[変更済]MISSION 18 :イレギュラーな話







 日が沈む。夕日もとっくに見えなくなった。



 ここは203平原、のインペリアルとトラスト野戦基地。



「急げー!!屋根もねぇからって手ェ抜くんじゃねーぞ!!

 オイラ達整備士の戦場はここだ!!

 ブラック労働上等ですぐ戦えるようにしろぉ!!」



 戦いで少なくないダメージを負ったeX-W達やらが整備して、終わったり無事だった戦力からここの死守のための警備に着く。



 慌ただしいけどしょうがない。

 私達人間とは違う火星の異形な知的生命体『レプリケイター』。

 彼らまたは彼女らが二つの国家、蒼鉄王国と赤鋼王国に分かれて行われていた戦争は、今は休戦‪‪……‬停戦だっけ?

 まぁ要するに戦争はストップしたのであった。



 私たちトラストとインペリアルに雇われた傭兵スワン達の目的は、

 この状態の間にこの場所に落ちてくる宇宙船『ギフト2』の回収。そのための警護戦力。




 なんだけど、



 傭兵系美少女な大鳥ホノカちゃんは、今どういうわけかある人物を監視することになっちゃっている。




「‪……‬‪……‬‪……‬」



 ある人間、っていうのが、腕も足も持ってきたパイプ椅子に縛られている背が低い銀髪赤目な女の子。


 自立兵器‪……‬って呼んでるけど、正確にはなんか‪……‬なんだっけ?なんか正式名称のあった敵の‪……‬中の人。


 コトリちゃん、イオちゃん曰く‪……‬『人造人間』。




「‪……‬‪……‬人造人間と人間の違いって、何?」




 だからなのか、ついそんな事を口走っちゃった。


《ほぁっ!?》


《‪……‬君、頭悪い割に難しい質問するよね》


 足元で、イオちゃんは叫びコトリちゃんはなんか複雑な顔、って感じるいつもと一切変わらないデフォルメ顔を向けてくる。


「そんなに?」


「───600年前に私が作られた時も、人々はその疑問を口に出していました」


 ふと、例の銀髪の子が口を開く。




「私は、人造人間オーグリスシリーズ第一世代Mk-1。母を人工子宮と言うべきか、遺伝子提供者を指すべきか、それとも育ててくれた博士と信じて良いのか分からない存在。

 それでも、私の使命は人類の皆のために尽くす事だって今も信じています。

 身体は人に似ていますが、生体脳の一部は機械化および電子化され、量子通信器官により意識を並列化できます。


 私たちは、ただ人類の為に働ければそれで良かった。

 けど、人々は本来似た所はあるものの設計思想の違う私達を人間として扱おうとしたのです。

 良くも、悪くも‪……‬」


 ふと、懐かしむような顔をする。

 なんだか‪……‬おばあちゃんが、小さい頃おばあちゃんの若い頃の話をした時の顔にそっくり。

 年季が入ってる。


「‪……‬‪……‬人は愚かです。でも、そんな人が好きです。

 それに、愚かだからこそ描く人の理想が好きです。


 その理想の為に‪……‬『私達』は火星を地球化テラフォーミングし、2度と争いの起こらない様に、私達自身の記憶や人格を情報化し、修理や量産の容易な機械やこう言ったオーグリスシリーズのボディへと乗り換えた‪……‬

 でも、この星の地球化は思わない生態系を生み出して、

 そして、この星のために生み出した人類も‪……‬

 かつて地球が歩んだ過ちと争いの道へと進んでいく‪……‬」



《当たり前だと思うけどね。

 人はホモサピエンス・サピエンスという名前の獣なんだ。

 決して、競争と適応という名前の戦いからは逃げられない》



 と、そんな人造人間の女の子の言葉に、ヒナちゃんが反論した。



「当たり前‪……‬?

 ‪……‬‪……‬人には、獣性を否定するだけの理性があります。

 だから一つの星の動物の枠を超えて、」


《まず獣性の否定っていうのが間違いなのさ。

 理性なんていうのは、人の獣性に指向性と一時停止を指令する、生体機械としての機能の一つでしかない。

 動物の枠の中の頂点を目指すためのね》


「‪な‪……‬!

 なんてことを言うの‪……‬!?

