[変更済]MISSION 10 :ある兄弟の話








 ─────レプリケイターがその姿になったのは、270年前ほど。

 まだ、木の上を這い回る原始的な形態の生物だった時代に、今現在『王宮』と呼ばれる場所を見つけたのが始まりだった。


 既に道具を扱うようになっていた始祖レプリケイター達は、この白い建物の中でも偶然、『黒い石板』を見つけてそれを起動した。


 後に『オリジナル・ワン』と呼ぶ事になる、美しい姿の何かの、動きと言葉がそこから流れ始めた。


 その姿に、我々の先祖が釘付けになった。

 初めはただ、その姿が神々しい物だったからに過ぎなかったが、やがてその動き、仕草が始祖の生活を豊かにする手がかりになる知識に繋がることだと気づいた。


 我々は、黒い石板の中のオリジナルを模し始めた。

 故に、『模倣者レプリケイター』と自らを呼ぶようになった。

 それでこそ、このかのオリジナル・ワンの姿に似た今の姿も、彼女という始まりの存在を真似た結果なのだろう。


 全てを模すことはできない我々は、やがてオリジナル・ワンの物ほど高度では無いとはいえ言葉や独自の文化も生み出し、いくつかの氏族に分かれて行った。


 いわゆるオリジナル・ワンの教えを解読する神官や学者というべき存在が多い『蒼族あおぞく


 森の中での生活と狩猟を得意としていた『緑族みどりぞく』。


 川辺や湖を主にし漁や泳ぎに優れていた『灰族はいぞく』。


 平原で早くに放牧生活をしていた遊牧民族『黄族きぞく』。


 怪しいオリジナル・ワン由来では無い独自の技術を早期に生み出していた『紫族むらさきぞく』。


 そして極めて好戦的だが、鍛治や冶金の技術に優れていた『赤族あかぞく』。



 この言葉通り、それぞれの氏族は肌の色が違う。


 そして、そこだけの違いでは無い理由で、かつては氏族同士の小競り合いは多かった。


 それが消えたのは、ほんの70年前だ。

 空に見えた流星と、映らなくなったオリジナル・ワンの声を掲示と考えた、初代蒼鉄王国の王‪……‬


 その名はムルロア・ガイロシア。


 彼‪は手始めに赤族の有力な家と婚姻を結ぶことで、赤族の持つ冶金技術や戦闘能力を手に入れた。


 時に、無情に軍略を持って戦争を仕掛け、

 時に、婚姻や盟約を結んで、


 まさに、王として偉大だった存在として、たった一代で初代『蒼鉄王国』を作り上げた。


 その治世は、大変よかったよ。

 後継者である先代の王も穏やかな人間で、表面上の内政はうまく行っていた‪……‬はずだったよ。



 ‪……‬科学の、そして文明の発達が、私達の心や心情を追い抜いてしまったんだ。


 武士階級の仕事がなくなり、より効率の良い平和な時代の治世にはむしろ邪魔になってしまった。



 そういう階級に多い我々レプリケイターの種族が偏っていたのもあって‪……‬


 平和な世になれた愚かであるがそれこそ普通である民は、武人の心を解く相手を疎み、


 強さと誇りを大事にする者達は、それを理解しない相手により名誉を傷つけられた。



 ‪……‬そして、私ことムルロア・ヘーリクスと、

 私の弟に当たる、ムルロア・ゼノバシアが生まれた。




          ***




 ‪……‬さて、傭兵系美少女大鳥ホノカちゃんは、

 今偉い人に混じって、火星のもう一つの住人んであるレプリケイターの王様の語る、歴史を聞いておりました。


 王様‪……‬ムルロア・ヘーリクス王は、その綺麗な美人顔の細い目二つも、被害の立派な角の下の3つめの目もふせて、少し口元を抑えていたのでした。



「‪……‬‪……‬彼、彼と言っているが、考えても見れば私達は、性別がないのだな。見た目こそ君らでいう女性だ。違和感はあったかな?」


「いえ、ムルロア王陛下。気遣い感謝しますが‪……‬語りにくい様子だが、聞かない方がいい話では?」


「いや、グウィンドリン公爵殿。私が‪……‬語ると言った以上は、話さねばいけないことなんだ‪……‬


 そう‪……‬話さないといけないんだ‪……‬」



 話の腰を折るほど、言いにくいことでもあるのかな?


