[変更済]MISSION 9 :私の話とかどうでもいい









 ────私は大鳥ホノカ



 私は両親の顔を知らない。

 その声も、どんな人間だったかも何もかも知らない。



 赤ちゃんの頃、おばあちゃんとおじいちゃんに当たる人たちに預けられて、両親は消えた。


 おばあちゃんは良い人で、おじいちゃんもだらしはないけど良い人だった。


 ただ二人とも、お父さんのこともお母さんのことも話さなかった。


 家は、裕福とは言えないけど貧乏とも言えない、けど一軒家があるだけ大分マシなところ。


 だから私は、本当にたまにしか両親の事を聞かなかった。


 おばあちゃんは良い人で、おじいちゃんもだらしはないけど良い人だった。


 私の事を本当に大切にしてくれた。

 バカで、無駄に元気で、落ち着きがなくて、

 勉強も苦手で、イタズラばっかり。

 男勝りで、女の子の癖に近所のガキ大将、

 虐めてきたおハイソな女子の髪の毛を半分刈った事もあるような、本当‪……‬我ながら怪獣みたいな女の子だ。


 ‪……‬叱る癖に最後は「で?勝ったの」って聞いてくるおばあちゃんのせいでもあるけど。


 私は幸せだったよ。それは本当。





 なんで、

 そんな良い人たちに私を押し付けて、

 なんで、

 私のお父さんとお母さんは姿を現さないのか


 おかしいでしょ。

 じゃあ、なんで私を産んだの?

 邪魔だった??

 じゃあ、邪魔ってちゃんと私に言ってよ。




 おじいちゃんが死んで、しばらくしてそのお母さんのと思わしき借金が判明した。


 中学も終わりが見えてきたあたりだった。


 金額は、ユニオン通貨で2000万円。



 ────思い出の家が、ユニオンのいつものクソみたいな政策のせいで凄く安く売られて、アパートに引っ越しておばあちゃんはその歳でパートを掛け持ち始めた。


 私は、元から高校の進学できる脳みそじゃないし、働く気だったけど‪……‬


 私が、卒業して数日後、

 おばあちゃんは過労で倒れて‪……‬


 そのまま死んだんだ。


 残りは1000万円の借金。



 後半分まで減らしたのに‪……‬



 ‪……‬‪……‬私の、クソ、親‪……‬の‪……‬せ‪……‬‪……‬









「‪……‬あの、借金、は‪……‬

 ホノカちゃん、の‪……‬お母さんの、物じゃ、ない‪……‬!」





 ───病院のベッドの上で、苦しそうにうめくおばあちゃん。

 年のわりに背丈がシャキッとしていて、肌も綺麗だったおばあちゃんが、

 細く枯枝みたいな手で私に握って、



「私には‪……‬娘が、二人、いる‪……‬

 あの借金は‪……‬ぅ‪……‬妹の、ウズラの‪……‬

 愚かな‪……‬ヤクザと、寝ている‪……‬縁を切った子の方の‪……‬

 死んでも、なお‪……‬残ったお金‪……‬なの‪……‬」




 ─────絶対に聞きたくなかった真実を、


 私に教えたんだ。







「‪……‬タマコは‪……‬あなたのお母さんは‪……‬!

 私の、せいで‪……‬あなたを、捨てざるを得なかったの‪……‬!!」



「‪……‬ぇ?

 おばあちゃん‪……‬‪……‬」


「‪……‬‪……‬ごめんなさい‪……‬全ては私のせいで‪……‬

 私が‪……‬あの子を、もっと───────」







 ────おばあちゃんが嫌いになったあの日、



 あの日‪……‬肝心な事を言う前に、おばあちゃんは死んでしまった。



 悲しいとか、悲しくないとかじゃない。


 訳が、分からない。





 何、それ?


 なんで、大切な事を教えてくれないの?




 ────おばあちゃんの嘘付き!!!


 ずっとずっと私に何か隠してたんだ!!!