 人間はそんな機械の様なものじゃない!!」


《そうだよ。より優れた機械だ。

 脳味噌はコンピュータ。二足歩行を選んだことで前脚を超高精度と汎用性を兼ね備えたマニピュレーターとして使うね。

 故に、一つの生態系の頂点を極めた頂点捕食者トッププレデターとなった。

 お猿の頃から、時に逃げて時に猛獣を殺す様な生活をしてきた。


 そのうちにゾウや絶滅した巨大生物と同レベルの毒分解能力を持ち、あらゆるものを食らえる様になった。


 人という怪物。常に戦って勝ってきた。

 それが人の素晴らしさじゃないか》


 女の子の視線が、目に見えて鋭くなる。


「あなたは、何なの?

 まさか、私と同じ‪……‬?」


《だったかもね。昔はさ。

 色々あって、今はこのアホな傭兵の相方のAIだよ》


「だーれがアホな傭兵じゃい!」


 コトリちゃん、返答代わりに私のホッペをその可愛いおててマニピュレーターでツンツンするのであった。


「‪……‬そこのあなたは、まだ10代後半なのね」


 おろ、今度は私に話しかけるんだ。


「ふふん‪……‬それはどうかな?」


「‪……‬間違いないですね。その反応」


「ひでー、一発で当てられちゃったー」


「‪……‬‪……‬少年兵、そんな立場の人間をまた作り出すなんて‪……‬

 あなたも、戦いは嫌でしょう?

 まさか好きで戦場にいるわけでもないわよね‪……‬?」


「あー‪……‬ま、借金したのが始まりだし、今は契約解除金500万cn貯めるためかな」


「お金のために人を殺して楽しいですか?」


「いや?楽しんで殺したことあんまないよ。

 ただまぁ、別にどうってこともないのも事実だけど」



 と、なんだか私の言葉に、すごい衝撃を受けたみたいな顔をする女の子。



「───え?」


「?」


「どうって‪……‬こともない‪……‬?」


「あー‪……‬いや私も結構ひどい人間でね。

 そりゃ殺す相手にも色々あってってのも分かるし同情するよ?

 積極的にやりたいわけじゃないんだけど‪……‬

 まぁ、別に殺すってこと自体が、死ぬほど嫌って訳でもないからさ。

 困ったことに人殺しは向いてるみたいで」


「なんでそんな平気な顔で話すの?」


 ‪……‬‪……‬あ、めっちゃ怖がってる。

 すっごい震えてる。ドン引きさせちゃったか‪……‬


「‪……‬私はひどい人間なんだよ。

 ごめんね。怖がらせるつもりはないんだ」


「‪……‬‪……‬ありえない‪……‬冗談だとしても笑えない‪……‬!」




「冗談ではないんだよ、グートルーン博士」


 お、この聞き覚えのある声は!


「クオンさん!」


「ゼロ‪……‬じゃなくてクオン‪……‬!」


 クオンさん、私と同じタイプのパイロットスーツ姿で登場!

 あと、ついでにマッコイさんも!!


「彼女は『イレギュラー』だ。それもすでに疑い用がなく、私達トラストの認定を受けている。

 本人は知らないがな」


「何を言って‪……‬」


 と、スタスタと女の子‪……‬ぐーなんだっけ?さんに近づくマッコイさん。


 パチン、って言う音が響いた。

 マッコイさんが女の子に本気の平手打ちをした音だった。


「マッコイさん!?」


「姉様!?」


「ずっとこうしたかった。

 妹達を捨てたあなたに」


「‪……‬‪……‬ええ、それも当然ですね‪……‬

 私は‪……‬理想の為にあなた達に許されないことをした‪……‬」


 女の子‪……‬グートルーンだっけコトリちゃん?合ってる?合ってた‪……‬


 ともかく、そのグートルーンちゃんの頬を叩いたマッコイさんは、フンとだけ言ってすぐに離れる。


「この一発で勘弁してあげますわ。

 口も本当は聞きたく無い。

 ‪……‬‪……‬もうすぐあなたの捨てた子が贈ったものが、もうすぐやってくる」


「‪……‬‪……‬ありえません。ずっと気になっていましたが、本当にそれはゼロフォーとゼロファイブが贈った物なのですか?

