[変更済]Chapter 2 :ENDING






 ───インペリアルとユニオンの小競り合い。

 暗躍するオーダーの影。


 3大勢力が求めていたものは、地球から贈られて来る宇宙船だった。


 企業連合体であるトラストの始まりであるものと同じ物を求めて今、


 人類は、未だ足を踏み入れたことのない場所へと航海を続ける。



 ────そう。


 人類全てが、到達できなかった場所。


 文字通り、全ての人類にとっての未知。



 ‪……‬‪……‬人類は、けっして人類生存圏と呼ばれるエネルギーバリアで覆われた場所だけで生きているわけではない。



 その事実を知る者は‪……‬ほんの一握りの人間のみだった。



 今、もう一つの人類が動き出す。















          ***



「‪……‬すぅー‪……‬‪……‬フゥー‪……‬‪……‬」




 ────人類生存圏外、ガリブ砂漠地帯。


 そこには、とある要人である男が、タバコの煙を深く吸っていた。



「やれやれ、ニック。ニック・スナイダー!

 ユニオンの代表である大統領が、なんだその昔っから変わらないヘビースモーカーっぷりは?」


「言ってろゲイリー・バークマン!

 俺はな、所詮ただの生贄スケープゴートだよ、党とユニオンの投票権を持った市民達のな。

 党の諸先輩方に、老人の皆様が好き勝手やるために、こんな若造の不良を大統領に仕立て上げただけなんだよ!」


 上等なスーツとドレッドヘアーの黒人系の男、ニックは旧友でもあるバーンズアーマメンツ社社長であるゲイリーにそう吐き捨てた。

 ついでに、タバコは砂漠に捨てて踏み潰す。


「そう腐るなよ。

 俺たちは、一応歴史に教科書に載るかもしれないことするんだぜ?」


「ああ。敵と間抜けにも直接交渉した勇敢でアホな大統領だってな。

 死ねば支持率上がるか?」


「死にはしないさ、ミス・クオンもいる」


「頼りにされるようで悪いがゲイリー、今回は私の愛機の武装なんて最低限だ」


 と、バーンズ製の歩兵装備としても使えるパイロットスーツ姿のクオンが、クーラーボックスを持って現れる。


「そりゃ頼もしいですなぁ‪……‬で、ミス?

 それは?」


「ニック大統領。どれほど時を経ても、腹を割って話すにはこれかなと」


 プシュー、と開け放たれたその中身は、敷き詰められた氷の中に刺さった、シャンパン。


 そして、缶ビール。


「ワオ‪……‬流石は年の功って奴ですかねぇ?