 なのに死ぬ時になって中途半端な事ばかり言って!!!


 可愛がってくれたのは、私のお母さんと何か関係があるからで!?!


 私はもしかしてお母さんの代わりだったの!??

 



 なんで!?!

 なんで、私を捨てたクソ親のことを庇うような事を最後に言うの!?!



 なんで私に本当のことを教えないで死んだんだよ!!!



 私の事を騙してたんだ!!!


 私がお母さんのことを!!!聞いても話さなかったのは!!!!



 ────何かずっと、隠し事してるってバレバレだったのに‪……‬!!



 なんで?

 何で肝心なことを言わずに死んじゃったの??



 おばあちゃんなんか大ッッッッ嫌い!!!



 おばあちゃんなんか‪……‬おばあちゃんなんか‪……‬!!











「相続放棄してくれ!!

 あんなクソ女の為に、君のおばあちゃんは金半分も減らしたんだ!!」



 ────ヤクザみたいな顔のおじさんは、

 本当はすっごく優しかったよ。



「君まで、苦しむな!!

 クソみたいな叔母の借金で、君を育てたおばあちゃんが死んでしまったんだぞ!?

 立派な人だよ‪……‬相続放棄という形で、君に何の負債も用意しないようにしているんだ!!


 アイツには俺も苦労させられたんだ‪……‬たのむよ、君まで苦しまないでく」




 でも、私は返すことにしたんだ。

 無言で指紋をハンコがわりにして。


 ‪……‬‪……‬本当に優しい人だったよ、名前忘れたけどヤクザみたいなおじさん。

 だって、私より泣きそうだったもん。


「なんで‪……‬!?」




「おばあちゃんが残してくれたもの、

 嫌なものでも、捨てたくないんです」






 おばあちゃんが大嫌い

 でもおばあちゃんが大好き

 大好きだから、大嫌い





 私ね、傭兵スワンなんていう、汚い仕事してるよ。


 借金は一瞬で消えたけど、傭兵解約金はそんなのよりずっと高いよ。


 私、ちょっと前まで住んでないアパート借りてた。

 今は、こっそり今住んでいるヨークタウンの部屋に色々と持ってきて、この前ようやく運び終わったんだ。



 仏壇もちゃんとあるよ。

 ‪……‬‪……‬お墓、ちゃんと建てたよ。

 ヨークタウンの近くの墓地だけど。

 つい最近だけど、こっそりね。


 こんなことしてるから、傭兵スワン辞めるお金貯まんないんだよね。


 知ってた。パーツ代のせいでも修理費のせいでもない。


 ────お墓参り、また行くよ。


 おばあちゃんなんか大嫌い。私を一人にした上にずっと隠し事してたから。


 おばあちゃん大好き。だって、それでもずっといてくれたから。



 おばあちゃんなんか‪……‬大ッ嫌いだ‪……‬!


 だって‪……‬‪……‬もっと話したかったんだもん‪……‬!!













<コトリ>

《────ホノカちゃん!!聞こえていないのか!?》







 ──── ガキャァァン!!






           ***




 ────あー、ども。ちょいと失礼するで?


 ウチは、浪速なにわ戦少女ヴァルキュリアこと、傭兵スワンのオルトリンデさんやでー?

 ランク11の凄腕さんやー、よろしゅうなー?



 ‪……‬なんて、明るく言える状況でもないというか、


 ウチらは、とんでもない戦いをしてもうたんや。



 ウチは、ネオ・デザインドビーイング。

 人間とは違う、見た目は銀髪美人のモデルさんやけど、遺伝子やら中の構造は色々ちゃう、おかーちゃんのお腹の中やなく、シリンダーの中で生まれた生命や。


 ウチらは、特殊な感覚で、生体センサーとでもいうべき人や生きてるモンに存在を感知できる。


 何ならウチ、生きてる人の、表面だけやけど心もちょいと読めるわ。


 独り言とかは確実に聞こえるで?