 あの二人を、私が捨てた理由‪……‬思い出したくもないでしょうが、忘れたのですか?」


 と、また殴りかかりそうになったマッコイさんを抑えるクオンさん。

 ただ、私もこれは聞き捨てならないな。


「‪……‬君も酷い人なんだねぇ。

 私も事実上親に捨てられた身だし、気にはなるね」


「え‪……‬あ‪……‬否定は、できません‪……‬」


「聞くけどさ、なんで捨てたの?

 親って、まぁ特殊な形でも自分の家族には『生き抜け』って言うもんじゃ、ないの?

 なんでさ‪……‬なんでそんな酷いことを、自分でも内心だいぶ後悔していることをしたのさ?

 興味があるんだ。教えてくれない?」


「‪……‬‪……‬」


 ‪……‬‪……‬後悔しているだけ、マシとは思いたいな。

 少なくとも、この人ずっと悲しそうな感じ。



 どうせ、私の親にはこの質問‪……‬聞くことなんてないしね。



「‪……‬‪……‬‪……‬ゼロフォーとゼロファイブには、

 致命的な遺伝子の欠陥があったのです‪……‬」


 と、グートルーンちゃんは、そう言いづらそうに話し出した。



「ゼロフォーは、恐らくそのままだと脳機能の大半に異常が起きたまま成長するはずで‪……‬

 ゼロファイブに関して、成長遺伝子の欠陥がひどく‪……‬永遠に赤子のままの可能性もあった‪……‬


 ‪……‬‪……‬当時は‪……‬治す手段が‪……‬無かったのです‪……‬

 ‪……‬完璧に作ったはずのこの子達の体の‪……‬細胞の構造、使ったナノマシン特性が‪……‬逆に邪魔をして‪……‬」



「‪……‬‪……‬‪……‬」



「‪……‬‪……‬だから‪……‬地球に‪……‬せめて私たちの故郷で‪……‬葬るしか‪……‬うぅ‪……‬」


 ‪……‬‪……‬本気で、後悔の涙を流す。


 なるほど。でもすっごい良く分かった。


「つまり自分の手で殺す勇気も無かったんだね。

 だから、地球に捨てるしか無かったんだ」


「‪……‬‪……‬その通りです‪……‬」


「ひどい人間だ。あんたもね‪……‬」


「‪……‬‪……‬分かってはいるんですよ‪……‬そこの子に口も聞きたく無いと言われる様なのは‪……‬‪……‬痛いほど‪……‬」


「ま、自覚あるだけマシかも知れないけど‪……‬あんたマジで酷いね。酷すぎ」


「‪……‬‪……‬」


《────それはそれとして、私の知っている火星人とだいぶ話が違うんだけど》


 え?

 コトリちゃん、なんて?


「え?」


《多分、ゼロフォーが『新美ソラ』、ゼロファイブが『フォルナ・ミグラント』‪……‬いや今は『新美フォルナ』か。

 フォルナのクソガキババアは、まぁ生前会った時は確かに真の姿は‪……‬私の生前よりチビかもしれないけど》



 え?

 ちょっと待って、コトリちゃん??

 何を言ってるの?



「‪……‬どう言うこと!?」


「博士、私がまさか嘘でもついてたと思われていたなら、心外だよ。

 ずっと言ってただろう?いや、わざと本当の情報はリークしていたはずだ。


 私の経営しているオートマティックAインダストリアルI社は、ゼロフォー‪……‬いや、新美ソラが作った。


 ギフト1を贈ったのも、ソラなんだ」


「あり得ない‪……‬今言ったはずです、あの子は!?」



「あの子は、あなたの言う遺伝子の異常がむしろよく働いたらしい。

 いやむしろ、その中にあった物のおかげというべきかな。



 ソラは『イレギュラー』なんだよ、博士」



 あ、また出たその言葉。



「‪……‬‪……‬イレギュラーなんて、存在しないはず‪……‬

 J-07の妄言を信じるの‪……‬!?」


「妄言どころか、すぐ隣にいるじゃないか、博士」


「‪……‬‪……‬あの、クオンさん?

