MISSION 5 :私の機体、出来ました







「ったく、あの人はさぁ〜?客の呼び込みと拉致を一緒に考えてやんだよなぁ〜。

 君も災難だったっすよね〜、ほら今直してやっから、なっと!」





 お店の奥、広い場所に案内されたら、意外な相手二つと、私こと大鳥ホノカは再開したのでした。



「‪……‬システムリブート。メインシステム、起動完了。

 ここは‪……‬ああ、そうかマッコイ商店ですか」


「オペレーターさん!」


 そう、まさかのオペレーターさん!

 無事だったのか‪……‬よかったー。


「あら、サービス精神旺盛だこと。

 ユナさん、それより機体はどうなんですか?」


「あのっすねー、マッコイさん?

 流石にオイラも整備士歴長いんすよ?アンタに拾われてから何度こういう目にあったソレイユちゃんやら直したと思ってんすか?

 もう片手間で出来るんすよ、片手間で。

 仕事の抜かりは無いっすよ!」


 そこにいた人は、右腕で器用にOKマークとサムズアップをしてそう答えていた。


 私よりちょっと年上かな?でもまだ20代行くかわかんない程度の年齢な感じの女の人。

 ツナギの上半身は途中で腰に巻いて、ブラなのか水着なのかそれだけの上半身に健康的そうな褐色の肌が輝いて見える。

 褐色に色素の薄い灰色な髪の毛ってなんか似合うね。


 で、このおねーさん、体のあちこちに機械的な線が入ってるし、

 背中から機械式のマニピュレーターが、生えてる。



《作業用サイボーグタイプの強化人間は珍しい?》


 と、肩にコアラみたいに取り付いてるあのチビロボちゃんが私の心を見透かして言ってくる。


「初めてみた‪……‬」


「あー、そっすよねー。

 強化人間Lv.4とかだと、機能特化で見た目も結構変えられるんすよね。

 あ、オイラ「ユナ」っていうここの商店の整備士っす。

 大鳥ホノカちゃんでしたっけ?

 大変っしたでしょ、マッコイさん。加減しらねぇっすから」


 どもどもとマニピュレーターで頭を掻きながら、もう一方の右腕で握手を求めてくる。

 驚きはしたけどこの人は良い人そうだな。とりあえず握手。


「あーそう早速で申し訳ないんすけど、一応要望通りアセン変更とかしておいたんで、確認お願いしまっす」


「え?もう、パーツの購入を?」


「あー、オペレーターさん倒れてる時に、ちょっとお値段張ったけどこのチビちゃんを買ったんだ。

 中身は大昔のスワンの大先輩なんだっけ?

 いうだけあって、コーヒーショップのカスタム注文みたいな感じですぐ色々選んでくれたよ」


《どーも。君の担当スワン、あのコーヒーショップでカフェラテMで終わらせるタイプで大変だったよ》


「ウェザーリポーターを‪……‬それもタイプ13をそんな手段で‪……‬!

 申し訳ございません、お二方ともお手間を取らせて」


 ぺこりと謝るオペレーターさん。

 良いんだよ原因はすぐそこの和服美人の危ない店主マッコイ氏なんだし。


「あの、整備士さん。彼女のオペレーター業務も私は努めておりますので、光学情報で確認に同行してもよろしいですか?」


「もちのろんっす!トラストの正規品のソレイユ相手じゃハンパしてたらバレるから、オイラの腕の見せ所にはなるってもんすよ!」


「あら?

 手を抜くだなんてしたら、そこのクリュセ海に沈めてあげないといけませんね?」


「言葉のアヤって奴も許してくれねぇ上司に恵まれて整備兵冥利につくっすよ‪……‬

 じゃ、とりまジェネから見てくんで確認同行お願いするっす」


 ユナさんはタブレットで多分機体とかパーツのリストアップをしながら、空いてる背中の手で下に車輪ある階段、タラップって言うんだっけ?を早速それにかける。



 そうそう言ってなかったよね?

