[変更済]MISSION 11 :火星人の贖罪





 火星の住むもう一つの知的生命体『レプリケイター』の国家、蒼鉄王国そうてつおうこく赤鋼帝国あかがねていこくの歴史を知った、傭兵系美少女大鳥ホノカちゃんは今、


 彼らの誕生に関わった齢320歳の本当の意味での『火星人マージアン』にして、ちょっと面倒なパーツショップの女主人のマッコイさんの目的に付き合うことになりました‪……‬‪……‬





「ところで王様、不敬な質問だけど、軍の会議に行かなくていいの??」





「ん?」


 なお、今私達はその目的のためにレプリケイターの『王宮』である大昔のドーム型施設の、一番下に向かってる訳ですが‪……‬


 なんでか、蒼鉄王国の王様が一緒に来てます。


 王様と一緒に暗いし狭い階段降りてます。肩幅が腕二つ分違うし背中大きいから大変だとレプリケイター。




「君は確か、オオトリホノカと言ったね?

 私は、たしかに最高権力者だけれでも、軍事に関してはあそこにいた将軍が私より詳しいし、彼女を宥めなければ君の上司に当たる公爵殿の案は振り向かせられないよ。

 私がいてもいなくてもそれは変わらない。


 ならば‪……‬私は、私が王様でなければなりたかった職業の真似事を優先する。


 君も君の起源に関わる話は気になるだろう?

 というか、君はずっとかのオリジナル・ワンと一緒にいたのかい?羨ましい‪……‬何か色々きいてるんじゃないのかな??」


「いやいや、王様。

 あの人、なんだかんだ秘密の多いおねーさんなんですよー?

 なんとなくすごいお年な気がしてたとはいえ、300歳って知ったの最近ですしー」


「聞こえてますわよー?」


「聞こえるように言ってんでしょうが、なーに今更若作りキャラみたいな態度してんだか、おばーちゃん?」


「まぁ、口の減らないクソガキ従業員ですこと」


「誰の店の従業員だと思ってるんすか?」


 フフフと笑うマッコイさんに、ユナさんのいつもの鋭いツッコミがきまったぁ!

 気持ちがいいんだ二人のやりとり。



「‪……‬ところで、人間とオリジナル・ワンの皆さん?

 一応、こっちの陛下に代わって私が説明はしておきますが、」


 最後の同行者、お目付役も兼任らしいク・レリックさんがそう咳払いして何かを言い始めた。



「ここは、重要な遺跡である前に、王族の住居で国の中枢なんですよ?

 むしろ、陛下自身がついてこないで勝手に開け閉めするだなんて‪……‬普通は許されませんよ?

 やるなら私みたいにこっそりやらないと」


「ようやく白状したか、後で軍法会議にかけておくぞレリック?

 で、その間何か見つけたか?」


「フフフ‪……‬何もですよ陛下。隅々まで見て、何も」


「不敬で死刑。隅々まで見たのが羨ましいのだが?」


「我が生涯にいっぺんの悔いなしですな!