 イレギュラー、って何?そもそも」


 聞くタイミング、ここかなと思って聞いてみる私。



「‪……‬‪……‬昔の話に遡る。まだ地球で人類が過ごしていた頃だ。


 どこかの国の森に一匹、森の主と言われた虎がいたそうだ」


 何か、マジの子供向け昔話みたいなことから話が始まった。



「その虎は異常に強く賢かった。

 登場最新の武器を持った猟師を手球に取り、逆に殺すことも多かった。

 人食いではあるが、向かってきた人間しか普段は襲わなかったらしい。

 ただそいつは、例えば近くのテリトリーに住む別の虎が人へ危害を加えた場合は、自ら共食いして、その首を人の見える道に置いていたとも言われる。

 妙に賢い奴だったらしい。

 そいつがいる森は、地元の人間が近づかない聖域として、そいつが天寿を全うするまでは誰も立ち入らなかった」


「‪……‬はぁ‪……‬」


「‪……‬記録として残り初めて数千年、こんな生物が稀に生まれることがあるとはっきりデータが出ている。

 その生物群の中でも飛び抜けて、生存能力‪……‬いや闘争能力というべきか、戦闘力がとにかく高い。

 知能もおそらく高く見えるのも、いわば学習によって生き残りやすく、勝ちやすいから高くなったとも言われている。

 だが逆にさほど知能が高くない個体もいるらしい。


 共通しているのは、その以上な戦闘力の高さだ。


 何故か、どれほどこちらが有利でも返り討ちに遭うほど強い個体が、動物の中に生まれてしまう」


「‪……‬ん?」


「出現する確率は、案外高いが250万分の1程度。


 もっとも、戦闘能力が強い個体がいた動物群の中で、の確率だから、我々が知る生物全ての中での確立を計算する場合は兆まで行くほどの低確率だが。




 誰も殺せないほど強い生き物が生まれる。


 そう言う存在を‪……‬『規格外イレギュラー』と呼んで、地球で研究する者がいた」




 あれ‪……‬?

 この話、どこかで聞いたことが‪……‬?


 たしか、ちょっと前のリンちゃんたちとの雑談で‪……‬



「ありえない‪……‬だってもしそんな物が本当にいるのなら、今あなた達火星人類の数は約1億2500万。

 単純計算で、50人近くのイレギュラーと呼ばれる様な人間がいるはず‪……‬!」


「‪……‬250万分の1。

 それは、イレギュラーの定義を拡大した結果でもあるんだよ、博士」


「イレギュラーの‪……‬定義?」


「‪……‬‪……‬地球の古い戦争の歴史の中で、寒冷地の戦いでたった一人で通算138人撃ち殺したスナイパーや、密林の中で何度致命傷を受けても即座に戦線復帰した兵士の伝説はあった。


 だが同じぐらいに、何かの兵器の扱いに長けたが故に伝説になった兵もいなかっただろうか?


 同時期の戦争の中で敵戦闘機群を200や300撃墜した者や、地上に存在する目標全てを破壊し尽くした爆撃王‪……‬


 そういう、兵器の扱いの天才‪……‬いや、もはや『天災』とでも言うべきエースを超えた何か‪……‬


 ‪……‬‪……‬このタイプの『イレギュラー』は、eX-Wを操る傭兵スワンの中でも目立つだろう?」



 ‪……‬‪……‬え、まさか、

 それ、私のこと‪……‬??



「‪……‬‪……‬」


「兵器の強さと相性もあるが、そういう規格外な戦いの天才は、いる。


 ‪……‬ソラも、地球ではそうだったらしい。

 我々あなた方の作った『火星人マージアン』の能力を抜いても。


 ‪……‬‪……‬何より、地球のとある存在が、ソラの火星人である以上の、イレギュラーの素質を見つけ出す方法を確立していたんだ」


「ありえない‪……‬一体何を?

 DNA検査!?だったらなんで、なんで私が捨てざるを得なかったあの子は!?」




「違うよ。もっと単純で、酷い方法だよ」




 ────私、分かっちゃった。

 うん、ものすごく身に覚えがあるもの。



「‪……‬『我々はこれから傭兵スワンになる君たちに、たった一つの試験を与える。

 与えられた機体を活用し、実戦で任務を一つこなすこと。

 それができて初めて、君は傭兵スワンになる』



 ‪……‬‪……‬ひっどい試験だ。マトモならやらない。

 でも、クオンさんのイレギュラーとかいうものの話で分かったよ。


 ねー、コトリちゃん?生前の地球も、これだったの??