 と、ふと外側の大きな腕の方の右腕で、何かを呼ぶように動かす。



 と、すぐに扉が開いて、誰かがレプリケイターの兵隊さんと共に運ばれてきた。



「──まさか、蒼鉄の王!

 くそ‪……‬なんのつもりだ、ムルロア・ヘーリクス!!」



 あの、赤肌の人!!私達が捕まえた、敵国の人じゃないか!!


「すまない、赤鋼の武人。

 これから話すことは、君の国の皇帝にも関係がある事だ」


「なにぃ‪……‬!?」



「‪……‬‪……‬私達の父が、決して王として無能だったとは思ってはいない。

 ただ‪……‬父は穏やか過ぎた。彼ら赤族や、それ以外の武家の人間への対応は、ミスとしか言えなかった」



「貴様!!それが分かっていながら何故!!

 15年前の『廃刀令』を出した!?」


 はいとうれい‪……‬??

 なーんか、なんかどっかで聞いたことあるような‪……‬??


「廃刀令‪……‬もしや、武士階級に当たる人間の武装を認めない法律か‪……‬!」


「察しのいい方で助かる、公爵。

 その通り‪……‬先代の王が決め、民が‪……‬と言ってもほとんどが武士階級以外の人間が求めたものだ」


 ギリリリ、とわかりやすいぐらいあの赤肌の敵国の人が、王様の言葉に歯を剥き出しにして噛み締めて睨んでる。



「‪……‬‪……‬それが完全な失策というわけでもないことは、それでも言わせてくれ。

 あの法律がなければ、裏家業に手を染めた反社会的な組織の武器流通などを抑えられなかった」


「その結果がこれだ!!私の家の家財も没収されたぞ!?!

 何故関係のない我々まで!!誇りと、代々家に受け継がれた物まで奪われなければならないんだ!?!」


「‪……‬まさか、そういう武器は‪……‬全部政府というか王様没収しちゃったわけで?」



 私がなんとなくそう言っちゃった結果、王様はすごく苦しそうに頷いた。

 いやなんか‪……‬言わない方がよかった?

 というか、公爵様もなんか神妙というか‪……‬ちょっと同情的な目を赤い人に向けてない??



「‪……‬‪……‬見ての通りだ。

 父と、止めきれなかった私や、折衷案を出した面々のミスだ。

 いや、それだけなら良いが、私はその成果を託されて、父から王位を受け継いだのだ‪……‬」


「‪……‬‪……‬先代の、王は?」


「‪……‬今は、健康を理由に、退位している。

 元よりあまり体が丈夫ではない。

 まぁ、その割には‪……‬私の母よりは長く生きたし、弟の母とも‪……‬まぁ、今もお義母さまに看病はされているぐらいなのだから」



 ‪……‬あれ、昼ドラかな?

 お母さん二人というか、うん。

 今弟さんと母が違うっていう感じに言ったよね??


