[変更済]MISSION 2 :おやすみが欲しかったのに‪……‬









「傭兵系美少女な大鳥ホノカちゃんはおやすみが欲しいのです!!」





 そう、傭兵系美少女な大鳥ホノカちゃんはおやすみが欲しいのです!!



《まぁ気持ちは分かるよ。ソファーの上でふくれっつらでそう言いたくなるぐらい忙しいしね》



 そして今ソファーの上でふくれっつらで寝転んでいる私が抱いている赤い30cmぐらいの大きさのデフォルメロボ子ちゃんが、ウェザーリポータータイプ13の『コトリちゃん』。


 見事私の言って欲しいことを言う相棒なのであった。


「28人もコーロコロしちゃってアレだけどさー、もうしばらく出撃したくないんだけど??

 オーバーワークでしょオーバーワーク!」


「気持ちは分かりますけどワタクシのお店でゴロゴロしながら駄々をこねないでくださいましね?」


 と言いつつ、後でお代はきっちりいただくオレンジジュースをストローで飲ませてくれる和服美人さんがマッコイさん。

 今ゴロゴロしているこのパーツショップマッコイ商店の店主なのであった。


 今日もお客は私だけ。まぁ色々あってね。


 主にこのマッコイさんが他のショップで買ったかどうか匂いで判別して買ったもんなら奇声を上げながら問い詰めるのが原因であった。パーツの品揃えは良いのにね。



「にしても、整備が長いなぁ‪……‬

 やっぱり新アルゲンタヴィスは、地球製だから難しいのかな?」



「難しいとかそんなレベルじゃねぇかもしんねぇっすわホノカちゃん」


 この口調は!この店で唯一頼れる褐色整備士系多腕女子のユナさんではないか!?

 私と同じく仕事のために身体は強化済みなユナさんでは!?


「どう言うことユナさん?」


「実は、まだ交換用のパーツが生産追いついてないんすよ!

 火星の大和重工の工場でも今サンプルパーツバラしてたり設計図元にパーツ製造する為の設備作ってるんじゃないっすかね?」


「あらまー!!

 じゃあアルゲンタヴィス修理不可能な感じか〜!!」


 前にもこんなことあったなー!

 悲しいぜアルゲンタヴィス!!


「一応聞くけどなんとかならない?」



「────こればっかりはさ、大和重工の火星に暖簾分けしても変わってない『拘り』のせいもあるんだよ」


 そして、もう一人、

 頼りにはなるけど、ちょいとガメついこのお店の新従業員がやってくる。


「大和重工はさー、オートメーション頼りきりは絶対許さないんだ。

 人の手の介在しない仕事はしない。地球で立ち上げた頃からね。


 多分、設備以上に今大和重工内部の作業人員の育成と教育でちょっと遅れてるんだよ」


「詳しいですね、ソラさん」



 そう、この繋ぎに綺麗な金髪を後ろで束ねて顔が煤だらけの美人が、マッコイさんこと一応本名新美キツネさんの妹さん、


 地球育ちの火星人マージアン、火星の人類とはちょっと違う一人の新美ソラさんその人であった。



「詳しいも何も、70年とちょっと前にAI社を私が作った後、いろいろあって大和重工の立ち上げに協力したのも私だしね。

 機械を扱う仕事の心得は、私もそこで学んだのさ!」


 ちなみに、86歳。うっそでしょまだ10代にも見えるレベル!!

 まぁマッコイさんが300歳だし仕方ないか。マッコイさんどう見ても20前半だし見た目。



「さすがっすねソラバア!アンタ、さてはあの零式信濃フレーム一回以上はバラしてるっすね?手つき見りゃオイラでも分かるっすよ!」


「ははは、メカいじりで君みたいな若い子に負けるほど耄碌してないよっ!コイツぅ」



 ちなみにすっかり、ユナさんソラさんに懐いてます。

 というか、おばあちゃん呼ばわりでも怒らないんだ意外だな。


「えへへー♪ついでにこの前借りたジュース代、」


「ダァメェ〜♪120円ちゃんと返してね〜??」


 なお、がめつい銭ゲバである。

 この人、銃片手に値切ろうとしてきた極悪スワン相手にこの前一瞬で銃を解体して、財布全部置いて行かせたぐらいお金に妥協しないし、絶対に相手から搾り取る。


「そういえば、この前のお茶代も返して置いてくださいねユナ?」


「グッ‪……‬それ福利厚生費ってやつでは無いんすか!?」


「ダァメェ♪」



 そしてお姉さんのマッコイさんもまぁ似たようなもの。

 おかしいなぁ、離れて育ってるはずなのになぁ、髪の色も目の色も違うのに同じ笑顔じゃん、めっちゃ姉妹じゃん!


