MISSION 19 :白鳥の海は大荒れの戦場










 ────街の名前でもある巨大多脚歩行型要塞、


 『エデン・オブ・ヨークタウン』




「最近ここに来てばかりねぇ」



 そのブリッジへゆっくり入る一人の和服美人、

 本名「新美キツネ」こと、このヨークタウンの甲板内で店を構えるマッコイである。



「───ですよね、あなた?」



 目の前に、インペリアル海軍の赤い制服にピシリと身を包んだまだ10代にも見えそうな少女が、ため息混じりに頭を抑えてそうマッコイに話しかける。



「あら、ドロテー提督ちゃん!お元気?」


「お元気なのでさっさとヨークタウンを起動してください!!

 状況わかってるんですか!??」


「はいはい、分かっていますわよ。

 せっかちな公爵令嬢さんね‪……‬」


 と、ハイハイといつも通りの態度でマッコイは艦長席────と言う名の座り心地は良くない椅子にすっぽりと体を収めて背を預ける。


「まったく‪……‬この移動要塞、そもそもあなたの『私物』なんですから、真面目にこう言う非常事態が使ってくださいね!」


「もう300年以上前に私がコレを見つけてからずっと、売れない趣味のお店の資金源で賃貸代わりに商売敵からインペリアルの軍にまでお貸ししているけれど、貸してる本人をこき使うあたりインペリアルは変わらないわね?」


「それ、聞き飽きました」


「知ってますわよ?

 だってあなたの先祖の真面目なハンサムさんが、そうやって髪の毛クリクリ弄ってイライラしている頃から言っているもの」


「それも聞き飽きました!!

 さっさと動かす!」



 ハァイ、と答え、マッコイはヨークタウン全てのシステムを乗っ取り、動かし始める。



 マッコイこと新美キツネ達5人しか存在しない人工生命体『火星人マージアン』は、おそらくまだ同レベルの制御量子コンピュータが作れないほどの生きたコンピュータデバイスである。


 この巨大多脚歩行要塞ヨークタウンの本当の運用には、各ブロックに存在するサブコンピュータだけでもいまだに不可能であり、こうやってマッコイ自身が動かす必要があった。




「ヨークタウン、制御を私に移行ですわ」


「ブリッジ指揮権をCICに移行」


 はいな、と扉が閉まり、二人しか存在しないブリッジ内部が、下へと降りていく。


 戦闘指揮所CICたり得る最も深い被弾箇所の少ない場所で、周囲に状況が3Dで映し出され始める。


「すでに、我がインペリアルの増設武砲台は戦闘の用意を完了しています。

 ヨークタウン、砲雷撃戦用意」


「はいはい、提督ちゃん。

 主砲動かしますわよー?」






 ────橋から端までで一つの都市と言えるヨークタウンのその巨体、


 その中央にそびえる二つの3連装主砲が動き始める。





「ヨークタウン、海側へ回頭!」


「はいはい、っと」





 実に、4年ぶりにヨークタウンの6つの巨大な壁のような太さの脚が、持ち上がり、大地を踏み締めて揺らす。


 意外な速度で、主砲二つを向けた真横と間違われる正面方向を、海側へ向けていく。



「完全停止確認後、砲撃開始。

 さて‪……‬ヨークタウン各増設砲台各員、CICのドロテー・ケーレス提督です」


 マッコイへの指示と同時に、増設した壁の受話器を持ち全ての管内に繋げるボタンを押しドロテーは命令を下す。



「ヨークタウン完全静止と共に、準備砲撃を開始します。

 目標は海上の過去の亡霊。

 インペリアルの為、皇帝陛下のために、ただ何よりここに住まう皆のために、各員死力を尽くすように!

 では‪……‬マッコイ?」


「とっくに用意完了ですけれども?」





 ───ヨークタウンから伸びる空母のような飛行甲板達が翼のように開き、その下に吊り下げられた副砲達が、ミサイルランチャーが、起動する。





「‪……‬‪……‬、攻撃開始!!」





 ────ヒュー‪……‬!!



 空気を切り裂く砲弾の音、続いてボンと言う衝撃波がたどり着く。

 ヨークタウンの攻撃が始まった。


 




          ***






 さて、火星統一政府軍と戦うことになった、傭兵系美少女大鳥ホノカちゃんは!




「海だー!」



 とまぁ、オルニメガロニクスで海面をなぞるように進んで、もうすぐな距離の敵『自称:火星統一政府軍』の目の前の適当な岩の上へ!!



 この海岸線に殺到するみなさんの迎撃の為、

 早速やってきたのだ!!