 あ、妻に遺産だけは相続を」


「‪……‬二人とも、そういえば学校同じなんだっけ?」


 ノリが、学校帰りそのままだった。

 王族って言ってもそこは変わらないんだ‪……‬



「この不敬の蒼族は、良く私に忘れた教科書を見にくる隣の席の終身不敬罪でな。私の権限で単位を一つ確保した身で、便利な小間使いをしてやっている」


「あれー?陛下一回お寝坊したせいで、重要な授業すっぽかしちゃって私のノート見ながら再試験しておられませんでしたっけー?」


「な?不敬だろう?昔のこといつまでも引きずるやつだ」


 だははは、と笑う二人が、中学の頃の友達思い出す仲の良さでした。

 いや本当仲良さそうだな‪……‬




 あーでもだからか。

 だから、私たちの所へ派遣されたんだ、このク・レリックさん。



「ところで、オリ‪……‬そういえば、今はなんと呼べば?」


「あら、一国の王様に呼び名を聞かれるだなんて光栄ですわ。

 ふむ‪……‬長く生きておりますが、まぁ今はマッコイという名前のただの商人。

 できればそうお呼びになって?」


「そうか‪……‬マッコイ殿、改めて聞きたい。

 あの黒い石板にかつて映し出されていた、文明の知恵や基礎とも言える知識の数々は、なんだったのだ?」



 そういえば、気になってた。

 話は聞いてたけど、その内容そのものに。



「‪……‬‪……‬失礼ながらその前に質問を一つ。

 かつてということは、今は見れないのですかしら?」


「‪……‬この建物にはかつては光が灯った。

 今はもう‪……‬黒い石板も、あなたの言葉全てを解析する前に光を失っ、た?」


 ふと、マッコイさんはそこまで聞いて、なぜか携帯電話を取り出す。


 なんで携帯?ここ電波入って‪……‬



「「それは!?黒い石板!?!」」



 ‪……‬んん?



「今からやる作業は、電源復旧などするとむしろ面倒ですから。

 代わりにあなた達のいう石板‪……‬液晶画面とコンピュータが一体になった物、の小型版で、まずはあなた達が見たかったものをお見せしますわ


 一瞬、暗い中でマッコイさんの目が金色に、それもライトみたいな強さで光る。


 すると、触ってないのに携帯電話のロックが解除されて、タップするよう画面が動いてアプリが起動する。

 なんのことはない、動画ライブラリ。


 再生された動画は‪……‬



『────ええと、コレでいいのかしら‪……‬よし!

 はじめまして!ワタクシ、ゼロワンですわ!』




 映し出されたのは、ちょっと若く見えるマッコイさんだった。

 いや、多分そんな代わってない。

 今の方が大人っぽい化粧をしているだけ。



「‪……‬‪……‬本物だ‪……‬!」


「ああ‪……‬あははは‪……‬本物のオリジナル・ワンの‪……‬石板の叡智の‪……‬!」


「有り難がられるとはこそばゆいものですのね。

 ‪……‬‪……‬それ、本当はワタクシの妹に向けて作った教育用の動画ですの」


 え?妹さんに向けて‪……‬?


 思わず、マッコイさんの言葉には私達全員がその子を見てしまう。



「‪……‬‪……‬妹が、一番幼いゼロフォーとゼロファイブ‪……‬二人が地球へ送られると聞いて、ワタクシはかつて親代わりでもある博士‪……‬グートルーンという名前のあの人に内緒で、ここでのワタクシに課せられた『任務』の合間に作りはじめましたの」


 マッコイさんは、どこか悲しそうに遠くを‪……‬近くの汚れた壁を指でなぞってそう静かに語り出す。



「あなた方、レプリケイターは、私たちがナノマシン生態系と呼ぶ物は、この星が、火星が赤い死の星だった頃に送られた、火星を人々が住める環境にする為の小さな機械が始まり。


 今から300年以上前、この星に降り立ったワタクシ達は、あなた方の脅威の生態系を目の当たりにした」



 ふと、王様とレリックさんを見ながら、マッコイさんは語り出した。



「わずか数十年で、その生物多様性はカンブリア期以上の爆発を見せていました。

 いえ、そんなレベルではない。


 まるで、進化の加速器サイクロトロン

 すでに恐竜時代を終え、哺乳類型の支配する新生代を迎えるような以上な速さであなた方は進化と変化を続けていた。


 あなた方の遠い祖先のおかげで、火星は緑あふれる青き星になったわ。

 あなた達は大変に役立った。


 十分過ぎるほどに」



 ‪……‬‪……‬最後の言葉のトーン‪……‬なんか怖い。

 褒めてる、と言えるのに‪……‬




「そう、充分『過ぎ』ましたの。

 予測不可能イレギュラーで、

 のですわ、あなた達は」




 やっぱり、というべきか、マッコイさんさんから出た言葉はあんまりいい物じゃなかった。



「‪……‬‪……‬やり、過ぎた‪……‬??」



「ええ。付け加えるなら、あなた方、

 あなた方は最初のナノマシン生態系の人類ではありませんわ」



 ‪……‬え



「すでに滅んだ、いえワタクシが滅ぼした、いわば消えた先史レプリケイターがおりましたの」


「なんですって!?」


「彼らは、原始的ながら社会性を持っていましたわ。

 そして、ワタクシ達が敵なのも理解していた。


 ‪……‬‪……‬さて、そろそろそのあなた方の先達と関係の深い施設が、見えてきましたわよ?」



 階段を降りた先、そこには厳重な金庫みたいな扉があった。


 問題は‪……‬なんだっけこのマーク?