「まぁ、それはそれとして、

 じゃあ当分ティタニスかペラゴルニスでかー‪……‬

 あ、いっそしばらくお休みしようかな!

 そろそろばあちゃんのお墓参りやらないといけないし」


《たしかにたまには休みがないとね。

 ちなみに、ソラちゃんや。具体的には何日であのフレーム市場に出るんだい?》


「うーん‪……‬かかっても二週間かな。

 幸い、切り札UFO使用してないしね、基礎は他の製品の共通も多いしね」


「アンタ、金にガメツイ以外はマジで頼りになる整備屋っすよ‪……‬製造元レベルで知識持ってるとこはマジで尊敬っすわ」


「じゃあ、おやすみしようかなー、傭兵業。

 いい加減おばあちゃんに顔見せに行かないと夢元に現れて怒られちゃうしさー」




「‪────本当にすまないが、その前にひとつだけ依頼をこなす気はないか?」




 と、私以外はだいたい閑古鳥鳴いているマッコイ商店に珍しいお客さんが。


 まぁでも、顔見た瞬間セリフ通り私が目当てっぽいのはわかったけど‪……‬



「クオンさんじゃないですか」


「クオンおねーちゃーん!どうしたの急に?」



 銀髪ショートの背の高い美人さん、そしてよく見ればマッコイさんとソラさんそっくりな顔立ちのこの女性こそ、


 火星の企業の一つ、オートマティックAインダストリアルI社のCEOにして、


 火星の傭兵スワン、その中でも50人しかいないランカーの一人、


 しかもその頂点の『ランク1』、新美クオンさんその人だった。



「ああ、妹よ。今小耳に挟んだが、アルゲンタヴィス‪……‬というより、それに使われている零式信濃フレームが使えないというのは本当か?」


「本当だよクオンおねーちゃん。

 これでも火星の大和重工の人員はは高く評価してんだよ?」


「3日以内にはお前が行けば収められるか?」


「人の教育は三日では無理だね。

 設備の慣れと慣らしのパーツ作成でも少なく見積もってこれさ。

 悪いけど、現物確認用のフレームは出せないよ?」


「‪……‬技術屋の言うことは信じるべきだな‪……‬

 しかし困ったな」


「あのー、クオンさん?

 まず受けるとは言ってないんですけど」


 困った顔されても、私は休む気満々なんだよねー。


「そうか。

 ‪……‬‪……‬30万cnではダメか?」


「えっ?」


 ちょっと待って、決心揺らいじゃう。

 30万!?ヤバイ、いつもの5倍ぐらい??いやいや5倍ぐらいぃ!?!


「ただし、全額前払いだ」


「‪……‬‪……‬つまり面倒ってことですか??」


「その通りだ、大鳥ホノカ。

 ‪……‬用件だけでもまずは聞いてくれ」



 と、内緒話なのかな、と察したマッコイさんが入ってきた店の入り口を閉めて、鍵をかけてカーテンを下ろす。



 さて、30万もの大金を前払いでポンと渡してまで、休みたい私を引っ張る理由は?



「恥ずかしい話だが、我がAI社の中に裏切り者がいる」


「‪……‬裏切り者?」


「ああ。

 我が社は基本的に、そこの妹が立ち上げてからは工場周辺は一部技術者を抜いて殆どが名前通りの自動化がされている。


 だが経営ともなると、人工知能の方のAIだけでは納得しないものでな‪……‬


 この火星のAI社には人間の役員がいる。


 で、そいつらの一部が私を退陣させたいらしい」


 なんかドラマで聞いたことある展開来た!?


「いい加減300年生きているババアではなく、60そこらの老人が『ガキ大将』に収まりたいのか、まぁ理由はどうでもいい。


 だが、実質的経営業務はその役員以上にさっき話したもっと有能で若い中央AIユニットがしている。


 その次に、良い加減引退したいこの私だ。

 役員のアイツらは甘い汁をもっと吸いたいだけだ。吸ってもいいが正解が無い仕事も増えると言うのにな。


 そこで‪……‬‪……‬ここ数日罠を張って誰が私を殺したいのか特定した。


 後は、粛清するだけだ」



「つまり、私がそいつらを‪……‬」



「ああ。

 確実に始末して欲しい」




 ‪……‬‪……‬わーお

 マジの殺し屋みたいな任務が来ちゃった‪……‬!