「‪……‬腹違いの、兄弟と?」


「私の母は蒼族で、生まれてすぐ死んだ。

 ああ、言っておくがお義母様を愛していないわけではない。素晴らしい人だ。赤族の良いところが詰まった立派な人だ‪……‬


 弟も、そこは似ていた。


 似ていたから、アイツは軍最高司令官の立場であり、武人だったから、彼らの代弁者になったんだよ‪……‬!」



 王様は、ふーと長いため息を付いていた。


「‪……‬‪……‬‪……‬私が、王位を受け継ぐその前日、奴は‪……‬ゼノバシアは私に決闘を持ちかけてきた。


 内容は、旧武士階級の皆の家財である武器の返却をかけてだ。



 私も、嗜みで武術ぐらいはできるし、少しぐらいなら兵器も使える。

 だがゼノバシアに勝てるわけがない。


 ‪……‬受けるつもりはあったが、私は当然のように全力で止められたよ。



 そして、約束の時間の2時間後には、クーデターが起こり‪……‬


 赤鋼帝国と、初代皇帝のムルロア・ゼノバシアが誕生した」



 フン、と赤い人は、王様の言葉に反応して鼻を鳴らす。



「半月もせず、国は真っ二つに分かれたよ。

 恐ろしいぐらいに潜在的な対立があったんだ‪……‬

 旧軍の7割は向こうについた。

 そして‪……‬長い戦争が始まった‪……‬」


 王様は、その細い目の奥に悲しいって心を隠せないでいた。

 私はそう感じたね‪……‬



「‪……‬‪……‬王国は戦う力の大半を失ったが、帝国はその戦う力を維持するための生活基盤を大きく失った。


 結果は、あまりにも泥沼な戦いだった。

 一進一退といえば聞こえはいいが‪……‬‪……‬たくさん死んだ。たくさん悲劇が起こった。


 ‪……‬疲れているのかもしれないな、私は。

 私だけじゃない、きっとそこの帝国の兵士も‪……‬我が国の人民も、その兄弟であるはずの帝国の民も。


 ‪……‬‪……‬それでも、」



「‪……‬‪……‬戦いは、続いている、ですかな?」



 公爵さんの言葉に、乾いた笑み、って言葉が似合う顔を見せる王様。


 と、赤い人が、また暴れて王様に迫ろうとする。


「だったら降伏しろ!!我々は、もうお前らに勝つ準備は整えているぞ!?

 お前たちの街のような経済の力も!!追いつくべく戦ってきたんだぞ!?」


「できないというより、許してくれないよ。

 ハル・ヴェスタル、と言ったね?

 若いな‪……‬なら、もしもゼノバシアが降伏すると言ったら従うか?」


「あのお方がそんなこと言うはずがない!!」




「私もこの国の民にそう思われているし、

 もしもその『望まれていない言葉』を言おうとしたらあらゆる手で口を塞がれる」




 ハッとなる私と、多分赤い人もそう。

 言いたいことは、バカな私でもよく分かる。



「王とはそう言う物だよ‪……‬あの愚弟でもきっとそれは理解している」


「‪……‬‪……‬」


「‪……‬‪……‬さて、長くなったが、本題に戻ろう。

 君達の目的地は、そんな悲しい『兄弟喧嘩』の真っ只中、激戦区なのだ。


 そこに、空の向こうから来た君らの欲しい物が降ってくるとして‪……‬どうすればいい?

 一日で、戦線を押し上げるなんてことができたのなら、とっくの昔に愚弟を殴って叱って、頭まで下げてこれまでのことをどうするかを話しているよ」



「‪……‬‪……‬無論そのことも理解していますとも」




 ふぅ、とグウィンドリン公爵さん、ふと考え込むように天井を見上げるのであった。

 ‪……‬何か言葉でも選んでいるのかな?



「‪……‬‪……‬我々の住む場所は、本来遠くの昔に爵位や王権は消えている。

 本来は、民主主義が当たり前の世界にはずだった。


 私の住む場所を収める勢力の名は───『帝国主義インペリアル』。

 そこの捕虜と同じ、一人の皇帝と、我々貴族が人民を収める、認めたくないが『時代を逆行した』体制で動いている」



 そして出てきたのは、私達の、人類生存圏の歴史。

 インペリアル編、って感じだった。



「我々人類の敵は、本来バリアの外に存在する‪……‬名を『クラウド・ビーイング』と言う名の、我々火星に住む人類、そしてあなたがたの遠い祖先、そしてオリジナル・ワンと呼ぶものすら作った連中だ」