 せやけど、今回の敵はそれ以上。

 ウチの思考筒抜け思うた方がいいやばい相手やった。


 色々あって、3対3の対eX-W戦!


 敵のエースの赤い機体、『⑨』のエンブレムのヤツは、訳アリ同行者二人にお任せ!


 さて、悔しいけどウチより強い歳上の後輩のホノカちゃんとで、ウチもウチの愛機のスカイヴァルキュリアとバトル開始や!ってとこで‪……‬


 現れた謎の4脚。どうも、敵さんと同じ、ネオに似た何かの人工生命ぽい子が、


 余計な事しくさって、ホノカちゃんのお母ちゃんの話なんぞしよった!!


 ホノカちゃんは、悩んだり考え込んだりしないから強いねん!!


 なのに‪……‬ホノカちゃんは、前から聞いてた借金だか残して消えた顔も知らんクソ親の話で、見事ドツボハマってしまったんや!!


 アカン。


 事実上大ボケ助っ人の、M-1やったら大歓迎な人間とガチバトルで相方や!!


 2対3。今日がウチの命日や。



 そう思って慌ててたのが数分前、



 ガキャァァン!!




 で、その漫才のネタ一回分の時間で、


 単騎ピンで相手をボロカスにしたのが、




 思考がドツボにハマったホノカちゃんその人やった




「は?」



 せや。この感想は、むしろ相手の方がしっくりくる感じやろ。


 ホノカちゃんは、ウチでも分かるぐらいトラウマというか心の闇というか、普段はきっと見せないようにしていたもんに囚われていた。


 普通は、動く訳ないねん。


 だから相手も潰しにきた。


 最初に潰しにきた白青トリコロールな機体のレーザーブレードを避けて、ハイレーザーライフルで腰撃ち抜いたんわホノカちゃんのペラゴルニスや。


 あの距離はEシールドも意味ない。

 それは意味わかるけど、意味わからんねん。


 ようやく、きれ〜〜に別れた上半身と下半身が地面に転がったあたりで、ウチの頭に響くような悲鳴あげて発狂する敵にガチタン乗ってた子。


 動かんままやっぱ思考のドツボハマっとるホノカちゃんのペラゴルニス。


 で、気がついた敵の逆関節スナイパー機体の子が撃ったんや。


 ペラゴルニスは防御紙やし、肩とかに穴開いて、実防高めなコアは跳弾。

 瞬間、気づいたみたいにペラゴルニスが動き出した。


 スナイパーライフル当たるのは無視や。

 左腕もげたのも無視や。

 生存本能完全無視のノーガード攻撃無視や。

 正直、不気味やった。


 だってホノカちゃんは戦ってるなんて思ってへん。

 戦いが起こってる事も気づいてへん。


 ただただ悲しい粘り着いたような感情の中で体育座りしてるような感じやったん。



 なのに、ガチタンの主砲のクロスキャノン、あのぶっといプラズマビームを発射寸前で避けながら、

 パージしたライフルとミサイルポッドが焼かれながら、取り出したククリ刀みたいなレザブレでガチタンを解体や。


 鮮やかすぎてビビったわ。


 けど、確信があった。

 これ、ホノカちゃんの相棒のPLシステムのコトリちゃんがやっとるんやない。


 前に見せてもらったシミュレーターと、癖が違うねん。

 ネオとしてではなく、ベテラン傭兵の感覚でな。


 間違いなく、ホノカちゃんっぽい癖がある、

 ホノカちゃんっぽくない動きや。


 左腕と主砲、履帯も斬り裂かれたタンクの子、


 その子から、明らかな恐怖の感情が漏れるのを感じたわ。


 隣の余計な一言ちゃんも、恐怖で動けてへん。



 唯一、あの逆脚の子が、

 タンクの子を助ける為に、ホノカちゃんを殺そうとした。


 まずい‪……‬また動かなくなっとる。


 そう思って、ウチらは動こうとした。




 ガキャァァン!!!



