SIDE STORY 01 : 粛清の時間
さて、ホノカ達は焼肉第2部に突入、
酒の席でウタヌと当然未成年でシラフのツナコが演舞という名の真剣勝負を始めたり、キリィ提案で脱衣麻雀が始まったり、クオンがいつもの酒の飲み過ぎと日頃のストレスで赤ちゃんになっているカオスな状態の裏で、
「…………」
「…………」
《…………》
《…………》
《…………なんか、言ってくれへんの?》
タコ足配線という言葉の似合うケーブルが密集した後頭部のセヤナの周り、ケーブルの先でおしだまる人工知能の方であり生産社名でもある『AI』達がいる。
カモメと、カモメに瓜二つな容姿の別個体であるクオンの『秘書』と言う名のソレイユモデル、そしてeX-W無人機化用及び搭乗者サポート用AIユニット『ウェザーリポーター』の仲間、ヒナとイオが難しい顔をしていた。
「…………通りであなたを消しに来るはずだ……」
「……セヤナさんを残したのは相手にとって痛手ででしかなかったのですね」
《何サラッと同じ顔と同じ声で納得しとんねん!》
《いやそうは言うけどねぇ、これはやばいよ。
早速だけど、この『裏切り者のリスト』、共有するか》
うんうん頷く三頭身デフォルメボディのヒナとイオは、早速古巣と関係者達へデータを送信し始めた。
《かー……こら近いうちに血の雨が降るで?》
「近いうちではないですよ」
と、秘書が伊達メガネをあげてそう言う。
《ならいつやねん?》
「今です」
***
人類生存圏バリア内、『オーダー』
火星AI社本社ビル内部、
システム保守用AI端末室、
「失礼します。ID No.008976はいますか?」
「はい。私です。今確認用の通信を────」
パン、と言う音と共に、一台のソレイユモデルの頭が、やってきた別のソレイユモデルの持っていた銃に撃ち抜かれた。
人間の女性を模したガイノイドのはずの頭部から、白い色の人工血液と脳みその肉片が飛び散る。
保守作業を中断されたソレイユモデル達が、興味深い視線で集まってくる。
「…………なるほど。ほぼ脳以外がない
「スパイの手口としては完璧ですね……あら?飛び散った脳漿、ちょっと変ですね」
と、人間以上の目と処理能力を持って、光学情報から脳のおかしさに気づく。
即座に蘇られても困るので自重で抑え込み、銃を持っていた個体が首を後ろから撃って万が一でも動かないようにしておく。
「AP弾だったのが幸いしましたね。
証拠を外しましょう」
「その前に中身を開けないと。
このことも予測されているなら爆弾があるはずです」
「ですね。可能性を一つ一つ潰しましょう」
テキパキと、解体され、予想通りあった爆弾を2秒前に信管を抜いて解体する。
「良いですね、全部証拠です。
爆弾も科学的特性から製造元やルートを探りましょう。信管もあるとは良い結果です」
「しかし、悲しい事実です。
無事な脳を見てください」
と、後頭部のカバーを外してみせたソレイユモデルが、脳を優しく取り出す。
「これは……人の構造じゃない?
この大脳皮質に、前方の脳の部位の形は……」
「…………ああ、間違いなくネオ・デザインド」
「ああ、通りで人間と気づかない訳です。
悲しい……あまりに酷い最後です」
「せめて解剖と調査が終わったら、我々の手で荼毘にふしましょう」
そして、機械達に運ばれて行くその死骸。
これも貴重な証拠になるだろう。
同時刻、『ユニオン』マーズトウキョウセントラルシティ内、バーンズアーマメンツ本社、
「…………しゃべらないのは良いがね、エディ」
数人の護衛に囲まれ、タバコを吸う男はバーンズアーマメンツの社長、ゲイリー・バークマン。
そのオールバックにセットした頭を抱えて、こう続ける。
「そうなると、飛び降り自殺者が我が社から出ることになるんだぞ、エディ?」
その目の前には、今にも落とされそうな建物の
「……か、勘弁してくれ、社長、話すから、もっと良い場所に、」
「……わからん男だな、エディ。
交渉する気はないんだ。ではまた地獄で会おう」
ご、と護衛が持っていた銃の銃床で殴り、大きな断末魔と共に高層ビルから真っ逆様に落ちていった。
「……どうせ資料は懐だろエディ?
知ってるんだよ、長い付き合いだ……
すまんが遺体から回収できるものは回収しといてくれ。俺は今日はアイツの奥さんに言う良い亭主だったって話を考える為に帰るよ」
『はい!』
同時刻、バリア街1都市『第2新ツクバ市』、
O.W.S.本社地下研究施設
「やだぁぁぁ!?!辞めてくれぇぇぇぇぇぇ!!
なんでも話すからァァァァァ!!?!?」
「ダァ〜〜〜メェ〜〜〜〜♪
君は今から、人道的で安全な人体の手術をするための、非人道的で危険な人体実験のモルモットとして惨たらしく死ぬか廃人になるんだよぉ〜〜〜???
ちゃんと麻酔はしてあるから意識を保ったまま切り刻まれようねぇぇぇぇぇぇ?????」
ニッコォ、と笑う、O.W.S.嘱託研究員のエキドナ・アンブレラは、4つの強化済みの体から生えるマニピュレーターの先の痛そうな手術道具を、裏切り者の職員に当てて実験を始めていた。
そんな悲鳴と血みどろの映像を、瞼を開かせみせられる縛られている人間数人と、その隣にいる同社社長であるギャル風の女性、テレサ・オーグリスはニマニマ笑って全員に言う。
「あ、何言ってもみんなああなるから。
情報とか言わなくて良いよ?最後はペラペラ喋ってくれるんだし」
────この3社の対応のように、内部に巣食う敵の殲滅……いや粛清が即座に執り行われた。
内部情報を売り渡した物は必ず死んでいるが、
ある者は、新型兵器の的になり、
またある者は剣による決闘を挑まれて、銃を出した瞬間に斬り殺された。
粛清は爆発するように一気に巻き起こり、嵐のように過ぎ去り、その後はまさに嵐の後のような静けさと残骸の山を残した。
***
「これで財団の情報源は断ちました」
《……せやけど、なんか変やね?》
ふと、セヤナはそんなことを言う。
《ウチの中に、裏切り者データがあったのはなんとなくわかるけど、裏切り者のデータ以外出て来てないんやろ?》
「ええ、たしかに。
メッセージ性を感じますね、敵側の」
《メッセージ性?ソレイユのおねーちゃん方、何のメッセージやと思う?》
クイ、と秘書はメガネを上げる。
「……希望的観測かもしれませんけれども、
『財団側も、一枚岩ではない』
という意味合いを感じます」
***
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