 一本貰っても?」


「良いだろう。私も飲む」


「‪……‬‪……‬砂漠まで来て、これがなきゃやってられんか」




 ────周囲を守る強化人間プラスアルファ歩兵の中、トラスト理事二人と、1勢力のトップが市販の缶ビールを開け、乾杯飲んでいた。


「‪……‬先方には悪いが、遅刻している以上はアルコールでもなきゃやってられん」


「ゲイリー、お前‪……‬俺のこと不良って言えるか?」


「‪……‬この場で一番酷いのは私だ。

 最悪eX-Wの中で吐くだろうに‪……‬これが長年辞められない」


「‪長年か。

 貴女、この際聞くが公式では56歳と聞くが、実際は幾つなんだ?」


「────318になる」


「最高。俺は熟女好きでね。枯れててもイケる。まぁスキャンダルは怖いがね」


「夜の誘いはやぶさかでもないが、案外盛り上がるかは分からないな。


 『火星人マージアン』は、生殖機能に関しては大分低そうだ。

 長寿で増えまくるのだったら、今頃年齢を隠して生きていく事もしないで済んだが」


 クオンの言葉に、二人は驚くでもなくハハハと笑う。


「『火星人マージアン』か。

 じゃあ、我々火星の人間は何て呼ばれればいい?」


「地球人。あるいは火星人類か?」


「なんでも良いさ。

 ただ‪……‬『お客様』とは別の呼び名がいい」



 3人の真上を横切る影。

 周りの強化人間プラスアルファ歩兵が上空に対戦車歩兵用火器を向ける中、それが降り立つ。


 蜂に似た、巨大な機械。

 そして、その腕に抱えられた二人の───少女と言うべき容姿の者たち。


「‪……‬随分若々しいな。お酒で良かったかミスクオン?」


「ニック大統領。彼女らは私と数歳違いか、私より『歳上』だ」



 警戒する中、その二人が歩いて近づいて来る。



「‪……‬‪……‬ゼロツー‪……‬元気でしたか?」


 一人、本当に10代前半でも通じる少女───何かの制服に身を包んだ者は、クオンをみてそう、どこかホッとしたような顔を見せてつぶやく。


「お互い、直接会って話すのは300年近く久々ですか。

 博士‪……‬で今も良いのですよね?」


 と、そこまで行ったクオンに、博士と呼ばれた少女が駆け出して、抱きつく。


「‪……‬ごめんなさい。元はと言えば‪……‬私が貴女たち姉妹に酷いことをしたから‪……‬」


「私は気にしていませんよ。ただ‪……‬本当に酷いことをしたのは私や姉様相手じゃない。

 彼ら、あなた方の子供と、その子孫に」


 クオンの言葉に、泣きそうだった博士という名の少女の顔に、余計にショックを与えたような顔を見せる。



「何を言っているのですか、ゼロツー。

 そもそもは、彼らの先祖が!

 我々の作った『楽園』を乗っ取ったのが!」



「アーク!!」



 と、後ろにいた、こちらの方が肉体年齢的にずっと上に見える少女が激昂したような顔で迫るのを、博士が手をかざして止める。


 一部始終を見ていたゲイリー達男二人は、そちらのアークと呼ばれた少女を見て、妙な感覚を覚えていた。

 似ている‪……‬クオンの顔にどことなく。

 


「辞めて‪……貴女達、姉妹でしょう?

 そんな殺し合いするような目で見ないで‪……‬お願い」


 ───その感覚が正しいことは、博士という人間の言葉で肯定された。


「‪……‬‪……‬博士がそう言われるならば」


「アークか‪……‬ゼロスリーよりはずっといいな」


「フン‪……‬個体名など不要とは言いましたが、お母様がどうしてもと」


「‪そうか。

 ああ、私も知ってるかどうかは、まぁ知らないだろうが‪……‬

 今は、新美クオンと名乗っている。

 だから、博士もクオンと呼んでくれないか?」


「ああ‪……‬‪……‬自ら考えたのですか?」


「半分は。

 まぁその事も、まずは話し合おう。

 我々はあなた方クラウドと違い、データリンクで全て理解し合うのではないから。


 不便だろうが、それを300年前選んだ。

 それゆえに、会話でまずはあなた方の主張を、まずは話の通じる彼らにお願いしたい」



 博士が、そしてアークがようやくゲイリーとニックの方向を見る。



「‪……‬話が通じる?

 面白いことを言いますね、クオン?

 彼らは、ただ自らの安全を守りたいだけでは?」


「だからこそ話が通じるのさ。

 下手な善人より、打算が出せる悪人の方が良い」


「‪……‬‪……‬あなた方は、私達をその‪……‬なんだと思っているのですか?」


 と、博士はニックとゲイリー達を見て、そう問いかける。


「ふむ‪……‬‪……‬あえて言うのなら‪……‬


 偉大なる先祖、そして同じ星に住む兄弟ブラザーかな?」


 ニックは、あえて軽薄な言い方で、少しずつ博士という小さな相手へ近づく。


「兄弟‪……‬?


「そうだろう?肉体と魂が紐付けされているか、全部電子の違いだ。

 我がユニオンは、その名の通り『連合』って意味。

 人種、思想、あるいは人か否かも、受け入れる。

 混沌と言われるかもしれないが、まぁアレだ‪……‬


 なんの命だって平等さ。

 平等に大切で、平等に価値なし。

 良くも悪くも‪……‬だからこそ、帝国主義者インペリアルでも秩序の番人オーダーでもなく、


 俺たち、ユニオンがあんた達に歩み寄らなきゃいけない」


 す、と手を差し出すニック。


「俺が、そのユニオンの顔。ニック・スナイダー大統領。

 ミス?レディ?まぁそれにしろ貴女と、まずは交渉にための話し合いをしたい。

 名前を教えていただけるかな?」


 この上なく、真剣な顔でそうニックは言う。


「‪……‬‪……‬グートルーン」


 博士は、ニックの手を掴み、握手を交わして言う。


「‪……‬グートルーン・P・オーグリス。

 我々は、はじめての火星移民。

 そして‪……‬『クラウドビーイング』。


 情報体へと自ら進化した、貴女たち人間の一つの可能性」


「‪……‬聞いたことのある苗字だ。親戚はいる?」


「ええ。昔は、貴女たちの先祖が生まれる前は、私みたいな者は沢山いた‪……‬本当に沢山」


「俺と同じだ。俺みたいな人間も沢山いるのさ、ミス・オーグリス」


「‪……‬貴方達は、何を望むの?