 意外な相手二つ、それはオペレーターさんと、


 生まれ変わった私の機体。


 ガレージに運ばれていた機体は、地味にちょっと変わってた。



「まずジェネレーターはこちら。

 宇宙開発企業だった面影が無い、我らが安値の殿堂カチューシャクラート製、『SERAPHIM』っす」


 座席の下には、前のちっさい円形状のやつとは違って、なんか立派なエンジンっぽい見た目のジェネレーターパーツが鎮座してた。


「『SERAPHIM』ですか。

 今では航空産業が主なカチューシャクラートの誇る、軽量型高出力ジェネレーターですね。

 レイシュトローム系企業と関係が深い4社のうちひとつなだけがあって、ここの内装は優秀ですし、」


《何より軽くて安い。

 100000cnジェネレーターの中でも、容量はそこそこ下だけど高出力型で、コンデンサの回復が早いから初心者のうちはコレな性能。

 その癖、重さは他の100000cn帯ジェネレーターの半分ぐらいだから、その後の武装とかのアセンに余裕出るんだよね》


「へー‪……‬‪……‬すごいってことだけ分かった」


《覚えろよ。パーツ性能は頭で覚えて初めて戦えるんだからさ》


「マジですかー」


 私はお勉強苦手なのにー。


「整備は万全。聖なる名前のジェネレーターの加護も充分っすよ」


「たしか、セラフィム、って天使の名前だっけ?」


「いえ、このセラフィムは「サロフの聖セラフィム」、カチューシャクラートの母体となった地球の国家ロシアにて、兵器へ加護を与えた宗教で信望される聖人です。

 それゆえに、真面目な宗教ではありますが「アトミック聖教」なる言われ方もしたとか」


「へー‪……‬」


「んじゃ、次メインのブースター行くっすか。

 でも、こいつがちょっと難物というか‪……‬」



 という訳で、背中へ移動。


 見ると、なんか気持ちブースターっぽい部分が太くなってる。


「まさか、アヤナミマテリアル製ブースターに手を出すとは思わなかったっすわ‪……‬売れ残りだからすぐに手に入るとはいえ」


「なんか不穏な言い方ー」


《アヤナミマテリアル製『陽炎3型』は言うほどぶっ飛んでないよ。

 たしかに、これ1本でガチタンから軽2までイケるぐらい高出力だけど、不知火とかに比べたらまだマイルドだし、出力に対しても重くないし低燃費だよ。

 何より、コイツ噴射持続性能高いから、私的には初心者が「eX-Wエクスダブル乗ってるって一番自覚できる良い奴だよ。

 全身1001Bなら、ちょうど良いはずだし、もっと軽けりゃ最高の体験ができるよ》


「アヤナミマテリアルブースターは、自社フレームには食い合わせ悪いだけで、内装としては優秀なパーツを販売しておりますしね」


「‪……‬アヤナミマテリアルって、あの漫画出版とかしてる、可愛いVの子が有名なところだよねオペレーターさん?」


「ええ。ただ本業はeX-Wパーツ製造と、各種特殊素材精製の王手です。

 トラスト内部でもかなりの資金力と幅広い事業を行なっております。

 もっとも、幅が広すぎるのと、アヤナミマテリアル社の経営用AIユニットがその‪……‬」


「ん?経営用AIユニット?」


「え?はい、あのバーチャルキャラクターが、アヤナミマテリアル最高経営責任者であり、経済的予測演算AIユニットでもある「アヤナミちゃん」ですが?」


 え、あのCMで有名なCGキャラがマジで社長でAI!?


「有名な話っすよ。

 オーダーの管理者に並ぶ演算能力持ってる唯一のAIユニットなんすよ。

 ただ、性格悪いって有名っすけど」


「へー」


「で、オイラがアヤナミマテリアルブースターに色々言ってる理由ってのが、あそこ軽量2脚型の空戦・近接特化で売ってる機体フレームがメインなんすけど、

 そのくせブースターの推力がかなり強いってそこのウェザーリポーターちゃんも言ってるじゃないすか。


 そのせいで、もう企業統一フレームでやると扱いにくいのなんのって、あんなんでもしまともに戦えるならソイツ多分人間じゃないんすよ!!」


《ブホォ!?》


 ユナさん4つの腕フルに使って力説しているのに対して、なんかチビちゃんは吹き出してた。

 何がそんなツボったんだ。


「まぁ、そう言う意味じゃこっち、両肩のアサルトブーストはかなり手堅いチョイスっすね」


 そしてそのまま両肩の確認。

 なんかこっちも気持ち前より大きいな‪……‬


《フーッ‪……‬まぁ、人間じゃない奴が使うブースターばかりじゃね‪……‬クク‪……‬ごめんて‪……‬!》


「こっちはなんだっけ?」


「シンセイスペーステクノロジー「彗星18式COMET-18」。

 かつてはカチューシャクラートと並ぶ宇宙開発企業の一社で、火星開発にも大きく貢献したシンセイらしく、手堅い高出力とエネルギー負荷の名作アサルトブーストパーツですね」