 クッソ危険そうな、黄色と黒のヤバいマークがある。



「ば、バイオハザード警告‪……‬!」


生物災害バイオハザードって言いました今!?」


「ゾンビでも出てきそうな!」


「生き返れるだけゾンビの方がマシですわ。

 この先には、あなた方の先達を殺し尽くしたアンチナノマシンが、つまりはレプリケイターだけ殺すナノマシンがありますの」



 えぇぇ!?!


 怖‪……‬怖い!??


 後ろの王様達も絶句してる!!



「ワタクシは、それを消し去らないといけません。

 あの人への嫌がらせも込めて‪……‬

 という訳で、ユナ?開けてくださるかしら?」


「マジで言ってんのかこの人??

 怖‪……‬つーかあけていいんすか??」


「厳重に保管はしておりますし、扉をあけて中のカプセルをかち割ったりしなければ拡散はしません」


「そうは言われても‪……‬陛下、止めた方がいいのでは?」


「‪……‬開けよう」


 おっと、陛下意外なことを言う!


「‪……‬あなた方は下がっておいてくださいません?」


「あなたが安全というのならそれを信じ、あなた方が殺人ナノマシンとやらを開ける事のないかを見張る。

 コレは王と、軍人の役目ではないのか?」


 王様、とても覚悟の決まった細い目でそう断言する。


「‪……‬‪……‬あなたほどの立派な人間は、ワタクシも見たことがないですわ」


 ‪……‬そして、早速ユナさんの整備士としての腕、いつもより本数少ない版が振るわれ始めた。


「あー、大昔の機械の割に、配線わかりやすくて楽っすわ‪……‬後はこのケーブルに電源繋いで、それでロック外せるっす」


「電源か‪……‬持ってこさせるか?」


「必要ねえっすよ王様。自前のがあるんで」


 ケーブルのプラグを、ユナさんの強化済みボディの腰の端子にイン!

 ピッ、と意外なほど軽い音と一緒に、金庫みたいな扉のランプが赤く光る。


「ヨシ!」


 指差し確認ヨシ!

 マッコイさんが早速金庫のコンソールにパスワードを入れて、親指の指紋認証をして、え、網膜もやんの!?厳重‪……‬!


 ガコン、という音で、ぶっとい金属の棒のロックが4つ外れて、重くて丸い金庫みたいな扉が開いていく‪……‬


「‪……‬ん?光??」


 と、金庫の奥からなぜか光と‪……‬アレ、なんか森の中みたいな匂いが漂って‪……‬






「────え?」





 扉の向こうには、おっきな根っこがあった。


 僅かな空気の流れ‪……‬そこは、埃に塗れた机と椅子、そしていくつもの割れた細長いカプセルがあった。


「‪……‬‪……‬なんてことだ‪……‬!」


 私は、そんなレリックさんの声を聞きながら、なんとなく根っこの付け根に近づいてみる。


 ───穴の先から光が僅かに見える。

 強化済みの私の目のズーム機能で、外がはっきりと見えた。


「‪……‬‪……‬外と繋がってる」


「‪……‬‪……‬いつから‪……‬?」


 そう、マッコイさんの力のないつぶやき通り、いつからこの殺人ナノマシンがあった場所は‪……‬外等ながっていたのかな?


「‪……‬‪……‬まだ無事なカプセルがあります!」


 と、レリックさんが触って持ち上げたのは、いかにも危なそうな緑の液体入りの1mぐらいのカプセルだった。


 持ち上げた瞬間、パキッとそのレリックさんの手の中で割れて、液体が地面とその身体にぶちまけられた。



『!?!?』



 一瞬、みんなが黙り込む。


 ‪……‬かかった本人も、どうしようみたいに3つのお目々でこっちを見てくる。



「‪……‬‪……‬」


 マッコイさん、ここでいつもの着物の袖をまくり、腕時計を見る。



「‪……‬‪……‬おかしい。すでに発症してあなたは透明な液体となってドロドロになっているはず」


「‪……‬マジですか?」


「ええ‪……‬それどころかコレは獰猛なまでに周りに増殖と拡散をするもの‪……‬ほら!」


 気がつけば、緑色の液体は勝手に動いて王様の方へ‪……‬ホラー映画にこういう演出あったよね?