 まぁ報酬の為だけど。





<ルキ>

『じゃあ、『バード・オブ・プレイ』前に出るわよ!』


 続くは、パーツ新調本当の意味でルキちゃんの機体になった黒と赤のカッコいいカラーな4脚機、『バード・オブ・プレイ』と、



<アンネリーゼ>

『『ブラッドハントレス』前に出るわ』


<エカテリーナ>

『『スカーレットスタリオン』、突撃!!』


 赤い二つの4脚機コンビ!

 アンネリーゼさんとエカテリーナお姫様も向かってく!



 4脚機は、止まっている時は大地を踏み締めるけど逆に移動中は2脚以上に地面から離れているように飛んでいるんだよね。

 なんせ、膝裏のブースターと、場合によってはお尻のブースターと、脚の数以上に消費エネルギー上げてる理由のブースターの多さを誇ってるから。


 おかげで、海上はとある脚のタイプ以外だと2脚よりも動けるんだ。



 そう‪……‬



<イオ>

無人運用機PL-1、オペレーションを開始します!》



 私の機体の上空を飛んでいった、今は頼れる空戦向け調整AIの『イオちゃん』入りの私の愛機の一つ、

 フロート脚のペラゴルニスの次に!



<アンネリーゼ>

『じゃあ、まずは気前よく無人機PLeX-Wを出してもらった大鳥ホノカのフロートが先行して爆撃。

 私以下、4脚機は全員派手に暴れて護衛戦力を潰していきましょう?』


<エカテリーナ>

『敵もフロート型通常兵器MWを多数出していますわね。

 それほどのものを運んでいるようで‪……‬ではホノカさん?よろしくて?』



「私はオッケー!イオちゃんは?」



<イオ>

《PL-1、もう始めちゃいますからね!》



 私の乗ってる4脚機オルニメガロニクスの、高性能なカメラアイが、遠く飛ぶペラゴルニスの両肩ロケットが放たれるのが見えた。

 爆撃開始‪……‬まだ、敵の戦闘機さん方が来ないおかげで、先制攻撃ができた。




「だそうだわ」



<ルキ>

『乗り遅れるわけにもいかないわね!』



<アンネリーゼ>

『妹ちゃんも、ちゃんと着いてきなさいな!』



 前方、3機の4脚機が動きを複雑な戦闘軌道に変えるのが見える。


 まるでアメンボみたいにスイスイ水の上を進んでいけば‪……‬ほら、すぐ海の上の爆発が増えた。



<セヤナ>

《やっとるやっとる‪……‬おっしゃ、イオちゃん、こっちも始めんで!

 スキャンモード頼むわ!》



<イオ>

《PL-1、スキャンモード。

 データ、オルニメガロニクスに送ります!》


「さてさて‪……‬コイツだ!」



 オルニメガロニクスの4つの脚を、岩の上に広げてどっしりと地面を踏み締める!

 加えて、後ろ脚の固定用杭打ち機パイルバンカーを起動!この岩の上にがっしりと固定。



 オルニメガロニクスは、4脚狙撃機!

 両腕の大口径高精度、つまり威力があるしめっちゃ当てやすいスナイパーキャノンの長い砲身を展開して、狙撃の準備は万端!



 オルニメガロニクスは何度も言うけど4脚狙撃機。

 当然頭のカメラ性能も高いけど、それだけじゃ狙撃するには不十分ってことを、今はここにいない相棒AIのコトリちゃんが覚えるまで地獄の講義をしてくれた。



 飛ばしているイオちゃん操る無人のフロート型eX-Wのペラゴルニスが、空中からスキャンモードで目標を調べる。


 今のペラゴルニスの頭部は、前も使っていたリトロナクスことO.W.S.製狙撃用頭部『F103-h“L-argestes”』を買い戻して付け替えてある。

 前は狙撃型なのに射程が少し短い内蔵FCSだったから不満だったけど、今はFCSを変えられるおかげでむしろ前までペラゴルニスの頭だった『八式武蔵』頭部よりも使いやすいし、スキャンモードレンジもかなり広い頭部だったのがグッド!


 だからこそ、あの目標を調べるにはうってつけ。


 護衛の海上で戦うためのフロート型MWなんかのちっちゃいヤツじゃない。


 そのおっきな身体に、上陸したら暴れ回るだろうMWとか何かを載せている、揚陸艇。




 ────ズームした視界の中、揚陸艇の穴を開けちゃダメな場所に、ペラゴルニスのデータから導き出された四角い3D映像マーカーが出る。

 弾道予測線を見ながらそこに照準‪……‬おっと誰かが横切った‪……‬で、隠れている間に今!!




 ズドォォンッ!!!



 右のスナイパーキャノンが火を噴くぜ!

 いや実際飛ぶのは徹甲弾だけど比喩ね?