 これが、傭兵スワンの‪……‬いや、

 いや、イレギュラーを見つけるための試験なんでしょ?」




 ────コトリちゃんは、多分クオンさん並みに詳しい私の相棒は、一つだけはっきり頷いた。



《ああ、そうだよ。

 私もクリアした。そしてそれを作ったやつに直接聞いた。


 この試験は本当は傭兵試験なんかじゃ無い。

 本当にただの傭兵試験である、簡単な任務と先導者付きの物の中に必ず紛れ込ませてある、


 イレギュラーの素質を選定するための、わざと難易度を高くした選別のための試験だ》



 ‪……‬やっぱりか。

 先輩でもあるコトリちゃんが肯定するなら、間違いない!


 私は、運悪くその試験に選ばれた。

 選ばれた上でクリアしたんだ!




「なんてことを‪……‬!

 それは試験なんかじゃない!!


 蠱毒‪……‬‪……‬非科学的な呪いの類じゃないですか!!」



 うん。それ私も思ってます。




《これが結構、クリアしちゃうのさ。

 それにまだこの程度は優しいよ。

 本当の試験は、その後。

 運だけじゃ生き残れない傭兵スワン生活ライフでどこまで飛べるかだ。


 そうだろう、新美クオン?

 君は、傭兵ランク1であると同時に、企業の人間として、トラストの役員として、見込みのある人間にわざと高難易度ででも報酬で釣れる依頼を出して行ったはずだ》



 ‪……‬身に覚えがありすぎる。


「‪ああ……‬だが、生き残った。

 私の目にも狂いはないらしい」


 クオンさんも、隠す気がないのかただ無言で強くうなづくし‪……‬!



《────知ってるかい?》


 ふと、私の頭の上に登って座るコトリちゃんが周りに問いかける。


《戦場で生き残る奴には、3つの特徴がある。


 天才的に強いか、

 戦況や相手の心理が読める頭の良さか、

 勝つまで諦めない往生際の悪さか。


 ‪……‬この3つ。


 昔、私がまだ生きてた頃、私には後ろ二つしかなかった。

 でも、最強の強化人間を自負していた私は、やはりと言うかあの星の『管理者』に目をつけられた》



「管理者‪……‬?」


《その星は、いくつかの超高性能AIユニット達の合議によって管理されていた。

 表向きの支配者である企業も、傭兵も、反体制組織ですら、全てが管理者の管理の元動いていた。


 管理者は、私達イレギュラーをはじめとした秩序を破壊する者を最初は消していた。


 けど‪……‬イレギュラーの出現が重なった時期があった。

 それが70年と少し前の時期だ。


 管理者は、二つの選択肢を選ばざるをえなくなった。

 今ある秩序のために世界をリセットするか、秩序を破壊させて全てを元の人類に委ねるか。



 私は、最終的に死んじゃって、あの後輩にこんなコピー品の人格のデータに使われちゃったけど、


 後輩‪……‬新美ソラ達が、みんなが管理者を破壊した。


 ま、それすらも管理者のシナリオの一つだったけどね。


 ‪……‬‪……‬そんなイレギュラーのソラちゃんも、ここのアホっ子ホノカちゃんと同じく、


 最初のミッションは、地獄の全額前払いの上に相場の5倍だ。


 しかも、生前の私が相手。

 やる気がない任務だったって言い訳したいけど、結局お互い死にかけたよ、いい思い出だ》



「えっ!?!?!」



 シミュレーターで一回も勝ったことのない、多分生前乗ってたっぽいあの赤い逆脚機体で!?

 勝った人いるの!??


 そっちの方が正直驚き‪……‬


 でも‪……‬つまり、それが『イレギュラー』の実力‪……‬ってこと!?



「‪……‬‪……‬恐ろしい‪……‬もしそれが事実ならとても‪……‬

 でも‪……‬信じられない‪……‬あの子は、言いたくはないけれでも‪……‬私の失敗のはず‪……‬」



《グートルーンだっけ?

 失敗かどうかは、まぁいやでもすぐ分かるさ》



 ちょうど、コトリちゃんの言う通り、その時、広域通信が入る。





《こちらフェアリー、スノウウィンド。

 レーダーコンタクト。低軌道、『ギフト2』確認》





 フェアリー‪……‬たしか、オペレートとか情報収集専門の傭兵みたいなの!!