 でも‪……‬王様の青い素肌に触れてるはずなのに‪……‬何も起こらない。



「‪……‬‪……‬我々には、遅効性ということかな?」


「‪……‬‪……‬そうだ!机に上のものを借ります!」


 と、レリックさんは埃まみれの机の上を漁って、顕微鏡とスポイトを取り出して、埃を払う。


 慣れた手つきでスポイトで緑の殺人ナノマシン液を取って、ガラスの板に乗せて、ガラスの蓋をして、顕微鏡にセット。

 覗きながら、ピントを調整中‪……‬


「‪……‬暗いな」


「誰か光を!」


 とりあえず、懐中電灯を付けて、顕微鏡を下から照らす。



「‪……‬‪……‬これは‪……‬!!」


「何かわかりますの?」


「‪……‬‪……‬本当に、こんなものが殺人ナノマシンというのですか?」


「‪……‬‪……‬見せてもらおう」


 と、王様もその顕微鏡を覗く。


「‪……‬なんと、これが!?

 これは‪……‬ただの常在菌ではないか!!」


「なんですって!?」


 じょうざいきん?


「じょうざいきんってなんですか?」


「ああ‪……‬ホノカさんの身体にも、役1万の菌が表面で生きておりますのよ」


「ええ‪……‬それは風邪の原因にもなりますが、大抵は生物に取っては無害か、あるいは、」


「‪……‬‪……‬その生物の代謝や、使命活動の手助けにもなりうる‪……‬まさか!」


 え、何、王様何かわかったの?


「この木‪……‬この木は、樹齢は250年かそこらかな。

 20年程度なら誤差だ。

 つまりは‪……‬レリック、分かるか?」


「‪……‬まさか、『進化速度減退期の謎』とでも!?」


「いや、どういうことですかね??」




 さっぱりわかんないや。




「‪……‬先程、マッコイ殿も『我々の祖先の進化速度は異常に速かった』と言っていた。

 実は我々の古生物学というべきか、生物学といえば良いのかは任せるが、そこも標本化石の年代や地層で把握している。もっと、高々200年より前程度の積層などほとんどが地表スレスレだが‪……‬

 だが、それでも我々はあることを突き止めた」


「あることとは?」


「‪……‬今から270年ほど前、私達レプリケイターの出現と同時期から、全生物ナノマシンが進化が止まったんだ」



 進化が‪……‬止まった‪……‬?



「‪……‬‪……‬そうだ、それまでは10年もすれば孫の姿が全然違うのも当たり前だった。

 にも関わらず、この270年間、我々の生態系は安定して一切の変化がない。


 止まったんだ‪……‬あなたのいう進化の加速器サイクロトロンという物が‪……‬」


「まさか、この殺人ナノマシンが原因!?」


「考えても見れば、進化が早いということは、生命のサイクルが短く、同時に突然変異がしやすいということです。


 そもそも、生物の進化とは、環境に適応する為の博打です。


 偶然環境にハマって、その環境で過ごしやすい変異を起こした生き物が繁栄する。


 ただ、もしもあなたのいう通りの速度で異常進化をするのが我々の祖先なら、寿命が短いかあるいは、」




「突然変異が起こりやすく、奇形や出来損ないもよく生まれるということ。

 だな、レリック?」




「ええ‪……‬それは、歪ですよ。いくらなんでも、この星で生きるには、キツ過ぎる」



 ‪……‬‪……‬なるほど?まぁ、要するに、はい、とつぜんへんい?をしない方がいい訳か‪……‬



「‪……‬そうか、変異の抑制のために、本来ナノマシンの機能を停止させて崩壊させるこの殺人ナノマシンを、あえて利用する進化をしたという事ですのね?」


「そうか‪……‬じゃあ、この植物が、偶然ここを打ち破り、殺人ナノマシンとやらを拡散させた‪……‬


 待てよ、じゃああの教授!覚えているかレリック!あの変人教授の言ってた、260年前の、」



「「大絶滅期の謎!!」」



「そうか!!アレはこの殺人ナノマシンが原因だと!

