MISSION 17 : やってきた『過去』
───ホノカ達が演習中の、超弩級歩行要塞『エデン・オブ・ヨークタウン』第3甲板格納庫内のマッコイ商店では、
「ヒマよねぇ、本当。
周りの企業直営店を全部爆破したら、わたくしのこのマッコイ商店も儲かりますかしら?」
と、ヒマそうな顔で、棚の上を掃除して新商品のFCSコンピュータコーナーを作る和服美人、マッコイこと本名新美キツネがそんなことを呟いていた。
「今月も、なんだかんだと修理費が嵩んで目標のお金が貯められない可哀想で嬉しい上客がいてくれるから黒字ですけれども、相変わらずご新規様が来ませんわね……
そろそろ『捕獲』でもしましょうかしら?」
コーナーも作り終わったので、何も知らない新人傭兵か他の店に浮気したウラギリモノでも連れ戻すかと、愛用のライフルを取り出してチェンバーチェックをし始めるマッコイ。
まず、宣伝をするなどの穏便な方法を取るべきかもしれないが、そんなことで捕まるような客ではないのも事実だった。
「……姉様、まずまともに宣伝をするとか、もっと穏便な方法をとるべきだと思うのだが?」
「あら、誰かと思えばクオンじゃない」
と、ガラガラと店の戸を開けて、銀髪ショートヘアーのキャリアウーマンのようないでたちの美人、
マッコイの実の妹、ソラの姉の新美クオンがやってきた。
「どうしたのアナタ、最近のサボりが多いわね?
「私も出来ればサボって朝から酒を飲みたいが、困ったことに社長としてもトラストの役員としても忙しいんだよ姉様。
ただ今日は、この要塞に用があったついでに、世話になった大鳥ホノカにあるものを持ってきたんだ」
「あら……もしかして、アレかしら?」
「ああ。ガレージを開けてくれ」
────ほぼホノカの機体しか置かれていないような、商店のガレージに運び込まれる機体。
曰く『海賊の被る帽子みたいな』と言われるカメラアイの多い頭部を持つ、中量2脚型。
右腕にハイレーザースナイパーライフル、左にライフルのこの機体は……
「アルゲンタヴィス、ようやく大和重工の生産ラインが整いましたのね?」
「ああ。いつも通り販売用兼整備用のパーツ達も持ってきておいたぞ姉様」
「出来る妹は好きよ。優秀で真面目なアナタで良かった」
「じゃあ、お酒奢ってくれ姉様」
「赤ちゃんになるような酒癖の妹は嫌いよ」
ぶー、と頬を膨らませるクオンの頬をオホホホ、と笑いながらぷにぷにと突くマッコイ。
そしてふと、表情を変える。
「……遅かったじゃないの。アナタらしくもない」
「……実は、アルゲンタヴィスの、コイツの『零式信濃フレーム』はわざと、生産ライン確保を遅らせた。
大和重工内にもスパイはいたからな」
「……そもそも、コレ本当は『不完全』なのでしょう?
FCSコンピュータ対応型なのに、FCS入ってなかったのだから」
「ふふ……この状態で、よく
だからオマケしておいたさ。コイツにはタダで専用のFCSを積んである」
「あら、優しいわね。
まぁ、あの子も入れ込むだけの扱い安さもあるものね。
戦う理由が大変に制御しやすい」
「…………大鳥ホノカの持つeX-Wのパーツの量なら、奴の傭兵解約金ももう直ぐ貯まるだろう。
……だからこそ、どうしても心苦しいんだ。
奴には、もう少しだけ傭兵を続けてもらう理由が出来た」
ふと、そう呟いたクオンに、思わずマッコイは理解が及ばない目で妹を見る。
「…………何を掴んだの?」
「敵の正体。そして、攻撃のタイミングだ」
「……誰が?いつ?」
ふむ、と自らの姉の問いに、少しだけ間を置いていつもどおりの感情の読めない顔で答える。
「敵は、『過去の亡霊』。
そして────今だ」
─────直後、ヨークタウン全体にサイレンが鳴り響く。
***
傭兵系美少女、大鳥ホノカちゃん大ピンチ!
<ネェロ>
『これで落ちろ!!』
「にゃぁぁぁぁ!?!?」
と言うわけで、演習で早速狙撃機狩りに遭ってますぅ───────ッ!?!?
<カモメ>
『前期に通達!!緊急事態発生!!
演習は中止です!!!!』
「へ?」
<ネェロ>
『何があった!?』
<カモメ>
『海を見たください!!』
私の乗ってる4脚狙撃型eX-W、オルニメガロノクスの、トサカだのコック帽だの言われてる縦に長くて四角い頭、
だけど、4つの目と5つ目の巨大なカメラ、内蔵されたレーダーとかとにかく調べたりするにはうってつけの頭で見ると…………
「うわ、すっごい……!」
海の向こうには、戦闘できそうなお船の群れ。
大艦隊だよ……戦闘機もバンバン飛んでる!
いや戦闘機だけじゃなくて……!
ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン……!
なんか、なんかでっかいものが、空を飛んでいる!!
両脇にヤバ目のキャノンとか積んでるでっかいのが……何機も!!
<ネェロ>
『どこの勢力だ!?
あの巨大兵器は……お母様より聞き及んでいた『ブラックスカイ』ではないのか!?』
何か知らないけど、インペリアルの偉い人も驚くレベルのモノだってのはわかった。
「……まずは、戦闘用の弾丸補給しないと……!」
***
─────演習場のガレージで、全部の機体の弾薬その他補給中。
ほぼ全員、このピリつく空気の中で事が起こるまで待機をしていた。
水とか飲んだり、トイレ済ませたりね。
「全員、そのまま聞いてほしい。
我がインペリアルをはじめとした、オーダー、ユニオンの人類生存圏3大勢力全て、
そして企業連合体へのトラスト『降伏勧告』が来た」
車椅子の上、今この場で一番偉い人である元帥さんのティーリエお婆さんがそう説明する。
「降伏勧告とは……相手は大きく出たな母上!」
「大きくもでるさ、ネェロ。
何せ……敵は、『火星統一政府』と名乗っている」
なにそれ!?
