』



 ガキャン、と一人の赤い色のこの機体にスナキャが命中する。


 スキャンモード、敵の位置確認。右斜め前。


<フミカ>

『撃たれた!?撃たれましたよ!?!』


「慌てないで。1001Bは実弾耐性高いから」



 戦闘モード、からの後ろ脚のアンカー設置、スナキャ展開、微調整、発射!


 ズドォン!!


 邪魔な相手の狙撃型多脚兵器カブトムシキャノンを、カウンタースナイプで潰す。


<ハルナ>

『あ‪……‬せ、先輩ちゃん氏、冷静すぎぃ〜‪……‬!?』


<ノドカ>

『うぅ‪……‬頭くらくらする‪……‬』


「頭くらくらするかもだけど、なんとか立て直した方がいいよ。

 幸いなのか、なんでいんだよなのかは知らないけど、通常兵器多いみたい」



 レーダー、壁越しの敵がいくつか見える。道を通っているし高度表示が私の位置と同じ。


 無人探索機リコン射出、建物の向こうの敵がいわゆるワイヤーフレームCGで映し出される。


 逆脚型ガトリング砲台MW、装甲は脆いタイプだ!



「全員武器を構えて!!

 散開しろとかそういう小難しいことは言えないから、敵は撃って!!」


<サクラ>

『なんで敵の位置がわかんだよ!?』


「あ、左の操縦桿の薬指のトリガーがリコンっていう偵察機なんだ。

 スキャンモードにすると射出されたリコンを通して壁の向こうが機体のモニターに出てくる」


<ミコト>

『本当だ!!

 右から来るぞ、気をつけろ!!』


 私が邪魔になるとあれだから、壁蹴りで上へ参りまーす!


 下で出会い頭のドンパチが始まる中、4脚だと上昇速度が遅いから苦労して手短な建物の屋上に上がる。


 スキャンモードだと左側の道路で一歩遅れてやってくるMW達が見える。


 ついでに、カブトムシキャノン思ったより多いな!?


「道の雑魚か、上の砲台か‪……‬

 まずは砲台潰しとくかぁ」


<セヤナ>

《せやなぁ‪……‬ま、細かい照準はウチみたいな有能AIちゃんに任せな?》


「おっけー!」


 屋上に後ろ脚のアンカーをぶち込んで、両腕のスナイパーキャノンを展開。


 目標、左のこっち狙い始めた奴と、右の建物の影に隠れた奴。


 同時発射!



 ズドォン!!


 O.W.S.製のスナイパーキャノンらしい精度で、両方の相手が同時に吹き飛んだ。


 見える範囲の敵はいない、レーダーはちょっと違いますって言ってるけど‪……‬今はリコン射出。


 左側の道、ガトリング砲台型が逆関節でガショガショたくさんこっちに近づいてる。


 ズドォン!!


 真ん中を撃ち抜いて、余波で後ろの機体へ倒させて大ダメージ。

 これで、何体かのMW達が足を止めてこっちを見た!


 両肩のHEATロケット、バンバン撃っちゃえ!


 ボッヒュゥ、ドドドド!!



 軽い爆撃だ、一瞬で結構な数が消える。


「さて新人ちゃん達は‪……‬?」


 真下の戦況は‪……‬あらまぁ!




<ノドカ>

『やめて!!来ないで!!早く倒れて!!』


<フミカ>

『なんで倒れないのよぉ!?』


 当たってない‪……‬FCSが1次ロックの時にパニクって動かしてるから2次ロックできてない。


<ハルナ>

『ざけんなし!!舐めんなし!!早く死ぬし!!!』


<ミコト>

『この!!この!!』


 こっちは逆に、レーザーブレードとかブーストチャージで上手くぐちゃぐちゃに出来てる‪……‬けどオーバーキルだなぁ‪……‬



 ‪……‬あれ?もう一人は?


 やな予感〜‪……‬と下を見る。



 そこには、コアが爆発したみたいな壊れ方した一機の1001Bフレームがいた。

 いくつかの跳弾の跡と、綺麗にコックピットが潰れた感じ。


 eX-Wの防御方式の一つ、実態のないEエネルギーシールドの出力が減衰して、そしてモロに実弾を浴びた。

 装甲部はそれで耐えられるけど運悪く‪……‬自動迎撃砲CIWSっていう胸のガトリング撃ち抜いて、弾薬の部分が爆発したんだ‪……‬


 たしか‪……‬会話ログだとサクラちゃんだったっけか。

 南無三‪……‬さて、



「新人ちゃん、一人死んロストだ。

 悪いけど誰か、ライフルが使えるなら回収したほうがいい」


<フミカ>

『は!?』


<ミコト>

死んだロスト‪……‬!?』



 驚いた新人ちゃん達が、ようやくこの大通りに出てきて死んだ子の機体を見る。


<ハルナ>

『ヒッ!?』


<ノドカ>

『本当に‪……‬本当に死んでる‪……‬!?』


「そう。

 だから集まる前に、多分ライフルは生きてるから誰か取ったほうが良いよ。

 火力増強は、生き残る確率を上げるから」


<フミカ>

『そんな‪……‬!?

 死人の物を、剥ぎ取るなんて!?』


「出来なきゃ、次剥ぎ取られる死人が誰かは保証できないよ?」


<ミコト>

『アンタはァ!!アンタには倫理とか常識ってのがないのかよ!?』


「そういうの知ってるから、率先してここでは通じないって教えてあげてるのさ」


 そもそも、一人死んでる。

 次は自分だって分からないかな?


 いや、コレおかしいの私の方か。

 そもそも普通自分が死ぬ覚悟なんて持たないよねぇ‪……‬やっぱ。



<ハルナ>

『‪……‬ぁ‪……‬ぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁもうやだぁぁぁぁぁぁぁぁおうちかえるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!!!!』



 あ、逃げちゃったか!?


 ブーストも使わず歩行で‪……‬不味いな!

 急いでスナキャを構える私。間に合うと良いけど!



<フミカ>

『ちょっと何をやっているの!?』


<ミコト>

『アンタまさか逃げる奴を背中から!?』


「1001Bはスナキャでも3発撃たなきゃ抜けないんだよ!!

 というか、なんで向こうに敵がいない前提なのさ!?」



 そう、向こうから3体きてる!!


 ていうか、よく見たらさっきのと違ってレーザーブレード持ちの格闘型じゃないかあの通常兵器MW!!!


 2つのスナキャで狙えるのは、さすがに2体同時。

 つまり、1機はスナキャ撃った後なんかしないと撃破できない!!



 ズガァンッ!!



「え!?」


 だけど、なんかする間もなく、3機目も私の狙撃と同時に斜め上から撃ち抜かれた。





<???>

『あんな啖呵を切る様な傭兵が、新兵思いとは意外だねぇ?だが 気に入った』



 ガシン、ガシン、と3機の黒い逆関節機体達が降り立つ。


 全員スナイパーライフル2丁、あるいは一人は変形型武器腕スナイパーキャノンを格納形態に戻しながら、ライフル二つを持った腕を見せてくる。



「ありがとう!

 でも味方だよね‪……‬?」




<???>

『ああ、お嬢ちゃん達が裏切らない限りは、

 ここにいるインペリアル軍ハンナヴァルト領最強の特殊部隊『黒薔薇小隊シュバルツローザ』は‪……‬

 なんて、良い歳して格好をつけている死にかけのババアどもは味方さね!』




 3機の肩に見える黒い薔薇のエンブレム。


 なんか強そうな‪……‬でもちょっとしわがれた声でおばあちゃんなの良く分かる人たちが来た!




          ***

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