 それに適応できた我々などが!!」


「今生き残っている‪……‬‪……‬

 ああ、なんていうことだ‪……‬!!

 戦時中だぞ、また‪……‬

 また描きたい論文のネタが増えてしまった‪……‬くっ!!」


「ははは‪……‬私もです‪……‬はぁ」



 お二人とも、難しい話をしながらすっごい笑ってぐったり適当な壁や木の根に背中預けて座っちゃった‪……‬


「どゆこと?」


「分かるように説明してくんないっすか?」


「まぁ、ノーベル賞3つはかっさらえる大発見ですわ」


「「のーべるしょう?」」


「レプリケイターの皆様には後で説明してあげますわ。


 ‪……‬‪……‬フフ‪……‬フフフフ‪……‬!」



 と、突然、マッコイさんも、なんだか妙な笑い声をあげ始める。



「‪……‬‪……‬ざまぁみろ、博士。

 あなたの傲慢な管理も、何もかもが無駄でしたのよ‪……‬フフフフ」


「‪……‬マッコイさん?」



「‪……‬‪……‬妹二人は、地球に送られることになった。


 廃棄処分のために」




 ‪……‬え?



「あの子達二人は、遺伝子の発現部分が想定と違っていたらしいのですわ。


 まぁ、コレもまた言葉を借りれば、想定外イレギュラーということだったのでしょうね。


 だからワタクシの親代わりの博士は廃棄処分を決定した」



「‪……‬は?」



 は?は??

 はぁ!?!?!」



「なんだよそれ!!勝手に作っておいて廃棄!?!

 廃棄って‪……‬廃棄ってなんだよ!?!」


「まったく、その通りの話よ!!」


 ガンと珍しくマッコイさんが苛立ちのままそこらへんの机を蹴った。

 ‪……‬いや私も、ちょっと頭に血登ったけど、いつもの丁寧なマッコイさんがどこ行った‪……‬?



「ワタクシ、当然博士に訴えましたわ!

 辞めてって、もう生まれた命に罪はないって!!

 あの人が、命の大切さを教えたんじゃないですか‪……‬


 なのにあの人はまるで、それが仕方ないけれども当然のような態度で、あろうことか捨てる癖に泣いて二人の赤ん坊を、簡素な生命維持装置しかないような物で地球へ送った。


 ‪……‬‪……‬ワタクシの目の前で」


 ‪……‬‪……‬




「あの人の最後の言葉は今でも覚えている。

 『たとえ生きていても、決してあなた達の様に優れた力は発揮できず、幸せに慣れないなら‪……‬』。


 なんであなたが、幸せになれるかどうか決めて、将来を消す権利があるのか。


 ‪……‬‪……‬未だに、300年生きてて、ワタクシも、かつてゼロツーと呼ばれていたクオンも‪……‬


 ええ、誰も納得していない。

 できるわけがないでしょう?」



 そんな‪……‬そんなの‪……‬!




「‪‪……‬当たり前じゃないですか、そんなの‪……‬!」


「‪……‬ありえない‪……‬親は、子供に生き抜けというものでは‪……‬ないのか‪……‬?

 道がどうあれ‪……‬生きてさえいればいいと‪……‬!!」



「‪……‬‪……‬」



 ‪……‬ひどくない!?

 私の顔も知らないお母さんだって‪……‬罪悪感があったから、おばあちゃんに押しつけたって言っても‪……‬そんな、そんな殺すような真似まではできない‪……‬!