 我々との同化?それとも、我々の根絶?」


「その二択以外、さ。

 いい加減、お互いの妥協点を探したい」


「‪……‬‪……‬一番難しいことよ。

 人は人のままでは、他人すら受け入れられない」


「受け入れるだけが、共存の道じゃない筈だ。

 まぁ、長い話になる。俺が先に死ぬかもしれないような、あるいは蹴落とされてただの議員になるような長い時間の。


 だが、まずはあいさつと、顔を知ること。

 全てはそれからじゃないのかな?」



 ───ニックという男が何故一勢力の大統領になれたのか。

 それを改めてクオンとゲイリーは分かった気がする。


「‪……‬いいわ。話しましょう。

 私たちの意志は変わらないかもしれないけど」


「そうこなくっちゃ。

 まずは‪……‬最初だから、気楽に酒でもどう?」




 ────この日、はじめて人類は、ほんの少し歩み寄った。

 このユニオンの動きがどうなるかは、この先も分からない。



 ‪……‬‪……‬新たな火種か、それとも‪……‬?




           ***



 どーも、傭兵系美少女、大鳥ホノカちゃんです。

 まぁ、カモメちゃんからハロウィンスコードロンのこと聞いて戻かなって時です。




「───あら、もうハロウィンスコードロンの正体も、ついでに「クラウドビーイング」の事も話しましたのね?」



 え?この声?


 なんて思ってたら、コツコツいつもの和装の黒髪美人、マッコイさんが登場!


「マッコイさん?」


「‪……‬聞いていたんですか?」


「ええ。耳が良いんですの。

 ワタクシ、火星人マージアンですもの」


「‪……‬いや、全員もう火星人じゃね?」


「あらあら♪ごめんなさいね、確かに普通はそういう意味ですわ〜」


 なんて、ひとしきり笑った後、ふと少しだけ表情が変わるマッコイさん。


「‪……‬‪……‬ホノカさん、まぁ余計な話かもしれませんけれども。

 実は‪……‬ワタクシ今回の目的地に少し心当たりがございますの。

 300年前の事ですが」


「300年前?」


「ワタクシ、本当はもう320歳ですのよ。

 火星のテラフォーミングにも参加した、火星で生まれた新生物‪……‬火星人マージアン。その最初の個体ですので」



 ‪……‬‪……‬‪……‬



「今更何言われても驚かないというか、マッコイさんやっぱりおばあちゃんな年齢だったんだ」


「あらやだ‪……‬やはり出ます?肉体年齢とは別のもの」


「上品すぎるもん。うん‪……‬古風というか」


「驚くより、ちょっと複雑な気持ちになる反応されてしまいましたわ〜」


 まぁ、マッコイさんはマッコイだし、ぶっちゃけ300歳ですと言われても、おばあちゃんなのねで終わりなのだ。70ぐらいとは思ってたけど。



「でも心当たりって何?」


「ああ、そうですわ。

 実は‪……‬人類未踏査地区サイレントエリアと呼ばれる場所、大昔に一度だけワタクシは来たことがあるのですわ」


 なんだって!?


「本当にそこがそうなのかは、なにぶんまだ海の出来立ての時代でしたので‪……‬

 ただ、もしもそうなら、ホノカさん、一つだけ。

 これは既に、この船に乗る上の方にも言っていますが、気をつけてほしい事がありますの」


「そこまで前置きをするのはなんで?」




「今から行く場所は昔、吹き飛んだはずの火星研究所があった場所ですのよ。

 吹き飛んだ理由は、とある機械の暴走ですわ」



 ‪……‬‪……‬‪……‬



「何その、パニックホラー映画の冒頭みたいな話?」


「ええ。パニックホラー映画の理由で吹き飛びましたのよ。

 研究内容は、テラフォーミングの為に使った『ナノマシン生命』なるものの進化発展の解明ですの」




 なにその、

 パニックホラーみたいなヤツは!?




           ***

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