「え‪……‬?」


「奴らが、創造主だろうが、なんだろうが構わない。

 だが、奴らが必ず奪うものは分かっている。

 ‪……‬‪……‬畑の芋だ」


「‪……‬‪……‬芋‪……‬ああ、なるほど‪……‬それは、たとえ創造主だろうが許されない」


「理解していただいて助かります。

 ‪……‬我々はもともと農民だった。火星の土を耕して、芋を植える。

 地球の時代にはこんな法律があった。

 『火星は国家間の間での共有大地であり、そこに農作物を植えた場合は植民地化したと言う扱いになる』。


 つまり、我々は生まれたその時から、植民地を広げる『帝国インペリアル』であったわけだ」



 インペリアルのお芋‪……‬‪……‬こんな時に言うのもアレだけど、おっきいしめっちゃ美味しいんだよね‪……‬



「‪……‬我々の住む場所は狭かった。

 その敵から身を守るための、壁のようなものに囲まれていた。

 我々インペリアルを含めた3つの勢力がいるのだが、3つもいては狭すぎる。

 必然的に我々は壁の外を求めた‪……‬いずれ内部だけでは住む人間を支える食糧が足りなくなる。


 ‪……‬‪……‬外の大地は、肥沃だった。

 そして、敵がひっきりなしに来る。

 我々は、奴らの荒らした畑と同じだけの土地を‪……‬奴等から奪い返したい。


 そのためには、力がいる。

 力‪……‬科学技術であり、兵器である。


 故に、あらゆる手段を使って、我々が先に『ギフト2』‪……‬落ちてくる宇宙船を手に入れなければいけない。


 そのために、3つの勢力と渡り合える経済基盤であり、言わば三勢力の調停役である企業連合‪……‬トラストの理事の座を確保し、レイシュトロームという企業を手に入れた。

 そしてチャンスがようやくやってきた‪……‬」



 公爵は、王様の薄い‪……‬いや鋭い視線に向き合う。




「ムルロア・ヘーリクス国王陛下。

 我々を雇わないか?」




 ‪……‬お?



「雇う‪……‬?」


「我がインペリアルのために、インペリアルの名を今は捨てる。

 トラスト、企業として、そのCEOとして、我々の持つ戦力と戦略を、有料でお貸しする。


 報酬は、我々が一日で取った203平原という場所の、二日ほどの使用権。


 ‪……‬‪……‬この条件ではダメですかな?」



 おぉ‪……‬ようやくいつもの流れになった!


「‪……‬‪……‬できるのか?たった一日で、戦線ひとつ押し広げるだなんて?」


「当然、あなた方の軍の強さ‪……‬いや、脚の強さが有れば」


「バカな‪……‬そんなことができるはずがない!!」


「ああ、こちらの帝国の兵士のいう通り。

 私は、君たちをどう信じればいい?」


「誠意が、つまりは必要なんでしょうな」


 誠意。色々意味深な言葉ー。


 なんて思ってたら、グウィンドリン公爵は、ポンと隣でよそ見してたマッコイさんの肩を掴む。



「では手始めに、オリジナル・ワンの譲渡でもどうですかな?」



 おぉう、言っちゃった‪……‬言っちゃったよ‪……‬!!

 周りも、当然というかユナさんも、驚いた顔というか‪……‬マッコイさんはあらあらって感じ。


 いやねぇ‪……‬マッコイさん自身の昔話とか、そう統合するとね‪……‬うん。




 絶対このレプリケイターの皆さんに崇められてるの、

 そこにいるキツネ顔美人な300歳の火星人の人しか、いないじゃん。ね??







「やっぱりか。意外なのは、黙っていると思った」


 おっとー?王様分かってた系?


「‪……‬言った方が良かったかしら?」


「どうだろう?

 ‪……‬‪……‬聞くのも怖いですがね」


 等のマッコイさん、コロコロ笑っているだけという神経の太さを発揮中。


「‪……‬まぁ、こちらもこちらで触れられないというのなら、ここにきた目的をそっと終えて立ち去るつもりでしたし」


「目的‪……‬?」


「宗教感が揺らぐようなことを言うようで申し訳ありませんが、ワタクシあなたたちの祖先が見た映像は、決してあなたたちに向けたものではありませんもの」


「‪……‬‪……‬たとえ、その目的がなんであろうと、今の我々を生み出したのは、あなたです」




「いいえ。そんな訳ありませんわ。

 だって、ワタクシ、あなた方の祖先を殺し尽くすべくここで活動していたんですもの」




 おぉっと、聞きそびれてた部分が来た!

 そういえば‪……‬マッコイさんの‪……‬火星人の生まれた理由って!



「でも、そのための『とある仕掛け』が働いていないのなら、


 今となってはそれを取り除く事が、ワタクシの個人的な責務ですの。


 マッコイでも、新美キツネでもなく、

 かつて火星人第一号、ゼロワンであったワタクシの」



 果たして、マッコイさんは何が目的でここへ‪……‬!?




           ***

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