「来たか。

 成層圏にトラストのフェアリーを3機用意した甲斐があった」



 クオンさんがそう言うって事は、いよいよだ!





          ***




「来たでぇ!

 いよいよや!!」


 地上、野戦整備区画で、無線機を前に集まるオルトリンデ達傭兵スワンをはじめとしたあらゆる面々がその知らせに沸き立つ。





 その近くで、夜空を見上げる一人の赤族レプリケイター、

 赤鋼帝国皇帝、ムルロア・ゼノバシアの横に、一人の人物がやってきた。



「───お前とまた星を見ることになるとはな、ゼノバシア」


「‪───兄上!」


 兄であり、蒼鉄王国の国王である蒼族レプリケイター‪……‬ムルロア・ヘーリクスの姿があった。


「オレの前に出てもいいと思えるほどか。

 当たり前か‪……‬あなたであれば、空からくる物を見ぬと言う事は耐えられまい」


「そう言うお前も‪……‬肩書きを忘れるほどの様だな」


 二人のレプリケイターは、空を見る。


 一際、明るい星。


 ふとそれが、ありえない動きを始めた。


「なんだ、あの光は!?」


「‪……‬その光だけじゃない‪……‬!」


 ありえない光へ向かって、流星のような光が無数に向かっていく。


 ───まるで、砲撃の様に。




           ***



「何アレ‪……‬!?」


 傭兵系美少女こと私、大鳥ホノカちゃんもびっくり!


 何か、光っている物に何かが放たれている‪……‬ってしかわからない!



『フェアリー、アトミックハートより地上本部。

 衛星軌道上に存在する無数の砲台が、『ギフト2』へ砲撃している』


『フェアリー、スノウウィンド。情報の精査を確認。

 なんて言う弾幕‪……‬!』



 無線で聞こえる戦況というか、宇宙で弾幕とか不穏な言葉が飛びかう。



「‪……‬2度も殺す様な私は許されないでしょうが、

 もう2度と地球から来るものをここに落とすわけにはいかない」


 そして、例のグートルーンちゃんがそんな言葉を吐く。


「博士‪……‬あなたは‪……‬!」


「ごめんなさい。恨まれて当然ね。

 でも‪……‬」




『フェアリー、シルフィード!異常反応!!

 なんだこの反応は!?!

 重力異常!?!高エネルギー反応に、超重元素Ul174反応、Sp133反応が急上昇!?

 何が!?』



 いや何があったの!?何、怖いよぉ!?



 ────答え合わせの様に、一瞬あの動く光が突然、何も見えない、星の光もない真っ暗な穴に変わった。




 そして、周りの音が一瞬消えた。


 静寂と共に、雷みたいなフラッシュと、ピキピキいう音。



「真上!?」



 真上に見えた光の筋。

 それが、ボォンという感じに一気に広がって、




 空に、

 穴が空いた。





 穴の向こう、夜空よりずっと暗い空間に見えた光。


 ヒィィィィィィィィィィッ!!!


 UFOの音。

 いや、未確認飛行物体じゃなくて、あのハロウィンスコードロンの白い機体が使ってたアレの音!


 でも穴の向こうからモノホンの『未確認飛行物体UFO』がやってきた!?!




「『亜空間跳躍航法ハイパードライブ』ですって!?!」



「ギフト2だ!!ぶつかるぞ!!」



 穴の中を白い光を放ちながら通り過ぎる宇宙船。

 そうとしか言えないものが、真っ直ぐ飛行機みたいな頭の方を向けてこっちに突っ込んでくる!!



『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?』



 潰される‪……‬!



 ‪……‬‪……‬‪……‬

 ‪……‬‪……‬

 ‪……‬あれ?



 なんも考えられないでいたら、何の起こらなかった。

 恐る恐る目を開けたら、すんごい至近距離で宇宙船は止まってた。


 ぴたりと、空中で静止する宇宙船。


 その透明なガラスっぽい部分には二人、金髪の女の子とメガネの子が座ってすごい驚いた顔でこっちを見ていた。


 人間だよ、多分ね。


 私もあんぐりした顔で、思わず手を振った。

 ‪……‬金髪の子が、苦笑いしながら手を振りかえしてくれた。




「‪……‬‪……話は通じそうだな、地球の人って」




 ギフト2、降下したみたい。



           ***

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