「‪……‬‪……‬なるほど、あるある」


 と、突然ユナさんが、妙に納得した顔で‪……‬言う。



「可愛い子には愛情を。それ以外は、いないの同じ。

 そう言う人間いるんすよ‪……‬まぁでも、言っちゃ悪いんすけどね‪……‬テメェの手で殺すだけまだ良心的っすね、マッコイさんの言う博士」


「は?」



「オイラ、気が付いたら路地裏にいたんで。

 妹が産まれた後だったかな‪……‬常々言ってたの覚えてるもんすね‪……‬『ちょっとあなたじゃダメね』って」



 ‪……‬‪……‬あ。

 ‪……‬‪……‬‪……‬‪……‬なんと言うことでしょう‪……‬ユナさん、そういえば家族周りのこと何も言ってなかったな。



「いるんすよね。肝心なところ大切にできてない人。

 でも、聞く限りその人‪……‬悪意ないのがタチ悪いっすね。

 やってることが命の剪定っていうか‪……‬神様か何かっすか??

 あー、でも神様か。火星を地球化したんすもんね。


 ‪……‬‪……‬んな神様、信じてやるもんか」



「ユナ‪……‬‪……‬

 ‪……‬‪……‬ありがとう」


「別に?ただ感想言っただけっすよ」



 ケッ、と言うユナさん。気持ちは痛いほど分かるよ‪……‬私もね。




「‪……‬‪……‬レプリケイターの皆さん、今こそ改めて、一つの真実を。

 あなた達の文明を作ったあの動画は、ワタクシの勘違いで生み出され、結局意味もなく終わった妹用のホームビデオにすぎません。


 ワタクシ、ここを引き払う時も、本当はここの殺人ナノマシンを全て散布してからと言われていたの。


 でもしなかった。

 もう、あの人のために良い子になるのが嫌だった」



 ‪……‬誰だって、そうなるだろ‪……‬



「あなた達が、ある種信仰していた女は、生みの毒親に反抗して、役目も放棄して、勘違いであんな映像を撮る愚かな女の子でした。

 あなた達は、あなた達の力で、繁栄したのですわ。

 ‪……‬幻滅したかしら?」



「‪……‬‪……‬いや。むしろ、感謝の気持ちが余計に‪……‬私は湧いたよ。オリジナル・ワン‪……‬いやマッコイ殿か」



 ふと王様は、マッコイさんから受け取った携帯の動画を見る。



「出自なんて、全てが偶然でも良い。

 私達は生きている。それはあなたのおかげなのだから‪……‬

 むしろ、またあなたに新たな知恵を教えられた。

 良かったよ‪……‬ありがとう」


「‪……‬‪……‬どういたしまして」


 そして、そう言った王様はふと、考えるような仕草を見せる。


「あなた方が急ぐのは、別の敵がいるからか。

 私達は、それに勝てるのか?」


「さぁて。ワタクシも、かつてこの星の人類の博士達クラウドからの独立に力を貸して以降は、別に管理者とか指導者になる気もなく、妹は多少干渉していたけれども、ほぼ隠居生活。


 ほとんどの戦いは人類がなんとかしてきましたもの‪……‬頑張り次第としか」


「‪……‬‪……‬気になったのですが、地球というその別の星は‪……‬確かあなた達の船が来る場所だ。


 でも、汚染されている、そしてあなたの妹達が廃棄された場所と聞くと、とてもじゃないが、そんな力があるように思えません。


 誰が、あなた達に力を贈ってくるのですか?」



 あ、確かにそれも。

 生きている人類が居ましたってのは聞いたけど‪……‬誰が火星に力を貸してくれてるの?



「あら、そこまで聞けば自ずと答えは分かりません?」


 え?何その意味深なのマッコイさん?



「‪……‬ゼロフォーの今の名は、妹の地球の生き残り達と共に『企業を作った者』としての名は『新美ソラ』。

 ワタクシ、マッコイ商店の店主の名ではない、戸籍上の本名ということになっている『新美キツネ』の名付けたのも、綺麗に育った可愛い妹のソラちゃんですの。


 そして、70年前に、地球の技術を、力を贈ったのも。

 もうすぐここに落ちてくるギフト2を送ったのも。


 全て、ワタクシの妹が‪……‬生きて、送ってきてくれた‪……‬!!」




 ‪……‬‪……‬そういう、事だったのか‪……‬!