教科書でしか習った事ないやつじゃね?
「……皆が驚くのも無理はないだろうね。
アレはかつて、ボ……じゃなくて私たちの世代が片づけた、はるか過去の火星の夢さ。
火星を一つに。
お題目は良かったけど、この星に住んでいる人類はそう簡単に一つにはならない。
ならなかったんだよ……」
「……そういえば、質問なんですけど、
私のおばあちゃんが、それ止めたんですよね?」
おずおず手を上げる私の質問に、ティーリエお婆さんはどこか懐かしそうな笑みで答えた。
「……火星の騒乱を収めたのは、皮肉にも資本主義の手先と罵られた傭兵達だった。
ウォースパイトも、若いあの時の『ボク』も、そしてアンジェも……
思想もなんか気に入らなかったけど、金を持った側にとって悪夢になる夢に、鉛玉を喰らわせて終わらせた。
ただ、完全に滅したとも言えなかったとは思っていたけど、どこでこれほどの規模になるまで育って復活したのやら」
「…………」
「…………負担をかけるね。君にも皆にも」
そして、そんな謝罪を周りへ投げかけたティーリエお婆さん。
「この足を犠牲にして、バカな火星人類の夢を終わらせたと思ったのに。
この星はただでさえ傭兵が日夜稼ぎが入る様な赤く燃える戦場の星だ。
そこに、ただでさえ核爆弾に等しいものが蘇ってしまった……不発弾が可愛く思えるようなものが。
……不始末を、押し付けたようですまない。
きっと、先に地獄に行った皆も同じ思いだろうよ。
それは、信念で戦ったインペリアルの臣民でも、金の為に戦った傭兵でも思いは変わらない」
……そう、なのかな?
うん……でも私のおばあちゃん、アンジェおばあちゃんは……掃除の不始末は気にする方だな。
「…………そろそろかな?
政府を名乗る過去の亡霊が、何を我々に言うのか?
その時こそ、我らインペリアルリッターオルデンの命をかける時であり、
稼げる依頼が来る」
広域無線のチャンネルから、誰かと繋がる雑音が鳴る。
このガレージの真ん中に集まった私たちの前で、
ユナさんがおもむろにおっきな無線機の電源を入れて、スピーカーに繋ぐのだった。
何が、聞こえるのかな?
***
────クサンテ大陸内、火星『人類生存圏』、
三大勢力を名乗る陣営で過ごす全ての人類に、そして企業の中にまだある良心を持つ我々火星の仲間全てへ、これから話す言葉を贈ります。
我々は、『火星統一政府軍』。
我々はかつて、地球からの侵略者たる企業の手によって、火星に生まれた貧困と格差、絶え間ない闘争の原因である経済戦争社会を止められず敗走した者たちでした。
50年の長い年月、我々は新たな人類生存圏を見出し、いつかこの場所へ戻るべくその機会を伺っておりました。
この50年間、旧人類生存圏は何も変わらなかった。
変わらない貧困、変わらない戦争経済、変わらない三陣営対立……
それが、本来敵であるはずの『クラウド・ビーイング』の公開と、あろうことか地球からの介入で、その手先の企業によって無理やりまとめられようとしています……
目を覚ましてください、火星の皆さん。
我々は、本来そんな外圧でまとまるべきではないのです。
我々火星政府は、今こそ本当の火星の統一のために来ました。
企業の手先と成り果てた、侵略の尖兵以外へ銃を向けるつもりはありません。
どうか、大人しく我々を受け入れていただきたい。
我々は火星統一政府。
我らの火星の人類の自由と未来のために、どうか正しき決断を。
***
「───おぉ、立派立派」
……なんて、感想が私の第一印象でした。
「んー、なんと言えば良いのだこれは?」
「相変わらずだな、火星統一政府の連中。
その心は立派だよ」
まぁ、インペリアルの偉い人二人もこんな感じだろうねって。
「…………あなたの自慢の皇帝はなんていうと思う?」
「うーむ……可愛い息子だ。案外紳士的な受け答えかもしれんよ、母上?」
そう言えばこの人たち、一応インペリアルの皇帝家だったかー。
チラリと、一応関係者な同業者のアンネリーゼさんの顔と、そうだよこの子その皇帝さんの妹様じゃないかっていう、エカテリーナお姫様の方も見る。
……え、二人ともこっち見るの?
「そう言えば、大鳥ホノカ?
立派って言ったけど、あなたあちらの意見には賛成?」
なんて、おどけて聞いてくるアンネリーゼさん。
このメタクソ美人な赤毛の人の、逆に色素が薄い瞳に映るのは、答えは知ってますって感じの視線だった。
知ってるのに言わせるのぉ?
「いやいや、無理。
立派すぎて無理。あんなの言うのって……」
「静かに!我らが皇帝陛下が返答を流す!!」
と、インペリアルの誰かに言われて、流石に気持ちを切り替えてラジオの方に耳をすます。
『────火星統一政府を名乗るそちらへ、この火星の人類で唯一の帝政国家であるインペリアル、
その統治者たる皇帝、ミハエル・インペリアル2世の名において、
皇帝として、インペリアルの意思として一言そちらへ言わせていただく』
皇帝さんの若い男の人の声は、
次の瞬間、とてつもないことを言った。
『バカめ』
それは、ただの罵倒だった。
***
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