 ────今、逆脚の子は思考が消えた。


 回し蹴りみたいに、ペラゴルニスはその脚の姿勢安定にためのとっつきを打ち込んだんや。


 コアど真ん中。キレーにストレート。


 ‪……‬おもろないわ、ドアホ。


 即死や。もう中身はトマトまみれの真っ赤っかやねん。



 そして、そこでようやく、

 ホノカちゃんは、思考のドツボから戻ってきたっちゅーワケや。



「‪……‬なんやねんこの戦いは‪……‬?」




 ‪……‬‪……‬初めてホノカちゃんが怖いと思ったで







          ***





 ────すごい音がしたと思ったら、私はあの逆脚の機体に蹴りを入れていた。


 ‪……‬‪……‬なんだか、ちょっと気絶してたみたいな。

 いや、なんだか、中学の5時間目で、眠くなる先生の授業で寝ないよう必死に耐えていた後の、休み時間になった感覚というか‪……‬



「‪……‬‪……‬そっか、私がやったのか‪……‬」



 私は、気がつけば3機撃破していた。

 いや、多分あの‪……‬嫌なこと考えてた時に、片手間で戦闘しちゃったんだ。


 うん‪……‬うん、思い出してきた。

 ひどく気を失いそうな状況でやったことを。



<コトリ>

《‪……‬‪……‬戻ってきたか。

 あのね、色々言いたいことあるけど、


 まず戦いが雑なんだよね。死んでもおかしくない》


「コトリちゃん‪……‬」


 いつもの怒られ、とは違う声色で、いつものお叱りを受ける。


<コトリ>

《‪……‬‪……‬それで、大丈夫?》


「今は‪……‬さっきまで、ちょっと思い出したくないこと思い出しちゃってた‪……‬ごめん」


<コトリ>

《‪……‬‪……‬君は、説教よりやっぱお休みが必要かもね》


「‪……‬‪……‬ごめん」


<コトリ>

《‪……‬ホノカちゃん。君が何に辛さを感じているか分からない。

 けど、人を殺す時は、傷つける時は、いつもみたいに自覚を持ってやってよね。

 酷いことをしていると思って仕事として殺してくれよ。


 そうじゃなきゃ‪……‬これじゃあ君はただの怪物だ。


 見なよ。

 まさに怪物が暴れた後じゃないか》



「‪……‬‪……‬本当に、何も言い返せない‪……‬」



 ペラゴルニスも、大分武装が無いし、片腕もない。


 修理費とか考えないで、やっちゃったんだ。


 ‪……‬‪……‬うん、それは、最低な仕事でも、仕事をしている傭兵スワンの戦い方じゃない。



「‪……‬‪……‬どんな仕事でも、」


<コトリ>

《うん?》


「どんな仕事でも‪……‬仕事するなら、真面目じゃなくていいから、仕事の敬意を払ってやれ。


 ‪……‬おばあちゃんの言葉だよ」


<コトリ>

《‪……‬‪……‬おばあちゃんに、叱られるね》



「うん。

 ゲンコツ2個だよ。絶対にクドクド言われる。

 私は‪……‬殺しやるにしても最低のやり方をやったんだね‪……‬やっちゃったんだ‪……‬」



 ‪……‬‪……‬涙が出てきた。

 なんか、止められない。



「こんなことしたんだもん。

 ‪……‬絶対に叱られるよ‪……‬こんなこと‪……‬」



 ‪……‬‪……‬ごめんコトリちゃん。通信とか任せた。








 ちょっと‪……‬‪……‬泣くね。









 ─────泣き終わって、数分後、

 クオンさんから、戦闘停止の指示が出たのを知ったのだった。


 まぁ、結局まだちょっと泣けてきて、

 そんな顔とモヤモヤした気持ちで、この研究所のハンガーに入ったんだけどね。




 ‪……‬‪……‬まずは、色々話を聞かないと。




 気持ちを切り替えるのは、その後。






          ***

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