《やっぱ最初はこれだよね。

 あそこは、今もミサイルの最大手なだけあって、制御しやすいバランスのブースターなんだよ。

 最近は、バリア外部の開発でも利益上げてる事多くてそう言う開発力落ちてないか不安だったけど、破産寸前のカチューシャより地の力強いから、まだまだこいつが良いよ》


 へー‪……‬てか、さりげにジェネレーターパーツの会社ディスられてる‪……‬


「やはり、内装系が強い企業で固まりましたね。

 AI社のパーツもあれば良かったのかもですが」


「あれ?

 そういえばチビちゃん、さっき君のところの会社のパーツ買ってたよね?」


《まぁね。

 整備士さんや》


「うっす!」


 と、また背後へ移動。

 今度は、私のスマホの機体操作アプリでちょっと背中のハッチを開く。


「‪……‬もしかして、ストライクブーストを?」


《AIB-01S ミストラル。

 AI社らしく、低燃費型だけど高出力型の中じゃかなり低燃費って話の手堅い奴。

 まぁだけど、多分そのうちいる機能を考えてこれにした》


「なるほど‪……‬アレですか‪……‬」


 え、あれって何?何?教えてよぉ〜!


《アレの事は良いや。

 これでこの機体はだいぶ動けるし、左手のこれもようやくまともに使える》


 アレは置いておかれてしまって、改めてこの私の機体の変更点に目がいく。


 左肩のミサイルが外されて、左腕にもあのレーザーブレードの四角いパーツが外されている。


 代わりに左腕には、あの時あのハードレインフレームにトドメを刺した、パルなんとかスナイパーライフルが握られていた。


《アヤナミマテリアル製パルスレーザーライフル、

 『村雨9型』


 最初からアホみたいな単発火力だったけど、今じゃ単発でもアホみたいな威力のくせして24発撃てるっていう地獄のパルススナイパーライフル。


 よくこれ拾ってきたね。

 君、良いセンスだ》


「そんなに?」


《そんなに。

 その上で、右腕のバーンズアーマメンツ製『RM-120C』、カタログスペックが低そうに見えて、ぶっちゃけライフルとしてあまりに優秀すぎる奴だし、これだけで君の傭兵ライフ序盤はなんとかなるよ》


「そんなになんだ‪……‬」


《フレームが1001Bなのも幸いだね。

 レーザー以外は怖くない。

 硬いし素早く、癖が少ない。

 何より、頭こそレーダー内蔵型じゃないけど、光学カメラ性能も高いからおおよその遠距離武器は最大射程まで使える。

 このアセンなら、距離を間違えなきゃ被弾も少なく立ち回れるよ。

 あとは君の腕次第だけど》


「‪……‬なるほどね。

 あとは、私次第か‪……‬」



 改めて、機体を見る。

 たった一回、望まない戦場だけど生き残らせてくれた機体。

 ‪……‬今こうして、みんなの協力は必要だったけど色々とアレンジしてみたら、


 なんか、愛着湧くなぁ。



「ああ、ホノカさん?

 一応領収書は要りますか?」


「あー、結局どのぐらいかかったのかな‪……‬一応もらいまーす。

 うわ、64930cn‪……‬!?」


 うわ結構持ってったな‪……‬!

 残り4050cn‪……‬!!500万は遠いなぁ‪……‬


「ふふふ、まぁ命の値段よりはお安いですわよ?

 毎度ありがとうございます。

 ポイントも貯まっておりますし、次回もまた我がマッコイ商店のご利用をお待ちしておりますわ〜♪


 ────ご利用していただかないと、ワタクシどうしてしまうか一切分かりませんわぁぁぁぁぁ〜???」



 いや怖いですよ!?!