「‪……‬‪……‬うぅ‪……‬」


「王様、どうしたの泣いちゃって!?やっぱさっきのナノマシンで!?」


「いや‪……‬‪……‬あまりに綺麗な物語だった‪……‬いや、創作じゃない‪……‬これが事実なのだと考えただけで‪……‬

 感動してしまった‪……‬」


 ‪……‬分かるよーその気持ち‪……‬!

 確かに、死んだはずの妹が、今度は助けてくれるなんて‪……‬


「ふふ‪……‬まぁそこまで綺麗ではないですけれども。

 さて、目的も果たしましたし、そろそろ戻りましょう?

 公爵様が、何か素晴らしい軍事作戦でも立てている頃ですわ」


 おぉ、そうだね!

 じゃあ戻ろうか‪……‬



「‪……‬ところで、こんな時にあれだが、

 この小さな石板いじっていたら、なんだか見慣れない画面に」


「あらまぁ、王様ったら‪……‬見せてくださいまし?

 あらら、写真フォルダなんて開いちゃって‪……‬」


「え、これ写真も!?

 本当だ、あ触ると拡大するの、か‪……‬‪……‬


 !?!」


 と、すったもんだしていた王様は、突然多分なんかの写真を見て、細い目を見開いた。



「どうしましたの?」


「‪……‬‪……‬これは、誰かな?」


 ふと、見せられた写真‪……‬あれ?

 いやなんか‪……‬銀髪のちびっこい女の子と、若い頃のマッコイさんが映ってる写真だ。


 ‪……‬なんだろう、あれだ!数日前見た等身大ヒナちゃんにどこか似てる。髪の色も目の色も髪型も違うけど‪……‬なーんか顔立ちが。偶然かな?




「ああ‪……‬その人が、ワタクシの親代わりのグートルーン博士ですわ。

 ワタクシ達人類の一応的でもあり、さっきの妹をと急に捨てた毒親ですわよ」


「この可愛い顔がー?うわ、迫力がないっすねー」


「確かに、ちょっと人は良さそうだけどって感じー」


「‪……‬‪……‬あれ?陛下?」


 あれれ、王様何やらすごいよろめいてる。


「‪……‬‪……‬少しはしゃぎすぎたみたいだな‪……‬

 明日には、きっと戦いもある。王としての役目もあるから‪……‬今日は帰ろう‪……‬あはは。

 すまないレリック‪……‬方を貸してほしい」


「え、ええ‪……‬?」


 という訳で、何やらフラフラした王様を連れて、殺人ナノマシンの部屋を出て行ったのでした。


 ‪……‬大丈夫かな、王様?ただでさえ真っ青な顔余計真っ青な気がする。


 マジで風邪??」





           ***



























 ────その日、必要な業務を全て終えたムルロア・ヘーリクスは、足早に自室に帰る。



 部屋に入るなり、一枚の絵画を見る。

 それは、なんのことはないオリジナル・ワンの────若い頃のマッコイの姿を描いた絵だ。



 それは、おそらく知る限り最も正確な、オリジナル・ワンの姿を書いた絵だ。


 作者は────蒼鉄王国建国の父、ムルロア・ガイロシア。


 ヘーリクスの祖父は、王であり、そして世界を描くことが好きな芸術家だった。



「‪……‬‪……‬お爺さま、あなたの絵は、ただ芸術というにはあまりに正確でした‪……‬ああ、もっと下手なら良かった‪……‬」



 ふと、壁の大きなオリジナル・ワンの絵から視線を外し‪……‬急いでその足で自分の私用机に向かう。


 取り出すは、一つの小さな絵。


 左端の黒鉛で書かれた題名は‪……‬『悪魔』。





 黒い虫。大きな虫が深い青の肌のレプリケイターを殺す絵。


 その悲惨な絵の中心に佇む、一人。



 白い髪、赤い瞳、小さな体躯、腕が二つ。

 レプリケイターではない、人間の姿。


 その顔は‪……‬





「お爺さまの見た悪魔の名前は‪……‬グートルーンというのか‪……‬!!」




 ムルロア・ヘーリクスは、思い出してしまった。

 恐ろしい、祖父の昔話を‪……‬!



          ***

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