 と、言うやいなや、AI社のロゴ入りタブレットを取り出すクオンさん。



「ところで、お前は我がAI社の主な利益は何で得ているか知っているか?」



「え?えっと‪……‬プラズマ武器?」



「それはeX-Wパーツでの話だし、一番売れてるのはフレームの方だ。


 そもそも兵器産業は破壊か恫喝営業以外には使えない。割と赤字だ。


 企業とはそもそも、価値を作って売るのが本業だ。

 では我々の生み出している価値とはなんだ?」


「そういうむつかしいはなしはわかんないです!」


《その知力の代わりに大きく育った膨らみ二つを立派に張ってまで言うだけあって説得力ある言葉だ》


「胸以外栄養失調なのは困るぞ?」


 まぁ、恥ずかしながら反論できない事なので、私の自慢の胸をコトリちゃんとクオンさんにむにむにつんつんされるのは甘んじて受け入れましたー。



「‪……‬ちなみにわかりやすく言うと、

 我々の主力商品は、この火星の通信インフラと自動化インフラだ」


「通信と‪……‬自動化?」


「我々は、主に携帯電話、携帯端末販売並びに、それらのネットプロバイダーサービスの最大手であり、

 同じぐらい無人型の産業機械のほぼ全てが我々が扱っている。

 この意味がわかるか?」


「‪……‬‪……‬携帯売ってるってことしか」


「携帯だけではない。携帯電話でできるほぼ全てに必ず介在するインターネットワークへ繋げ、ネットの検索の結果を整理して情報を見せるサービスのだいたいは我がAI社がやっている」


 え、なんか凄くね??


「そして同じぐらい、街で見かける電線を修理するロボットたち、お前も世話になっているカモメの様なソレイユモデルを利用したあらゆるサービス業‪……‬コンビニのロボ店員からファミレスの配膳ロボ全てが我がAI社の商品であり、我がAI社の無人サービスメカ達がいないサービス業は数が少ない。

 いや、見えない社会インフラですら、我が社の無人ロボ達が整備している。


 この火星の人々の生活を大部分支えているのは、

 我がAI社と言っても過言ではない」



「‪……‬‪……‬なんかすごいのは分かりました」


「そう、なんかすごいのだ。それだけ分かってくれ。


 でだ‪……‬実はそんななんかすごい事を日々やっている我が社の中で、意外な業務に携わっている役員が、私が殺そうとしているらしいのだ」



 とか言いながら、AI社のタブレットを操作して、そういえばAI社のロゴ入りの検索サイトで何かのホームページを開く。


 それは、病院っぽいホームページだった。


「病院?」


「医療技術に関しては、O.W.S.という最王手がいるが、AI社もとある面ではO.W.S.以上に進んでいる。


 遺伝子研究と、ウィルスなどの防疫関連だ」


「そうなんですか?」


《それはそうだね。

 AI社は情報とかロボが本来の畑だけど、遺伝子見たいな複雑な生態情報は大昔からスーパーコンピュータが解析しているし、対ウィルスっていうのならO.W.S.系列の病院も、医師が身体を生身にしない事で対応できる様にしている。

 だったら最初からそういう技術を再現できる無人のロボ医師が、ウィルスが効かない機械の体を利用して研究をやった方が速いはマジだしね》


「あ、なるほど。それはなんか分かる」


「‪……‬‪……‬この『火星レイダー遺伝子研究医院』はな、ネオデザインド・ビーイングなどをはじめとした人工生命体の作成や調整、その他医療系の研究をしている場所で、そこの医院長はAI社の数少ない生身の役員の一人だ。