 狙撃のコツは、今この機体の補助AIやってるセヤナちゃん曰く、『完璧なタイミングを予測できる計算能力、そのの一歩前に撃つ勇気と、神様が当ててもええわと許してくれる日頃の行いの徳』らしい。


 どれも完璧だったおかげで、数秒後一個の揚陸艇が爆発!


 転覆し始めた‪……‬!



<セヤナ>

『ストラァァァイクッ!!

 ど真ん中!これは綺麗なフォームやぁ!!』



「よしじゃあ次‪……‬!」



 右のが砲身バレルの冷却と、弾丸の3Dプリント中の間に左の方を照準!

 一瞬、ルキちゃんのバード・オブ・プレイがもたついてたのが見えたけど、まぁこれも経験と信じて待つ。

 動いた‪……‬そのままルキちゃんの機体戻りませんように!


 ズドォォン!!



<ルキ>

『あっぶなッ!?』



 ふいー、ちゃんと当たらなかった‪……‬

 もちろんその先の揚陸艇は完璧にヤバい場所を撃ち抜いて沈めたけど!



「信じてたよ、優秀なルキちゃんは避けてくれるって?」



<アンネリーゼ>

『あら!感動したわ、姉妹の絆ね!!』



<ルキ>

『後でバニラアイス2個ね、おねーちゃん!!』



 うーん、これは10個買わなきゃな!


 もう一隻だけ‪……‬そろそろ反撃が来るはずだから‪……‬お姫様の乗ってるスカーレットなんだっけ?が離れた隙にズドン!!


 着弾は見ないで、スナキャを折りたたんで、後ろ足のアンカーを地面から引き抜く!


 4脚の速力を活かして移動だ!!




 そう、コトリちゃんにも言われたけど、


『同じ場所で撃ち続ける狙撃手も砲手もいない。

 撃ったら反撃来る前には動く』





<イオ>

《沖合の駆逐艦よりミサイル発射確認!!

 弾道予測‪……‬ホノカさん、逃げてますよね!?》



 ほら来た!!


「逃げてる!!

 で、どこに次は行けば良い!?」


<イオ>

《PL-1、弾道予測データ、送ります!

 スキャンモードで見てください!》



 私の機体をスキャンモード。

 横向いた海の上、見えないミサイルを四角いマーカーで囲んで、こちらまでの着弾距離が、猛スピードで短くなってくる!



<セヤナ>

《セミアクティブタイプやんけ!!

 ロックオンされた!!!》



 システムを戦闘モード。4つの足を横に向けたまま胸の武装を起動!


対空防御機銃CIWS使うよ!!」



 ズドドドドドドドッッ!!!


 オルニメガロニクスの胸の銃口からブッ放す大量の弾で、ミサイルを迎撃!

 爆発‪……‬2発抜けた!!



 こう言う時のための、緊急脱出用推進器!

 背中のカバーに隠れたストライクブーストを起動だ!!


 キィィィィ、ボヒュゥゥウウウウッッッ!!



「ングッ!」


 4脚機は重いから、出力重視のアヤナミマテリアル製にしたけど‪……‬強化済みの私の身体じゃなきゃ潰されちゃう勢いで機体が飛ぶ。


 ミサイルが後ろに着弾したと信じて、急停止!

 浅い地面に跡を残しながら、4つの足でドリフトして、再び海に向く!!



「狙撃続けるよ!

 まだみんな生きてる!?」


<ルキ>

『お姉ちゃん!!ヤバい!!』



 と、スナイパーモードに切り替えた視界の先、ルキちゃんがヤバいと言うだけの物が来た。



 簡単にいえば、空母みたいな真上に空港乗っかってる船‪……‬たしか『強襲揚陸艦』と、


 そっから飛んでくる、かっこいい人型兵器!!




 なんだよ、頭の上に天使の輪っかみたいなの付けちゃって、強そうじゃん!?




          ***




<強襲揚陸艦司令部>

『HQより『ヘイロー』、各機へ。

 いよいよ、本格的な対傭兵スワン戦だな。

 期待している』





<ヘイローリーダー>

『ヘイロー、全機了解。

 各員、薄汚い白鳥どもを撃ち落とす用意を』





 その機体達は、eX-Wではない。

 しかし、本来eX-Wの装備であるストライクブーストを起動し、白い人型の機体を進ませる。


 その頭の半透明に光を反射させる、虹色に輝くヘイローと、ストライクブーストが上部から顔を覗かせる翼の様なブースター‪……‬


 それは、どこか天使的な印象の人型兵器だった。



 それが今、ホノカ達傭兵スワンの機体に向けて、同じような虹色の謎の光を輪の部分から放った。



          ***

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