 目が笑ってないですよ!?怖‪……‬



「‪……‬ホノカちゃん、オイラも食いぶちとかあるんで、できればこの人何すっか分かんないでお願いしたいっす」


「あっはい‪……‬」


 ユナさん、何度もこういうことあったって感じの仕草に、哀愁を感じちゃうな‪……‬この人のために利用してあげようかな‪……‬



「あ、そういやホノカちゃんさ、機体に名前を付けないんすか?」


 と、ユナさんがそんな話題を振ってくる。


「え?名前?」


「いやぁ、eX-Wって結局は傭兵の私物武器じゃないすか。

 かっこいいロボなんだし、みんな名前つけたり、どうせ真面目な任務させて貰えないから好き勝手色も変えてるんすよ。

 どうすか?今だって初期のグレーカラーセット1のまんまですし、色変えてみたり名前つけたり‪……‬

 あとエンブレムも付けましょうっすよ!」


「へー、そんなカスタムできるんだ‪……‬高い?」


「流石にそこは整備費とかパーツ買って貰ってるんでコミコミってヤツっすよ。

 ね、マッコイさん?」


「まぁそのぐらいは」


「でも色は別にこれで良いかなぁ‪……‬派手なの好きでないし」


「肩でも赤く塗ってはどうですか、スワン?」


《オペレーターちゃんや、君私の前で赤く塗りたいのかい?》


「あっ‪……‬すみません、冗談ということに‪……‬」


「まぁでもエンブレムは大事っすよ!

 eX-Wは機体の形なんて常に変わるようなもんなんすから、エンブレム肩に張っとくだけで仕事頼む時「あのエンブレムのスワンで」みたいに言われて便利っすよ!


 ほらここにオイラが暇だから書いたエンブレムデザインあるんで、好きなの選ぶだけで良いっすから」


「へー‪……‬絵上手い!」


「でしょー!意外と暇なんで絵ばっかり上手くなって、今じゃマニピュレーターで描けるんすよ!」


「仕事しなさい仕事を」


「じゃマッコイさん仕事持ってきてくださいよ仕事」


 その言葉に、黒髪美人な顔をぷっくーと膨らませるマッコイさん。

 いやあなたのせいだろとは思うけど、初めて人間味を感じた気がする。


「でもエンブレムかー‪……‬何にすりゃあ良いかなぁ‪……‬?」


《迷ったら、ランダムに適当に運任せで決めれば良いよ。

 目をつぶって適当に画面でもタッチしようよ》


「‪……‬‪……‬私頭悪いから考えるだけ無駄か。

 じゃ、目をつぶってー‪……‬これじゃい!」


 という訳で目を瞑って画面をタッチ。

 結果は‪……‬‪……‬





「‪……‬渋いねぇ」


「でもカッコいいっすよ、これ。自信作でしたし似合うっすよ、1001Bに」


 選ばれたのは、ライフルをその脚で掴むコンドルの絵でした。

 エンブレムにするとまぁカッコいいけど‪……‬渋いなぁ‪……‬


《コンドルか‪……‬このエンブレムから機体名考えようか》


「なに?コンドルガーとかそんなの?」


《昭和ってそろそろ1000年前では?

 じゃなくて‪……‬そうだなぁ、じゃあ私いい案あるよ》


「何かな?」


《アルゲンタヴィス。

 地球に大昔に存在した、巨大なコンドルの仲間だよ》



 アルゲンタヴィス‪……‬‪……‬アルゲンタヴィスね。

 すんごい名前だな‪……‬


「ま、それでいっか。

 悩んでも仕方ないや」



 じゃ、今日からこの機体は、アルゲンタヴィスだ。


 左肩に銃を握ったコンドルのエンブレムのアルゲンタヴィス、それが私こと大鳥ホノカのeX-Wだ。



「では、スワンの登録プロフィールも少し書き換えますねホノカさん」


「オッケー、これでいつでも依頼に行ける。

 次から頼むよー、アルゲンタヴィスちゃん!」


「‪……‬‪……‬あ、スワン!

 噂をすれば影というか、依頼が一件入っております」



 え、マジで?



「‪……‬出番、早いかもね。

 オペレーターさん、依頼ってどんなの?」



 どうやら、早速私とアルゲンタヴィスの出番みたいだ。



          ***

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