 名前は、浅見あざみクルス。出身はオーダー勢力圏で、まぁ優秀な男だよ。年のわりに若く見えるな」



 なんだかちょっと神経質そうな、年齢が49っていう割には若く見えるハンサムなおじさんの写真が映し出される。



「こちらのおじさんが、」


「ああ。長くなったが、コイツが目標だ。

 多少痛手だが、何度も忙殺されかけるのは辛いからな」


 クオンさん、なんだか惜しそうな顔でちょっとため息混じりにそう言い放つ。


「殺したくないんですか?」


「私はコイツが嫌いじゃない。殺すしかないだけでな。

 ‪……‬‪……‬だから、今回の依頼は、相手を殺しやすいところで誘き出すのと同時に、ちょっと私も動機が知りたいから殺す場所を指定するつもりなんだが‪……‬」



 と、一回そのホームページをアプリごと戻して、今度はちょっと軍用の地図アプリを開く。



「作戦区域は、火星レイダー遺伝子研究医院の系列であり、AI社の医療部門唯一の人類生存圏外部に位置する、『レイダー外部遺伝子研究所』なんだが、


 ここはな、『ちょっと危ない物』を多数扱う都合上、下手な軍事施設より厳重にされているんだ」



 地図を見ると、でかい渓谷のすぐ近くの崖に生えた研究施設、ついでに3Dグラフィックでその谷の地下まで伸びる施設のマップまで見せられる。


 それだけでも面倒な立地だなと思ったら‪……‬うわ、



「このマーク、地雷ですか?」


「ああ、谷の反対側の荒野は大半が地雷原だ」


《あれこれ、対空砲?》


「パルスプラズマ対空キャノンに、対空用VTFプラズマミサイルランチャーは常に警戒している」


「これ研究所なんですか?

 要塞の間違いじゃ?」


「これはな、中にあるものが大半、漏れたらまずいし窃盗されても困るものばかりなものでな。要塞化するしかなかったのだ。

 流石に天然痘だのなんだのの保管もしてればそうなるし、この研究所自体も最悪の場合に備えてプラズマ核融合爆弾にもなる核融合炉が内蔵されている」


「めちゃくちゃ怖いというか、

 これどうやって研究所で予定の人殺すんです?」


「ああ、谷を使う」


 谷を‪……‬??」


「eX-Wは、脚部のジャンプだけで壁面や谷を登れる。何度も壁を蹴ってな。

 実は、この研究所の谷側の入り口は、輸送ヘリが飛ぶには少し狭い程度の隙間に至るまでは、航空機で飛ぶには相当腕がいる狭さだが、

 eX-Wなら、壁面を蹴りながら移動するには十分な条件の場所なのだ。

 その上対空砲や地雷も設置ができない深さと険しさがある。


 わざと作った唯一の構造上の欠点だ」


 あー!!

 シミュレーターで何度もやったあれ!!


「だから、どうしても腕のいいスワンと、2脚か逆脚の機体がいる。

 フロートでは通れない狭さと高度制限であるし、タンクや4脚で地雷原や谷の反対側から超えるのは無理だ。


 ‪……‬‪……‬すまんが、頼めないか?

 なんなら、ポケットマネーで脚部ぐらいはサービスしてやれる」



「うーむ‪……‬‪……‬」


 難しい判断が来たぞぉ‪……‬?

 30万、前払い‪……‬脚部ぐらいはサービスか‪……‬


 厄介そうだし、要は粛清。黒い任務だ‪……‬けど、



「まぁいっか‪……‬対傭兵ばっかりだったし‪……‬受けます!」


 しゃあない、もう一稼ぎしてから、お休みにしよう!!


「すまんな。黒い任務だが、もしもの場合は追加報酬もささやかだが用意しよう。脚部とは別にな」


「ま、稼げりゃいいので、こっちは。

 じゃあ‪……‬まずは脚かぁ。

 やっぱ、旧アルゲンタヴィスのコアと頭のペラゴルニスをベースにした方がいいよね?」


《そうだね‪……‬今回はイオちゃんじゃなくて私が相方しよう》


「助かるよ相棒!」


「‪……‬ねぇ、じゃあちょっといいかな?」


 と、ここで黙って聞いていたソラさんが近づいてくる。


「どうしたんですか?」


「実はさ、信濃のパーツの件で私とキツネお姉ちゃん‪と火星の大和重工の本社に言った時にさ‪……‬


 ちょっとばかり交渉で、良いもの安く仕入れたんだよね」


「ああ、そういえば!

 ふふふ‪……‬どっちが支払うにしろ、安くしますので買いません?」


 と、ニコニコいつもの商売笑顔でマッコイさんもまた近づいて言ってくる。


「‪……‬何、仕入れたの?」


「大和重工製標準eX-Wフレーム、

 三式大和フレームの脚と‪……‬ちょっと強力な腕をね?」




 ふふふ、と笑う笑うマッコイさんとソラさん姉妹。

 そのキツネ顔な美人の不気味な笑みが怖いし、後ろで我らが頭を抱えているのがなんか嫌な予感がしてしまう。



「いやマジで、何を格安で仕入れたんですか??

 何を?なんなの??怖いよぉ!!」





          ***

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